艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

76 / 185
演習について


演習に使われるのは、演習弾と呼ばれるペイント弾です。
コンビニや銀行においてあるカラーボールみたいな感じです。
これに当たった艤装は使用不可、一定以上の面積が塗られた時点で、大破扱いとなり、戦闘離脱となります。

ちなみにあくまでペイント弾なので、被害状況や艤装使用の可否などの各種判断は、当事者に委ねられます。

まだまだ練度の低い艦娘の場合、うっかり使用不可となった艤装を使用してしまったり、大破判定に気づかず継戦してしまったりといったトラブルがよくあります。
しかしこれは多くの艦娘が通る道であり、状況判断能力の低さはまだまだ新人という証ですので、罰則とかはなく、温かい目で見られるようです。

余談として、唯一佐世保第4鎮守府では、演習でも実弾を使用するようです。



第76話

「本当に……本当にすいませんでした……」

 

 

びっしゃびしゃに濡れたズボンもそのままに、元帥一向に土下座をする鯉住君。

 

今現在会議室(客間)には、廊下側にラバウル第10基地のメンバーが勢ぞろいし、窓側には大本営の皆さんがかたまっている。

 

必死の弁解の末、大和や木曾の誤解を解き、部下をなだめ終えることができた。

この土下座は、その自己弁護のグランドフィナーレといったところ。

何とも情けない話だが、彼はこれでも真剣である。

 

ちなみに天城はすぐそばに寝かせてある。

引きはがすのにだいぶ苦労したが、そうせざるを得なかったため、必死でどかしたのだ。

天城を膝枕したまま謝罪したところで、なんにも説得力がない。

 

 

「よ、よしてください少佐……

私が、その……恥ずかしい勘違いをしてしまったのが悪いんですから……」

 

「その通りだ、少佐。今回は大和君が早とちりしてしまったのに非がある。

頭を上げなさい」

 

「はい……」

 

 

元帥の言葉に従い、頭をあげる鯉住君。

日本海軍で最も重要な人物に、こんな恥態を見せてしまうなど、まったく予想していなかった。

 

そんな謝罪タイムが終わったのを確認して、第1艦隊のムードメーカーである瑞鶴が口を開く。

 

 

「それにしてもさ~、すっごい驚いたよね。

最初におっきな声で、凄い内容のセリフが聞こえてきて、その直後に大和さんの悲鳴だもの」

 

「すまなかったわね……瑞鶴……私としたことが……」

 

「いやいや、大和さんは悪くないよ。

あんな話目の前でされたら、みんなおんなじ反応になるってば。

だって……その……内容が内容だったし……ねぇ?」

 

 

頬をポリポリかきながら、視線を逸らしてバツが悪そうにする瑞鶴。

 

確かに彼女の言う通りで、第1艦隊の皆さんは、例外なくアークロイヤルのセリフをいやらしい意味で捉えてしまったようだ。

みんな視線を宙に泳がせ、苦笑いしている。

 

 

「……いったい何を想像したというのかしら?

五航戦の頭の中がピンク色の方」

 

「なに煽ってきてんの!?加賀さんだって似たようなもんでしょ!?

ちゃんと私見たんだからね!加賀さんが凄い動揺しながら、恐る恐る部屋に入ってきたの!

絶対あれ、いやらしいこと想像して、部屋に入るの躊躇してたんでしょ!」

 

「そんなことはありません。とんだいいがかりね」

 

「なにさなにさ!自分のことばっかり棚に上げて!

提督さんからも何か言ってやってよーーー!」

 

「……加賀君、他人に嘘はつけても、自分に嘘はつけないぞ」

 

「……迷惑かけてすみません」

 

「加賀君も反省しているようだ。許してやりなさい」

 

「むー……!!

それは私に対してじゃなくて、提督さんへの謝罪な気がするんだけどぉ……!!」

 

 

納得いかず、ムスッとする瑞鶴に、木曾が話しかける。

 

 

「まぁ、なんていうか、仕方ないだろ。

加賀さんも恥ずかしくて、照れ隠ししたいんだよ。大目に見てやれって」

 

「木曾」

 

「気持ちはわかるが、今回は加賀さんが悪いぜ」

 

「そーよそーよ!ふふん!」

 

「……」

 

 

今度は加賀の方がムスッとしてしまった。

ドヤ顔で勝ち誇っている瑞鶴を、恨めしそうに睨んでいる。

 

表情には出にくいが、随分と感情豊かな性格をしているようである。

 

 

「それにしても少佐も少佐だぜ。あんなセリフ、部下に吐かせちゃいけない。

あれじゃ勘違いするなってのが無理ってもんだ」

 

「いやホントに……おっしゃる通りで……」

 

「まぁ、済んだことはいいさ。俺も悪かったからな。

元帥と大和さんが変質者に絡まれていると思って、軍刀で脅しちまったし」

 

「そ、それはいいんです……こちらが悪かっただけですから……」

 

 

木曾も聞こえてきたセリフや天城の状態を見て、同様に勘違いしてしまったのだ。

そのせいで、鯉住君は彼女の軍刀で先ほどまで牽制されていた。

 

 

「しかし本当に驚いたよ。

さっきのアークロイヤル……っていうんだっけ?新規ドロップ艦って。

そいつもそうだし、他のメンバーもそうだし、少佐、モテすぎだろ。

部下全員に指輪を贈ってるって聞いて、なんの冗談かと思ったぜ」

 

「……いえ、その……なんといいますか……

指輪は、そういった意味合いというよりは、仲間の証といったつもりでですね……」

 

「本人たちはそう思ってないみたいだぜ?

なぁ、姉さんたち?」

 

 

木曾が彼女にしては珍しく、ニヤニヤしながら北上と大井を見る。

 

 

「当たり前っしょ~?キッソー。

いくらアタシでもさぁ、その気がないのに指輪貰うとかしないから」

 

「……木曾。あとで鎮守府棟裏にきなさい……」

 

「ひえっ……わ、悪かったよ、大井姉さん……」

 

 

ケラケラ笑っている北上と対照的に、冷静に怒ってオーラを放つ大井。

 

振り回されっぱなしの姉をからかってやろうとした木曾だが、やっぱり大井には敵わなかった模様。

 

そして連鎖的に、触れてはいけない話題に触れてしまい、精神が削られる鯉住君。

 

 

「そ、その話はおしまいにしましょう……誰も得しない気がしますから……

いいですよね……? 大和さん……?」

 

「そ、そうですね……私も話題を変えたいと思っていたところです……」

 

 

げんなりしている鯉住君と大和。

先ほどまでの疲労もあり、いつまでもこの話を引っ張りたくはない。

 

そんなふたりをちらっと見た元帥から、唐突な提案が。

 

 

 

 

 

「よし。少佐、紅白演習をしよう」

 

 

「「「 !? 」」」

 

 

 

 

 

いきなりすぎる提案に、この場のほとんどのメンバーが、元帥の方を向く。

 

 

「えっと……提督……

なんで急にそんなこと言い出すんでちか……?」

 

「頭のなかを切り替えるには、適度な運動が一番だ」

 

「今の話から、いきなり演習の申し込みだなんて……

提督の頭の中は、どうなっているのでしょうか……?」

 

 

言ってることは尤もだが、話の流れを完全にぶったぎってまで、ぶっこんでくる必要はあったのだろうか……?

 

そんなことを考えて困り顔の面々に、元帥から追加でひとこと。

 

 

「どのみち我々は、少佐の部下の実力把握もしておかねばならないのだ。

それについて最も有効な手段は演習であろう」

 

「はぁ……」

 

 

正論も正論で、口をはさむ余地もない。

話が唐突過ぎでなければ、みんな納得したのだが……

 

マイペースすぎる元帥に面喰らいつつも、この提案にあまり乗り気でない鯉住君は、気になっていることを確認する。

 

 

「その……元帥……

とてもじゃないですが、私の指揮と元帥の指揮では、実力差があり過ぎて勝負にならないのでは……?

それに、いくら研修を受けたとはいえ、私の部下たちが栄光ある大本営・第1艦隊の皆さんに太刀打ちできるとは思えないんですが……」

 

 

至極尤もな意見だ。

日本海軍の顔と、できて数か月の小規模鎮守府では、戦闘にすらならないと考えるのが普通だろう。

 

しかし予想通りというか、予定調和というか、これに異を唱える者たちが。

 

 

「オイオイ、提督、俺達の実力は知ってんだろ?

いくら元帥の艦隊が相手でも、負ける気はねぇぜ!?」

 

「いやいや、いくらキミたちが実力をつけたとはいえ、相手が悪すぎるから……」

 

「いいじゃないか、やってみようぜ。

別に勝敗が目的じゃないし、経験も積めるし、いいチャンスだと思うぜ?

……それにさっき姉さんたちと話した感じだと、そんなに俺達との実力差は無いような気がするんだよな……

正直言うと、俺も戦ってみたいんだよ」

 

「木曾さん……そんなことは流石にないんじゃ……

そ、それにウチは装備が整っていませんし……」

 

「あそこではそんな言い訳通用しないわ~。

そんなこと言っちゃうひとは、沈められちゃうわよ~?」

 

「あそこは特別だから比べちゃダメだって……」

 

「いいじゃないですか。

私、少佐の部下の皆さんをよく知らないし、やってみましょうよ。

少佐の実力も気になりますしね」

 

「大和さん……結構ノリノリなんですね……なんか意外です……」

 

「フン。上等じゃない。

私達の実力を見せつけるチャンスでしょ?

もしかしてアンタ、自分のだらしない実力が披露されるのが怖いの?」

 

「俺のことはいいけどさ……負けてしまって、キミたちに悔しい思いをさせるのは……」

 

「……提督は、私達が負ける前提で話をしているようですね」

 

「い、いや……そういうわけでは……

大井……その冷たい目は心に刺さるから、止めてくれないか……?」

 

「ちょっとそれはないっしょ。

いこ~大井っち。キッソーたちをぶっ飛ばして、提督見返してやんないとね~」

 

「そうですね、北上さん。

この失礼な人に、私達だけでもできるというところを見せてあげましょう」

 

 

ガララッ

 

 

「あ、ちょっと……キミたち勝手に……」

 

 

提督を無視して退出してしまった北上大井姉妹。

とっても不機嫌そうにしていた彼女たちを前に、強く止めることができなかった。

 

やる気満々で出て行ったところを見るに、工廠まで出撃準備をしに行ったのだろう。

 

 

「よーし!!相手にとって不足無し!!腕が鳴るぜー!!」

 

「そうね~

いっぱい活躍して、ご褒美貰っちゃいましょ~」

 

 

スタスタ……

 

 

同様に退室する天龍龍田姉妹。

 

 

「ふふん!わらわの実力を鯉住殿に見せる、よいチャンスじゃな!

今回はお主の出番はないぞ!おとなしく指をくわえてみておれ!暴力女!」

 

「ハァ!?それはこっちのセリフよ!!

アンタなんていなくても楽勝だってのよ!この勘違い女!」

 

「なにうぉー!?」

 

「なによ!!」

 

 

ダダダッ!!

 

 

競い合うようにして出ていく、駆逐艦のふたり。

 

 

「……」

 

「鯉住さん、姉さんがゴメンねぇ」

 

「いいんだよ、子日さん……

気遣ってくれてありがとうね……」

 

「姉さんね。せっかく来たのに、鯉住さんにあまり構ってもらえてないって、ちょっとしょんぼりしてたから。

活躍していいところ見せられると思って張り切っちゃったみたい」

 

「そ、そうだったのか……

なんか、その、ごめんね……気づいてあげられなくて……」

 

「ううん。大丈夫だよっ。

姉さん、鯉住さんのためなら我慢するって言ってたし、私もちょっと寂しいけど、迷惑かけられないし……

私達が協力できることがあったら遠慮なく言ってねっ!」

 

「うぅ……罪悪感が……!!

本当にゴメンねぇ……!!」

 

 

制御できない部下と頭痛に頭を痛めつつ、

小学生(相当)の自己犠牲な気遣いに心を痛めつつ、

圧倒的格上相手に、自身の指揮をお披露目する未来にお腹を痛めつつ、

先ほど叢雲に喰らったタイキックに背中を痛めつつ、

天城の頭という重しを乗せていたせいで痺れた両足を痛めつつ、

 

鯉住君は元帥との紅白演習に臨むことになった。

 

 

 

「それでは私の艦隊も準備に入る。

ミーティングや準備を考慮して、2時間後に鎮守府前面海域で開始。

指揮は無線指揮でどうだろうか」

 

「あっはい……了解しました……」

 

「うむ。では我らの戦力情報を伝える。

存分に活用し、演習に活かすように」

 

「あ、ありがとうございます……

でも、いいんですか……私達だけ情報をもらってしまって……?」

 

「これは少佐に経験を積んでもらうための処置だ。

彼を知り、己を知り、百戦を切り抜けられるようになるのだ。

良き学びがあることを期待するぞ」

 

「は、はい……」

 

 

 

・・・

 

 

工廠にて

 

 

・・・

 

 

 

「さて……なんだかおかしな流れで演習をすることになってしまったけど……

情報共有から始めよう……」

 

 

顔を突き合わせて作戦会議をする演習参加者の面々。

先ほどつれない態度をとっていた者たちも、真剣に提督の言葉を聞いている。

 

 

……彼我の戦力比較は以下の通り。

 

 

 

 

 

『大本営・第1艦隊』

 

 

旗艦・戦艦『大和改』

51cm連装砲×2・一式徹甲弾・零式水上観測機・(増設バルジ大型艦)

 

2番艦・航空戦艦『扶桑改二』

試製41㎝3連装砲改×2・一式徹甲弾・瑞雲12型・(増設バルジ大型艦)

 

3番艦・重雷装巡洋艦『木曾改二』

甲標的 甲・試製61㎝六連装(酸素)魚雷×2・(北方迷彩+北方装備)

 

4番艦・正規空母『加賀改』

流星改20・震電改20・試製南山46・烈風改12・(12cm30連装噴進砲改二)

 

5番艦・装甲空母『瑞鶴改二甲』

天山十二型(村田隊)34・流星改24・烈風改12・彩雲6・(12cm30連装噴進砲改二)

 

6番艦・潜水空母『伊58改』

後期型艦首魚雷(6門)×2

 

 

 

 

 

『ラバウル第10基地・選抜メンバー』

 

 

旗艦・駆逐艦『叢雲改二』

12.7cm連装高角砲(後期型)×2・22号対水上電探

 

2番艦・駆逐艦『初春改二』

61cm三連装(酸素)魚雷・探照灯・照明弾

 

3番艦・軽巡洋艦『天龍改二』

12.7cm連装高角砲(後期型)×2・12.7mm単装機銃

 

4番艦・軽巡洋艦『龍田改二』

三式爆雷投射機・九五式爆雷×2

 

5番艦・重雷装巡洋艦『北上改二』

61cm五連装(酸素)魚雷・61cm四連装(酸素)魚雷×2

 

6番艦・重雷装巡洋艦『大井改二』

61cm五連装(酸素)魚雷・61cm四連装(酸素)魚雷×2

 

 

 

 

 

「これは……どうしようもないのでは……」

 

「なに弱気になってんの。

今さらゴチャゴチャ言うんじゃないわよ」

 

「うーん……そうは言ってもこれなぁ……」

 

 

眉間にしわを寄せ、元帥からもらったメモを眺める鯉住君。

そしてそんな彼を黙って眺める部下一同。

 

 

 

……相手は大本営第1艦隊。疑いようもなく練度は最高峰。

艤装も一切の手抜きなしで全力投球。

 

演習とはいえ、いや、演習だからこそ、元帥は手加減するつもりはないのだろう。

 

こちらの戦力把握と言っていたことを考えると、元帥はこちらの実力を買って、このような決戦布陣を敷くことにしたと見てよいはず。

それに加えて自分の成長を願うような言葉もかけてもらった。

 

……とすれば元帥は、全力の第1艦隊に対して、こちらのメンバーが『いい勝負ができる』ということを疑っていない。

そういうことになるだろう。

 

信頼されていると分かった以上、その信頼には応えなければならない。

少なくとも一矢は報いなければならない。

 

 

しかしこの戦力差……どこをどうすれば最善の結果を叩き出せるのか……

 

 

 

「……駄目だ。俺ひとりじゃどうにもいい案が思いつかない。

悪いがキミたちからの意見を聞きたい」

 

 

「当たり前でしょ?

私達が何のために研修してきたと思ってんのよ?

もっと頼りなさい」

 

「ふふん。わらわの聡明な頭脳を役立ててもらえる時が、ついに来たようじゃな!

伊達に何年も、前線の呉第1鎮守府で戦ってきたわけではない!」

 

「アタシ、難しいこと考えるのは苦手だけどさ~

なんとなく良さそうに思えた意見くらいなら言えるよ?」

 

「流石です北上さん!私も北上さんのアシストしますね!」

 

「うふふ~。久しぶりの劣勢からの戦闘……ワクワクしちゃうな~。

ねぇ?天龍ちゃん?」

 

「オウ!どんだけヤベェって言っても、教官ほどじゃねえだろ!

提督、大船に乗ったつもりでいろよ!勝利を届けてやるぜ!」

 

 

「すまんな、みんな。ありがとう。

……それでは状況共有が済んだところで、ミーティングに入る。

どんどん意見を出してくれ。期待してるよ」

 

 

「「「 了解!! 」」」

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに鯉住君は、工廠移動前にズボンと下着を履き替えました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。