艦これ がんばれ鯉住くん   作:tamino

95 / 185
皆さまあけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

新年一発目は割とライトなお話にしました。




第95話

 

「うーん……このままじゃマズいかも……」

 

 

食堂で腕組みをして、うーんうーんと悩んでいる彼女は秋津洲。

 

彼女は本日食堂担当なのだが……

昼過ぎであり、人もはけて後片付けが済んだので、ひと段落といったところなのだ。

 

最近は足柄からひとりでお昼を任せられるレベルまで料理スキルが上達し、給糧艦と言ってもよい働きができるようになっている。

もちろん提督からの愛のあるスパルタ研修を受け、工作艦としてもずいぶんな活躍ができるようになっている。

 

つまり今の秋津洲は……

水上機母艦でありながら、実態は工作艦であり給糧艦。

しかも性格は駆逐艦という、超ハイブリッド艦娘と化しているのだ。

 

そんな彼女の悩みとは……

 

 

「秋津洲はこのままでも満足だけど、大艇ちゃんをもっと活躍させてあげないと……」

 

 

そう。彼女の一部と言ってもよいレベルで大事にしている二式大艇を、まったく活躍させてあげられていないのだ。

そもそも活躍の機会自体が限られている運用方法しかできないので、仕方ないともいえる。

 

 

そんな理由で彼女がうんうんうなっているところ、提督が食堂に入ってきた。

 

 

「ふう……お、秋津洲じゃないか。ひとりで何やってるんだ?」

 

「あ、提督!」

 

「もうお昼終わっちゃったよね?」

 

「うん。提督遅すぎるかも!

なんでいつも他のみんなとお昼ご飯食べようとしないの?」

 

「あはは……」

 

 

提督が部下とお昼を食べたがらない理由は、いつものあれである。

クッソ短いスカートをはいているメンバーと天城のせいである。

 

旅館の食堂は結構広いため、テーブルもある程度数が揃えられている。

そしてそういったメンバーが離れたテーブルで向かい合いように座っていると……ガードが心許なさ過ぎる。ぶっちゃけよく見ると見える。

 

本人たちはそういった事を気にしていなかったり、そもそもわかっていなかったりするのだが、提督にとっては当然一大事なのだ。

 

というわけで提督は、意図的に昼をひとりで食べるようにしている。

そういった艦娘と距離を詰めて座れば問題解決なのだろうが、そういった相手に限って扱いが大変なのだ。お昼くらいのんびり食べたい。

 

 

「それはとりあえず置いといて……

なんでもいいけど、食べられるものはあるかい?

お茶漬けでもふりかけでもいいから」

 

「むー!せっかく秋津洲が美味しい料理作ったのに、食べてくれないの!?」

 

「あ、もしかしてまだ残ってる?」

 

「『残ってる』じゃなくて、『残してある』かも!

提督が遅いのはいつものことなんだから、それくらい考えてあるの!」

 

「す、すまんね」

 

「もっと提督は早く仕事終わらせて、さっさとお昼食べに来るべきかも!」

 

「それには理由が……いや……なんでもないよ、ごめんね」

 

「何か隠してるっぽいかも……」

 

 

疑いのジト目を向けつつも、秋津洲は料理をよそいに行ってくれた。

そして持ってきてくれたのは、麻婆豆腐とシューマイ、そしてご飯である。

麻婆豆腐はともかく、シューマイを自作したとは……本当に料理の腕が上がったものだ。

 

 

「おー!すごい美味しそう!

これ全部秋津洲ひとりで作ったのかい?」

 

「ふっふ~ん!そうよ!

提督のお嫁さんとして、料理の腕は妥協できないかも!」

 

「お、おう……」

 

 

提督にクリティカルヒットな発言をしながら、ドヤ顔で料理をふるまう秋津洲。

苦笑いすることしかできない提督。

 

もちろん彼女は鯉住君の嫁を自称する勢筆頭のひとりであり、左手の薬指に指輪をしている。

まぁ嫁と言っても本人的には『ものすごく仲の良い家族』程度の認識みたいだが。

 

現に今も提督の隣に腰かけて……というか、提督にくっついて座っている。

いいかげん彼も慣れたようなので、そこまで気にしていないが。

 

 

……とにかく提督的には、そんな話題は広げないに限る。

というワケでさっさと食べ始め、料理の感想の方に話を移すことにした。

 

 

「モグモグ……ああ、すんごい美味しい……

多分このレベルだと、有名ホテルの料理人とかと同じくらいじゃないかな?

こんなにいいものが職場で食べられるなんて、幸せだなぁ……」

 

「ふふっ!提督の胃袋はバッチリ掴んじゃってるかも!」

 

「それは……否定できないなぁ……」

 

「秋津洲の料理じゃないと満足できないくらいにしちゃうかも!」

 

「それけっこう怖いこと言ってるからね?その発想やめてね?」

 

 

実際足柄と秋津洲のハイレベル料理に慣れ過ぎていて、外食する気が一切なくなっているのはご愛敬である。

 

 

「そういえば……さっきはひとりで何を考えてたんだい?」

 

「あ、そうだ。

ねぇ提督、大艇ちゃんを活躍させてあげるのって、どうしたらできるかなぁ?」

 

「大艇ちゃん……秋津洲が大事にしてる二式大艇のことか」

 

「うん。活躍する場面がないって、悲しんでるかも……」

 

「艤装と話ができるなんてすごいなぁ」

 

「提督にだけは言われたくないかも」

 

 

そりゃそうだ。

 

 

「それじゃなんとかして二式大艇の活躍の場を作りたいって事か……

しかしなぁ、二式大艇かぁ……」

 

「ムッ!

いくら提督でも大艇ちゃんのことバカにするのは許さないよ!」

 

「いやそうじゃなくて……

二式大艇をどう使ったらいいのか、ノウハウがないんだよね……」

 

 

艦娘・秋津洲は、この鎮守府で初建造された存在であり、人類初邂逅。

つまり世界中で1体しかいないことになる。

 

そして彼女が持つ『艤装である二式大艇』も世界でただ一機。

そんな状態なので、飛行艇である二式大艇の運用方法は未知のものなのだ。

 

 

「言いたいことはわかるけど、それじゃあまりにも大艇ちゃんがかわいそうかも!

提督、なんとかしてー!」

 

「そうだよね。

秋津洲がそこまで大事にしてるお友達だ。俺もなんとかしてやりたい。

……それじゃまずは……そうだな……」

 

 

かわいい部下であり弟子でもある秋津洲のたってのお願いだ。

なんとかして叶えてあげたい。

 

そこで彼は秋津洲にひとつ確認することにした。

 

 

「なぁ秋津洲、二式大艇は何ができるんだ?

話ができるんなら、その辺はもう確認してるよな?」

 

「うん。大艇ちゃんは長距離偵察が得意かも。

あと昔だったら司令部のおじさんたちをよく運んでたみたい」

 

「偵察なら天城の謎性能があるからなぁ……艤装になった今では人は乗せられないし……

なにか他にできることってないかな?」

 

「一応対潜攻撃は出来るけど、あんまり得意じゃないかも……

昔は雷撃と爆撃だけじゃなくて、艦載機との戦闘までできる、世界最強の万能機体だったのに……」

 

「そっか……艤装になって随分と弱体化しちゃったんだねぇ」

 

「うん……大艇ちゃんも悲しいって言ってるかも……」

 

 

悲しくてしゅんとしてしまう秋津洲。

そんな事情があっては、なおさら放っておくわけにはいかない。

 

 

「……よし。なんとかしてみよう」

 

「……え?一体どうするの?」

 

「二式大艇をちょっといじってみる。

工廠まで秋津洲もついてきてくれないか?これから時間空いてるよね?」

 

「うん。でも……なんとかできるの?」

 

「わからない……けど、提督として部下の要望は出来るだけ聞いてあげたい。

それに何よりかわいい弟子の頼みだ。やれるだけやってみるよ」

 

「!! ありがとう提督!

やっぱり提督は優しいかもっ!大好きっ!」

 

「こ、こら。抱き着いてくるのはやめなさい」

 

 

 

・・・

 

 

工廠へ移動

 

 

・・・

 

 

 

「それで提督……

いったいどうやって大艇ちゃんをパワーアップさせるの?

艤装の性能変更なんて、そんなことできるの?」

 

「厳しいかもしれないけど……

艤装をアップグレードする技術ならあるから、元々備わっていた性能を取り戻すのも出来るんじゃないかなって」

 

「明石の装備改修のこと?」

 

「そうそう。アイツのその技術だよ。

アクティブソナーをパッシブソナーにしたり、水偵を水戦にしたり、色々とんでもない改修があるからさ。

二式大艇もそんな感じで、なんとかできるんじゃないかなと」

 

「うーん。私じゃまだその辺は難しいかも」

 

「普通は明石じゃないと扱えない技術だし、秋津洲ができないのはしょうがないさ。

夕張くらい実力があれば、できるかもしれないけどね」

 

「むー……

確かに夕張には敵わないけど、そういう言い方はデリカシーないかも」

 

「ご、ごめんごめん」

 

 

確かに慕ってくれる弟子に対して、『他の弟子の方が優秀』なんて言うのは失礼だろう。

彼はメンテに関してはストイックなため、そういう発言が出てきてしまったのだが。

 

 

「まぁいいかも。それじゃ提督も、装備改修できるってこと?」

 

「やろうと思ったことがなかったからわからないね。

そもそもメンテと改修じゃ、微妙に畑が違うし。

それでも明石が装備改修してるのは結構見てきたし、なんとかできるかもしれない。やるだけやってみるさ」

 

「わかったかも。がんばってね!」

 

「おう。……それじゃお前ら。ちょっと頑張ってみるか」

 

 

そう言うと、いつものメンツともいえる妖精さんたちがポンッと現れた。

 

 

(よばれてとびでて)

 

(はなしはきかせてもらいました!)

 

(だいていちゃんを、かいしゅうするですね?)

 

 

「さすがに話が早いな。

改修ってよりも性能向上って意味合いが強いけど、一緒にやってみよう」

 

 

((( おーっ!! )))

 

 

 

・・・

 

 

相談中……

 

 

・・・

 

 

 

「んー……やっぱり難しいかな……」

 

「えー? やっぱり無理なの?」

 

 

(ぴんとこないです)

 

(てぃんとこないです)

 

(きらりとひらめきません)

 

 

「お前ら……自分で案とか出せないの?

俺が出したいろんな意見に反応することしかしてないじゃない……」

 

 

(なんかおもいつかないです)

 

(おやつがあればちがうかもなーもしかしてー)

 

(わたしはすこんぶがいいです)

 

 

「おやつで閃くとか、絶対ウソだろそれ。

まぁ自分でも無茶なことしようとしてる自覚はあるから、強くは言えないけどさ。

……仕方ない……アイツにも頼るか……」

 

「明石を呼んでくればいい?」

 

「すまんな。頼んだよ」

 

「わかったかも!」

 

 

そう言うと秋津洲は工廠を飛び出していった。

 

 

(かわいいぶかのたのみ、かなえてあげるですよ?)

 

(だいていちゃんも、もっとつよくなりたいっていってます)

 

(ふぁいとー)

 

 

「なんで他人事なんだよ……お前らも頑張るの。

ほら、ちょっとおやつには早いけどアメちゃんやるから」

 

 

((( ひゅーっ!! )))

 

 

 

・・・

 

 

 

少しして秋津洲は明石を連れてきた。

かくかくしかじかと今までの経緯を説明する。

 

 

「なるほどね。

それで私の装備改修ノウハウに頼りたいって事なのね」

 

「そうなんだよ。俺とこいつ等じゃどうにもいい案が浮かばなくて……」

 

「期待してくれてるのは嬉しいけど、ちょっと私もうまくいかせられるかわかんないよ?

装備改修とは微妙に違うことやろうとしてるわけだし」

 

「それは承知してるさ。

でもな、できたら秋津洲のお願い、叶えてあげたいだろ?」

 

「キミは本当に秋津洲ちゃんに甘いよねぇ……

もっと私にも優しくしてくれてもいいのよ?」

 

「バカ言え」

 

「あー、ひどーい。

秋津洲ちゃんからも、鯉住くんに何か言ってあげてくださいよ!」

 

「おいおい、秋津洲を巻き込むんじゃない」

 

 

明石からの唐突なフリに対して呆れる鯉住君。

しかし秋津洲には何か思うところがあったようだ。

 

 

「ねー提督。前から思ってたけど、どうして提督って明石に冷たいの?

私や夕張にはすっごく優しいのに、それって変かも」

 

「! さっすが秋津洲ちゃん!いいこと言う~!」

 

「明石うるさい。

……あのな秋津洲、別に俺は明石に冷たくしてるわけじゃないぞ?

今までずっとこんな感じだったから、今もそうしてるだけなんだ」

 

「えー」

 

「明石のことは頼りにしてるし、ひどい扱いをしようだなんて、これっぽっちも思ってない。

……ただな……」

 

「あ、もしかしてツンデレってやつ?

私があんまりかわいいから照れてるんでしょ!

この恥ずかしがり屋!むっつり!」

 

「明石うるせぇ!

……ただ、こんな性格だから、そういう態度になっちゃうってだけなの」

 

「ふーん。

よくわかんないけど、仲が悪いわけじゃないなら別にいいかも。

……それよりも、早く大艇ちゃんの改修してほしいかも!」

 

「あ、ああ。そうだな。

……それじゃ明石、進めていくぞ。

まず俺の案ではだな……」

 

「うんうん」

 

 

・・・

 

 

「……なんとかできるかもね」

 

「かなり無茶な設計だけどな」

 

「ホント!?やったぁ!!

これで大艇ちゃんが活躍できるかも!」

 

 

(このせっけいなら、いけそうです!)

 

(さすがはおもしろばかっぷる!)

 

(わたしたちにできないことを、へいぜんとやってのけるー!)

 

 

「うるせぇ!!お前らァ!!」

 

「ねぇ鯉住く~ん、その子たちなんて言ってるの~?

すごく面白い事言ってる気がするんだけど~?」

 

「変なとこに食いついてくるなお前は!?

ニヤニヤしてねぇで、さっさと作業するぞ!!」

 

 

あれから1時間ほど意見を出し合い、かなり無理やり感はあるが、戦闘力を倍増させた改修案を作ることができた。

 

雷装は流石に厳しかったが、爆装と機銃を取り付けることで、水戦以上のスペックを実現するという内容。

普通の艦載機ではこうはいかないが、元々それができた二式大艇なら可能だろう、という見通しだ。

 

 

……あとは明石、妖精さんたちと協力していじっていくだけ。

上手くいけばいいが……

 

 

 

・・・

 

 

1時間後

 

 

・・・

 

 

 

「すっごーい!こんなにすごくなるなんて!

良かったね、大艇ちゃんっ!!」

 

「まさかここまでになるとは……」

 

「意外といけちゃったね……」

 

 

((( いいしごとしたー )))

 

 

なんかすごく予想以上になった。

スペック比較をするとこんな感じ。

 

 

・・・

 

 

(当事者たちには正確な数字は見えないので、なんとなくで性能を把握していると思ってください)

 

 

・二式大艇(元々)

 

対潜+1

命中+1

索敵+12

 

戦闘行動半径 20

 

燃費 高

 

 

 

・二式大艇改(改修後)

 

爆装+6

対空+6

命中+3

索敵+12

 

戦闘行動半径 20

 

燃費 高

 

 

・・・

 

 

対潜能力は低下してしまったが、それを補って余りある装備を増やすことができた。

艦戦や艦爆に見劣りしない性能をつけることができるとは……

 

 

「思ったより色々すんなりと載ったから、調子に乗っちゃったな……」

 

「やっぱり元々できたことだからなのかな……」

 

 

((( はっするしましたねー )))

 

 

その変貌っぷりは、主犯の5名も予想していなかったほどである。

 

 

艦載機は艦娘の視界と連動しているため(はっきりと見えるわけではないが)……

二式大艇が攻撃性能を持ったことで、秋津洲は陸上に居ながら近海での軽い戦闘ならできるようになった。

 

敵の艦載機に見つかっても善戦できるうえ、爆装による攻撃もできる。

一機での運用になるため軽巡級になると怪しいが、低練度のはぐれ駆逐程度なら、問題なく撃沈出来そうだ。

なにより秋津洲の高くないスペックでも、二式大艇一機を操る程度なら問題ない。

 

 

……今回の出来事の結果を受けて、近海哨戒の動きががらりと変わる。

 

今までは天城の超範囲索敵プラス海域哨戒だった。

しかしこれからは、そこに二式大艇の動きを挟むことができるようになる。

 

まず天城が超範囲索敵。

敵影があるようなら二式大艇で偵察、できるなら迎撃。

二式大艇で相手できない規模の艦隊なら出撃。

 

こんな動きが可能となったといえる。

 

これで哨戒のための出撃が減り、圧倒的に燃費が良くなるだろう。

天城が非番の日には特に二式大艇が活躍できる。

 

今までの二式大艇でも、哨戒からの索敵だけなら出来たのだが……

全く未知の艤装ということで、正直思いつかなかった。

飛行艇の運用方法を見つめなおせたということも、今回の大きな収穫だ。

 

 

「これで秋津洲も大艇ちゃんも、もーっと活躍できるようになったかも!

提督っ!明石っ!妖精さんっ!みんなありがとうっ!」

 

「ふふっ。満足してもらえてよかったよ」

 

「そうだねっ!やっぱり秋津洲ちゃんはかわいいな~」

 

((( は~。いやされます~ )))

 

 

はじける笑顔の秋津洲にお礼を言われ、つられて自然と笑顔になってしまう。

今回の出来事での一番の収穫は、彼女の笑顔が見られたことだな。

そんなことを感じる面々なのだった。

 

 




水上機工作給糧駆逐艦・秋津洲改(航空基地性能有)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。