艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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今回の演習のルールは、実戦に近いものとなっております。


・最長でも日が落ちてから3時間経つまで
(昼戦、夜戦を同じくらいの時間でとるため)

・大破者が出た時点で決着判定
(実戦では大破が出た時点で撤退のため)

・旗艦が大破したら問答無用で敗北
(現場指揮が乱れ、著しく戦闘が不利になるため)

・戦闘はお互いの艦隊が10㎞離れた地点から開始する
(水平線に人影を目視できる距離は4~5㎞から。それの約2倍の距離。
電探に敵影を捉えられるのがそのくらいの距離からということもある)

・指揮官は海図を見ながら指揮ができる
(地理的情報は十分にある状態。指揮官の情報処理能力も問われる)


通常の演習では、大破者は離脱判定ですが、今回のルールでは大破者が出た時点で試合終了という形となります。



もっと頭使わずに楽しめる内容にしたいんだけど……
もう少し微シリアスにお付き合いくださいm(__)m




第77話

両陣営ミーティングを終え、演習前の握手を済ませ、鎮守府から開始地点まで移動。

現在は索敵を断ち、各提督からの演習開始連絡を待っている状態だ。

 

ちなみに提督側は、それぞれお互いの様子がわからない場所で指揮を執ることにしてある。

具体的には鯉住君は執務室(居間)で、元帥は先ほどの会議室(客間)だ。

 

 

『いいかい、先ほどのミーティング通りにいけば、勝利できる可能性はある。

焦らず落ち着いて臨むように』

 

「任せなさい。

無事に完遂してやるから、アンタも気を抜くんじゃないわよ」

 

「わらわに任せるのじゃ!

皆でたてた作戦、上手くいかん道理がない!」

 

『頼もしいね。

俺も要所で指示を出せるよう、気張ってるからさ。

通信は常時ONにしておいてくれ』

 

「わかったわ」

 

『基本的には現場のキミたちに任せるが、何か気づいたり、方針を多少変更する場合は指示を出す。よろしく頼む』

 

「了解だ!提督の指示がくる前に、ぶっ飛ばしてやるぜ!へへっ!」

 

 

ミーティングを通して、ラバウル第10基地の面々は方針を決めてきていた。

 

話の内容をざっくりまとめると、以下のようになる。

 

 

 

・・・

 

 

 

演習で勝利するには、色々と方法がある。

 

総合ダメージの蓄積を兼ね、戦闘力が大きく落ちる中破を狙い、万全な敵の数を減らす。

数の利を得るために、一隻一隻丁寧に攻略する。

奇襲攻撃により、一気に勝負を決めに行く。

 

などなど。

 

しかし今回の相手は、器用万能ともいえる面々が勢ぞろい。

定められる目標はひとつしかない。

 

 

 

すなわち『旗艦大破による勝利』である。

 

 

 

そもそもこちらは水雷戦隊。

航空戦力に削られる以上、ダメージレースで勝ちに行く選択肢は潰される。

 

さらに航空戦力に加え、超長射程を誇る大和、連射力に優れた扶桑がいる以上、近接戦に持ち込むことは至難のワザ。

後方に控える正規空母2隻を沈黙させることも、近接戦闘を仕掛けることも、非現実的。

 

 

……となれば、短期決戦、一点集中で、的確に旗艦を仕留めるしかない。

水雷戦隊の本領である、雷撃戦に勝負所を持っていく必要がある。

 

 

艦娘の魚雷の最長射程は、一般的には約100mと言われている。

艦時代は5㎞~25㎞なんていう、頭おかしい距離で砲雷撃戦していたが、それはあくまで的が巨大で動きも鈍かったからこそ。

 

人間大であり、素早く動き回る目標を捉えるのには、

砲撃中の隙をつく、という条件付きで、最長でも100mが限界と言われている。

 

 

つまり勝ち筋を探っていくと、

 

『魚雷命中が現実的な100mまで近づき、雷撃で戦艦大和を大破させる』

 

というのが、唯一だという結論となった。

 

 

……こうやってシンプルに書くと、いけそうに思えるかもしれない。

しかし実際に実行しようと考えると、かなりの無茶ぶりだということがわかる。

 

この目標を達成するのに必須である条件は以下の通り。

 

 

まず大前提として、開幕の航空戦をしのぎ切る必要がある。

 

敵艦載機を見ると、艦攻・艦爆連合の苛烈な攻めが予想される。

そこで大破が出て敗北という可能性も十分ある、というか、普通なら数隻大破艦が出るというレベルだ。

 

それとほぼ同時に襲ってくる、甲標的による開幕雷撃もかわし切る必要がある。

最低でも小破に留めないと話にならない。

 

100mまで近づくには、敵戦艦の砲撃を抜け続けなければならない。

直撃すれば大破確実の砲撃の雨を、潜り抜け近づく必要がある。

当然、撃ち漏らした敵艦載機の猛攻を潜り抜けながら、だ。

 

大和の化け物装甲を抜く以上、勝負どころの時点で雷巡のふたりの攻撃性能が万全でなければならない。

そこまでの動きを、少なくとも小破でやり過ごさなくてはならない。

 

 

 

……どう考えても無理ゲーなのだが、可能か不可能かと聞かれれば可能、というレベルで勝ち筋はあると言える。

 

 

 

・・・

 

 

 

「作戦も立てたしさ、何とかなるっしょ~。

ね~、大井っち」

 

「そうですね、北上さん!

私達の実力を、木曾に思い知らせてやりましょう!」

 

『大井……もしかしてさっきの事根に持って……』

 

「はい?何か言いましたか……?」

 

『なんでもないです……』

 

 

 

「フフフ……!血が滾ってくるぜ!

なあ提督!敵艦載機の撃墜なら、任せてくれよ!

俺が全機ぶっ飛ばしてやるぜ!」

 

『期待してるよ。天龍。

やる気がなかったとはいえ、天城のあの航空部隊を一方的に撃墜した実力、信じているよ』

 

「私もちょっと張り切っちゃうよ~。

敵の潜水艦は任せて~」

 

『頼りになるな。

潜水艦を放っておくと、いつどこから来るかわからない雷撃に苦しむことになる。

早急に撃破するようにしよう』

 

「わかったわ~」

 

 

 

『……さて、そろそろ時間だ。

それでは最終確認。

 

敵艦載機と邂逅してからは、対空の要の天龍を中心にして輪形陣。

龍田は対潜警戒、北上と大井は甲標的からの先制雷撃に注意。

叢雲と初春は視野を広く持ち、適宜足りないところの支援。

 

そこから先は乱戦となるだろうが、標的は変更なし。

天龍が一番キツイだろうから、余裕ができ次第天龍の援護を優先。

 

勝負を仕掛けるためにも、蛇行しつつ敵艦隊への接近を心がけるように。

夜戦を裏の選択肢にしたいのもあるから、とにかく回避優先で』

 

 

無線越しでも伝わる高揚感。

緊張しすぎている様子もなく、非常に良いコンディションといえる。

 

 

『それでは時間だ……演習開始!』

 

 

「「「 了解!! 」」」

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

ザザーッ……

 

 

演習開始地点から相手の艦隊の方角に進む一行。

開始から5分ほど経つが、まだ景色に変化はない。

 

 

「どうだ?叢雲。

相手の動きに変化はあるか?」

 

「……電探の反応だと、動いていないみたいね。

現在位置は戦闘開始地点のままよ」

 

「ふ~ん。どういうつもりなのかな~?」

 

 

電探の反応では、敵艦隊は接近してくる様子も離れる様子もない。

こちらの位置が補足できておらず、様子見をしているということは考えにくいため、何か考えがあるのだろう。

 

 

「……なーんかキナ臭いよねぇ。

たっちゃん、潜水艦の気配ってする?」

 

「そうねぇ~……このあたりには居ないと思うよ~」

 

「ふうん。それじゃキッソーがなんか仕掛けてくるかな?」

 

 

動きがない相手に不穏なものを感じる一行。

とはいえ、接敵もしていないのに緊張しても仕方ない。

潜水艦、雷撃に警戒しつつ、先へと進む……

 

 

 

・・・

 

 

さらに5分後

 

 

・・・

 

 

 

「そろそろ敵艦隊との距離から見て、目視できる範囲に来るわ。

気を引き締めなさい」

 

「艦載機がそろそろ飛んでくるかもしれねぇな。腕が鳴るぜ!」

 

 

 

基本的には艦載機は、相手が目視確認できてから発艦する。

 

艦だった時代では、パイロットが乗り込んでいたので、敵が目視できない遥か遠くからでも問題なく発艦していた。

 

しかし艦娘となった今、艦載機はいわばラジコン機のようなもの。

手足のように動かせるとはいえ、目で見ることができなければ正確な操作など出来るはずもない。

 

それでも艦載機は未だに強力だ。

艦時代から有効範囲が狭まったとはいえ、目視さえできれば有効打を叩きこめる以上、砲雷撃よりも有効攻撃範囲は遥かに広いからだ。

 

ちなみに偵察機と観測機に関しては、その限りではない。

攻撃能力がない代わりに、簡易レーダーのような役目を持つため、感覚としてではあるが、視界外からでも敵の位置を大体は把握することができる。

 

 

 

「……と、噂をすれば何とやら、ってところね。

電探に反応あり!敵艦載機を確認!数は……だいたい100ってところね」

 

 

ちょうど話をしていた艦載機が、レーダーで確認できた。

かなりの数がこちらに向かって飛んできている模様。

 

 

「100……?」

 

「どったの?大井っち」

 

「確か敵の艦攻・艦爆搭載数は、合計140機程度だったはず……

明らかに少ないです」

 

『……なるほど。

大井が気付いてくれたようだが、おそらくは加賀の艦爆46機がごっそり抜けている。

上空からの爆撃に注意し、動きを止めないように』

 

「はっは~ん。なるほどねぇ。

目の前の艦攻に集中してるところを、上からドッカーン!ってことね」

 

「私が装備してるのは水上電探だから、上空からの攻撃はうまく感知できないわ。

危なかったわね」

 

「ま、そのくらいなら赤城さんに何度もやられたから対応できるぜ」

 

「うふふ~。さすが天龍ちゃんね~」

 

「……そろそろ話はおしまいよ」

 

 

ついに水平線の彼方に、元帥の艦隊が確認できた。

それと同時に、そこから発艦された艦攻群が、こちらに飛んできているのも確認。

 

 

「……む?何かおかしくはないかや?」

 

「何がよ」

 

「艦載機以外にも、何か飛んできているような……」

 

 

よく見ると、多数の黒い点である艦載機以外に、少し大きさの違う点が混ざっている。

そしてその点は、艦載機よりも上空に向かって飛びあがり、段々と大きく……

 

 

「……!!

アレは艦載機ではない!砲撃じゃ!!」

 

 

 

ヒュルルルル……

 

 

……ドッパァン!!

 

 

 

「……ッ!!」

 

 

艦載機よりも早く到達したのは、大和から放たれた、超長距離砲撃による砲弾だった!

 

艦隊のすぐそばに、特大の水柱が上がる!

 

 

「落ち着きなさいッ!

流石にあの距離から狙いは定められないわ!」

 

「わかってるって。そんなんできるの武蔵さんくらいだろうしな。

陣形を乱すとか、そんな感じの狙いだろ」

 

「そうね~、さすが天龍ちゃんだわ~。

……あらぁ~?嫌な気配……えーい」

 

 

 

バシュシュッ!!

 

 

……ドドオォォンッ!!

 

 

 

龍田がおもむろに爆雷を放った場所で、激しい爆発と共に、何本もの水柱が発生する!

 

 

「キッソーの先制雷撃じゃん!あっぶねー!

たっちゃんサンキュー!

このタイミングとか、どんだけ息ピッタリなのさ!」

 

「気づかなかったわ……チッ」

 

「ん~……でも潜水艦の気配はないわ~……

いったいどこにいるのかな~?」

 

『潜水艦が同時攻撃を仕掛けてくるなら、今からの航空戦の最中という可能性が高い。

龍田、大変だけど警戒頼むよ』

 

「任せて~。

とりあえずぅ、危なそうなところに爆雷おいとこ~っと」

 

 

 

バシュシュッ!

 

 

 

龍田は危険と思われる場所にアタリをつけ、爆雷を投射する。

 

普通、爆雷は投射した後、水圧や接触で爆発するのだが、龍田は今回機雷のような使い方をした。

このような使い方ができるのは、彼女が受けた研修の賜物のようだ。

 

艦娘は艦だっただけあり、熟練者という条件付きで、ある程度なら艤装の性能を変化させることができる。

今回は感水圧・接触爆雷から、時限・センサー爆雷に性能を調整した模様。

 

 

「先制雷撃を防げたのは大きいわね!この調子で航空戦も切り抜けましょ!

全艦、回避行動をとりつつ、敵機撃墜に集中!」

 

「おっしゃあ!俺の出番だ!燃えてくるぜっ!」

 

 

 

・・・

 

 

 

ヒュルルル……

 

 

ドォンッ!

 

 

 

ブゥーン……バシュッ……!!

 

 

……ボォンッ!!

 

 

 

大和の超長距離砲撃と、敵の艦攻群による激しい雷撃に、ラバウル第10基地のメンバーは苦戦を強いられていた。

 

 

「あー、もうっ!かすったわっ!!」

 

「なかなか墜ちてくれねぇな!でも、それでこそだぜ!」

 

 

 

パラララッ!!

 

 

ボォンッ!!

 

 

 

「やっべぇ!こっちもかすったぁ!」

 

「北上さんっ!大丈夫ですか!?」

 

「まだ小破だよ!いけるいける~!」

 

「お主らの雷撃がキモなんじゃ!下がっておれいっ!」

 

 

 

バシュウッ!!

 

 

……ドォンッ!

 

 

 

初春の魚雷が、迫る雷撃を相殺する!

 

 

「サンキュー!はっちゃん!」

 

「その呼び方だと、別の艦になってしまいそうじゃのう……」

 

 

 

「それにしても、厄介ですね。

数の多さもありますが、練度が高いです」

 

「そうね~。

赤城教官や龍驤教官と同じで、部隊数増やしてるみたいだし~」

 

「それでも操縦精度は赤城さんほどじゃねえ!

このまましのぎ切るぜっ!そらっ!!」

 

 

 

パラララッ!!

 

 

ボォンッ!!

 

 

 

航空戦が始まって2分経過した現在、敵の艦攻の数は60機ほどになっている。

天龍が奮闘してくれてはいるのだが、なかなかこちらの対空射撃に当たってくれないのだ。

 

しかしそんな状態でもこちらの損害は軽微であり、中破者は未だゼロ。

小破は叢雲、天龍、北上とそこそこだが、まだまだ勝ち筋は残っている状態である。

 

 

「この調子でしのぎ切れれば、勝利まで近づけるわ!

気合入れなさい!」

 

「お主に言われずとも、わかっておるわっ!」

 

「だったらさっさと撃墜しなさい!!」

 

「喧しい!しゃべっとる暇があるなら手を動かさんか!」

 

 

これだけの猛攻に晒されながらも、いつも通り犬猿の仲のふたり。

これには他のメンバーも苦笑い。

 

 

「こんな時でも相変わらずなんだな。頼もしいぜ!」

 

「あら~。ふたりとも仲良しさんね~……ッ!!」

 

 

 

グイッ!!

 

 

……バッ!

 

 

 

天龍をかなり強めに引っ張り、後ろに放り投げる龍田!

自身も直後、後ろにステップする!

 

 

「このままいけば、何とかなるっしょ~」

 

「そうですね、北上さん……!!

……来たわよっ!敵機直上!!」

 

 

 

 

 

……ドドォンッ!!

 

 

 

キィィンッ!!

 

……ボボボォンッ!!

 

 

 

 

 

天龍が先ほどまで立っていた場所に、大きな水柱が上がる!

それと同時に上空から、今まで鳴りを潜めていた艦爆隊の爆撃が降り注ぐ!

 

 

「……チッ!こちら小破、損傷軽微!」

 

「ぐぬぬ……!ぬかったわ……!こちら中破……!」

 

「すまねぇ龍田!助かったぜ!」

 

「うふふ~……この爆雷網の中、気配も出さずにねぇ……

うふふふふふ……」

 

「お、おい、龍田……なんか怖ぇぞ……」

 

 

艦攻群の猛攻がほんの少し緩んだ瞬間に、海中からの雷撃と、上空からの爆撃。

これ以上ないタイミングでの連携だ。

 

しかしこれを何とか間一髪でしのいだ面々。

雷撃に巻き込まれ初春が中破、爆撃で大井が小破してしまったが、まだ首の皮1枚つながっている。

 

 

「とにかくやるぜ!

この程度の損害、あってないようなもんだ!

大破にだけ気を付けて、前進しながら迎撃!大将首取ってやろうぜ!」

 

「天龍の言う通りよ!

まだあちらからしたら開幕戦なんだから、ぐずぐずしてられないわ!

さっさとぶっ飛ばしに行くわよ!」

 

 

 

・・・

 

 

 

パラララッ!!

 

 

ボォンッ!!

 

 

 

「あ゛ー……きっつ……!!」

 

「弱音吐かないの!まだまだ序の口なんだから!」

 

 

あれからさらに2分経過。

中破は叢雲、初春、天龍。他のメンバーは全員小破。

勝利を狙うとすれば、そろそろ限界といったところだ。

 

 

そんな状態の一行であったのだが、戦局に変化が。

 

 

 

……ブゥーン……

 

 

 

「……お、見ろよ!

艦載機が戻ってくぜ!しのぎ切ったみてぇだな!!」

 

「うふふ~……どぉこかしらぁ……?

潜水艦の気配ぃ……そこかなぁ……?」

 

 

 

バシュッ!

 

 

……ドォンッ!

 

 

 

「ホラたっちゃん、いくよ。

艦載機が戻ってったから、近づくチャンスだよ」

 

「……ざんね~ん。仕留めきれなかったなぁ……」

 

「さっさと潜水艦潰しときたかったのはわかるけどよ。

今近づかないと詰んじまうぜ」

 

「わかったわ~、天龍ちゃん……

ゴメンね~、提督……」

 

『いや、龍田は随分活躍してくれた。十分だよ。

みんなも想像以上に激しい攻めを、よくしのぎ切ってくれたね』

 

 

冷や汗ダラダラで戦況を聞いていた鯉住君だが、それを悟られないよう、努めて冷静に無線で指示を出す。

 

 

『……ここから接近すれば、戦艦2隻の砲撃の雨が降り注ぐことになるだろう。

それを潜り抜け、100mまで近づいたら雷撃で勝負をかける。

ただし、もし誰かもうひとり中破が出た場合、それ以上の継戦はかなり厳しいだろう。

その時点での相手までの距離を踏まえて、遠距離雷撃に賭けるか、それ以上接近するかは、現場の判断に任せる。

加えて龍田は引き続き対潜警戒、天龍は瑞雲の撃墜と零観の妨害を優先するように。

……武運を祈る。それでは、行動開始!』

 

 

「「「 了解! 」」」

 

 

艦攻・艦爆連合の強烈な攻撃にさらされながらも、なんとか切り抜けた一行。

しかしここからが本番だ。真剣な面持ちで前進を開始する……

 

 

 

・・・

 

 

 

ヒュルルルル……

 

 

……ドッパァン!!

 

 

 

ブゥーン……

 

 

ボボボォンッ!!

 

 

 

バシュウウウッ……

 

 

……ドォンッ!

 

 

 

「「「 ……!……!! 」」」

 

 

あまりにも苛烈な攻めに、まったく余裕のない面々。

 

 

大和の51cm連装砲による超威力砲撃

扶桑の試製41㎝3連装砲改による主砲連撃

木曾の甲標的を利用した無差別長距離雷撃

空母2隻による艦攻・艦爆連合による再攻撃

 

 

平均練度の艦娘では一瞬で大破してしまうであろう、上から下から正面からの猛攻だ。

 

 

 

……ボォンッ!!

 

 

「キャッ……!!」

 

 

いくら高練度のメンバーとはいえ、この攻撃をかわし切ることは出来なかった。

ついに叢雲が一発いいのをもらってしまった。

 

 

「くっ……!旗艦中破よ……!!」

 

「……これはもう限界じゃ!これ以上は進めん!!」

 

「さすがにきっついぜ!一方的に防ぎ続けるのは!!

もっと射程が長けりゃ反撃できんだけどなぁ!」

 

「……どうする~?勝負かける~?」

 

 

敵艦隊までの距離はおよそ1㎞。

魚雷誘導をかけられる甲標的なしに、雷撃をあてられる距離ではない。

 

しかしそれは平均練度の艦娘の話。

彼女たちは決意のこもった眼で、龍田の問いに答える。

 

 

「もち!ここまで来たならさ、やったろうじゃん!」

 

「さすが北上さんです!」

 

 

息の合った動きで、魚雷発射管を構えるふたり。

 

 

「行くわよ!

……私と北上さんの前を遮る愚か者!沈みなさいっ!!」

 

「まぁ、ここは本気でやっときましょうかね……うりゃあっ!!」

 

 

 

バシュウウゥゥッ……!!

 

 

 

暫く雷跡を残した無数の酸素魚雷は、静かに、そして確実に、敵艦隊へと向かっていく。

 

 

そして……

 

 

 

 

 

…………ドドオォォンッ……!!

 

 

 

数十秒の後、敵艦隊の中心に巨大な水柱がたつ。

 

敵の猛攻をしのぎながら、この瞬間を待っていた面々。

勝負を決める一撃。どうしてもそちらに注意が向く。

 

 

そこを逃さず……

 

 

 

「……しまっ!!」

 

 

 

ドドオォォンッ!!

 

 

 

直下からの雷撃。

 

龍田が今まで牽制していた潜水艦の魚雷だ。

注意が逸れた気配を感じ取ったのか、そのタイミングを逃さず攻撃を仕掛けてきた。

海底付近から海上にいる艦娘の気配まで読み取るなど、神業としか言いようがない。

 

 

……これには第10基地のメンバーも対応できず、北上と初春が大破してしまった。

 

 

 

・・・

 

 

 

「……すまん、鯉住殿……大破してもうた……」

 

「ゴメンよ~……アタシも大破しちゃった……」

 

『いや、いい。本当によくやってくれた。お疲れ様。

先ほどの北上と大井の雷撃は、敵の扶桑に防がれてしまったうえ、その扶桑も中破にしか追い込めなかったようだ。

これにて演習は終了。被害状況を考えると、こちらの敗北だ』

 

「あー!!チクショウ!!悔しいぜ!!」

 

「最後まで……潜水艦を捉えきれなかったわ~……

みんな、ごめんなさぁい……」

 

「たっちゃんのせいじゃないってば。

勝負所で決めきれなかった私も悪いんだしさ。

……あ~、疲れた~……早くお風呂入りた~い……」

 

「うぅ、本当にすまん、鯉住殿……

あそこで気を抜かずにおれば、大破しなかったかもしらんのに……」

 

『いやいや、キミたち大健闘だから……

あの攻撃をいなし切ったのは、勲章ものだよ。

無線聞きながら、ヒヤヒヤしっぱなしだったぐらいなんだからさ』

 

「なにアンタ……私達が負けると思ってたっていうの……?」

 

「そんなことだから、うだつが上がらないんですよ……」

 

『そうじゃなくて。

勝負所までもっていって、決めてくれるとは思ってたさ。

ただね、あんなに攻撃が激しいとは思ってなかったから、よくしのぎ切れたな、って。

あと大井は、なんかゴメン……』

 

「……そ。

まぁいいわ。演習も終わっちゃったし、帰投するから。

お風呂を沸かして待ってなさい」

 

『わかったよ。

もう一度言うけど、お疲れ様。

今回は負けちゃったけど、素晴らしい戦いぶりだった。

みんな俺の自慢の部下だよ。胸を張って帰っておいで!』

 

 

「「「 ……了解! 」」」

 

 

 

演習には敗北してしまったが、周りの想像以上の健闘を見せた、第10基地のメンバー。

提督である鯉住君も、実際に戦った彼女たちも、貴重な戦闘経験を積むことができたのだった。

 

 

 

 

 

・・・演習結果・・・

 

 

 

『大本営・第1艦隊』

 

 

旗艦・戦艦『大和改』……小破

 

2番艦・航空戦艦『扶桑改二』……中破

 

3番艦・重雷装巡洋艦『木曾改二』……無傷

 

4番艦・正規空母『加賀改』……無傷

 

5番艦・装甲空母『瑞鶴改二甲』……無傷

 

6番艦・潜水空母『伊58改』……中破

 

 

判定・B 戦術的勝利

 

 

 

 

『ラバウル第10基地・選抜メンバー』

 

 

旗艦・駆逐艦『叢雲改二』……中破

 

2番艦・駆逐艦『初春改二』……大破

 

3番艦・軽巡洋艦『天龍改二』……中破

 

4番艦・軽巡洋艦『龍田改二』……小破

 

5番艦・重雷装巡洋艦『北上改二』……大破

 

6番艦・重雷装巡洋艦『大井改二』……中破

 

 

判定・D 敗北

 

 




このお話では、甲標的は魚雷誘導機能がありますので、かなり遠方の敵に雷撃できるという設定です。
妖精さんパワーの不思議効果ですね。いつものことです。

JOJO5部のセックス・ピストルズ+6部のマンハッタン・トランスファーみたいなイメージで大体あってます。
わからない人はスイマセン。

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