艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

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ガチ年末しかもイベント開催時期というタイミングで、まったく関係ない話を投稿していくスタイル。




第92話

 

本日は天気も良く、風があり、外出日和。

とはいえ海域解放の予定はなく、予定は近海哨戒任務のみ。

そんな感じなので、いつも以上に緩い雰囲気が流れている。

 

普段は出撃してばかりの天龍も、流石に予定が無くては出撃できない。

というわけで彼女は今、艦娘寮(旅館)の自室で龍田と一緒にダラダラしているところだ。

 

 

「あー……すっげぇ暇……

なぁ龍田、やることないか?」

 

「ないわぁ。

たまにはゴロゴロするのもいいんじゃない?」

 

「そりゃそうなんだけどよ。

なんつーか……落ち着かねぇんだよなぁ……」

 

「研修中は平和な日々なんて、夢でしか見られなかったもんね~」

 

「あんまし思い出したくねぇから、研修の話はしないでくれぇ……」

 

「うふふ~」

 

 

露骨にテンションが下がる天龍を見て、クスクス笑っている龍田。

 

地獄の鬼よりも怖い、地獄の姫級による熱血指導は、彼女の心に大きな爪痕を残していったらしい。

妹の龍田も同様のはずだが天龍よりも芯が強いのか、姉をいじれるくらいには割り切れているようだ。

 

 

「なんかして暇つぶしできねぇかなぁ?

カラダ動かすとかしてよ」

 

「それじゃプールにでも行く~?

あそこなら存分にカラダ動かせるよ~」

 

 

提督が暴走して造ってしまったプールは、実は艦娘たちに好評なのだ。

流れるプールとなっているので、北上や子日なんかはよく流されて楽しんでいる。

 

それは天龍龍田にしても同じなのだが、天龍に関しては楽しみ方がちょっと違ったりする。

彼女はよく流量をMAXにして、ガチンコの競泳にいそしんでいるのだ。

 

その様子はまさに水泳版ルームランナー。

リゾート地の優雅なプールっぽい見た目に反して、やりようによってはトレーニングも出来ちゃうのだ。

 

 

「んー……それもいいけど、あんまし気乗りしねぇなぁ。

水泳って気分じゃなくて、どっちかってぇと陸の上でなんかしたいっつーか」

 

「う~ん……思いつかないなぁ。

私はゴロゴロできればそれでいいよ~」

 

「龍田はしっかりしてるように見えて、結構ものぐさだもんなぁ」

 

「やることはやってるから、それでいいの~」

 

 

特に何か解決するわけでもない会話をしつつ、畳に寝転がりゴロゴロするふたり。

 

ちなみに今のふたりは提督指定の芋ジャージを着用している。

提督はあれから少しでも自身の悩みを解決するため、全員分の芋ジャージを発注して配布することにしたのだ。

これを着て鎮守府内を歩き回ってくれる可能性が少しでもあるなら……という切実な願いがこもっている。

 

しかし結局は普段着として着てくれる部下は誰もおらず、提督の願いが果たされることはなかった。その理由はさまざまであるが。

その代わり、動きやすくリラックスできて手入れも簡単なジャージは、部屋着としてはとっても優秀なので、みんなパジャマ代わりに身につけている。

 

予想外な部分で福利厚生が充実してしまった形。

相変わらず彼の行動は、自分以外を幸せにしていくようだ。

 

 

「……何すっかなぁ……暇だなぁ……」

 

「も~。しょうがないなぁ……」

 

 

研修中の忙しさが身に沁みてしまったので、少しの自由時間でも耐えがたくなってしまったようだ。

忙殺という言葉がぴったりの生活だったので、仕方ないともいえるが。

 

そんな感じで暇を持て余していたところ、ノックの音がした。

 

 

 

トントントンッ

 

 

 

「……ん? 誰だ?」

 

「お客さん? ……は~い。誰かしらぁ」

 

(俺だよ。非番なのにすまないね)

 

「んあ……?提督?今日なんかあったか?」

 

「何もないはずだよ~? 何か御用かしらぁ?提督~」

 

(ちょっと天龍に話があってね。

もし暇してるんだったら、部屋に入れてほしいんだけど)

 

「おっ!暇してたしちょうどいいじゃねぇか!

いいぜ!入ってこ……モガッ!」

 

 

提督を部屋に招こうとした天龍だったが、龍田によって口をふさがれてしまった。

 

 

「乙女の部屋にいきなりやってきて、すぐに入れると思ってるのかしら~?

ちょっと待ってなさ~い」

 

(お、おう……そりゃ当然だよな。

部屋の前に居るから、準備ができたら声かけてくれ)

 

「おっけ~」

 

 

 

 

 

「なにすんだよ龍田。

別に見られて困るもんがあるワケじゃねぇし、すぐに入ってもらえばよかったじゃねぇか」

 

「見られたら困るでしょ~? 私達の服装」

 

「あん?なんかマズいのか?」

 

「女の子が殿方にジャージ姿なんて見せちゃダメよ~。

さ、いつもの制服に着替えましょ~。ふんふ~ん♪」

 

「別に非番なんだから、ジャージ着ててもいいじゃねぇか……」

 

 

ゴキゲンな様子でてきぱきと着替えていく龍田に、渋々といった様子でもぞもぞ着替えていく天龍。

提督的にはジャージの方が嬉しいのだが、部下のみんながそこを加味してくれることはなさそうである。

 

 

 

・・・

 

 

 

暫くした後、提督は無事に部屋に招かれることとなった。

その時に「非番だから制服じゃなくていいのに……」と漏らしたところ、龍田から「そういうワケにはいかないでしょ~」と窘められる一幕があったりした。

 

 

「んで、俺に用ってなんなんだよ?

ちょうど暇してたからいいんだけどよ」

 

「そりゃよかった。

実は天龍にしか頼めないことがあってな」

 

「俺にしか? 見当つかねぇな」

 

 

頭にクエスチョンマークを浮かべながら、首をひねる天龍。

提督直々の頼みで、しかも自分にしかできないこと……さっぱりわからない。

 

そんな姿を見た提督。

そりゃそうだろうという感じで本題を切り出す。

 

 

 

 

 

「あのな天龍……昆虫って大丈夫か?」

 

 

 

 

 

「……んん???」

 

「カブト虫とかバッタとか」

 

「いやそりゃわかるけどよ」

 

「カブト虫獲りに行かない?」

 

「んんん???」

 

 

提督はなんかおかしなこと言いだした。

よっぽど意味が分からない。

これには天龍だけでなく、龍田も首をかしげる。

 

 

「提督ってカブト虫も好きだったの~?

お魚だけじゃなかったのねぇ」

 

「いやいや、そういうワケじゃなくてね」

 

「じゃあどういうワケだよ?」

 

「水族館にさ、植物園があるじゃない?」

 

「……いや知らねぇけど」

 

「あ、あれ?」

 

 

予想と違う反応に肩透かしを食らう提督。

 

 

「当然みたく言ってるけどぉ。

植物園ができてたことなんて、私達聞いてないわぁ」

 

「あー……そっかぁ……

色々忙しかったから、言ったつもりになってたのかぁ……

妖精さん達とアークロイヤルがハッスルして、植物園造っちゃったんだよ。

『魚類の生育には周辺環境を整えるのが不可欠!だから陸上の植生こそ要となるはずよ!』とか言ってた」

 

「養分たっぷりの海をつくるのために植樹するみたいなこと~?

あの人は相変わらずだなぁ……」

 

「まぁそれはそれとして、なんでカブト虫なんだよ?」

 

「いやね、せっかく植生環境整えるんなら、昆虫も導入したいと思ってさ。

あとはそうだね……ホラ、天龍ならわかるでしょ?男の子のロマン。

でっかい箱で生き物飼いたいって」

 

「なんで俺が男の子のロマンを理解できてる前提なんだよ……

俺だって一応女だからな?」

 

「それはそうだけど、なんだかいける気がして。

なんとなくわかんない?男の子の夢」

 

「まぁわかるけどよ」

 

「やっぱり」

 

「私にはわかんないわ~。

私はお部屋でゴロゴロしてるから、ふたりでいってらっしゃ~い」

 

 

 

・・・

 

 

 

龍田は部屋に残し、提督御用達のバンに乗り込むふたり。

 

あの制服で昆虫採集のために森に入るのは流石に厳しい。

ということで、提督指定の芋ジャージに着替えてもらった。

 

天龍は「何度も着替えることになるなら、最初っからそのままでよかったのによ」なんてボヤいていたが、入室前のやり取りを知らない鯉住君には何がなにやらである。

ちなみにトレードマークである頭の電探と眼帯を外しているため、イロモノ感が抜け、相当なカッコいい系美人となっている。芋ジャージではあるが。

 

 

ブロロロ……

 

 

「なんか提督とふたりで出かけるのって、初めてじゃねぇか?」

 

「そう言われるとそうだね。

天龍はいつも出撃してくれてるから、なかなか一緒に居られないんだよな」

 

「まーな。

俺としてはそれで満足だからいいんだけどよ」

 

「たくさん出撃するのは天龍の悲願だったからなぁ」

 

「出撃の時にはそれを汲んで、毎度俺に声をかけてくれるんだもんな。

ありがたい話だぜ」

 

「約束したからね」

 

「その約束したのいつの話だってことだよ。

未だにそんな昔の約束、律儀に守ってくれてるんだからな」

 

「まま、そんなに気にしないで。

戦力としても頼りにさせてもらってるし」

 

「へへっ。そうかそうか。……こっちこそ頼りにしてるぜ。

俺や龍田ができないところはカバーしてくれよな」

 

「もちろん」

 

 

他愛ない話をしながら車を走らせる。

普段なかなか一緒に居ることはないので、こういった些細な話でも新鮮なのだ。

とても朗らかな空気が流れている。

 

カブト虫獲りに行ってるとは思えない。

 

 

 

・・・

 

 

 

鎮守府から約15分。近場の森までやってきたふたり。

ふたりの手には虫かごと虫網が握られている。

 

 

「うし。それじゃ捕獲していこう。

目標はひとり10匹。それだけいれば繁殖も狙えるんじゃないかな?」

 

「わかった。

……しかしあれだ。カブト虫ったって、日本にいる奴とは違うだろ?

どんなタイプを捕まえてきたらいいんだ?」

 

「そうだねえ。

正直どんな種類が生息してるかも知らないし、片っ端でいいかな。

とりあえず捕まえすぎてもあれだから、試しに1時間探してみて成果確認しよう」

 

「提督は魚には詳しいのに、虫にはあまり詳しくねえんだな」

 

「好きじゃないわけではないけど、そこまでじゃないから」

 

「ふぅん。まぁいいや。

……それじゃ探してみるかー」

 

「それじゃ集合場所はこの車のところで」

 

「了解だぜ」

 

 

 

・・・

 

 

1時間後

 

 

・・・

 

 

 

「……捕れたねぇ」

 

「……捕れたなぁ」

 

 

合流するふたりの手には、ギッチギチにカブト虫が詰まった虫かごが。

 

見る人が見れば失神するような光景だが、ふたりにとっては大戦果そのものである。

心なしかふたりともキラキラしてるのが、その証拠だろう。

 

 

「カブト虫だけじゃなくて、クワガタまでいっぱいだね」

 

「おう。提督の指示はカブト虫の捕獲だったんだけど……

なんつーか、見かけたら捕まえたくなっちまって……」

 

「わかる、わかるぞ天龍……

かくいう俺もたくさん捕まえちゃったから。クワガタ」

 

 

ふたりの会話通り、虫かごの中にはカブト虫だけではなくクワガタも。

もっというとカッコいいこがね虫も入っていたりする。

 

ざっと見ても合わせて100匹はいるのでは?

大きめの虫かごを持ってきたのだが、これでは狭すぎる。

 

 

「自分で捕まえといてこんなこと言うのもなんだけどよ……

これ、どーすんだ?」

 

「水族館のドーム部分が植物園になっててさ。

そこは広いから、これだけいても問題ないだろう。持って帰ろうか。

しかしあれだ……このまま持ち帰ろうとすると、狭すぎて半分くらい死んじゃいそうだな……」

 

「だよなぁ。そんなことになるくらいなら逃がしちまうか?

せっかく捕まえたから名残惜しいけどよ……」

 

「いや。俺も逃がしたくない。

というワケで……お前ら、頼んだぞ」

 

 

(まかせろー!)

 

(ろまんのために、ひとはだぬぎます!)

 

(どでかいの、つくっちゃいますよー!)

 

 

ここで登場したのは、提督にいつもくっついている妖精さんたちである。

 

彼女(?)たちも男の子のロマンがわかっているらしく、でっかい虫かごづくりに協力してくれるようだ。

 

 

((( うおおー! )))

 

 

やる気に満ち溢れて、すごい勢いで虫かご(特大)を作り出していく妖精さんたち。

すごく楽しそうである。キラキラしている。

 

 

「……相変わらず魔法みてぇだな」

 

「もう見慣れちゃったから、いつものって感じだなぁ」

 

「提督はもう立派な逸般人だよな」

 

「今のニュアンス、絶対一般人じゃないでしょ?」

 

 

妖精さんたちの高速作業を見ながら雑談するふたりだったが、それもすぐに終わった。

仕事が3分ほどで完了してしまったからだ。

 

目の前には完成した虫かご。

その大きさは1m立方ほどもあり、カブト虫数百匹は収まりそうだ。

ちなみにステンレス製ケージであり、底の方は土が入れられるように皿状になっている。

 

 

「よし。それじゃカブト虫たちをこっちに移そう。

あ、バンの中に妖精さん印の虫かごを移してからね」

 

「おう」

 

「それで虫かごを移した後は、適当な落ち葉や朽ち木を持ってこよう。

まっさらな空間じゃ、カブト虫たちのストレスがたまっちゃうからね」

 

「バッチリ任せとけ。

……んで、提督はどうすんだ?一緒に木とか拾いに行くか?」

 

「いや、俺は俺でまだやることがあってね。

天龍も知ってるだろ?ミミズコンポスト」

 

「ああ。あれってもう稼働してるんだろ?」

 

「いや、実は肝心のミミズがいなくてね。

それを探すのも、ここに来たもうひとつの目的ってわけ。

テキトーなミミズじゃなくて、コンポストに向いたミミズってのが居るから、それを見極めないと」

 

「あー、そしたらあれか。提督は今からミミズ探しに行くってことか。

俺が木とか集めてる間に」

 

「そういうこと。それじゃ雑用っぽくて申し訳ないけど、任せたよ」

 

「そんなことねぇさ。任された」

 

 

 

・・・

 

 

30分後

 

 

・・・

 

 

「終わったかい?

……おお、見事なもんだ。うまいこと朽ち木も落ち葉も収まってるな。

カブト虫たちもずいぶん落ち着いたように見える」

 

「へへ。この天龍様にかかればこんなもんよ。

それでそっちは終わったのか?ミミズ探し」

 

「終わったよ。ほら」

 

 

提督の手には、土がもっさり入ったバケツが。

よく見るとミミズがちらほら顔を出している。随分とってきたのだろう。

 

 

「おー。提督の方こそ見事なもんだ」

 

「お褒めの言葉どうも。

それじゃ、目的達成ってことでそろそろ帰ろうか。

なにかやり残したことはあるかい?」

 

「いや。大丈夫だ。帰ろうぜ」

 

「そっか」

 

 

 

・・・

 

 

 

ブロロロ……

 

 

「なぁ提督」

 

「? どしたの?天龍」

 

「今日は楽しかったぜ。ありがとな。

出撃も当然いいけど、こういうのもいいもんだな」

 

「そう感じてくれたなら嬉しいよ。

せっかくキミたちはさ、艦体じゃなくて人と同じカラダになったんだ。

戦うこと以外の楽しみも知ってもらえるのは何よりだよ」

 

「どうにも俺は戦うことばっかりで、他に目が行ってなかったみたいだ」

 

「兵士としてはそれで正解かもしれないけど、そうなってほしくないからね」

 

「……そっか。それじゃあよ……また俺をどっかに誘ってくれよ。

まだ知らない楽しい事、たくさんあるだろうし」

 

「もちろん」

 

「へへっ。頼りにしてるぜ。旦那様」

 

「ちょ……そういうこと言うのやめて……」

 

 

ちょっとだけいいムードの車内。

普段のふたりだったらそうはならないところだが、イイ感じに気が抜けているおかげで本心が出ているのだろう。

 

天龍が芋ジャージ、後部座席には大量のカブト虫という、ムードもへったくれもないシチュエーションなので、提督が変に緊張してないおかげである。

 

提督といい雰囲気になるためには、ムードが最悪でないといけないのだ。

なかなか矛盾した話である。高難度ミッションなのだ。

 

 

 

……この後ふたりは鎮守府まで戻り、植物園にカブト虫たちを放した。

 

これには水族館のスタッフ妖精さんたちも大喜び。

さっそくロデオのようにカブト虫にまたがり、騎馬戦に興じていた。

彼女たちはどうやってか知らないが、カブト虫を手懐けることに成功した模様である。

 

そしてその後ふたりは、農場に設置してあったミミズコンポスト容器まで向かった。

そこに持ってきた落ち葉に朽ち木、そして肝心のミミズを投入し、満を持してコンポストを稼働開始とした。

 

天龍は終始楽しそうで、誘ってよかったと提督はしみじみ思うのであった。

 

 




みんなが芋ジャージ着てくれない理由


叢雲・古鷹・龍田・大井・夕張・秋津洲・足柄・アークロイヤル……ファッション的な視点から

天龍・北上……姉妹にダメって言われたから

初春・子日……普段の服装の方が楽だから

明石……ツナギの方が気慣れてるから

天城……そもそも服を着たくないから


ちなみにスパッツ履いてくれてるのは、北上と大井だけです。
北上様は腹巻きをしていることもあります。
大井には止められてるようですが。

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