でも色々書いてるうちに、配役ががらりと変わってしまったのです。
今ではメインヒロインは……誰なんでしょうか?
一番ヒロインしてるのは鯉住君本人なんじゃないかと、最近は思っています。
あとは(女性陣に対する)サービス回もたくさん用意しないとですね。
思い返してもサービス回っぽいのは、古鷹との一件だけなんだよなぁ……
構想練ってるだけでお砂糖マーライオンになる展開もいくつか用意してありますが、それがいつブチ込まれるかは未定となっております。
衝撃的な事実暴露と、政略結婚という圧力におびえながらも、なんとか結論を先延ばしにすることに成功した鯉住君。
そのあとほうほうの体で元帥の鎮守府案内を終え、また会議室(客間)へと戻ってきた。
するとタイミングよく、演習に参加していた両陣営のメンバーも、お風呂から上がってきた。
鎮守府案内は1時間ほどかかっていたので、その前の暴露大会も含めると、彼女たちは約1時間半ほどかけて入浴していたことになる。
もちろんその時間ずっと入浴していたわけでなく、広間でくつろいだり、旅館内を見学なりしてくれていたのだろうが。
現に彼女たちから感じる熱気はそこまでではないし、髪もほとんど乾いている。
お風呂上りにゆっくりしていたという証拠だろう。
……ちなみに大本営の皆さんも、自分の部下一同も、全員浴衣姿である。
普段の艤装は見慣れているのでまだいいが、浴衣姿はなんか、こう、来るものがある。
目のやり場に困って非常に辛い。特に大人組に対して。
「鯉住少佐。温かいおもてなし、ありがとうございました。
あんなに豪華なお風呂、初めてでした。皆喜んでいます。
演習の疲れも取れましたし、純粋に気持ちよく入浴できました」
「あ、ああ、それは本当に良かったです。
お世話になっている大和さんにそう言われると、こちらとしても嬉しいですよ」
「いきなりの訪問でしたのに、ここまでもてなしていただけるなんて、思ってもみませんでした。
申し訳なくなってしまいますね」
「いえいえ、とんでもない。
皆さんこそお忙しいところ、わざわざこちらのために骨を折ってくださったんですから。
私と部下も、とても貴重な経験を積まさせていただきましたし。
感謝するのはこちらの方です」
「うふふ……やはり少佐はお優しいですね。
そう言っていただけるのは嬉しいです。
本当にありがとうございます」
お風呂上がりでお肌つやつやになった大和さんは、ニッコリとほほ笑んだあと、丁寧に頭を下げてくれた。
するとほぼ同時に、他の大本営の皆さんも頭を下げてくれた。
リラックスしてもらえたようで何よりだ。
……それはそうと、座っている私の目の前でお辞儀をされると、その……
見たいけど見ちゃいけない谷が、目の前に来てしまいましてですね……
リラックスしてくださってる皆さんとは対照的にですね、なにがとは言わないですが、緊張してきてしまってですね……
……感謝の気持ちを伝えられている最中だというのに、どうしようもない事を考えている鯉住君。
すると、後ろからトゲのある声が聞こえてきた。
「……ねぇアンタ、私達がいなくても、ちゃんと元帥はおもてなしできたんでしょうね?」
「あ、あぁ、叢雲か。
失礼が無いようにはできたと思うよ」
「どうだか。
アンタのことだから、粗相とかしちゃったんじゃないの?
正直に言いなさいよ」
話しかけてきたのは叢雲だった。
どうやら元帥に粗相をしていないか、心配しているらしい。
気にかけてくれるのはありがたいとは思うが、それくらいならなんとかなる。
先日はっちゃけてしまった手前、できて当然だなんて言えないけど……
もう少し信用してくれてもいいと思うんだけどなぁ。
なんだかいつもより当たりが強い気がするし……
……あ、そうか。これはあれか。
演習で負けちゃったから、やっぱり悔しいんだな。
それで態度がツンツンしたものになっちゃってるに違いない。
……勝たせてやれればよかったんだけどな。
実力つけねば……
叢雲がツンツンしてる原因は、当然そこではない。
彼が気付くことはなさそうだが。
「それで、どんな話してたの?」
「あ、ああ、なんというか……
そう、演習結果について、色々と意見交換してたんだよ。
あとは一通り鎮守府案内して、設備を見てもらってた」
「……ふーん。本当でしょうね……?」
「ほ、本当だとも」
ジト目を向けてくる叢雲。
これは間違いなく、嘘を言っていると疑われている。
……仕方ないじゃんか!
たしかにごまかしてるけど、間違ったことは言ってないし!
もしホントのこと言ったら、なんか怖いことになる予感がするんだもの!
そもそも最重要機密については、口に出すことすらできないし!
「ふーん……」
「な、なんだ、疑ってるのか?
……本当ですよね、元帥」
「うむ。少佐の言う通りだ。
彼は嘘を吐いてはいないぞ」
「……元帥がそうおっしゃるなら、信じます」
「もっと俺のことも信じてくれよ……」
ありがてぇ……さすがは元帥。
俺なんぞに気を遣ってくれるとは、人間の鑑やで……
……足柄さん。なに顔を背けてるんすか?
そんなに俺のごまかしに、思うところがあったんですか?
さすがに少し傷つきますよ?
あと龍田も、口に手を当ててプルプルしてんじゃないよ。
キミは察しがいいから気づいちゃってるっぽいけど、それ、困ってる提督見た時に取る態度じゃないよね?
なにか察してるんなら、普通助け舟とか出すよね?
困ってる人見て笑うとか、提督そういうのよくないと思います。
・・・
『なんかあったけど言えない』と丸わかりな態度をとる鯉住君。
助けてくれる気配がなんにもない部下たちにげんなりしていると、元帥から質問が飛んできた。
「ところで少佐。
隣の旅館施設に宿泊することは出来るだろうか?」
「て、提督?」
「どのみち次の連絡船出航までには、2日かかる。
宿をとってしまってはいるが、そちらはキャンセルしてしまえばよいだろう。
それよりもまだここで確かめたいことがあるのでな。
……どうだろうか?頼めるか?少佐。
もちろん宿泊費は出そうと思う」
「え、ええ。
こちらとしては構いません。
……しかし急なお話ですので、お食事などは簡素なものしか用意できないですよ?
それでもよろしいのでしたら……」
「構わない」
「そういう事でしたら、大丈夫です。
……ちなみに、ウチで確かめたいことというのは……?」
「この鎮守府の後方支援能力を確かめたい。
ちょうど演習で艤装を使った後であるし、メンテナンスを見られればと思っている。
あとは先ほど簡易的に案内してもらった施設を、じっくりと見てみたい。
信じられないことであるが、今の人類では再現不可能な機能を持った施設も多かった。
もっとしっかりと見てみたいのだ」
アークロイヤルとの対談の際に、ここをラバウルの後方支援基地にしようという話が出ていた。
確かにそのためには、実際どれだけの能力があるのか確認することは、必要だろう。
元帥の申し出ということもあり、断る理由もない。
「わかりました。
メンテに関しては、元帥にお披露目するほど大したものでないかもしれませんが……それでもいいでしょうか?
それと施設については、妖精さんが頑張ってくれたので、私も説明できない技術ばかりなんです。
先ほどした説明以上のことはわからなくてですね……」
「ああ、気を遣わなくてもよい。私が興味があるだけなのだ。
それよりも、協力感謝するぞ」
「いえいえ、その程度でしたら……
それじゃ足柄さん、古鷹と子日さんを連れてっていいから、宿泊の準備と、食事の準備をお願いします。
……そうだ。せっかくだから、今晩は会食みたいな感じにできます?
せっかく一緒に演習したんだし、友好を深めるためにも。
……どうでしょう?急な話だけど頼めます?」
「もちろんよ。私に任せときなさい」
自信満々といった表情で、胸を叩く足柄。
無茶ぶりと言ってもいいような仕事量だが、ノータイムで引き受けるのは流石である。
「いつもありがとうございます。
足柄さんには毎度毎度、おんぶにだっこですよ」
「ふふ。いいのよ。私は貴方の部下だもの」
軽く微笑みをつくって、ウインクをひとつ。
退出していく足柄。
改めて見るとすごい美人だ。惚れそう。
あ、そういえばケッコンしてたっけ。
……冗談はさておき、彼女には裏方や細かい仕事を頼んでばかりだ。
いつか感謝を込めて、なにか贈り物をしないとな。
足柄が準備に向かったのを見届け、元帥が話を進める。
「それでは少佐が準備出来たらで構わないが、艤装のメンテナンスを見せてもらいたい。
いつから始めてもらえるだろうか?」
「そうですね……下準備は常にしてあるし……
明石と夕張、秋津洲に、予定を確認してみます。
確認が取れたら予定をお伝えしますので、ここで待っていてもらえますか?
そんなに時間はかからないと思いますので」
「わかった。
それでは手間をかけるが、よろしく頼む」
「いえいえ……お目汚ししないよう、精一杯頑張らせていただきます」
……このあとメンテ要員に声をかけたところ、
『すぐにでもメンテを開始できる』という返事を全員からもらうことができた。
急な話でどうなるかと思ったが、嫌な顔をするどころか、大本営に実力を見せてやろうと息巻いているくらいだった。
頼もしいことだ。
その声掛けをしている時に、いつの間にかツナギに着替えた北上から、
『アタシも手伝うよ~』と、ありがたい申し出があった。
もちろんこれを快諾。
演習で疲れていたところをおしての提案に、嬉しくなってしまった。
あまりに嬉しかったので、ついついグシグシと頭をなでてしまった。
さっき天城の頭を撫でまわしまくっていた弊害が出た形だ。
彼女は『やーめーてーよー』と言いつつ、気持ちよさそうに撫でられていたので、本気で嫌がっていたわけではないはず。
セクハラにならなかったようで一安心だ。
……ちなみに艤装メンテをすぐに始めると伝えたところ、大本営第1艦隊の皆さんは全員見学するということになった。
どうやら皆さん、自身の艤装ということもあり、俺たちのメンテがどのような感じか勉強したいらしい。
さすがの向上心の高さに脱帽である。
・・・
……そんな流れで作業着に着替え、工廠に集合した。
明石、夕張、秋津洲も、全員ツナギである。
いくら暑いとはいえ、肌を出しての作業は危険なのだ。
安全第一である。
「では皆さん、今から艤装のメンテナンスを始めますね。
退屈な時間も多いでしょうから、私達には気を遣わず、気を楽にしていてください。
あ、ただし作業中はそこのライン以上には近づかないで下さいね。
艤装をいじる以上、負傷の危険がありますので」
「うむ。承知した」
「よろしくお願いします。
もし退屈でしたら、席を外していただいても一向に構いませんので。
……それでは、失礼します」
そう言って作業場に向かう鯉住君。
そちらでは北上含めた4名と、たくさんの妖精さんが、既に下準備を開始していた、
いつものお供妖精さん3名とともに、その輪の中に加わっていく。
みんな活き活きとしている。
彼も部下の4名も妖精さんたちも、本当にこの仕事が好きなのだと分かる。
「提督……私達の艤装は、希少な物ばかりです……
見たこともない造りのはずですが、大丈夫なのでしょうか……?」
「問題ないはずだ。
というより、むしろ少佐は喜んでいたぞ。
弟子たちに貴重な経験を積ませることができると言ってな」
「そ、そうなのですか……凄い自信ですね……」
扶桑の不安は尤もである。
彼女たちの艤装は希少な物で、非常に精密。
デリケートなのだ。
大本営の工廠班では、彼女たち専属のメンテ技師がついているほどである。
「それにしてもさ、私たち全員分の艤装メンテなんて、何時間かかるのかな?
ウチの工廠ではひとりの艤装に2,3人で当たって、無傷なら1時間半くらいだけど」
「そうだな。妖精さんがいるとはいえ、たったの5人でメンテするんだ。
普通に考えたら、早くても倍の3時間はかかるだろうな」
「だよね、木曾さん。
ずっとそれを見続けるのはちょっと辛いかな。
途中で施設探検にでも行っちゃおうかしら」
「……宿の提供をしてもらったうえ、艤装のメンテナンスまでしてもらえるというのに、感謝して見届けることもできないのかしら?
これだから五航戦のこらえ性の無い方は……」
「ハァ!?少佐だって席外していいって言ってたでしょ!?
テキトーなこと言わないでよ!
ホントは加賀さんが演習で疲れて動きたくないだけなんでしょ!?
年が年だから!」
「は?……はあぁ?
今なんて言ったのかしら?この七面鳥は」
「なっ……!!だれが七面鳥だっていうのおぉ!?
年だって言われて怒るのは、自分でそれを認めてるってことじゃないのかなああぁ!?」
「頭にきました」
「あ、あわわ……」
いつもの。
「ねぇ提督、加賀さんはなんであんなこと言ったの?
別にゴーヤも席を外してもいいと思うんだけど」
「うむ。ゴーヤよ。
目の前の彼女が『呉の明石』だということは聞いているか?」
「うん。さっきちょろっと話に出たから知ってるでち。
実力がすっごく高いってことも聞いてるよ」
「ならば話が早い。
加賀君が本当に言いたいところは『超一流の仕事なのだから、見るだけで得られるものがある』ということだろう。
本人は認めないだろうが、瑞鶴君の成長を願っての発言だろうな。
少佐自身も明石君と同様、非常に実績のある人物。
ゴーヤもしっかり見ておくとよい」
「そういうことでちたか。
それじゃしっかり見とかないとね」
「龍太さんの本当にすごいところは艤装のメンテナンスだって聞いてるけど……
実際どのくらい凄いのかしら?
ふふ、楽しみだな」
「ん?大和さん、何か言ったでちか?」
「いえ、なんでもありませんよ」
いつも通りなところはいつも通りだが、
集中して第10基地・工廠班の仕事を見学する大本営一行なのであった。
ようやくラバウル第10基地メンテ班が動き出すみたいです。
鯉住君が本当にやりたかったことの一環なので、みんな張り切ってるようですね。