艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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メンテのお話なので、わかりやすいよう独自設定を出しときますね


艦載機の扱いについて


艦娘の艦載機は、全機メンテする必要がありません。

どういうことかというと、艦娘の格納庫には艦載機が搭載数いっぱい格納されているわけではなく、ひとつの艦載機を、ボーキの不思議エネルギーを使って分身させて戦う感じです。

だからボーキ補給が不十分だと、艦載機があまり分身させられないのです。
連戦で艦載機が減ってしまうのは、この辺が原因ですね。

そして艦載機が墜とされる数に比例して、艦載機の微妙な『クセ』が大きく変わってきます。
この『クセ』にどれだけ慣れるかが、熟練度システムだと思っていただければ大体あってます。

だからメンテする艦載機は1スロットにつき1機でいいです。
というか全機メンテとかしてたら、いくら時間があっても足りません。



基本艤装(元々艤装)について


実は艦娘の基本艤装(カードイラストの部分)は、自由に消したり出したりできます。
不思議な話ですが、艦娘という存在がそもそも不思議なので、いまさらという気もしますが。

しかし基本艤装を装備し、パッと消したからと言って、完全に存在が消えるわけではありません。
モノとしては消えているのですが、どうやら装備している時と同じ感覚が継続しているようです。

人間で言えば、物理的には存在しない、荷物がたくさん入ったリュックを背負っているような感じ。
体重が数倍になったかのような、ずっしりとした感覚が続きます。

そういった実情から、普段は艤装全般を工廠に保管するのが一般的。
出撃時なら問題なく操れる艤装とはいえ、日常生活を送るうえで、ずっしりとした感覚が続くのは不便極まりないからですね。




第81話

 

大本営の皆さんが見守る中、メンテを始めようとしているラバウル第10基地メンテ班の面々。

 

チームで仕事する以上、いきなりメンテに取り掛かることは出来ない。

まずは作戦会議だ。

スムーズな作業には段取りが必須なのである。

 

 

「さて、ふたりは研修を終えてから初めての大仕事だ。

とても珍しい艤装ばかりだけど、何とかなるはずだよ。

いつも通りいこう」

 

「任せてください!師匠!」

 

「わかったかも!」

 

「ふたりともイイ感じだねー。

ちゃんと先生してるじゃない。やっる~」

 

「からかうなよ、明石……

俺がしっかりしてるんじゃなくて、ふたりがすごいんだって。

……まぁ、それは置いといて、割り当てはどうする?

夕張は砲雷撃系の艤装、秋津洲は艦載機系の艤装と補助兵装が、それぞれ得意だ。

それを考慮した割り当てにした方がいいよな」

 

「そうだね。

それじゃ鯉住くんは夕張ちゃんと、私は秋津洲ちゃんと組むようにしようか」

 

「まぁ、そうなるな」

 

 

下駄履き機大好きな例の妹さんのようなセリフを吐く鯉住君。

 

全員で同じ艤装に取り掛かっても、効率が悪い。

やはりここはふたりずつで、チームを組むのが一番よいだろう。

 

しかしメンバーは5人。それだとひとり余る。

その余ったひとりである北上から、質問が飛んできた。

 

 

「ねー提督~、アタシは何したらいい?」

 

「北上には運搬係を頼みたい。

簡単なように見えるけど、

空間把握能力とか、道具や部品の基本知識が必要になる、重要な仕事だ。

重労働で申し訳ないけど……任せてもいいかい?」

 

「あったりまえよ。

このハイパー北上様にお任せあれ~」

 

「疲れてるところすまない。ありがとうな」

 

 

大本営の皆さんの艤装は現在、工廠で保管してある。

6人分の艤装ともなれば、かなり場所を食うものだ。

しかもその中のふたりは、大型艦中の大型艦である大和、扶桑である。

現在工廠の結構なスペースが、大本営メンバーの艤装で埋まっている。

 

運搬係はそれらの艤装をうまく運んだり、メンテ済みの艤装を邪魔にならないように置いたり、とにかく結構な片付けスキルが必要となる。

もっと言うと、メンテ中のメンバーから頼まれた器具や部品を渡すこともあるので、そういったものの保管場所を把握しておくこと、現在のメンテ状況を把握しておくことなども必要となる。

 

決して、誰にでもできる楽な仕事ではない。

雑用を甘く見てはいけないのだ。

 

 

「それじゃ北上は運搬係で決定。

……そうだ。夕張と秋津洲には、作業前に換気を頼みたい。

溶接は無いから熱気は籠らないだろうけど、一応ね。

ということで、換気扇と窓を開けてきてくれないか?」

 

「了解しました!

それじゃ一緒に行こ?秋津洲」

 

「オッケーかも!提督、秋津洲に任せてね!」

 

「うん。いってらっしゃい」

 

 

 

・・・

 

 

 

意気揚々と換気に向かった弟子ふたりだが、ウキウキの夕張に対して、秋津洲は少しムスッとしている。

 

ふたりの心の内はどういったものなのだろうか?

 

 

「……むー。提督と久しぶりに作業できるのは嬉しいけど、やっぱりちょっと納得いかないかも。

夕張だけ提督と一緒のチームなんて、ズルいかも」

 

「それは仕方ないでしょ?

向き不向きがあるんだから」

 

 

どうやら先ほどのチーム分けに、思うところがあった様子。

 

提督と一緒に作業することになった夕張はキラキラしていて、一緒になれなかった秋津洲は不満げだ。

 

研修中は2か月間毎日一緒だったのに、ここ1週間ほどは色々あったので、提督とはほぼ顔合わせできていない。

それが少し寂しかったからこそ、こんな反応になっているのだろう。

 

 

「仕方ないとか言ってるけど、ニヤニヤしてるの隠しきれてないかも。

提督とふたりで作業するの久しぶりだから、嬉しいんでしょ?」

 

「そ、そんなことないわよ。

滅多にいじれない艤装がいじれるから、楽しみってだけなんだから。

ほ、本当だからね!」

 

「バレバレすぎて、嘘にすらなってないかも……

みんなの前で告白したのに、今さら提督が好きなこと隠す必要あるの?」

 

「な、ななな、なんで秋津洲がそれ知ってるのぉっ!?

あの時会場にいなかったじゃない!!」

 

「あんな爆弾発言、話題に上らないはずがないかも」

 

「あああ!!忘れてぇ!!

あの時は酔っぱらってて、ちょっと気が大きくなっちゃってたのよぉ!!」

 

 

顔を真っ赤にして、頭を抱える夕張。

あんな大胆な発言をするつもりはなかったようだが、お酒とその場の勢いで、ついつい暴露してしまったらしい。

 

そんな分かりやすい夕張を見て、ジト目になっている秋津洲である。

 

 

「忘れろなんて、そんなの無理かも」

 

「あ゛あ゛あ゛っっ!!」

 

 

 

・・・

 

 

 

「こっちに丸聞こえなんだよなぁ……」

 

「ひゅー。モテる男は辛いですね~!

このこの~!」

 

 

ぐりぐり

 

 

「肘離せ。こら。

……からかうの止めろよ、明石。

俺、結構さ、夕張に対しての接し方で悩んでるんだから……」

 

「ふつーに『愛してるよ』とか言っちゃえばいいじゃん。

提督ってば、全員とケッコンしてんだしさ。

アタシも一度くらい言われてみたいな~。

チラッ、チラッ」

 

「あ、私も!

耳元で愛を囁いてもいいのよ?キラキラ!」

 

「キミたち……効果音ってのは、口から出すもんじゃないんだよ……?

キミたちをそういう相手だと考えたくないから、悩んでるんだって……」

 

 

(まだこんなこといってますよ? このへたれは)

 

(へたれだからしかたないです。へたれだから)

 

(このへたれ)

 

 

「う、うるさいな!

人間と艦娘で、そういう関係はご法度なんです!

少なくとも俺の中では!」

 

 

「「 ブーブー! 」」

 

((( ぶーぶー! )))

 

 

「みんなでブーイングしないの!

……そんなことよりね、さっさと準備しちゃいますよ。

こんな漫才しててギャラリーを待たせちゃうとか、失礼でしょうが……」

 

「ま、むっつりスケベな鯉住くんだから仕方ないよね」

 

「お前なぁ……ハァ……」

 

 

さらっと酷いこと言ってる明石だが、言われている側はそれにツッコむ余裕が無いようだ。

よほど夕張にどう接するべきか、思い悩んでいる様子。

 

それを察した明石、流石にこれ以上いじるのはかわいそうだと考え、話を進めることにした。

 

 

「……ま、確かにそんなこと言ってる場合じゃないからね!

キミの言う通り、さっさと作業に取り掛かりましょ!

……それじゃ私は秋津洲ちゃんと一緒に、空母のふたりの艤装メンテするから。

キミは夕張ちゃんと一緒に、戦艦ふたりの艤装メンテしちゃって。

早く終わった方から雷巡と潜水艦のふたりの艤装メンテに入ろっか」

 

「……おう」

 

「提督さー、テンション下げてる場合じゃないっしょ。

気合入れなよ?

キッソーや元帥が見てんだからさ」

 

「……そうだな。……とりあえず俺の問題は保留!

全力でメンテさせていただこうじゃないか!

気合!入れて!行きますっ!!」

 

「「 おーっ! 」」

 

 

 

・・・

 

 

 

鯉住・夕張組

 

 

「さぁ、取り掛かろうか」

 

「ハイ!」

 

「まだ研修が終わってから一週間くらいしか経ってないけど、随分久しぶりに感じるねぇ。

こうやってふたりで作業するのも」

 

「そ、そうですねっ!」

 

「そんな緊張しなくていいから。

研修中と同じ感じでいけば、問題ないさ。いつも通りだね」

 

「はいっ!」

 

 

ふたりの目の前にあるのは、航空戦艦『扶桑改二』の超巨大な艤装と、戦艦『大和改』のこれまた超巨大な艤装。

 

艦種による艤装メンテの難易度の差は、艦時代よりも遥かに大きい。

駆逐艦の艤装と戦艦の艤装を比べれば、圧倒的に戦艦の艤装のメンテの方が時間がかかる。

そもそも大きさが段違いなのだ。

 

 

「さぁ、まずは扶桑さんの艤装から手を付けようか。

……扶桑型改二の艤装は、とんでもなく繊細なバランスで攻撃力、機動力、装甲のバランスをとっている。

腕の見せ所だよ」

 

「任せてください!

師匠にみっちり仕込んでもらった腕前、今こそ発揮するわよ!」

 

「ふふ。その意気だ。

さぁ、取り掛かろう……!!」

 

 

 

 

 

明石・秋津洲組

 

 

 

「さぁ、私達もあちらに負けてられませんよ!

頑張りましょうね!秋津洲ちゃん!」

 

「いっぱい頑張って提督に褒めてもらうかも!

よろしくね、明石!」

 

「はい!よろしくお願いします!

……それでは、まずは瑞鶴改二甲の艤装から取り掛かりましょうか。

秋津洲ちゃん、艦載機の整備と、基本艤装の整備、どっちが得意?」

 

「もちろん艦載機かも!

あ、基本艤装が苦手ってワケじゃないよ!」

 

「ええ、わかってますよ」

 

 

彼女たちの目の前には、空母ふたりの艤装が置かれている。

 

加賀型も翔鶴型も空母としてはメジャーな部類だが、メンテ難易度はその知名度に反して非常に高い。

 

なにせ空母勢は、非常に繊細な操作で艦載機を操る。

ほんの少しの違和感が命取りとなるのだ。

加えてボディバランスを考えると、空母にはあまり重要ではないと思われる、背部艤装と足部艤装のメンテも疎かにすることができない。

飛行甲板、カタパルトは言わずもがなである。

 

体幹の重心が少しズレるだけでも、大問題。

そのズレは大きなものとなり、艦載機の動きに大きな影響が出てしまい、本来の実力が発揮できなくなるのだ。

 

だから空母のメンテ難易度は、戦艦に負けず劣らず高いと言える。

 

 

「さぁ!まずは瑞鶴改二甲の艤装から取り掛かりましょう!

カタパルトが特徴の珍しい艤装ですね!

秋津洲ちゃんは艦載機、お願いします!」

 

「任せるかも!

ネームド艦載機のメンテなんて初めてだから、楽しみかも!」

 

 

 

・・・

 

 

メンテ開始

 

 

・・・

 

 

 

「……すっげぇ」

 

 

ついに始まったメンテ班による艤装メンテ。

それを見る大本営一行は、一様に目を丸くして驚いている。

 

 

「めちゃくちゃ仕事が早いでち……」

 

「なんと言いますか……

動きがそこまで速いわけではないんですが、物凄いスピードですね……

矛盾したような言い方ですけど……」

 

 

扶桑が言うことは、見学者全員が感じていることだったりする。

特別な動きはしていないし、物凄く速く動いているわけではないのに、すごいスピードだと感じるのだ。

 

実際に彼女が感じていることは正しい。

メンテしている4名の動きは、明石を除いて、実はまったく特別なものではない。

 

では何故そう思うのか?

 

 

 

・・・

 

 

 

鯉住君を例にとってみる。

 

 

彼はよくあるメンテ教本と全く同じ動きをしており、内容だけ見れば、駆け出しの技術工とそう変わらない。

 

決定的に彼が優れているのは、その精度。

 

ネジの締め方は常に最適。締めすぎも緩みも一切ない。

これにより、接続部への負担は均等に分散。連戦中常に安定した動きが可能になる。

 

凹部補正もこれ以上ない精度で行う。

少しでも窪みがあれば、角度をつけて受け流せるはずだった砲弾にも被弾しかねない。

それを避けるために完璧な傾斜をつける。

新品の一枚鉄板を湾曲させたものと、遜色ないレベルだ。

 

そもそも動きが洗練されている。

取り外したネジは、毎回毎回、完全に同じ場所に仮置きする。

しかもひとつひとつのネジの間隔は、これまた均等になっている。

 

当然工具も同様だ。

使った工具を戻すときは、元あった状態と全く同じ位置に設置する。

その徹底ぶりはすさまじい。

スパナ、ドライバー、サンダー、グラインダーなどなど、多種多様な工具を等間隔、平行に置くように、常に気を払っている。

工具使用前と工具使用後の写真を見比べても、一切違いが見つからないレベルだ。

 

さらに言えば、部品ひとつひとつの取り扱いが、尋常でなく丁寧。

彼の作業机からは、ゴトンとかガタンとかいった音は一切聞こえない。

部品を置くときは、少しの傷もつかないよう、音が出ないようそっと置く。

部品を外すときは、工具が部品に触ってかすり傷がつかないように、必要最低限な部分にしか触れないようにしている。

だからヤスリ掛けや塗装の場合を除いて、ほとんど音が出ないのだ。

 

 

……そのように、一連の動作が洗練され過ぎているので、物凄く速く動いているように見える。

実際かなり速い動きをしてはいるが、それは常識の範囲内。

見ている者からすると、本来のスピードを遥かに超えた速さに見えている。

 

そして妖精さんとのコンビネーションもあるため、その実力はさらに高まる。

彼の思考を読み取って、手足となって働いてくれる彼女たちの存在は、さらにメンテのスピードを加速させるのだ。

 

 

 

鯉住君についてはそのような感じ。

基礎動作をとことん丁寧に極めた結果、高みに到達したという言い方ができる。

 

弟子ふたりも彼ほどではないが、同様の傾向だ。

2か月の研修で十二分に、彼のやり方を踏襲することができた様子。

 

 

 

……しかし明石については少し違う。

 

もちろん彼女も基礎動作は極まっているのだが、それに加えて特殊専用艤装『艦艇修理施設』の存在がある。

 

この艤装はクレーンの先にロボットアームがついたような造りとなっており、本当の手とほぼ同じ動きをすることができる。

 

通常の明石なら、この『艦艇修理施設』、同時運用するのはふたつかみっつが限界。

空母勢の艦載機と同じで、ひとつ操るだけでとんでもない集中力を要するからだ。

 

しかしこの明石、この精密動作と集中力を要する艤装を、なんと同時に4つも操ることができる。

つまり単純に、腕2本の状態の3倍の働きができるということになる。

 

 

 

だから鯉住君と明石は、実力的にはトントンなのだ。

質の鯉住君、速さの明石といった言い方ができる。

 

 

 

・・・

 

 

 

「……実に素晴らしい。

無駄な動きが一切ないからこそ、扶桑君が言うように感じるのだ。

門外漢の私達にはわからないが、あの洗練された動きの中には、高度なノウハウが詰まっているのだろう」

 

「『呉の明石』が凄いのは聞いてたけど、他のメンバーもすっごい……

頑丈な私のカタパルトが、あんなに簡単に解体されてくなんて……」

 

「私達も見習うべきところが多いわね。

全ての動きが次の動作を意識したものだわ。

効率が段違い」

 

「す、すごい……

本気になった龍太さんって、あんなにオーラが出てるのね……」

 

 

彼女たちが驚くのも無理はない。

鯉住君たちは、全員が全員とんでもない集中力で事に当たっており、迂闊には近づけないゾーンのようなものができているからだ。

 

この集中力。

深海棲艦で言えばフラグシップ級と言ってもよい。

 

 

 

……鯉住君と明石だけではなく、他のメンバーの実力もとんでもなく高い。

 

感覚としては以下のような感じ。

 

 

 

一般メンテ技師:B

 

熟練メンテ技師:A

 

熟練メンテ技師(班長クラス):A+

 

明石(一般):S

 

 

 

北上:B+

 

秋津洲:A+

 

夕張:S

 

鯉住君(本人のみ):SS

 

鯉住君(妖精込み):SSS

 

明石:SSS

 

 

ちゃっかり北上も実力をつけているのは、研修前によく鯉住君の手伝いをしてたからだ。

元々工作艦だったこともあるので、筋が良かったのもある。

あとは研修で得た将棋パワー。

 

 

こんな感じであるので、彼らのメンテ風景は、それはもうスゴイ。

 

どのくらいスゴイかというと、まったくメンテを見たことない人が見ても、『これはスゴイ』と感じるほどである。

最早エンターテイメントの域に達していると言ってもよい。

 

 

 

・・・

 

 

 

……そんなスゴイことをやっている彼ら。

順調に作業していたのだが、ふと夕張の手が止まる。

 

 

「……あれ?

師匠、これ見てください。ちょっとおかしくないですか?」

 

 

夕張が持っていたのは、扶桑の試製41㎝3連装砲改。

巨大な艤装であるが、艦娘のチカラなら持ち上げられる。

 

夕張はその主砲に違和感を感じているようだ。

その意見を受け、鯉住君も動きを確認してみる。

 

 

ガチャン、ッガチャン

 

 

「……お。よくこれだけ些細な違和感に気付いたね。

これは確かに少しおかしい」

 

「どうですか?」

 

 

カチャカチャ

 

 

「……パッと見問題はなさそうだけど……

多分ここだな」

 

 

キュルキュルッ

 

 

「これは……基礎部分のネジですか」

 

「そう。このネジはマルテンサイト系のステンレスだね。

被削性がかなり良いやつ。

多分砲撃の熱で、ほんの少し、気づかないくらいだけど熱膨張しちゃうんだろうな。

……こっちよりもオーステナイト系のステンレス素材に変えた方がいいだろう。

英国妖精さん、頼むよ」

 

 

(はーい!わかったよー!

そのそざいのねじをつくってくるねー!!)

 

 

「できるだけ高耐久性で、熱に強いやつにしてほしい。

モリブデンが入ってるといいな。

あちらさんに渡す分も含めて、結構な量作ってくれないか?

素材以外はこれと全く同じ規格でいいから」

 

 

(おふこーすよー!

てーとくとわたしは、いしんでんしんだからね!まかせるねー!)

 

 

「頼りにしてるよ」

 

「はー、やっぱり師匠はスゴイです……!!

一瞬でそこまで判断できるなんて!」

 

「普通だよ。普通。

夕張だってもうすぐ俺くらいにならなれるさ。

毎日頑張ってるからね」

 

「えへへ!ありがとうございます!」

 

 

 

そして、明石秋津洲ペアの方でも、似たような会話が。

 

 

 

「ねー、明石。

この足部艤装、左足だけホンのちょっと磨り減ってない?

このままメンテ進めちゃっていいの?」

 

 

秋津洲が手に持っているのは、瑞鶴改二甲の足部艤装。

どうやら緩衝材のすり減りかたに、若干の違いを感じたようだ。

 

 

「どれどれ、見せてくださいね。

……あー、普通ならこれくらいはスルーしちゃいますけど、持ち主は実力者の大本営第1艦隊ですからね。

気づかないレベルの違和感が、戦闘に大きく関わるはずです。

微調整しておいた方がいいでしょう」

 

「わかったかも。

それじゃ胸当ての重心を少し右側にずらして、左腕につけるカタパルトを少し軽量化させとくかも」

 

「うん。それで大丈夫でしょう!優秀ですね!

もちろんですがカタパルトは……」

 

「わかってるかも。

削るのは、運用に支障ない側面部分と腕まわり部分にしとくんでしょ?」

 

「ホントに優秀ですね!

その様子なら、余計なこと言わなくても大丈夫でしょう!」

 

「ふっふ~ん!

提督に指導してもらったんだから、このくらい序の口かも!」

 

 

 

精密機械にかけてみて初めて判明するような、不備とも呼べない不備。

それを感覚だけで見つけていく面々。

こんなことできるメンテ班は世界を探してもいないのだが、本人たちはそんなこと気にしていないようだ。

 

ただただ目の前の艤装に集中する。

それをひたすら続ける。

これをやってきただけ。

 

 

 

・・・

 

 

2時間後

 

 

・・・

 

 

 

全員分の艤装メンテを終えた、ラバウル第10基地メンテ班。

 

予想通り戦艦ふたりと空母ふたりのメンテには時間がかかったが、雷巡と潜水艦の艤装は、そこまでかからなかったらしい。

 

 

「……うし!みんなお疲れさま!

これにて作業終了だ!よくやってくれたね!」

 

「「「 おつかれー!!イエーイッ!! 」」」

 

 

パァンッ!

 

 

元気よくハイタッチする面々。

やり切った笑顔が非常に眩しい。

 

 

 

「オイオイ……もう終わったのか……?」

 

「ありえないでち……まだ2時間ちょっとしか経ってないんだよ?」

 

「私達の鎮守府のメンテ班だと、15,16人で1時間半くらいだよね……?

ありえなくない……?」

 

「決してウチのメンテ班の実力が低いわけではないでしょう。

少佐たち5人の実力が、異常というほかないわね……」

 

「異常……確かに、そう表現するしかないですね……

あまりいい表現とは言えないですけども……」

 

「……そうですね。

今見せていただいた神業は、無数の経験に培われたものでしょう。

異常と言うよりは、『極まっている』と言うべきかもしれないですね」

 

「そうだな。天才というものの本質を見た気分だ」

 

 

とんでもない光景を目の当たりにして、心底驚く大本営の皆さん。

何から何まで異次元の光景だったので、無理もないことだ。

 

そんな面々だが、報告のために鯉住君が近づいてきた。

 

 

「皆さん、長時間のお付き合い、ありがとうございました」

 

「お、おう……少佐たちヤバいな……

俺はメンテには詳しくないけど、見てるだけで凄いってわかったぜ」

 

「それはありがとうございます。

満足してもらえたようでよかったですよ」

 

「こんなに早く終わってしまうなんて……

いくら艤装が傷ついていなかったと言っても……」

 

「ははは。

今回はコアの部分のチェックは、簡易的に済ませちゃいましたからね。

ガワの部分と微調整くらいしかしてないので、これだけ早く済んだんですよ。

あ、手抜きしたとかではないですので、ご安心を」

 

「そ、そうですか……」

 

 

あっさりとした反応。

彼らにとってはこれが普通なのだろう。

 

呆気にとられる面々を気にせず、鯉住君は一枚の紙と小袋を取り出す。

 

 

「こちらは今回のメンテで見つかった調整部分と、それに必要な部品です。

そちらのメンテ班に渡してもらってもいいですか?

あ、もちろん余計なことをしてしまったようでしたらいけないので、元に戻せるように調整前の内容も記載しておきました。

方針の違いなどがあるかもしれませんので」

 

「は、はい……」

 

 

それらを受け取った大和は、紙に目を落とす。

 

 

「こ、こんなに……」

 

 

そこには6人全員の細かい調整内容が、ずらっと書かれていた。

今までの艤装でも全く問題なく使用できていたのだが、ここまでの改善点が見つかったとは……

 

 

「それでは皆さん、お疲れでしょうから、宿泊していただく部屋に案内いたしますね!

流石にもう足柄さんなら、部屋の用意をしてくれたでしょうし」

 

「うむ。素晴らしいものを見ることができた。

感謝するぞ、少佐」

 

「いえいえ、とんでもないです!

今から足柄さんに連絡取りますので、もう少しだけお待ちくださいね!」

 

 

久々に心置きなくメンテができ、キラキラしている鯉住君なのであった。

 

 

 




鯉住君だけでなく、他のメンバーもキラキラしていたようです。

仕事を趣味にしてしまった者たちならではですね。変態集団です。



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