早くスナック感覚な話に戻りたい……
次回くらいからもどれるかなぁ……?
「なんだ……
せっかくアナタが聡美ちゃんと結婚して、横須賀第3鎮守府のみんな、大勝利!!
……って展開になるかと思ったのに……」
「露骨にガッカリしないで下さいよ……
そもそも一ノ瀬さんと俺じゃ、つり合いが取れないでしょうに……」
縁談はあくまで元帥からの一方的なものと知り、肩を落とす足柄。
「あのねぇ……
アナタがダメだったら、聡美ちゃんと釣り合いの取れる男なんていなくなるわよ?
そもそも聡美ちゃんが結婚できないのも、高嶺の花過ぎて誰も寄り付かないからなんだから。
本人はその気があるのにそんな現状なの。見てて居た堪れないのよ」
「それはもうしょうがないでしょう……
高嶺の花というか、背後のプレッシャーがヤバいというか……」
「ちょっと!しょうがないとか言わないでくれる!?
聡美ちゃんがどれだけ、来る日に備えて女を磨いてるか知ってるでしょ!?」
「す、すいません……」
実は一ノ瀬中佐の結婚は、横須賀第3鎮守府の全員の悲願だったりする。
限りなく不老不死に近い自分たちとは違い、人間には時の進みがある。
女盛りの年頃があまり長くないことを考えると、どうしても応援したくなってしまうとのこと。
普段から良くしてもらっているという信頼があるからこそ、こういった空気にもなるというものである。
彼女の鎮守府運営は、実に健全かつ手本となるようなものなのだ。
教本に運営方法が載ってもおかしくないほどなのだ。
……内容が将棋一色でなければ、間違いなく教本に載っていただろう。
「まぁ、落ち着きなさい。
私としては良き話だと思うのだが、こればかりは少佐の意見が最も重要なのだ」
「うー……!
鯉住君、今は引くけど、私、諦めないから!
絶対に聡美ちゃんとアナタをくっつけてみせるわ!!」
「足柄さん……勘弁してください……ホントに……」
他の足柄も同じなのかはわからないが、彼女に関しては、目的のためには手段を選ばない節がある。
かなり強めに警戒していないと、いつの間にか縁談が成立していた、なんてことにもなりかねないのだ。
自身の教官であったこともあるので、彼も重々それは承知している。
警戒すべきことがまたひとつ増え、胃が痛くなる鯉住君。
「どうにもすまなかったな。
話が想定外の方向に向かってしまって」
「い、いえ、気にしないで下さい……
ところで元帥、何故私なんかに政略結婚の話をしたのですか?
先ほどは何やら、私の階級を上げる必要があるとおっしゃっていましたが……」
恐る恐る、先ほどの話を蒸し返す。
ただの一介の少佐であり、まだまだ経験も浅い自分が、何か重要な計画のキーマンになるということ。
とてもではないが、まったく信じられない。
……確かに演習前に大和からも言われたように、いくつか功績は残している。
転化体ふたりが部下に加わっちゃったことで、意図せず欧州の状況を好転させた。
それ以前にも、建造やドロップ、初邂逅などをやらかした。
しかしながら、そもそも転化体のことを表に出せない以上、それに関連したことは功績として残すことは出来ない。
そのうえ残りの功績だけでは、重要な計画の一員として選ばれるには不十分だろう。
……それでは何故、自分に白羽の矢が立ったのか?
全く元帥の意図が読めない以上、話を蒸し返して、もう一度詳しく聞いてみるしかない。
胃が痛くなる気がするが、そうするしかない。
「そうだな。そこから話すべきだった。
……ここから先は最重要機密であるので、ふたりとも、口外無用で頼む」
「え゛っ……? 最重要……?」
「わかりました」
「あくまで少佐次第だが……
先程話した誰かと少佐が籍を入れてくれれば、今から話す計画は、実現に向けて大きく進むことになる。
それを踏まえて聞いてくれると助かる。
無理強いはしないが。あくまで少佐次第だからな」
「は、はひ……」
俺次第だ、って2回も言われた……
なんともいえないプレッシャーを感じる……
「籍を入れてくれればですって!
元帥からここまで言われるなんて、もうこれは事実婚じゃないかしら!?
みなぎってきたわ!!早速婚姻届を取り寄せましょう!
聡美ちゃんには私から連絡いれておくから!!」
「事実婚って、そういうことじゃないですからね?
一ノ瀬さんに連絡なんてしないで下さいよ……?
絶対に首を突っ込まないでくださいね……」
「少佐の言う通りだ。
今から話す計画が、外部に漏れるのは避けたい。
一ノ瀬中佐なら構わないが、第3者に知られる可能性がある行動は避けてくれ」
「うぅ~……歯がゆい……歯がゆいわっ!!
……でも仕方ないわね。
なんといっても最重要機密ですもの……」
「うむ。理解してくれて助かる。
最重要機密だからな」
最重要機密ですって。
最重要機密って、一介の少佐程度が知っちゃっていいものなの?
鼎大将といい、先輩3人といい、その部下の皆さんといい、大和さんといい……
俺に軍事機密を暴露しまくるのが、最近の海軍のトレンドなの?
ほら、もう胃が痛くなってきた。
おうちかえって、ぜんぶわすれてねむりたい。
あ、ここがおうちだったっけ……ははは……
・・・
「日本海軍は現在、欧州からの救援要請と、西太平洋における深海棲艦の大規模攻勢対策という、ふたつの大きな作戦を抱えている。
それは先ほど話したな?」
「……ええ。把握できているつもりです」
「あら、欧州の救援ですって?
そんな話になってたの?」
「ああ、さっき足柄さんは居なかったからね。
今欧州では、北大西洋の深海棲艦ボスが、北海にちょっかい出してるらしいんだよ。
アークロイヤルが北海のボスをやってたらしいんだけど、彼女がこっちきてパワーバランスが崩れたんだってさ」
「にゃっ!?
アークロイヤルが鳥海と同じで転化体だってのは知ってたけど、海域ボスだったの!?
道理で全然実力がつかめないわけだわ……!」
「足柄さんほどの実力でも、底が見えませんか」
「全然見えないわね。
鳥海相手に対局してる時と同じ感じ」
「あー……そのレベルですか……流石は欧州の海域ボスですね……
ホントになんで、俺みたいな普通の奴についてくる気になったんだろ……?」
「「 普通? 」」
「なんでふたりそろって疑問形なんですか……」
足柄はともかく元帥にまで変な奴扱いされ、ガックリと肩を落とす鯉住君。
彼を『普通の人』扱いしてくれる相手は、すでにどこにもいないのだが、そのことに彼はいつ気付くのだろうか?
……そんな感じで話が脱線してしまった。
このままでは話が進まないので、路線を元に戻す元帥。
「そう。
その実力者であるアークロイヤルから、先ほど話を聞いてな。
欧州における、深海棲艦の動きの裏を取ることができた。
真実は深海棲艦同士の小競り合いが起こっているだけで、人類をどうこうしようということではないようだ」
「あら。それなら安心ね」
「うむ。その通り。
ただし、こちらがそれを知っていると公表することが出来ない以上、それを踏まえた行動をとらなければいけない。
日本海軍が緊急で対応しなければならないのは、こちらの案件だな」
「……オリーヴィア提督に伝えてあげたいんだけど、それは大丈夫かしら?」
「ああ。ローマ君の古巣のことか。
口外しない、情報の出どころは伏せる、この2点が守れるのならば構わない」
「あぁ、よかったわ。
地中海は激戦区だから、普通の海域維持でも大規模作戦並みらしいのよね。
そんな状況で遠征なんてできるわけもないし、実情くらいは知ってないと、やってられないでしょうから」
「自然な流れとしては、ローマ君経由での伝達が良いだろう。
機密漏洩と捉えられない程度で頼む」
「了解」
さらっとローマの名前が出てきた事に、疑問を感じる鯉住君。
彼女には研修中に随分お世話になったので、彼もよく知っている艦娘なのだ。
一介の鎮守府所属艦娘が、元帥と知り合いというのもおかしな話だ。
交換留学ということなので、その手続きの際に面識があったのだろうか?
大本営も同じ横須賀鎮守府なので、顔合わせする機会が多いのだろうか?
本題から逸れるのはいただけないが、どうしても気になり聞いてみることにした。
「あの……元帥はローマさんとお知り合いなのですか?」
「……うむ……知っていると言えば知っている」
……なんだか歯切れが悪い。
どんなことでもスパっと話す元帥らしくないなぁ。
そう思っていたところ、足柄から補足が入る。
「あら、提督は知らなかったの?
元帥は私達のファンクラブの一桁ナンバーよ?」
「……え?」
「……足柄君。その話は、元帥としてはすることができない」
「ああ、そうだったわね。
『本業は一切関与させてはならない』だったかしら?
鮫島総理もめんどくさい決まり作ったわねぇ。
ま、メンツがメンツだし、仕方ないというのはわかるけどね」
「……とにかくその話はここで終わりだ。本題に戻るぞ。
それでいいな?少佐」
「は、はい……」
第3よこちん将棋会ファンクラブは、とんでもないメンバーで構成されている。
そのことは知っていたが、まさか元帥まで会員だったとは……
しかも何千人といる中での一桁ナンバーとか、ガチ勢じゃないか……
これ以上この話題を広げることは、盛大な藪蛇になることを理解し、元帥の指示に従う鯉住君なのであった。
・・・
「……おほん。
日本海軍が現在抱えている作戦は、その2件。
しかしそれとはまた別に、全員の同意を得られているわけではないが、大きな目標をひとつ定めている」
「大目標というやつですか?」
「うむ。その認識でよい。
その話の前置きとして、ひとつ聞かせてほしい。
……ふたりは『ハワイに深海棲艦の本拠地がある』という噂を聞いたことがあるだろうか?」
「ああ、聞いたことがあります。
ネットで定期的に出てくる都市伝説ですよね」
「私も知ってるわ。
有名なコラージュ画像も見たことあるわよ」
インターネットの匿名掲示板では、定期的にこの話題が上る。
『ハワイは全ての深海棲艦を統べるボスに支配されている!
そしてハワイにいた人間はまだ生かされていて、深海棲艦の指揮下に置かれている!
その証拠がこの写真だ!!』
こんな内容に、一枚の写真が添えられる。
その写真は、ハワイを写した衛星写真であり、
ハワイ本島を中心に、周辺海域一面に広がる深海棲艦の群れを確認することができる。
さらに解像度を上げると、その写真には衝撃の光景が見られる。
ハワイ本島の海岸に、姫級と思われる深海棲艦に首を垂れる、原住民のような恰好をした人間達が見て取れるのだ。
……しかしこの写真、色々と疑問が残る。
そもそもハワイと通信が途絶えたのは、深海棲艦出現時。10年前。
隔離された島で、文明に頼り切った現代人が、そんなに長期間サバイバル出来るとは思えない。
そして深海棲艦に共通する『人類に対する憎しみ』も踏まえると、人類がまだ生存している可能性は限りなく低い。
そしてそれを前提にして考えると……
誰がそんな非現実的な話を語りだしたのか?
そもそも人間を支配する、などという回りくどい事をする深海棲艦がいるのか?
現在ハワイの衛星写真を見ると、深海棲艦の姿はぽつぽつとしか見られない。
そしてハワイ本島は廃墟が写し出されるばかりで、人っ子ひとり確認できない。
あの写真が真実だとするなら、オンタイムの衛星写真はどう説明するのか?
このような話し合いが毎度毎度起こり、結局は
『写真はコラ画像。噂はただの都市伝説』
という結論に落ち着くことになる。
「ふむ。それを知っているなら話が早い」
「ええと……その都市伝説が、何か関係してくるのでしょうか……?」
「……先ほど私は、今から話す件は最重要機密だと言ったな?」
「え、ええ……」
「最重要機密というのはそれだ」
「「 え……? 」」
「既に君たちも知っていることだ。
『ハワイに全ての深海棲艦のボスがいるという都市伝説は真実』
これが最重要機密だ」
「「 ……ええええ!!!??? 」」
驚きのあまり叫び声をあげるふたり。
それもそのはず。
あんなに胡散臭い都市伝説が、実は本当だったというのだ。
とても信じることなどできないが、それを元帥の口から聞かされた以上、嘘だと切り捨てることは出来なくなった。
「ちょ、ちょっと待ってください!!
そんな誰もが知っているような話ですよ!?
普通は軍事機密なんて、一般人が知ることなんてできないものでしょう!?」
「些細な機密なら少佐の認識で正しい。
しかしな、本当に隠したい秘密は、公開してしまうのだ。
これは昔から行われている手法だな」
「ちょっと私も驚いちゃったわ……
あまりにも信ぴょう性がない話だし、てっきり嘘だとばかり……」
「諜報活動では、何かを隠そうと思ったら、それを白昼堂々と人前に晒すのが定石だ。
今回もこのやり方に従ったに過ぎない。
結果として誰ひとりこれを真実と捉える者は出てこず、居たとしても陰謀論者として認識される。
……君達も、これが真実とは信じられなかっただろう?」
「はー……おっしゃる通りで……
ということはあの写真は……」
「想像の通りだ。
世間でコラージュ写真として出回っている写真が真実であり、現在インターネットで閲覧できる衛星写真こそが、加工済みのコラージュ画像なのだ」
「……狐につままれたような話ね」
「『秘密というのは、大事に大事に、人目に触れない金庫に隠されている』。
誰もがそう考える。
その思考の穴こそが、最も発見されにくく、最も堅固な『金庫』となるのだ」
「そ、そうなんですね……
なんだか世界の闇を見てしまった気分です……」
「人間を知れば知るほど、こういった事もわかるようになっていく。
少佐はまだ若いのだ。こういった経験を積んで、成長していけばよい」
「私もまだまだ未熟だってこと、思い知ったわ……
一歩前に進むための、大事なヒントを得られたかも……!」
「それはなにより」
自分の常識が壊れる経験を、またひとつしてしまった鯉住君。
何とも言えない表情をして固まっている。
そんな彼を見つつ、元帥は事もなげに話を続ける。
「……それでそのハワイの深海棲艦についてだが、我々は彼女とコンタクトを取ろうと考えている」
「えっ……!?
なんでわざわざそんな危険な真似を……?
こう言っては何ですが、日本とハワイは地理的に離れているし、メリットは薄いのでは……?
というか、出撃でなく、コンタクトを取る、ですか……?」
「うむ。少佐の意見は尤も。
実際大本営内でも、少佐と同様の意見が大勢を占めるため、
私の意見は相手にされていない」
「ですよね……
それでも元帥は、それを実現しようとしているのですか……?」
「そうだ。
正確にいえば私だけではなく、呉鎮守府の鼎君、ここラバウル基地の白蓮君、トラック泊地の尼子君。パラオ白地の平君が、賛同してくれている。
しかし他の将官からは『論外』と切り捨てられてしまっているな」
「そんな淡々と……」
自身の方針が歯牙にもかけられていないというのに、この落ち着きよう。
元帥がいくらそういった性格とはいえ、何かあると考えるべきだろう。
「確かに日本にメリットがあるかと言えば否と言うしかないうえ、
『コンタクトを取る』という目的の出撃では、同意を得るのに無理がある。
しかしこの作戦は、なんとしても実現しなくてはならない」
「な、なぜそこまでして……
そんな荒唐無稽とも言える作戦を思いついた理由は、いったい何なんですか……?」
「それはまだ伝えることができない。
何故コンタクトを取ろうとしているのか、そしてそれが成功したらどうなるのか、それについても同様に伝えられない。
……だが、人類が今の状況を打開する、最も重要な一手となるのは確実だ。
少佐はこの話を聞いて、どう思うだろうか?」
「それは……」
怒涛の情報ラッシュに考えがまとまらない。
突拍子もない話に現実感が全くわかないのだ。
……こういった時は、自分が思ったことをそのまま口に出すのが一番。
幸いにして、それが許される相手だということもある。
少しの逡巡の後、口を開く鯉住君。
「……少なくとも、人類の未来のためになるというなら、実行するべきだと思います。
しかしその作戦が多大な犠牲を伴うもので、艦娘の皆さんに大きな負担がかかるというのならば、賛成できません」
「鯉住君……貴方、またそんなこと……」
「違いますよ、足柄さん。
貴女達のことを籠の鳥扱いしようとか、そういうことじゃないです。
艦娘の犠牲の上に成り立つ人類の繁栄なんて、偽物だと思っているだけです。
……キミたちを使い捨てて、人類が一歩前に進む。
それはつまりキミたちのことを、『使い捨ての道具』扱いしているのと同じだ。
キミたちは人間ではないけれど、道具でもない。
もう軍艦だった時とは違うんだ。
ひとりひとりに意思がある、人間とそう変わらない存在なんだよ。
そんな友好的な隣人を、自分たちと多少違うから、都合よく言うことを聞いてくれるからと言って『道具扱い』した挙句、それが無かったかのように忘れ去るくらいなら、人間はこのままでいい。
……新しい歴史はキミたちとともに創るべきなんだ。
もっと言えば、深海棲艦まで含めたうえで、一緒に創っていくべきなんだ。
人類だけしか見えていない奴に……俺は人類の運命を任せる気はない」
真剣な顔で、鯉住君は足柄に向かって言い切る。
いつも控えめな彼にしては強い口調だ。
それだけ今の意見が彼にとって譲れないものであり、今の彼を形作っている考えでもあるということなのだろう。
「……そう。そうよね。……ありがとう」
「当然のことですよ。普通です。それが普通。
……ということで元帥、手放しで賛成できるとは言い切れないのですが……
……元帥?」
無意識に足柄にすごいこと言った鯉住君であるが、元帥からの質問に答える途中だった事を思い出す。
深海棲艦で埋め尽くされる海域に突っ込む以上、犠牲はかなり出てしまうことだろう。
あまり意に沿えるとは思えない意見を口にしてしまったため、恐る恐る様子をうかがう。
「……フフフ」
「げ、元帥……?」
「あぁ、ようやく鼎君が君のことを『少なくとも自分以上にはなる』と言っていた意味がわかった。
……もちろん艦娘の犠牲を出さずに作戦は遂行するつもりだ。
安心してほしい」
「そ、そうですか……それなら作戦には賛成です」
常に平静な元帥が笑っているのを見て、面くらってしまった。
鼎大将からの謎の高評価はいつものことだが、まさか元帥にまでその話をしているとは……
自分の知らないところで話が大きくなっていると知り、先ほどから少し収まっていた胃痛が再発してきた。
「うむ。それならば、先ほど縁談を切り出した理由も理解してくれるだろう。
多数の同意が得られない作戦。ならば実力で黙らせるしかない。
この作戦に参加する者は、少なくとも将官で固めねばならんのだ」
「そ、そういうことだったんですね……」
「そうだ。
当然ではあるが、姻戚となっただけで地位を上げられるはずもない。
が、しかし、その状態ならば、一介の提督ではなく実力者の近縁と見られる。
周りからの見る目が変わり、昇格も容易くなるだろう」
「あー……」
……つまりこういうことである。
実行すること自体が無理難題な作戦を強行するために、実力と階級を兼ね備えた人材が必要。
先ほどの演習で大本営第1艦隊に肉薄した鯉住少佐なら実力は十分。
足りないのは実績と階級だけ。
実績については、非公開なものを含めて考えれば、将官でも出せないようなものが揃っている。
これから活躍の場を与えれば、いくらでも積むことができるはず。
しかし昇級は、実績を積んだからといってすぐに行えるものではない。
そこで考えられる裏技。
実力者と政略結婚することで、強引に周囲の評価を上げる。
それには元帥とつながりができるお孫さんとの結婚か、
大本営筆頭秘書艦として活躍している大和との結婚、
そして、鼎大将と深いつながりがあり、本土大襲撃の立役者である一ノ瀬中佐との結婚が、彼の人脈も考えると現実的。
……鯉住君にとっては、完全に寝耳に水の案件だ。
なにせ今回の視察は、自分のやらかしに対するお叱りと、転化体についての確認程度だと思っていたからだ。
まさかまさかの大抜擢。
小市民的なメンタルを持つ彼には、まったく飲み込めない話だ。
「君の年齢からすると、年が近い、20代中盤から30程度の相手である方が良いと考えた。
だから君と交友関係にある一ノ瀬中佐か、大和君との縁談を薦めたかったのだが……」
「だ、だが……?」
「先ほどの話を聞いて、
君にこそ、私の孫娘を嫁がせてやりたいと思うようになった。
どうだ?自慢の孫だ。真剣に考えてみないか?」
「うえぇ……!?
え、ええとですね……お孫さんの気持ちもあるでしょうから……
その話はお断りさせて……」
「ダメよ!やっぱり鯉住君は、聡美ちゃんと結婚するべきよ!!
元帥といってもそこは譲れないわ!
聡美ちゃんを幸せにできるのは、彼しかいないのよ!!」
「あ、足柄さん……話がややこしくなるので……」
「一ノ瀬中佐には他の将官との縁談を持ちかけても良い。
それならば足柄君の心配することにはならないだろう?
だからここはひとつ、孫を紹介させてもらって……」
「それじゃダメよ!
いくら元帥とはいえ、彼以上に聡美ちゃんを幸せにできる相手を、連れて来ることができるとは思えないわ!
だから聡美ちゃんに今すぐ連絡して……!!」
「いや、しかしな……」
「譲れないわ!」
やめて……ヤメテ……
ふたりとも……私のために争わないで……
ハイライトさんがどこかへ行ってしまった遠い目をしながら、
一昔前の少女漫画の主人公のようなセリフを、脳内でリピートする鯉住君なのであった。
(やれやれ。またふらぐをたてたのですか?)
(とんだおんなのてきですね)
(こうなったら、ぜんいんめとるしかないですね)
(それはめいあん)
(かんむすとびじんでできた、すてきなはーれむ……)
((( はーれむきんぐ・こいずみ…… )))
ちなみに彼はこの話を『今はまだ答えられない』という曖昧な返事で濁した後、元帥に鎮守府案内をしました。
鎮守府に似つかわしくない施設群を見て、元帥は大層驚いていたようで、『やはり君しかいない』と、固めてほしくない決意を固めてしまったようです。