艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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ついにバケツがカンストしてしまいました……
小破で済んだ時の喜び……泊地修理が5人同時でできた時の喜び……!
そんなバケツ節約の喜びが薄れてしまう……!
早く冬イベントでバケツ放出させてぇ……!!(内政マニア感


艦娘の言語について

実は艦娘の言語は、『全人類共通語』です。
日本語訛りとかイギリス英語訛りとか、そういうのはありますが、誰でも理解できる言語を話しています。
人類じゃないからバベられてないんです。ご都合主義ともいいます。


※バベられる……神話・バベルの塔を参照して下せえ




第88話

 

 

 

 

「提督……指示を頼む」

 

『……』

 

 

電探に映るふたつの影。

その影の方角と反対向きに、激しく振れる羅針盤の針。

そして必死で身振り手振り、元来た道を戻るように訴えかける羅針盤妖精さん。

 

ラバウル第9基地の主力艦娘のひとり、重巡洋艦『那智改』は、

自身の提督、鈴木誠吾大佐に、無線を通して指示を仰ぐ。

 

 

……今現在彼女は、以前解放したレベル3海域の哨戒任務に出てきている最中だ。

哨戒部隊は以下の通り。

 

 

旗艦

重巡洋艦『那智改』

 

旗下

軽巡洋艦『長良改』

軽巡洋艦『名取改』

軽巡洋艦『由良改』

駆逐艦 『長波改』

駆逐艦 『高波改』

 

 

解放済み海域の哨戒任務とはいえ、それでもレベル3海域。

はぐれ艦隊にしてもそこそこ強力な編成で現れる可能性があり、そのため艦隊の主力である那智が出てきている。

 

同様の理由から、他のメンバーも決して実力の低いメンバーというわけではない。

第9基地軽巡の顔役である長良型姉妹に、数多くいる駆逐艦の中でも屈指の武闘派である長波と高波。

 

実力ある艦娘。だからこそわかる、この忌避感。

 

 

『……哨戒任務は中止。艦隊速やかに帰還せよ』

 

「了解。……奴らが何者か、探りを入れる必要はあるか?」

 

『那智……声が震えているぞ。

貴様がそこまでなる事態だ。それに羅針盤も警鐘を鳴らしている。

無理は言わない。速やかに帰還せよ。

この通信が終わり次第、白蓮大将に緊急連絡を行う』

 

「……助かる。大将への連絡は任せた。

……では、通信を切る」

 

『了解。無事を祈る』

 

 

プツッ……

 

 

「……」

 

「那智さん……司令官、なんて言ってました?」

 

「一刻も早く戻って来い、余計なことはするな、と」

 

「哨戒任務なのに、提督さんがそんなこと言うなんて……

長良姉、こんなの初めてじゃ……?」

 

「名取の言う通り、いつもなら司令官はもう少し探りを入れさせるよね。

電探に敵影が映った段階では、敵艦から攻撃されることは普通ないもの。

……普通なら、ね」

 

 

深海棲艦と戦闘になるのは、ほとんどの場合において目視確認できる範囲に入ってからである。

 

その距離は約4㎞以内。

そして電探が敵影を捉えた現在、敵艦との距離は約8㎞。

 

普通だったら哨戒任務ということもあり、

もう少し近づいて零水偵を飛ばし、詳しい情報を得ようとするのが普通だ。

零水偵が1,2機飛んでいるのに敵が気付いたとしても、それだけで戦闘まで発展することは少ない。

 

 

……しかし今回は、嫌な予感がする。

駆逐艦にして武勲艦であるふたりの様子が、それを物語っている。

 

 

「な、長波姉さま……!」

 

「ああ、わかるぜ、高波……!

震えが止まらねえよ……!」

 

 

歯をがちがち鳴らしながら、震える体を抑えるふたり。

決して普段からこんな臆病な性格をしているふたりではない。

むしろ武勲艦の経歴通り、任務に対しては他艦種顔負けの勇猛さを見せる。

 

そんなふたりがここまで怯えるとは……

当然旗艦であり実力者の那智も、その嫌な気配はビンビン感じている。

 

 

「詳しくはわからんが、皆の感じる嫌な予感には素直に従うべきだ」

 

「それってやっぱり、その敵艦2隻の正体と関係あるのかな……?

……帰りましょう、那智さん。提督さんの指示に従って……ね?」

 

「ああ。艦隊後方転回。

由良も言う通り、速やかに鎮守府に帰投する」

 

 

(いったい何が起こっている……?

一旦解放した海域は、哨戒を定期的に続ける限り、強力なボス艦隊は出現しないはずだ……

……いや、そもそもこの全身に鳥肌が立つような、おぞましい感覚……レベル3海域で感じるそれではない。

こんなレベルの嫌悪感を感じたのは、大規模作戦時に敵本拠地に突入した時か……

……いや、それよりもこれは……)

 

 

……艦隊はその場を後にし、来た道を戻る。

 

彼女たちを震え上がらせる正体不明のなにか。

その存在を背中に感じながら……

 

 

 

・・・

 

 

 

ラバウル第10基地・工廠

 

 

 

・・・

 

 

 

本日は鯉住君と夕張は非番である。

ということで、ふたりでメンテ練習をしている。

 

研修が終わってからは、なかなか一緒に居る時間をとることができなかったので、鯉住君にとっては久しぶりの機会である。

最後に一緒に仕事をしたのは、大本営の面々の艤装メンテをしたときだろうか。

 

 

「師匠!どうでしょうか?」

 

「そうだな……ちょっと待ってて……うん……

……お見事だね。もう俺から言うことはないよ」

 

「ほ、ホントですか!?」

 

「ああ。俺が整備したとしても、これくらいの仕上がりになると思う。

……よく研修が終わってからも、絶え間なく練習を続けてきたね」

 

「ありがとうございます!

師匠が最初に言ってたこと、最近分かるようになったんです。

『何があっても毎日続けること』。

最初のうちは苦労しましたけど、今となっては毎日練習しないと落ち着かないくらいになりました!」

 

「……! あ、ああ、そうだな……!!」

 

 

自分が最初の最初に伝えたことを忘れず、夕張はずっと頑張り続けてきたらしい。

それを聞いて感極まってしまう鯉住君。

 

 

「……あれ? 師匠、泣いて……」

 

「い、いや、なんでもない。……そんなことはないぞ……

……それより、よくここまでになったね。

これで夕張はもう卒業だな」

 

「そ、卒業……ですか?」

 

「ああ。俺が教えられることがない以上、もう師匠面できないからね」

 

「そ、そうですか……」

 

 

しょんぼりする夕張と、満足げな鯉住君。

ふたりの考えていることが、その表情から伺えるというものだ。

ふたりとも感情がよく顔に出る。似た者子弟とでも言おうか。

 

 

「あ、あの、師匠」

 

「ん? どうしたんだい?」

 

「私、これからもメンテの練習続けます。

またその時には……見てもらえますか?」

 

「ああ、もちろん。

ただし、これからは師匠でなく……信用できる同僚として接することにするけど、それでもいいかな?」

 

「は、はい。少し寂しいですけど……」

 

「ははは。そんなこと言わないで。俺はそっちの方が嬉しいんだ。

師匠より同僚の方が接しやすいからね。

これからもよろしく頼む」

 

「そ、そうですか?

あの……こちらこそよろしくお願いしますっ!」

 

 

がしっ

 

 

満面の笑みで握手するふたり。

ついに師匠と弟子の間柄から、肩を並べて歩む仲間へと関係を進めることになった。

 

夕張としては、今までの特別な関係が壊れないか不安もあったりするのだが、対等な関係というのも魅力的である。

 

 

「……さて、夕張がひとり立ちしたところで……

ちょっと別のお仕事しましょうかね」

 

「ん? お仕事ですか?今日は非番じゃ?」

 

「ああ。ちょっと約束を果たさないとね」

 

「約束?」

 

「そうだな……興味があるんなら、夕張も来てみるかい?

見ていて面白いと感じるかもしれないから」

 

「お、面白い……?」

 

 

 

・・・

 

 

 

提督の話の内容が見えず、首をかしげる夕張。

それを気にせず工廠の奥に進む提督。

 

その進む先には……

 

 

パタパタッ

 

 

「おー、よしよし。 今日はよろしくね」

 

 

パタパタッ!!

 

ピー!ピー!

 

 

「こ、これは……深海棲艦の艤装!

アークロイヤルさんと天城さんの艤装ですか!?

なんでこんなところに!?」

 

 

(へーい!てーとくー!)

 

(ひええー! おひさしぶりですー!)

 

(きょうは、このこたちのせいびですね! だいじょうぶです!)

 

(せいてつじょのちぇっくはばんぜんです! じゅんびよーし!)

 

 

「え、英国妖精さんたち!?

なんで深海棲艦の艤装と仲良くしてるの!?」

 

 

夕張の目の前には、鯉住君にじゃれつくマンタと鳥型艦載機たち。

そしてその艤装たちに乗っかって遊んでいる英国妖精シスターズ。

 

普通の鎮守府の面々が見れば、正気を疑うような光景である。

 

 

「前にこの子たちと約束したんだよ。

お友達みんなそろって、艤装メンテしてあげるって」

 

「そ、そんな約束を……?

え?艤装と約束って、どうやって……?

あ、あれ?深海棲艦の艤装って、メンテできるの……!?」

 

 

頭の中がはてなでいっぱいになり、おめめグルグルになっている夕張。

 

無理もない。

常識ある者では何ひとつ理解できない状況になっているのだ。

当の本人である鯉住君は、そのことに全く気付いていないのだが。

 

 

「し、師匠!大丈夫なんですか……!?」

 

「ああ、うん。大丈夫。

ま、色々急だったろうから、そこに腰かけて見ててよ」

 

「あ、は、はい……」

 

 

 

・・・

 

 

 

「よーしよし。順番に並んでねー。

ちょっと時間かかっちゃうから、あとの子は遊んでてねー」

 

 

パタパタッ

 

ピー

 

 

「ん?外で遊んでてもいいかって?

もちろんいいよ。別にいつ来てくれてもいいからね」

 

 

パタパタッ!

 

ピー!ピー!

 

 

「ああ、そうか。わかった。

……遊び相手が欲しいみたいだから、キミたちも一緒に遊んでてもらってもいいかい?

あ、ただしパーツ交換が必要な子がいるかもしれないから、英国妖精さんひとりだけは残ってもらえるかな?」

 

 

(おふこーす!まかせるねー!

それじゃ、わたしはてーとくのさぽーとするよ―!

まいしすたーず!このこたちとあそんでくるでーす!)

 

(わかりました! おねえさま!ていとく!)

 

(はい!だいじょうぶです!)

 

(えんしゅうごっこしましょう!こうはくせんです!)

 

 

パタパタッ!

 

ピーピー!

 

 

英国妖精シスターズと深海艤装たちは、楽しそうにしながら揃って外に遊びに行ってしまった。

 

そんな光景を見る夕張の頭の上には、はてなマークがいくつも浮かんでいる。

 

 

「あ、あの、師匠……?」

 

「ん?どうしたの?」

 

「私から見るとですね……

大勢の深海棲艦艤装と英国妖精さんに囲まれて、師匠がひとりごとを言ってるようにしか見えないんですが……」

 

「……ああ、そうか。

そういわれるとそうだったな」

 

「その……師匠が妖精さんと話できるのは知ってましたけど……

深海棲艦の艤装とも話ができるんですか……???」

 

「いや、話は出来ないんだけど……

なんとなく何を言いたいのかは伝わってくるっていうか……

言いたいことはわかるっていうか……」

 

「え、ええと……それはつまり、艤装と以心伝心だってことですか……?」

 

「うーん……まぁ、そういうことになるのかなぁ……」

 

「……」

 

 

提督は事もなげに質問に答えながら、てきぱきと深海棲艦の艤装をメンテしていく。

 

その姿を見て、夕張はあまりの衝撃に言葉を失っている。

どうやら自身の提督は、艤装メンテがとんでもなく上手いだけではないようだ。

 

妖精と話ができるうえ、艤装とも心を通わせることができる。

しかもその艤装というのは、敵側とされる深海棲艦の艤装なのだ。

 

さらにさらに……

 

 

「……うん。よし。

どうかな?調子は良くなったかい?」

 

 

パタパタッ!

 

 

「ははは。じゃれつくなって。

その様子だと満足してくれたみたいだね。

それじゃ次の子が控えてるから、作業台からどいてもらっていいかな?」

 

 

パタパタ……

 

 

「そんな名残惜しそうにしないで。またメンテしてあげるから」

 

 

パタパタッ!

 

 

「ふぅ。どいてくれたか……

……よし。次の子は作業台まで来てくれ」

 

 

ピーピー!

 

 

 

……どう見ても生体にしか見えない深海棲艦の艤装。

それをまったく躊躇することなく、淀むことなく、メンテしている。

 

 

……それを見る夕張は、驚きの連続だ。

 

何故あそこで溶接をしたの?

そんなに激しくサンダーかけて大丈夫なの?

生体部分にドライバー使って大丈夫なの?

なんでそんな場所に接合部があるってわかったの?

そのかすり傷って塗装で直るの?

どう見ても肉だけど、それってバリに相当する部分だったの?

 

……自分が艤装メンテするとしたら、手も足も出ないだろう。

だというのに、自身の師匠はまったく悩むことなくメンテを続けていく。

 

ここまでになるのに、どれだけの経験を積めばいいのだろうか?

肩を並べた?とんでもない。

まだまだ師匠と自分の間には、高い壁が立ちはだかっている。

 

……そんなことを実感せざるを得ない夕張であった。

 

 

 

・・・

 

 

 

深海棲艦の艤装が作る順番待ちの列を、どんどんと消化していく提督。

そしてその姿を食い入るようにして見つめる夕張。

 

そんな中、ひとつの変化が。

 

 

プルルルル……

 

 

「……ん? 電話が……天城から?」

 

「天城さんですか?」

 

「ああ。今日は自室で索敵を頼んでいたはずだから……

もしかして敵艦隊を発見したとかかな?」

 

「えっ……!? それって一大事じゃ!?」

 

「どうだろう? とにかく出てみよう……」

 

 

ピッ

 

 

「もしもし」

 

(あぁ、提督……)

 

「どうしたんだい? 敵影が見えたかな?」

 

(いえ……お客さんです)

 

「んん? ……お客さん?」

 

(はい……ふわぁ……)

 

 

布団大好きであり、食事時でもなく、今日の任務は布団の中にいてもできる索敵任務。

そんな条件がそろっているというのに、天城が部屋から出てくるわけがない。

つまり、天城がお客さんを出迎えることなどないはずだ。

 

だいたいお客さんが来たなら、秘書艦のふたりがまずもって気づくはずであるし、そもそもそんな予定は今日は無かったはず。

 

……ではなぜ、天城はそんな連絡をしてきたのだろうか?

 

 

「お客さん……どんな人が来たんだい?」

 

(ええとですね……私達の知り合いです……)

 

「んん??? 私たち?」

 

(はい……私とアークロイヤルの……)

 

「私とアークロイヤル……って……もしかしてっ!」

 

(あ、たった今……波止場から上陸したみたいです……

もうそろそろ着くと思いますので、対応よろしくお願いします……ふわぁ……)

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

(あ、本日は私達の艤装の面倒見ていただいて、ありがとうございます……

それでは……むにゃ……)

 

 

ピッ!

 

 

天城は一方的に電話を切ってしまった……

 

 

「師匠、どんな話だったんですか?

お客さんって聞こえたから、敵艦発見ではなさそうですけど……?」

 

「夕張……隠れるんだ……」

 

「……えっ?」

 

「キミまで巻き込まれることはない……

ちょっとの間、ここから離れて……」

 

 

 

 

 

 

 

「本当ニ……コノ建物ニ居ルノ……?」

 

「のーぷろぶれむ!

人間ノ気配ガスルッ!!忌々シイ人間ノ気配ガッ!!」

 

「殺シチャ駄目ヨ……?

アイツラガ、ソウ言ッテタ……」

 

「おふこーすっ!!

我ラノタメニ、存分ニ働イテモラワナイトネッ!!」

 

「ワカッテルナライイワ……

……アッ、チョッ……ドコ行クノッ!?」

 

「コ、コラッ! 急ニ動イチャ……!!

……ヌワアッ!!……NOOOOOOッ!!」

 

 

 

バタバタバタ……!!

 

ズシン……ズシン……!!

 

 

 

 

 

「……ゴメン夕張……手遅れだったみたい……」

 

「えっ!? えっ!?」

 

 

 

バウバウッ!!

 

……ヌッ

 

 

 

「キャアアアアアアッ!?」

 

 

 

 





実は提督と一緒に居る時間の総計が一番長いのは、夕張なのです。
研修でずっと一緒に居ましたし、それ以前から工廠でずっとメンテ教わってましたし。

だからお話に出ないだけで、親密度はかなり高いんですよね。
鯉住君がひとり立ちした夕張を見て感無量だったのは、そういう裏事情も関係してたみたいです。

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