艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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実は前回書きましたように、鯉住君のメンテは技術力が異次元というわけではありません。
誰が見ても「すごい」とは思いますが、「意味不明」とは捉えられないレベルです。

それでも信じられないくらい結果に差が出る理由、本当にスゴイところは、圧倒的に丁寧であることと、気持ちの込めようが尋常でないことです。

丁寧なのは、一連のすべてです。
パーツの取り扱い、作業場の整理整頓、掃除の徹底、器具の扱い、すべてが大掃除クラスの念の入り様です。
彼の作業場は、常に新設時相当の状態なのです。

気持ちの込めようがスゴいのは、彼は覚悟が決まっているからです。
一度命を救われたとき、心が生まれ変わったと言ってもいいです。
「何があっても彼女たちに苦労はさせない」という覚悟が決まっており、いざとなれば自分の命よりも彼女達を優先するくらいには、その想いは確かなようです。
提督になってからは、それが思うようにいかずモヤモヤしているようですね。




第82話

 

 

元帥一向にメンテの様子を見てもらった後、1時間ほど小休止をはさみ、全員揃っての会食を開かせてもらった。

 

会食開始まで3時間半ほどしかなかったわけだが、足柄さんは見事に美味しい料理をこしらえてくれた。

急な話だったので、有り合わせの食材で作ったはずだったのだが、ちゃんとしたバイキングっぽい感じに仕上がっていた。ホント凄いあの人。

 

そのことを足柄さんに伝えたら、古鷹と子日さんが頑張ってくれたおかげだ、と言って謙遜していた。

もちろんそれはそうなのだが、やっぱり足柄さんの腕前はすごいものだ。

 

ちなみにお酒は完全に禁止とした。例の事件を考えれば、当然である。

あんな痴態を大本営御一行に見せようものなら、俺の首が飛んでもおかしくはない。

昇進とか極秘作戦とか以前に、無職になる可能性が濃厚なのだ。

未成年っぽい子も多いし、今回もこれからもお酒は禁止である。

 

 

「わざわざこんな遠方まで足を運んでいただいた御一行に、失礼ないようにしましょう。

それでは皆さん、どうぞご自由にご歓談ください」

 

「「「 は~い!! 」」」

 

 

堅苦しい挨拶を終え、皆思い思いの料理を楽しみながら、交流を始めた。

 

特定のメンバーだけで話をしてしまって交流が上手くできない子がいるかもしれない。

そんなことを考えて少し不安だったのだが、みんな色んな相手と話を進めているようだ。

ほっと一安心である。その辺はちゃんとわきまえてくれているらしい。

 

 

粗相がないか心配で、しばらく隅の方から会場を眺めていたのだが、色々と面白い光景がみられた。

 

北上大井姉妹が、末妹であるらしい木曾さんに絡んでいたり、

瑞鶴さんと加賀さんが口喧嘩……というか、じゃれついていたり、

座りながら寝ている天城を気にせず、アークロイヤルが料理研究してたり、

夕張が扶桑さんと戦艦の艤装について歓談してたり、

ゴーヤさんが龍田のことを凄い顔で見てて、初春さんに笑われてたり、

元帥が秋津洲と子日さんに、じいちゃんと孫のような感じで接していたり。

 

……心配は杞憂だったようだ。

そもそも粗相なんてちっちゃいこと気にしてたのは俺だけらしい。みんなのびのびと羽を伸ばすことができている。

 

一安心し、自分も料理を楽しむことに。

 

 

「……うまい」

 

 

焼きサバを食べてみたのだが、なんかすごくうまかった。脂が随分のっている。

南国で北国の魚が食べられるとは、なんともありがたい話だ。

漁師さんと、冷凍技術という文明の利器には感謝である。

アークロイヤルには、なんとか漁の必要性を分かってもらわないとなぁ……

 

 

・・・

 

 

 

鯉住君が変なたそがれかたをしていると、ひとりの艦娘が近づいてきた。

 

 

「どうです?楽しんでますか?鯉住少佐」

 

「あ……大和さん」

 

 

ニコニコしながら声をかけてきたのは、浴衣を着た大和さんだった。

いつもの制服とは違う服装だが、とてもよく似合っている。

 

改めてみると、物凄い美人だ。

長身で、均整の取れた顔立ち。

優しくも決意がこもった、魅力的な表情。

浴衣をきっちり着こなしているのに、隠しきれないスタイルの良さ。

 

百年に一度の美人と言ってよいほどである。惚れそう。

 

……というか実は、いつもの制服は露出度高すぎなせいで、今まではまともに彼女のことを見ることができなかったのだ。

大本営で初めて会った時も、元帥と一緒に話をしている時も、そのせいで顔しか見られなかった。

それでも十分奇麗な人だとはわかっていたが。

 

 

(はー、むっつりむっつり)

 

(おともだちとかいっておいて、このしまつ)

 

(あたまのなか、ぜんめんぴんくいろですか?)

 

 

クォラァ!!何言うとんのオマエラ!?

目の前にあんな露出度高すぎる美人が来てみろ!

どうしたってセクシーな部分に目がいくだろうが!?

 

あんなボディスーツみたいなピッチリした肌着に、あんなクッソ短いスカートだぞ!?

男性特攻で4桁ダメージ不可避やろがい!

そんな服装で目の前で正座なんてされてみろ!

もう視線を首から下には下げられないだろうが!

 

 

(いいわけしてるよ、このおとこ)

 

(いいかげんむっつりだとみとめるべき)

 

(おとこはおおかみですねわかります)

 

(こいずみのあにきがおおかみ?)

 

(あー、それはいいすぎでしたね)

 

(せいぜいちわわでしょう)

 

(( わかるー ))

 

 

オマエラァ!!扶養家族なんだから、家長にちったぁ気を遣え!

俺だっていい加減傷つくんだぞ!?

何がチワワだ!俺だって立派な男なんや!

お、俺だってなぁ!本気出したら足柄さんよりも狼なんやぞ!!

 

 

(……ぷぷっ!!)

 

(あしがらさんより……おおかみ……ぶふうっ!!)

 

(ひつじよりそうしょくけいのくせに)

 

(かんぜんにたべられるがわのくせに)

 

((( うけるー!! )))

 

 

お前らああああっ!!

言っていいことと悪い事の区別もつかんのかっ!!

健全なアラサーお兄さんに対して、その態度はおかしいダルルォ!?

 

 

話しかけられている最中だというのに、いつもより長めな脳内漫才を繰り広げる鯉住君である。

 

 

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 

「……ハッ!!」

 

「なにか悩み事ですか?

心ここにあらずといった様子でしたが……?」

 

「い、いえいえ!そんなことありませんよ!?

全然悩み事なんて無いですから!」

 

 

貴女のセクシーさに戸惑ってて、それをからかわれてました。

そんなどうしようもないこと言えるわけないです。

 

色々と悩み事があるのは事実だけど、ここではそれは関係ない話だし。

 

 

「ならいいんですが……」

 

「ご心配おかけして申し訳ない……

……何か気になることでもありましたか?」

 

「いえ、久しぶりにお会いできたんですから、ゆっくりお話でもと思いまして。

……ご迷惑でしたか?」

 

「い、いえいえ!ご迷惑だなんて、とんでもない!

確かに普段よく連絡は取ってますが、実際会うのは久しぶりですもんね。

私達が大本営に向かった時以来ですから」

 

「うふふ。そうですね。

私にとって、少佐……龍太さんは、本音を話すことができる唯一のお友達ですから、こうやってお会いするのを楽しみにしてたんですよ?」

 

 

太陽のような笑顔で、こちらに笑いかける大和さん。

 

その姿を見てときめかない男がこの世にいようか?いや、いない。

当然私もときめいています。なんちゅう破壊力……!

 

 

「そ、そう言ってもらえて光栄ですっ!!

俺も大和さんみたいな美人とお友達になれて、本当に嬉しいですよ!!」

 

「そ、そんな……お上手なんだから……」

 

 

まるで初めて付き合った中学生のように、もじもじしているふたり。

 

 

(ひゅーひゅー!!)

 

(だいほんえいにまで、あにきのまのてが……!)

 

(やまとさんをめとって、げんすいしゅうにんですかー?)

 

 

や、やめろ!からかうんじゃない!

こんな美人とお友達になれて嬉しくない男なんて、いるわけないだろ!?

緊張しちゃうのは当然です!

 

あと元帥がいる場で下克上っぽい発言するのやめなさい!

ホントに浅井長政ルートを進んじゃうでしょうが!

そんなに俺が誅されるの見たいの!?そういうつもりないでしょ!?

 

 

「龍太さん……もしかして、妖精さんと話しているのですか?」

 

「え? あ、ああ、はい。

あまり建設的な話ではないですが……」

 

「すごい!初めて見ました!やっぱり龍太さんはスゴイですね!

いつもは私から話してばかりなので、今日はそちらのお話を色々聞きたいです!

妖精さんのこととか、今日見せてもらった艤装メンテナンスの技術を身につけた理由とか、色々聞かせてください!」

 

「そう言われてみれば、いつも大和さんから話題を振ってくれますもんね。

ちょうどいい機会ですし、気になることがあったら何でも聞いてください」

 

「ふふ。それではですね……!」

 

 

随分仲良さげに話をするふたり。

この会話が行われているのは会場の隅の方なので、本人たち的には周りから注目されているという意識はない。

 

 

……当然そんなことはない。

この場における自分たちの立ち位置を理解していないふたりは気づいていないが、なにせ大本営第1艦隊の旗艦と、この鎮守府のトップによる歓談である。

興味を持つなという方が難しい。

 

元帥はその様子を見て「大和君が本命だったか……」と少し残念そうに呟いているし、

他の大本営第1艦隊のメンバーは「あのクールな大和さんが笑顔を見せるなんて……」と驚いているし、

ラバウル第10基地のメンバーは、グヌヌしていたり、ジト目を向けていたり、冷めた目で見ていたりしている。

 

物申したいメンバーが横から突撃しにいかないあたり、場をわきまえているというか、お相手に配慮しているというか、そんなところである。

会食で相手に迷惑かけるほど、失礼なことはない。

それくらいはみんな分かっている。

 

だから耳をダンボにして話の動向を探ることにしたようだ。

大和が鯉住君のことを『龍太さん』と呼んでいるのもバレており、それが発端となって色々あるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

・・・

 

 

 

結局そんな感じで会食は平穏無事(?)に終わった。

 

鯉住君からしたら、好みドストライクの大和さんと直接話ができて楽しめたし、他のメンバーは大本営の皆さんと交流できていたし、なにより、お酒がなかったおかげで大惨事にならなかったしで、会食大成功!なんて思っている。

 

しかし実際は、結構不穏な感情がそこかしこにチラ見えする会食となっていた模様。

もちろん全員、会食での交流は楽しめていたのだが。

 

元凶ふたりともそれに気づいていないのは残念なところである。

周りの感情の変化には非常に敏感なのに、それに自分が絡んでくると途端に察しが悪くなるところは、ふたりの共通点だろう。

もっと自己評価が高ければそうはならないのかもしれないが、良くも悪くも謙虚なのだ。なんとも似た者同士なのである。

 

 

……そういった具合に楽しい時間は過ぎ、夜が明け、現在は朝の8時。

 

 

定期連絡船が出るのは明日の朝10時ごろなので、大本営の皆さんには本日いっぱい好きに過ごしてもらい、明日の朝にここを発ってもらう予定だ。

もちろんではあるが、こちらの鎮守府メンバーは通常業務を優先してよいとのこと。

 

 

そういうわけで現在、執務室で叢雲と一緒に書類を捌いているところである。

 

自室での近海偵察には天城。

念のための哨戒には初春さん、子日さん。

遠征任務には古鷹、天龍、龍田。

工廠担当として明石、夕張。

雑務担当として足柄さん、秋津洲。

自由行動は北上、大井、アークロイヤル。

 

本日の任務割り当てはこんな感じ。

いつも通りの、のんびり編成である。

 

 

「なんだかこうやってふたりで執務するのも久しぶりだねえ」

 

 

書類にサラサラとサインをしながら叢雲に語り掛ける鯉住君。

 

彼女が研修に向かう前の1か月間は、勤務日は大体ふたりで執務していたものだ。

古鷹に変わることも多々あったが、叢雲の希望により、書類仕事は叢雲が担当することが多かった。

 

 

「……そうね」

 

「研修中は足柄さんに手伝ってもらってたからねぇ。

ここに来た時を思い出すなあ」

 

「アンタ、口を動かしてる暇があったら、手を動かしなさい」

 

「はいはい。なんかそういう反応されるのも久しぶりだねぇ」

 

「私達が研修から帰ってきてから、色々あって仕事できてないせいで、かなり書類が溜まっちゃってるんだから。

無駄口叩いてる暇なんてないわよ」

 

「……なんかいつにもまして冷たくない?」

 

「アンタがだらしないから、このくらい当たり前でしょ」

 

「……そう」

 

 

黙々と作業する叢雲から、トゲのようなものを感じつつ、書類仕事に戻る。

いつもこんな感じと言えばそれまでだが、今日はなんというか、いつもよりも壁を感じる。

 

 

……なんかおかしいよなぁ。

いくらそういう態度とることが多いからって言っても、心の中ではもっと気遣いをしてくれる子だったはず。

ここまで壁を感じることなんてなかったんだけど……

 

……あー、もしかしてあれかな……?

呉での厳しい研修で秘書艦としても鍛えられたって言ってたし、かなり厳しい姿勢で仕事するように叩き込まれたとか。

あのやさしさの塊のような千歳さんが、そんな厳しい指導をしたなんて、想像できないけど……

……いやいや、やっぱりあの人も公私混同はしないってことだよな。きっと。

叢雲を鍛えるために、あえて厳しくしてくれたに違いない。

 

しかしこれからこんな感じの叢雲と、毎日仕事しないといけないのか……

心労が加速しないか心配です……

 

 

鯉住君が見当はずれな予想をしていると、叢雲は何かを察して話しかけてきた。

 

 

「……ちょっと、手が止まってるわよ。

さっさと仕事終わらせるんでしょ?いったい何考えてたのよ?」

 

「あ、ああ、すまん。大したことじゃないよ。

叢雲の研修、厳しかったんだなぁ、と思って」

 

「……ハァ。……そりゃそうよ。

そんなこと考えるのは執務の後でもできるでしょ。

アンタの仕事の方が量が少ないとはいえ、そこそこあるんだから、余計なこと考えないでさっさとやる」

 

「おっしゃる通りで……」

 

 

確かに彼女の言う通り、仕事の量は、提督1に対して秘書艦3くらい。

ただし、事務仕事が苦手な鯉住君のことと、研修でとんでもなく熟練度を上げた叢雲のことを考えると、これくらいでトントンだったりする。

 

 

……もちろん叢雲がツンツンしているのは、厳しい態度で執務するよう指導されたからではない。

 

彼女の中では、彼の隣には常に秘書艦としての自分がいるべきだ、ということになっている。

そう思っているというのに、あろうことかこの男、秘書艦として大先輩であり、実力も遥かに上である大和と、会食中ずっとキャッキャウフフしていたのだ。

 

立つ瀬がないとか、演習頑張ったのに一言もないのかとか、私のことほっといてどういうつもりだとか、そんなに胸が大きいのが好きなのかとか、実力で敵わないのが悔しいとか……

まぁ、彼女も色々思うところがあるのである。

 

それがうまいこと言葉に出せず、モヤモヤしているのが、現在進行中の塩対応の原因だったりする。

そういうところがまだまだ割り切れない、難しいお年頃なのだ。

言い換えると、大人になり切れないお年頃なのだ。

 

 

そんなふたりの悲しいすれ違いの中、執務室にはペンの走る音だけが聞こえるのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

執務開始からしばらく経ち、現在は昼を過ぎて13時。

 

朝イチから仕事を始めて、ようやく終了のメドが立った。

これも叢雲が物凄いスピードで執務をこなしてくれたからだ。感謝感謝である。

 

ここまでで本日の業務を終えても支障がない、というところまで来たので、叢雲と一緒に昼食をとることにする。

 

 

「……なんとかキリの良いところまで終えられたね。

お疲れさま。叢雲」

 

「ええ。ここまで終えれば、あとは明日に回してもいいでしょ」

 

「それじゃお腹も減ったし、ご飯にしよう。

叢雲も一緒に来るかい?」

 

「そうね。付き合ってあげるわ」

 

「悪いね。それじゃ食堂まで行こう」

 

 

・・・

 

 

移動中

 

 

・・・

 

 

ふたりは執務室(居間)を出て、そのまま食堂(お勝手)に向かう……

ことはせず、鎮守府棟(豪農屋敷)から、隣の新艦娘寮(旅館)まで足を運ぶ。

 

元々お勝手では4人までしか一緒に食事ができず、娯楽室(お茶の間)まで食事を運んでもらっていた。

それでは大変だし増員に対応できないと思っていたところ、旅館建設事件があった。

そこでそちらの食堂の方をメインとして使っていくことにしたのだ。

こちらの食堂は非常に広く、昨日の会食もこちらで行った。

 

これに関しては、英国妖精シスターズにグッジョブと言わざるを得ない。

勝手に建設した違法建築物ではあるが、色々と足りなかった部分をなんとかできたのは事実である。

 

 

「今日はカツ丼らしいね」

 

「そうね。

昨日ご馳走を食べたから、もっとシンプルな物でも良かったんだけど……」

 

「足柄さんは事あるごとにメニューにカツをねじ込んでくるからね……

今日もあれでしょ。大本営の皆さんに、ご馳走をふるまおうって考えでしょ」

 

「その考え自体は悪くないけど、週2ペースでカツが出てくる現状は、何とかならないのかしら……」

 

「まあまあ……

その辺は足柄さんもわかってるから、毎回飽きない味付けにしてくれてるし……」

 

「そうね。カツの日以外は基本的にサッパリした食事ばかりだから、カツに飽きるどころか、楽しみにしている自分がいるわね」

 

「方針以外は極端に有能なんだよなぁ……足柄さん……」

 

「そうね……」

 

 

愚痴というほどでもない些細な話を会話のネタにしていると、いつの間にか食堂に到着していた。

 

 

「この時間だと、誰かいるかな……?

邪魔するよー」

 

「あ、提督とムラっちじゃん。やっほ~」

 

「あら、アンタ達来てたのね」

 

「お先に頂いてます」

 

「北上に大井に……木曾さん」

 

「おはよう、少佐。

いや、もう『こんにちは』かな。ご馳走になってるぜ」

 

 

先客は球磨型3姉妹だった。

ニコニコしながら手を振ってくる北上に、いつも通り冷ややかな視線を向けてくる大井、そして大本営からいらした木曾さんの3名である。

 

みんなの前に置かれている丼を見ると、まだ食べ始めのようだ。

何切れもカツがのっている状態である。

 

 

「他のみんなは食事済ませちゃったのかな?」

 

「そだね。大本営御一行様と工廠組は、もう食べ終わって出てっちゃったよ」

 

「そうか。ご一緒した方が良かったかな……?」

 

「いいって。気にするなよ、少佐。

元帥はそんなこと気にするタマじゃねぇ。

それに気になったことがあれば、自分から聞きに行くだろうしな」

 

「そうですか。それならいいんです。

確かにあの元帥なら、そう言ってくれそうですよね」

 

「アンタが気にしてるのは、ホントに元帥なのかしら……?」

 

「え? そりゃそうでしょ」

 

「本当ですかねぇ……」

 

「ちょ、大井まで……

ふたりとも、いったいどうしたっていうの……?」

 

 

冷たい目を向けるふたりに対して、なんでこんな態度を取られているかわからず、困惑する鯉住君。

 

その様子を見て、北上と木曾は声のトーンを落として現状確認する。

 

 

「……なぁ、姉さん、少佐ってアレ、本当にわかってないのか……?」

 

「ホントだよ、キッソー。

提督はニブチン過ぎて、ソッチ系疑惑が浮かんだこともあるくらいだよ?」

 

「マジかよ……どんだけだよ……」

 

「提督は自分に好意が向けられてるのに気づこうとしないからね~

気づこうとすれば、すぐ気づくってのにさ」

 

「……俺にはよくわかんねぇ」

 

「キッソーってばダメダメじゃん?

もっと乙女心鍛えなよ。うりうり~」

 

「や、やめてくれよ、姉さん」

 

 

あまりにも過ぎて、鯉住君にドン引きする木曾。

しかし彼女もこういった男女のことに対しては、あまり興味がない方だ。

北上にそれをいじられてタジタジになっている。

 

そんな感じで話がとっ散らかっていたのだが、厨房の中から誰か出てきたことで、会話は中断されることになった。

 

 

「あ! 声がすると思ったら、やっぱり!!

提督と叢雲、いらっしゃいかも!お仕事はもう終わったの?」

 

「……ああ、秋津洲、助かったよ……

執務は今日やらなきゃいけない分は、もう終わったんだ。

だからキリもいいし、お昼食べに来たんだよ」

 

「それはお疲れさまでしたかも!

それじゃ秋津洲も、一緒にご飯食べていい!?」

 

「おう。いいよ。

足柄さんはひとりでも大丈夫かい?」

 

「3人分の食事くらい、足柄さんなら寝てても作れるかも!」

 

「そりゃすごい。

それなら大丈夫だね。秋津洲も一緒に食べよう」

 

「わーい!

昨日はあまり提督と居られなかったから、嬉しいかも!!」

 

 

ガシッ

 

 

「こらこら、そんな気軽に女の子が男に抱き着くんじゃありません」

 

「提督だからいいの~!!」

 

「しょうがないな秋津洲は……全く……

……足柄さーん!!カツ丼3人前でーっ!!」

 

(聞こえてたから、もう作ってるわよー!!)

 

「ありがとうございまーす!!」

 

 

ニッコニコの秋津洲を右腕にくっつけたまま、通常運転で厨房の足柄に向かって注文する鯉住君。

いつも通りといった感じで行われたその流れに戦慄する木曾。

 

 

「な、なぁ、大井姉さん……

頼むから落ち着いてくれよ……!顔が怖いって……!」

 

「誰の顔が怖いですって……!?」

 

「ヒエッ……

き、北上姉さん、助けてくれ……!!」

 

「しょーがないね、この末っ子はまったく。

どうどう、大井っち。提督はアレ、なんとも思ってないからさ」

 

「……別に提督がどうだろうと関係ありません。私はいつも通りです」

 

「だってさ。このくらいで気にしてたら、ここでやってけないよ?」

 

「深海棲艦と戦りあってた方が、まだ胃に優しいぜ……」

 

「提督にとって、アッキーは手のかかる娘みたいなものだろうからね~

あの距離感にいい加減慣れちゃったんでしょ」

 

「そういうのって慣れるもんなのか……?

俺にはよくわからねぇよ……」

 

 

怖い顔しているふたりを見て、やっぱりこの鎮守府ヤベェ、と再認識する木曾なのであった。

 

 

 




鯉住君の好みの女性

お姉さんタイプ
和風な服装が似合う
優しい
穏やか
かわいい系より美人系

だいたいこんな感じ

ぶっちゃけ赤城さんです。
例の経験が関係しているところはあると思います。

しかしこれを満たす人間がそんじょそこらに居るかと聞かれれば、居ないでしょう。
彼は無事人間と結婚することができるんでしょうか?
それとも抗いきれずに流されてしまうんでしょうか?

それは私にもわかりません(なげやり

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