艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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皆さんイベントお疲れさまでした!

結局初月はゲットできませんでしたが、ゴトランド2隻目や欧州艦多数、レア駆逐多数をゲットできたので、自分としては大満足でしたねー。

ネルソンのレベルが90になってたのにはビビりました。
ネルソンタッチが強力すぎたんやなって。


第72話

ラバウル基地の南端。

ショートランド泊地エリアよりも、さらに本土から遠い土地。

パプアニューギニアにあるポポンデッタ港に向かう船の一室では、日本海軍が誇る大本営・第1艦隊のメンバーが話をしていた。

 

戦艦『大和』を旗艦とし、旗下は航空戦艦『扶桑』、重雷装巡洋艦『木曾』、潜水艦『伊58』、正規空母『加賀』、装甲空母『瑞鶴』で構成される、

日本海軍の顔と言ってよいメンバーだ。

 

今は伊郷元帥と木曾が、これから向かう第10基地について話している。

 

 

「なぁ元帥。その鯉住?少佐だっけか。

ホントにわざわざ俺たちが出張るだけの意味があるヤツなのか?」

 

「ああ。キミたちでなければ見極められない部分があるはずだ。

なにせ彼は、あの鼎大将のお弟子さんのひとりだからな。

本人も部下も、通常とは一線を画した経歴を持っている」

 

「……マジか。一ノ瀬中佐と同じ穴の狢かぁ……

それじゃあ先入観を捨てて見ないといけないな。

少佐だとか新人だとか、全然アテにならないだろ。それ」

 

「話が早くて助かる。流石は木曾君だな」

 

「よせよ。持ち上げるなって。

あの人たちが常識を放り投げた存在だってのは、よく知ってるからな。

一ノ瀬中佐のところで研修を受けた時は、マジで陸の上で沈むかと思ったからな……」

 

 

窓の外に目を移して、遠い目をしながら当時を思い出す木曾。

 

彼女も姉である北上・大井と同じく、一ノ瀬中佐率いる横須賀第3鎮守府で、地獄の研修を受けたことのある身だ。

あの鎮守府の異常性(将棋の国)、一ノ瀬中佐の非凡さについては、身に沁みてわかっている。

 

そんな木曾を見て、会話に参加する者が。

 

 

「あの時は大変でしたね……

私も貴女も、大規模作戦佳境の様な集中力で臨んだものです」

 

「いつもクールな加賀さんが、廊下で白目向いて倒れてた時は、どうしようかと思ったもんだ」

 

「……それについては、そっとしておいてください」

 

 

木曾同様に、加賀も遠い目で窓の外を眺めている。

今でこそふたりとも、その立場に見合う以上の実力を備えているのだが、当然ながら下積み時代はあったのだ。

 

一ノ瀬中佐のところでの研修は、彼女たちにとって忘れることのできない経験だ。

ここまでの実力がつけられたのは、そこでの経験があったからと言ってもよい。

もちろん若干トラウマ化している。

 

 

「へ~え。普段鉄面皮な加賀さんが白目をね~。

いいこときいちゃったな~」

 

「……何をニヤニヤしているの? 五航戦の喧しい方」

 

 

知られざる先輩の過去を聞きつけ、煽りと共に乱入してきたのは、装甲空母・瑞鶴である。

 

ちなみに艦娘出現初期から今の立ち位置で戦ってきた加賀に対し、瑞鶴はここ半年で第1艦隊に抜粋されたメンバーである。

 

 

「いやあ、加賀さんの意外な一面を知っちゃったな、って思ってね~。ふふん」

 

「……頭にきました。

そういう台詞は、私を抑えてMVPを取れるようになってから言ってほしいものね」

 

「むっ!それは聞き捨てならないよ!

なに私がMVP取ったことないみたいに言ってんのっ!?

私だって、大・先・輩・の!加賀さんを抑えて!

MVP何度も取ってるじゃない!」

 

「5回に1回程度しか取れないMVPなど、カウントしません」

 

「何その理屈!?何涼しい顔してんの!?」

 

「……ふっ」

 

「あー!!鼻で笑った!!この人鼻で笑ったよ!?

提督さんからも何とか言ってやってよ!!おかしいよね、この反応!?」

 

「瑞鶴君も加賀君と同じで十分に実力がある。堂々と構えていなさい」

 

「だってー!!あんなこと言われて黙ってられないでしょー!?」

 

「そんな調子だから、いつまでたっても半人前なのよ」

 

「むきーっ!!」

 

「加賀君も、むやみと煽るのはやめなさい」

 

「わかったわ。提督」

 

「なんで提督さんに対しては、そんなに素直なのよ!?

ホントにムカつく!!」

 

 

ヒートアップする瑞鶴と、それを涼し気に煽りまくる加賀。

流石にそれを放っておくのはマズいと思ったのか、メンバーのひとりがフォローを入れる。

 

 

「ず、瑞鶴さん……落ち着いて……

私は貴女の航空戦力、すごく頼りにしていますよ……?

制空権をおふたりで確保していただけるからこそ、弾着観測射撃を満足に決められるのですから……」

 

「!!……ありがとう、扶桑さん!!

やっぱり戦艦の先輩は言うことが違うよね!大人よね!

どっかのお子さまな誰かさんと違って!」

 

「言われてるわよ。ゴーヤ」

 

「……ふぁっ!?

な、なんでいきなり私に振ってきたの!?完全に気を抜いてたでち!」

 

「どう聞いても加賀さんのことだったでしょ!?」

 

 

せっかくのフォローも功を奏さず、わちゃわちゃしだした面々を前にして、あたふたする扶桑。

 

 

「あ、あわわ……どうしましょう……て、提督……」

 

「仲がよいのは良いことだ」

 

「ええと、放っておいてもいいのでしょうか……?」

 

「本気で喧嘩しているわけではない。好きにさせておけばよい。

今回の視察は息抜きも兼ねているので、加賀君ではないが、皆気分が高揚しているのだろう。

扶桑君も、旅行など滅多にないから楽しみだろう?」

 

「まぁ、楽しみかと聞かれれば楽しみですが……南の島ですし……」

 

「出番が来た時に活躍してもらえば、他は自由にやってくれてよいからな。

あちらに迷惑が掛からない範囲で、と言うことではあるが」

 

「そ、そんな、迷惑なんてかけません……!」

 

「わかっているとも。念のために言っておいたまでだ」

 

「もう、提督ったら……」

 

 

どうやらこのように賑やかなのは、いつものことである模様。

物事に動じないタイプだということもあるが、慣れた様子の元帥である。

 

 

「やれやれ……これから任務だってのに、みんなのんきなもんだ。

なっ、大和さん」

 

「……」

 

「……? おい、聞こえてるか?大和さん」

 

「……はっ! き、聞こえていますよ?」

 

「窓の外に何か見えたか?

いつもしっかりしている大和さんが、心ここにあらずなんて珍しいな」

 

「……すみません。少し考え事をしていまして」

 

「ああ。なんだかんだ言って、今回の任務は重要だからな。

みんなバカンス気分の中、ひとりで任務内容について考えてたのか」

 

「ま、まぁ、そんなところです」

 

「流石だ。そのストイックな姿勢、俺も見習わないと」

 

「いえいえ……そんなに大層なものでは……」

 

「謙遜するなって。

クールで謙虚な大和さんを手本にしてるヤツは多いんだぜ?」

 

「あ、あはは……」

 

 

 

今回の任務は書類上では、『新任少佐の鎮守府運営がうまく行われているかの視察』という名目だ。

しかしその裏、『ドロップ艦である2名の様子を探る』という、真の目的もある。

 

もちろんその2名が転化体だということについては、大和と元帥以外は知らないことだ。

そもそも転化体という存在を知っているのは、このメンバーでは大和と元帥だけなので、当然と言えば当然だが。

 

だから今回の鎮守府訪問における他の第1艦隊のメンバーの認識は、『とんでもなく強いドロップ艦の実力確認』というものである。

 

そもそもドロップ時点で練度が高いというのは、今までになかったこと。

それだけを考えても、誰もが認める実力者である彼女たちが事の真相を確かめる、という名目は、異論の余地がないところだ。

 

……実は真の目的はもっととんでもないものであり、『欧州動乱における日本海軍の行く末を決める一手を見出す』や、『提督が1日で劇的大改造した鎮守府の視察』であったりするのだが。

 

 

 

「しかし謎のドロップ艦か……

話を聞くに、ふたりとも正規空母なんだろ?

それなら加賀さんや瑞鶴の判断に任せたら良さそうだ。

他に俺に何かできることはあるのか?」

 

「木曾さんには、ドロップ艦以外の所属艦娘の実力を計ってもらいたいと思います。

貴女と同様、鼎大将のお弟子さんの元で研修を積んできた艦娘ばかりですから、経験者の目であれば、正しく実力の把握もできるでしょう」

 

 

大和のセリフに目を丸くする木曾。

 

 

「……な、何だと?

あの地獄の研修を潜り抜けた艦娘が、出来て半年も経っていない新設鎮守府にいるのか……?」

 

「はい。半分以上の所属艦娘が、研修経験済みです。

鯉住少佐自らの技術研修を受けた艦娘がふたり。

呉第1鎮守府で、鼎大将の研修を受けた艦娘がふたり。

横須賀第3鎮守府で、一ノ瀬中佐の研修を受けた艦娘がふたり。

そして……その……佐世保第4鎮守府で、加二倉中佐の研修を受けた艦娘が……ふたり……」

 

「めちゃくちゃいるじゃないか……

しかも『鬼ヶ島』から生還した艦娘がふたりも……」

 

「その通りです。

だから私達でないといけないんです」

 

「実力差があり過ぎると、正確なチカラが計れないということか。

いいぜ、やってやるさ。鬼でも姫でもかかって来いってなもんだ。

俺たちの実力なら、何も怖くないさ」

 

「あ、あはは……」

 

 

かかって来るのは元上級の姫と、それに認められた実力を持つ艦娘集団なので、木曾のセリフは実は的を得たものだ。

それを知る大和の口からは、乾いた笑いが漏れる。

 

神通ショックがトラウマ化している大和である。

佐世保第4鎮守府(鬼ヶ島)から生還した艦娘がふたりもいるという事実を鑑みると、自分たちの実力があれば怖くないとは口が裂けても言えない。

ちなみに彼女はまだ、天龍龍田姉妹の教官が、その神通本人だとは知っていない。

 

 

……だから正直言って、鯉住少佐の部下と顔合わせするのは不安なのだ。

さっき心ここにあらずだったのも、それが原因だったりする。

以前大本営に来た3人に関しては悪い印象を抱いていないが、他のメンバーに関しては良くない予感しかしていない。

 

勢いに任せて出てきてはしまったが、今になってちょっと不安になってきた。

 

 

「まぁ、なんといいますか……

頼りにしていますよ。木曾さん。

私も自身の実力は低くはないと思っていますが、得意分野としては現場指揮や砲撃戦がメインです。

近接戦闘に関してはほとんど経験がないですから。

貴女のように武闘派な艦娘であれば、近接戦闘の実力をよく測ることができるでしょう」

 

「任せろ。実践剣術なら自信がある」

 

「存じております」

 

 

不敵な笑みを浮かべる木曾は自信満々だ。

実際に砲撃戦のさなか、隙をついて近接戦闘に持ち込み相手の陣形をかき乱すことは、彼女の得意戦術である。

 

甲標的と魚雷だけ積んでいき、遠距離から開幕雷撃をお見舞いする。

その後は航空戦、砲撃戦の隙間を縫って敵に近づき、注意が味方に向かっている敵に奇襲攻撃を仕掛ける。

これをやられると、どれほど強敵だとしても、同時に2方面対応することはできず、超高確率で勝利することができるのだ。

 

戦場を広く見据える眼、敵陣からの攻撃をかわしつつ、味方の攻撃に巻き込まれないようにする回避力、ヒット&アウェイを迅速に行える判断力。

これらがそろって初めて可能になる高等戦術と言える。

 

伊達に日本海軍のトップを長年務めているわけではない、ということだ。

 

 

「まぁ、実際に見極めにかかる時間は、長くても1日といったところでしょう。

それが済めばあとは自由時間ですから、所属艦娘や提督と交友を深めてください」

 

「ああ。俺たちとこれから共に戦うことになる同志だ。

いつかどこかの戦場で一緒になるかもしれないしな。仲良くさせてもらうさ」

 

「ぜひそうしてあげてください。

今回訪問するラバウル第10基地には、貴女のお姉さんである北上と大井がいますから、仲良くしてくださいね」

 

 

その大和の何気ないひとことに、木曾の動きがピシッと止まる。

表情も固まっており、一時停止したような状態だ。

 

 

「ど、どうしました……?」

 

「……え?マジで?

姉さんたちがいるのか……?」

 

「そうですよ。

普段会えない姉妹艦ですから楽しみ……というではなさそうですね……」

 

「いや、だって……楽しみといえばそうなんだが……

あのクセの塊みたいな姉さんたちだぜ……?

球磨姉さんや多摩姉さんならまだしも、北上姉さんに大井姉さんかあ……」

 

「まぁ、クセがあるというか、キャラが濃い艦娘というのは、非常に多いですし……」

 

「わかってるさ。わかってて言ってるんだ……

なんだかんだ言って真面目に任務をこなす北上姉さんと、対外的にはまったく問題ない大井姉さんだから、あまりおかしい印象は無いかもしれないけどさ……

実際プライベートではすごいからな……」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 

一気に不安になってきた大和。

賑やかに騒ぐ空母コンビと伊58、提督と楽しそうに話している扶桑とは対照的に、先行きに若干の不安を抱えるふたりなのであった。

 

 

 

・・・

 

 

 

大本営一行がラバウル第10基地へと向かっている、その日の夜。

当の鎮守府では、緊急首脳会議が開かれていた。

 

提督である鯉住君に加え、筆頭秘書艦の叢雲、第2秘書艦である古鷹の3名で行われる会議だ。

 

あまりの緊急事態に、お通夜状態の3人。

そんな中、叢雲がぽつりぽつりと話し始めた。

 

 

「ひとつ、私はいつも傍にいるアンタの心労に気づかなかった……」

 

「ちょ……叢雲さん……?」

 

「ふたつ、暴走するアンタを止める決断ができなかった……!」

 

「叢雲……落ち着いて……!顔が怖い……!」

 

「みっつ、そのせいで大和さんを怒らせ、大本営のドキドキ☆鎮守府訪問が行われることになった……!!」

 

「む、叢雲……」

 

「私は自分の罪を数えたわ……

さあ、アンタの罪を……数えなさいっ!!このトラブルバキューム人間!!」

 

 

ブンッ!ブンッ!

 

 

「ちょ、ゴメン!ゴメンって!!

まだ頭痛が残ってるんだから、そんなに無茶しないでぇっ!!」

 

 

提督の胸倉につかみかかり、涙目になりながらブンブンと揺する叢雲。

まさかまさかの大本営、しかもそのトップである伊郷元帥と筆頭秘書艦の大和による直接訪問。

不測の事態に、精神を大きく乱されているようだ。

 

 

……彼女自身、たった今言っていたように、彼に対して引け目を感じている。

だから最近彼に無理をさせ過ぎたことを、しっかり謝るつもりだった。

 

しかし召集されて真っ先に彼の口から飛び出た

 

「大和さん達、大本営の主力メンバーが明日の朝やってくる」

 

という爆弾発言で、彼女の謝罪しようという気持ちは吹っ飛んでしまった。

 

ごめんなさいするのはとても大事だが、あまりにも緊急の用事ができてしまった今、そちらに気を取られてしまうのも無理からぬことだろう。

 

 

「叢雲さん!やめてあげてください!

提督が、提督が気を失っちゃいます!」

 

「フーッ……フーッ……!

そうね……こんなことしてる場合じゃないわよね……!」

 

「あ、ありがとう……古鷹……」

 

「いえ、私にも結構な非がありましたから……

本当に、提督の疲労に気づいてあげられなくて、ごめんなさい……」

 

「いや、その、いいんだよ、気にしなくて……

それよりも、明日の準備はどうすればよいか考えよう……」

 

「本当それよ……大和さんだけじゃなくて、まさか元帥自ら視察なんて……

それで結局、大和さんたちは何しに来るのよ……?」

 

「多分だけど、高雄さんから色々聞いてたって言ってたし、転化体ふたりの様子見と、その……俺が色々やらかした鎮守府の視察じゃないかと思う」

 

「あぁ……すごいことになっちゃいましたからね……」

 

 

・・・

 

 

彼が復活した時点で、鎮守府改造は完了していた。

 

高雄達を送り出し、大和に一報入れた後、鯉住君は重い頭を抱えながら、自分の目で工事の結果を確認しにいった。

自分がやらかした手前、現在どうなっているか見ておかねばならないと思ったらしい。

 

 

……純水配管は完全に張り巡らされ、生け簀や山葵田には、すでにきれいな水が張られていた。

生け簀については、まだ水中のバクテリアが繁殖していないため、生体投入は不可能だろうが、あと数日かすればそれも可能となるだろう。

 

さらに畑には、なぜかすでに作物が植わっており、区画分けされたエリアでそれぞれ、桑、茶、タロイモ、サトウキビ、大豆、蕎麦が、あと少しで収穫できるくらいのところまで成長していた。

これはもう完全に予想外で、妖精さんの謎パワーを痛感することとなった。

 

旅館と脇の土倉についても増築が済んでおり、こちらもいつでも味噌製造、養蚕が開始できる状態となっている。

すでに使い込まれた状態の、味噌発酵用の桶が設置されていたのには驚いた。

味噌製造にはこうじ菌が欠かせないのだが、その樽の状態を見るに、菌が居ついている様子。

その樽は、いったいどこから調達したというのだろうか……

 

旅館脇のプールは、完全に稼働状態となっていた。

流れるプールにしてくれと希望を出したのだが、流量調節までできる造りとなっていたのには驚いた。

ちなみに何故かすでに天龍龍田姉妹が利用中で、順応早すぎだろ、と呆れることになった。

 

水族館は内装も完全に整い、あとは生体を投入するだけというところまで来ていた。

渓流エリアには、どこからか持ってきた砂利が敷かれ、日本の原風景を思い出す造りとなっている。

熱帯エリアに関しては、これもどこからか持ってきた流木や水草が生い茂り、さながらジャングルとなっている。

 

どうやらアークロイヤルが妖精さんの指揮を引き継ぎ、不眠不休で作業してくれたらしい。

寝ていないので疲労がたまっているはずなのだが、全くそれを感じさせず、キラキラしながら提督に完成報告しに来た。

その際に「これがAdmiralと私の、初の共同作業だな!」とかいう、意味深なセリフを口走っていたので、あえてスルーすることにした。

 

製塩小屋についても問題なく完成していた。というよりすでに稼働していた。

小屋建造を担当させていた妖精さんがそのまま残り、塩のパッケージングにいそしんでいたのだ。

彼女たちもキラキラした目で完成報告してきたので、ご褒美にアメちゃんを進呈した。

 

 

……これだけの大工事、通常なら年単位で行われるものだが、妖精さんの手にかかれば時間単位で行えるものらしい。

人知を超えた、という表現が、何の誇張でもないほどの存在だ。

 

 

・・・

 

 

「まぁ、なんていうかその……

鎮守府改造については完全に俺の落ち度だから、責任は俺がとろうと思う」

 

「は?何言ってんのよ。

アンタがあそこまで追い詰められてるのに、私達は気づけなかったのよ?

連帯責任に決まってるじゃない!」

 

「そ、そうか……気を遣ってもらってすまないな……」

 

「当然のことを言ってるまでよ。

私はアンタの一番の秘書艦なんだから、そのくらい当然!」

 

「……お言葉に甘えさせてもらうことにするよ」

 

「それでいいのよ。まったく……!」

 

 

呆れ顔の叢雲に、バツが悪そうな顔をする鯉住君。

悪いことしちゃったのを謝りに行こうとしたら、お母さんが一緒についてくることになった時のような気持ちである。

 

 

「提督、もちろん私も一緒に責任を負いますよ。

とはいえ、よそに迷惑がかかるような内容ではないので、今の海軍のいい意味での緩さなら、大きなお咎めは無いとは思いますが」

 

「そうかもしれないけど、勝手に色々やっちゃったのは悪いことだからねぇ……」

 

「やっちゃったものはしょうがないと思います。

受けるべき処罰を受けて、反省して、それでオシマイにするしかないですよ。

それよりも、これからの施設の立ち位置について考えないと……」

 

「うーん……あの時は副業まで視野に入れて動いてたから、できたら副業申請したいんだけど……」

 

「副業申請?何を始めるつもりなのよ?」

 

「海水塩とワサビ、それと生糸の販売。

味噌、野菜、養殖魚については、自前で消費できるくらいしか作れないだろうから、販売は考えてない」

 

「うーん……でも販売といっても、販路がないのでは?」

 

「それはほら。三鷹さんがいるから」

 

「アンタ……先輩に丸投げするつもりなの?」

 

「あの人なら優しいから、2つ返事でオーケーしてくれるはず。

なにかあったら頼りにしてくれって言われてるしね」

 

「なにかあったらって、こういうことじゃないような気もしますが……」

 

「そんな細かいこと気にするような人じゃないから、大丈夫だよ」

 

「まぁ、それが本当だとしたら、販路確保はできるわね……

それじゃ大和さんには、そのように伝えればいいかしら?」

 

「そうしよう。

旅館とプールに関しては……まぁ、ここに逗留した艦娘のための慰安施設ということで……」

 

「そうするしかないですよね……

まさか『泳ぎたかったから』なんて、言うわけにはいきませんし……」

 

「大規模作戦の時に拠点にしてもらえる造りにした……というか、なっちゃったから、その辺も含めて伝えよう。

あくまでラバウル基地エリアで戦闘が起こった時、という条件付きだけど」

 

「バックアップ体制についてはウチはすごいから、認めてもらえるとは思うわ」

 

「だよね。

……鎮守府の改造についてはそんなところか。

まず謝る。そして各設備の有用性をアピールしつつ、後方支援鎮守府として認めてもらう。ついでに副業についても聞いてみる」

 

「旗色が悪いと思ったら、副業うんぬんは話に出しちゃダメよ?」

 

「わかってるさ。

……で、問題は、もうひとつの方……

おそらくだけど、今回大和さんや元帥がやってくる原因となった方なんだけど……」

 

「あぁ……例のおふたりについてですね……」

 

 

ハァー……

 

 

同時にため息をつく3人。

彼女たちは自由な精神を持っているため、こちらが何か口止めをしようとしても、無駄になる可能性が高い。

作戦を立てようにも実行が難しければ、あまり意味はないと言える。

 

 

「もうなんか……

事情を知ってる元帥と大和さんには、素直に全部打ち明けるしかないんじゃないかなぁ……」

 

「そうね……どうせあのふたりも同席して話を進めることになるんでしょうし、下手な口裏合わせはしない方がよさそうね」

 

「はい。私もそう思います……

あのおふたりを制御する自信なんて、まったくありません……」

 

「そうよねぇ……」

 

「だよねぇ……」

 

 

ハァー……

 

 

「まぁ、なんて言うか……

一応こちらの言うことは聞いてくれるから、話を進めること自体は出来るだろう。何とかなるさ……

それじゃ、明日の午前には到着すると言ってたし、ふたりにそのことを伝えてくるよ。

……他に考えなきゃいけないことってある?」

 

「いえ、大丈夫かと。

それではすいませんが、明日の予定の伝達、よろしくお願いします」

 

「そうね。なんだかもう、色々急にあり過ぎたから、今考えたこと以上に詳しく話せと言われても、無理だもの」

 

「わかった。それじゃ会議は終わりにすることにしよう。

じゃ、行ってくるよ」

 

 

そう言って立ち上がろうとする提督に対し、ふたりが待ったをかける。

 

 

「待ちなさい」

 

「そうですよ、提督」

 

「? 何か思いついたのかい?」

 

「違うわ。私達も同行するわよ。

また何かあって倒れられたんじゃ、たまったもんじゃないわ」

 

「大丈夫だとは思いますが、私達とは常識が違いそうなおふたりですから……

なにかあれば私達が対処しますので、提督は気を楽にされていてください」

 

「いやいや、そんな、呼びに行くだけなのに悪いって……」

 

「遠慮しなくていいから」

 

「そうですよ。本来そういった雑務は秘書艦の仕事なんです。

提督に今まで甘えていた分、私達にも働かせてください」

 

「そ、そうかい?

そういう事ならお願いするよ」

 

 

今までであれば、そのまま彼に任せていただろう。

声をかけに行くだけという、仕事とも呼べない些事であることだし、

何より、提督が自発的に動く以上はそれに任せる、というスタンスだったからだ。

 

しかし今回の騒動を受け、彼女たちはそれではいけないと考えるようになった。

少しおせっかいかもしれないが、進んで自分から提督の仕事を分担することにした。

 

ふたりとも、なんだかんだいって彼のことが心配なのだ。

 

 

「あ、でも私達はあくまで、もしもの時の処方箋、程度に思っていてちょうだい。

私、あの人たちには相性的に敵いそうにないもの」

 

「それについては叢雲さんと同じ意見です。

あくまで話の進行は提督にお願いしたいです。

そもそも提督以外の人の話を、おふたりが聞いてくれるかもわかりませんし……」

 

「あー……うん、まぁ、それもそうだねぇ……」

 

「お願いします。

……それじゃ明日は大変ですけど、一緒にがんばりましょうね」

 

「おう。頼りにしてるよ。ふたりとも」

 

「任せなさい」

 

「精一杯がんばります!」

 

 

 

 

 

 




結局無事に転化組ふたりへの伝達は終えることができました。
ただ天城には、「もうちょっと早く教えてくださいよー」とむくれられた模様。

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