もうほんとひっどい。ひっどいです。
深夜に書くからこんな有様になるんだよ!
反省して、どうぞ!
「今日はキミたちに、非常に重要な話がある……」
「話があるとかで呼ばれてきたけど、なんなのよ?」
「私も気になります。
提督がそんなに真剣にしているなんて……」
執務室の正方形ちゃぶ台に腰かけるのは、提督である鯉住君、筆頭秘書艦の叢雲、第2秘書艦の古鷹。
ラバウル第10基地・首脳会議の面々だ。
「今から話す内容はだな……
キミたちからしたら些細なことかもしれないが、俺からすると死活問題なんだ」
「……ホントになんなの? そんな前置きまでして……」
「悩みがあるんなら、遠慮せず打ち明けてください」
「その……そう言ってもらえるのは嬉しいんだが……
これからする話をすれば、キミたちに失望されてしまうかもしれない。
でも……俺はもう、限界なんだ……」
「げ、限界……?」
穏やかでない単語に、緊張する秘書艦ズ。
以前彼が限界を迎えたときは、鎮守府が一変してしまった。
その記憶が脳裏をよぎる……
ゴクリ……
「鎮守府のみんなに……スパッツを履かせたいんだ……」
「「 ……は? 」」
・・・
「アンタ……
ついに周りからの無茶ぶりに耐えかねて、頭がおかしく……」
「なんてことでしょう……
私達の想像以上に、提督のお心は傷ついていたんですね……」
「憐れむのはヤメテ!
呆れられたり怒られたりするより、心にくるから!!」
「正気なのにその発言ってほうが、受け入れがたいんだけど。
頭がおかしくなってたってことにしたほうが、まだ納得できるわ」
「もしかしてアレですか……?
提督には女性のスパッツに興奮してしまう性癖があるんですか……?
さすがに私、それは受け入れがたいです……」
「残念なものを見る目を向けられるのは、この際受け入れるよ……
俺もセクハラじみたこと言ってる自覚あるし……」
憐みの視線を向けるふたりにツッコミを入れるのもそこそこに、うなだれてため息を漏らす鯉住君。
おかしなことを言ってはいるが、元気がないというのは本当のことのようだ。
「で、なんでそんなアホみたいなこと思いついたの?
返答によっちゃおしおきだけど」
「あのな、叢雲……例えばの話だ。
街中で、人ごみの中、身長2m越えの大男がのっしのっしと歩いていたら……どう思う?」
「なによ? 藪から棒に」
「いいからさ、想像してみてよ。どういう反応する?」
「……まぁ、珍しいもの見たと思うわよね」
「うん。古鷹はどう思う?」
「そうですね。ついつい目が行ってしまいますよね」
「そう、そうなんだよ……」
「で、アンタ何が言いたいの?」
頭をガシガシしつつ、鯉住君は重々しく口を開く。
よっぽど口に出したくないらしい。
「……俺にとってのそのシチュエーションが、キミたちの服装なの……」
「「 …… 」」
「……」
おかしな空気が流れる執務室。
誰もが何を言っていいのかわからない状態である。
そんな中、古鷹が顔を真っ赤にしつつ、複雑な表情で口火を切る。
「つ、つまり、その……提督は……
私達のその、服装に、無意識に目が行ってしまうと……?」
「……うん、そう……特に胸と脚……」
「帰っていいかしら?」
「見捨てないでくれ、叢雲……
こんなアレな話だけど、俺、真剣だから……」
「セクハラで憲兵呼ぶわよ?」
「なんかもうこれが相談できるなら、憲兵でも誰でもいい気がしてる……」
「そ、そこまで追い詰められて……」
セクシーが服を着て歩いているような艦娘ばかりの職場で、脂がのった年齢の男性がひとり。
そして相手は全員部下であり、そういう関係になるのは望ましいことではない。
さらに言うとその反面、女性陣からのアプローチはそこそこにあり、「別に手ぇ出していいんちゃうん?」なんて心の声が聞こえることも。
……そんな状況でここまでうまくやってこれたことが、すでに奇跡的だと言える。
仮とはいえケッコンしているので、同意の下でなら手を出しても問題ないといえば問題ない。
しかし彼としてはそれは望まないところ。
自分が艦娘とそういう関係となる可能性は、念入りに切り捨てるようにしているのだ。
……でも、そんなこと言っても、やっぱり艦娘の理性破壊力はえげつない。
ふとした瞬間に、その豊かな胸元や、はち切れんばかりの尻や太ももをガン見したい、あわよくばタッチしたいと思ってしまうことも多々ある。
しかしそれをしたらオシマイということくらいはわかっているため、理性で本能を押さえつける日々を送っている。
多分オシマイというのは、セクハラ相手を一生面倒見て幸せになる的なオシマイで、それは世間一般で言うハッピーエンドなのだろう。
それでもオシマイはオシマイなのだ。回避しないといけない。
顔を合わせれば引っ付いてくる秋津洲や明石、たまに北上、
隠す気ないやん、と言いたくなる丈の天龍龍田姉妹と初春に叢雲、
上着からモロ見えするおへそとくびれが眩しい北上大井姉妹、
無意識でダイナマイトバディを密着させてくる天龍、
性フェロモンがヤバいことになってる龍田、
事あるごとに幸せ家族計画(ペットは魚)を語るアークロイヤル、
出撃の度にご褒美に膝枕を要求し、股間で頭をぐりぐりする天城、
うっすいTシャツに、ホットパンツという超軽装でウロウロする天城、
毎度毎度、風呂上がりに全裸で部屋まで戻ろうとする天城、
などなど……
毎日が修行僧顔負けの精神修行と化しており、ついに限界が来てしまったというわけだ。
「まあ、その……俺も男だし、さ……
キミたちみたいな美人が、その、なんだ……魅力的な服を着てると……
本能が刺激されるというか……辛抱溜まらんというか……」
「……で、そんなワケわかんないこと言いだしたってことね」
「うん、そう……
せめて服装だけでも、刺激の少ないものにできればと思って……」
「そこでスパッツが出てくるあたり、アンタが普段からどこ見てんのかよくわかるわよね。
ま、見られてる側としては気づいてたけど」
「……マジ?気づいてたの?」
「アンタは露骨すぎるのよ。
まず胸とか脚とか見てから目を見てくるのは、そんな思考回路だったからなのね。ロクでもないわ」
「だってさぁ……もうぶっちゃけるけど……
叢雲の制服、なんでそんなにスカートの丈が短いの?
謎のスリットまで入ってるし。
あとスリットと言えば、胸元にも2本入ってるじゃない?
なんでそんなピンポイントな位置にスリット入ってるの?
そりゃ見ちゃうよ……男だったら……」
「提督……最低です……」
「ホントよね。怒るを通り越して、呆れてるわ。
艤装のデザインの理由なんて、そんなの私が知るわけないでしょ?」
「もうさ、ひとりでため込むのは限界なんだよ……
デリカシーの欠片もない発言してるのは自覚してます……」
ある程度吹っ切れたのか、ナチュラルにセクハラ発言をしまくる提督と、それに呆れかえる秘書艦ズ。
とはいえ3人はそこそこ長い付き合いである。
彼がここまで配慮のない発言をするほど追い詰められているということは、十分に伝わっているようだ。
「でもその……皆さんの服装をおとなしくするだけで、
提督は……その……えーと……ガマンできるんですか……?」
「正直言うと、それでも厳しいと思う……
みんな平気でカラダ押し付けてくるし、自意識過剰ではないと思うんだけど、積極的にアプローチしてくれる子もいるし……」
「まあそれは……明石さんとか、アークロイヤルとかね……
あと物理的に近いのは、秋津洲かしら?」
「そうなんだよ……明石のヤツも、秋津洲も、もっと男性との距離感を考えてくれないとさ……
ふたりともちびっこって言うには、成長しすぎてるし……
変な男にあの距離感で接したら、どうなるかわからないし……」
「明石さんはともかく、アンタは秋津洲のこと甘やかしすぎなのよ。
普段からもっと離れるように言いなさいよ」
「一回そう言ったらさ、泣かれちゃって……
もうそれからは諦めて、好きにさせるようにしてる」
「ハァ……それが甘いって言ってんの。
私に言われないと、そんなこともわかんないわけ?」
「あんないい子な秋津洲に泣かれちゃうと、断り切れなくてさ……」
「まったく……ホント、甘ちゃんだわ」
やれやれといったジェスチャーをする叢雲を見て、苦笑いする古鷹。
秋津洲も明石もあんなに距離感が近いのは提督だけなので、実のところ全く心配ない。
それがわかってない叢雲ではないが、それを素直に提督に伝えず『私がいないとダメなんだから』という展開にもっていくあたり、提督への好意が隠しきれていない。
「まぁ、とにかくさ……
この際スパッツと言わず、もっと布面積の多い服装にできないかな?」
「どんな服装がいいのよ?」
「中学生が着てるような、単色芋ジャージ」
「「 却下ね(です) 」」
「なんで!?」
これ以上ないアイデアが即却下されたことに驚く鯉住君。
その理由はというと……
「そんなダサいの女の子が着たがるわけないでしょ?」
「さすがに私も嫌です」
「いいじゃないか別に……
鎮守府にいる以上、誰に見られるわけでもないんだから」
「……仲間とはいえ、そんな姿を自分以外に見られたくはないわ」
「……右に同じです」
ふたりとも本当は『提督にそんな姿見られたくない』と思ってるが、それを口に出すことはしない。
そんな乙女心。
「そ、そうか……ふたりがそう言うなら、他の子もそうなんだろうな……
……あ、そうだ、看護師さんみたいな長ズボンはどう?
上着も薄めの長袖を羽織ってもらってさ」
「……遠慮するわ。却下ね。
というか、鎮守府内で制服艤装を身に着けてなくてもいいわけ?
制服じゃないと、耐久力が人間よりちょっと上くらいまでガタ落ちするわよ?」
「それはいいよ別に。
鎮守府内での制服着用は、奨励されているだけで強制じゃないから。
奨励されている理由も、深海棲艦の強襲に備えろってことだし」
「そもそもウチに攻め込んでくる深海棲艦なんて居ませんからね」
「そうそう。そんな無謀な奴がいたら見てみたいよ。
制服艤装なしでも戦えるようなメンバーまで居るし……」
「まあ、それはそうね」
「だからさ、肌の露出がほとんどない制服を着てもらってだね……」
「だからそれ、ダサい服しかないでしょ? 絶対イヤ」
「そんなこと言わず……」
「私達を説得したところで、他の皆さんが着てくれるとは思えませんよ?」
「う……それもそうか……
それじゃせめて、スパッツとか、タイツとか……
そういう……中が見えても問題ないものを着用するようにお願いしよう。
掲示板に張り出したいんだけど、いいかな?」
「ハァ……くっだらない話だったけど、アンタが必死なのはよくわかったわ。
本当はダメって言いたいけど……いいわ、許可してあげる」
「すまないねぇ……」
「ハードル高いとは思いますが、理由までしっかり記載しないと、皆さん受け入れてくれませんからね?」
「あー……マジか……
『みんながセクシーすぎるから、隠すとこ隠してください』って書かなきゃいけないのかぁ……」
「うっわ。キツイわね、それ」
「新手の刑罰のようですが、必要なことですので……」
「わかったよ……これもみんなをやましい目で見ないようにするためだ……
我慢するよ……」
・・・
どうにか最低限ではあるが、これで性欲問題を緩和することができる……はずだ。
安堵というか、疲れによるため息が口から洩れる。
「はぁ……
すまないな、ふたりとも……変な話に付き合わせてしまって……」
「ホントよもう。
ま、それでアンタのいやらしい視線が無くなるならいいわ」
「善処します……」
「まったく……さ、それじゃ解散しましょ」
「ああ」
話が終わったので、提督と叢雲は席を立つ。
いや、立とうとしたのだが……
「……待ってください」
「「 ??? 」」
なんの用があるのだろうか。
古鷹により待ったがかかった。
「どうしたの、古鷹?
もうコイツの変態じみた提案に付き合わなくてもいいのよ?」
「……少し私、考えたんです。
確かにデリカシーの欠片もないお話でしたが、そうだと分かって打ち明けてくださったんですから、もっと真摯に向き合うべきではないかと……
それに提督がここまで悩んでいることなんだから、おざなりにしてよいことではないのでは……?」
「そ、それはそうかもしれないけど……
これ以上私達が何かしてやることなんてないわよ!」
「いえ、出来ることは……
……その……提督は……なんと言いますか……
性欲処理、とかは、どうしていらっしゃるのでしょうか……?」
「「 !?!?!? 」」
古鷹が真っ赤になった顔でとんでもないことを言い出したせいで、ふたり仲良く固まってしまった。
うつむいてもじもじしているうえ、その瞳はものすごい勢いで点滅しており、めちゃんこ動揺しているということが伺える。
「ちょ、ちょっと古鷹!どうしたっていうの!?
頭でも打ったの!?熱でもあるの!?自分が何言ってるか、わかってるの!?」
「そ、そうだぞ古鷹!
俺がセクハラまがいなことしたのは悪かったから、正気に戻ってくれ!」
「わ、私は正気ですっ!
そ、それで!どうなんですかっ!?答えて下さいっ!!」
「そ、それは……
正直ここにきてから、ロクにできていなくて……
自室があるとはいえ、アイツら(妖精さんたち)がいつもくっついてるし……
提督になる前は、そんなに性欲がたまることがなかったから、何とかなってたけど……」
「アンタも律儀に答えてんじゃないわよおおぉっ!?」
「や、やっぱり……それじゃ……!」
「わ、私が……お手伝いしますっ!!!」
「「 」」
古鷹の爆弾発言に、石化するふたり。
「こ、このままでは、提督は性欲モンスターと化してしまい、鎮守府の人間関係が崩壊してしまいます!!
だから、その……あの……わ、私がっ……!
私が鎮めて差し上げることができればっ……!!」
「……ハッ!!
な、ナニ言ってんの古鷹ァ!!?
アナタがコイツの底抜けの性欲の犠牲になって、みんなを護ろうっていうのっ!?
そんなの私、認めないからぁっ!!」
「で、でも、それしか……!!
それに、その……嫌というわけではっ……その……あうぅ……」
「ホントにナニ言ってんのっ!?
落ち着きなさい!そんなの私、認めないからっ!!
絶対認めないからぁっ!!」
「でもっ……!!」
「古鷹にそんなことさせるくらいならっ……!!
そ、そのっ……!!
私が、代わりにっ……!!」
「 」
提督、未だ戻らず。
「だ、ダメですっ!!
叢雲さんが、提督とそんな関係になんて!
叢雲さんは筆頭秘書艦なんですから、もっと提督とは距離感を……!」
「そ、そんなこと言ったら古鷹だって同じでしょぉ!?
その、あの……筆頭秘書艦だからこそ、面倒見なきゃって……!!」
「ダメって言ったらダメですっ!!
私が言い出したんですから、私がっ……!!」
「ダメなのっ!
コイツの隣にいるのは、その……私じゃなきゃダメなのっ!!
それに、私だって……その……嫌ってワケじゃ……」
ワーワー……!
ギャーギャー……!
あぁ……今日もいい天気だなぁ……
空があんなに晴れている……
あ、鳥だ。……おーい、どこへ行くんだい?
いいなぁ、キミは自由で……
ん?どうしたんだい?俺が自由じゃなさそうだって?
あはは。面白いことを言うんだね、キミは。
本当の自由を掴むために、慕ってくれるみんなが笑っていられるように、
そのために今は自由から離れて、頑張っているだけさ。
ふふふ。頑張れだって?ありがとう。
……ああ、飛んで行ってしまったなぁ……
俺もいつか、あんな風に……
とてもじゃないけど人に聞かせられないような話をする秘書艦ズに、現実逃避して精神を大空に飛ばす提督。
またいつぞやのように、おかしなワールドが展開されてしまった。
……ちなみにこの後、偶然通りかかったらしい龍田に仲良く拳骨を喰らい、全員正気に戻った。
龍田は手際よい鎮圧ののち、
「提督は羊みたいなものなんだから、がっついたら逃げちゃうわよ~?」
という言葉を残し、鯉住君の心を一刀両断していった。
怒涛の超展開からの、とんでもない置き土産に、提督の目からは完全にハイライトがご退場されていた模様。
これによりラバウル第10基地首脳陣には、大和電話号泣事件以来の新たなタブーが生まれてしまったのであった。
後日談
結局『スパッツ着用のお願い』は掲示板に張り出され、鎮守府全員に提督のなっさけない悩みを周知することとなった。
男性特有の悩みに呆れるやら、同情するやら……
鯉住君はかわいそうな人扱いを受けることになった。
しかしそれはそれ、これはこれ。乙女にとって恋は戦場である。
結局そのお願いを守ってくれる艦娘はほとんどおらず、逆にアプローチが激しくなる結果となったのだった。
古鷹が言ってたようなことは断固するつもりはないが、
真剣に性欲処理を考え始めることになった鯉住君である。
本当にすいませんでした