実力派エリートの弟   作:唯一無二の緑刀使い

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迅悠一①

 

 

 

左右から迫り来るブレードに悠紀は冷静に対処した。左右に小さなシールドを出現させてブレードの行く手を阻んだのだ。

 

一瞬動きが止まった二人に向かって悠紀は引き金を引いた。連続で弾丸が発射され、三輪と米屋はやむを得ず飛び退いた。それと同時に三輪は拳銃を引き抜いた。

三輪は下がりながら引き金を引き、弾丸を放つ。その時、悠紀の背後からも弾丸が迫っていた。出水が放ったバイパーだ。

 

悠紀は目の前と背後、そして顔の右側に3つシールドを張った。目の前のものは三輪の弾丸を防ぐため。背後のものは出水の弾丸を防ぐため。ならば顔の横のものは何のためのものなのか。その答えはすぐに分かる事になった。

 

──ガキン

 

悠紀の顔の横のシールドからそんな音が聞こえた。そしてそこから少し煙も立っていた。

 

『うへぇ、生意気にもシールドで防ぎやがったか』

 

内部通話で三輪達の耳に飛び込んできたのは当真の声だった。

 

「当真さん……あんたは太刀川さんの方にいるはずじゃないのか」

 

『おいおい三輪。硬てぇ事言うなよ。あっちはいくら撃っても当たらねえんだぞ?そんな所で撃つのは俺のプライドが許さねえ』

 

「それならこっちも当たらないんじゃないですか?今も防がれてたし。居場所バレましたよ」

 

『確かにこいつもサイドエフェクトで弾道を読みやがるが、何もオートって訳じゃねえ。居場所はバレたとしてもお前らが気を散らせばちゃんと当たる。それに何のために隊長を引っ張ってきたと思ってんだ。なあ?隊長』

 

『うぷ……気持ち悪い……』

 

最後に若干不安になるような事が聞こえたが、出水の質問にちゃんと答えられるように当真はしっかりと作戦を考えていた。そしてこう言っている間にも当真の隊長、冬島の設置した“ショートワープ”で当真は狙撃地点を変更していた。

 

「こっちに来たのは当真さんか……」

 

これはめんどくさい。

そう思った悠紀は悪くないだろう。一瞬でちょこまかと移動して様々な場所から狙撃してくるのだ。味方ならば頼もしい限りだが、敵に回せば鬱陶しいことこの上ない。

 

「俺らは撹乱役って訳か」

 

そう言いつつも米屋は口角を持ち上げた。こちらも出水と同じタイプだ。

 

「ま、妥当だわな。俺らじゃあいつのシールド削れねえし」

 

普通の隊員が使うシールドではよっぽど狭い範囲に絞らないとブレードを防ぐ事は出来ない。トリオンが少ない隊員ならどれだけ範囲を絞ってもブレードを防ぐ事が出来ない場合もある。ブレードを防ぐにはブレードで受け太刀をするのが基本なのだ。

ところが悠紀は違う。悠紀のシールドはブレードも簡単に防いでしまうのだ。

 

「確かにそうだが、こちらから何も出来ない訳じゃない」

 

三輪はそう言うともう一度拳銃の引き金を引いた。

悠紀にとっては弾丸の一つや二つ問題なく防げるものだが、今度の弾丸はシールドで防がずに避ける事を選択した。

すると直後、着弾した塀から六角柱の鉛の塊のようなものが出現した。

 

鉛弾(レッドバレット)か……危ない危ない」

 

「チッ……陽介、続け」

 

「おう!」

 

鉛弾はシールドに干渉しないため、いくらトリオン量が多くてもシールドで防ぐ事は出来ない。普通の弾丸では埒が明かないと思った三輪は射程と弾速を多少犠牲にする代わりに悠紀でも避けるしかない鉛弾に切り替えたのだつた。

 

再び三輪と米屋がアサルトライフルの弾丸をガードしつつ前に出た。

 

「俺も忘れんなよ。──バイパー」

 

出水も悠紀を討伐すべく弾丸を放った。

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

「どうした迅。なんで“風刃”を使わない?」

 

激しい斬り合いの中、太刀川は問うが悠一は答えない。

 

「随分大人しいな。昔の方がプレッシャーあったぞ」

 

「まともに戦う気なんかないんですよ。この人は単なる時間稼ぎ。今頃きっと玉狛の連中がネイバーを逃がしてるんだ」

 

そう言う菊地原、横にいる歌川の悠一が付けた傷から少しずつトリオンが漏れていた。

 

「いいや、迅は予知を使って守りに徹しながらこちらのトリオンを確実に削っている。こいつの狙いは俺達をトリオン切れで撤退させる事だ」

 

「あらら……」

 

第一の目的を見破られた悠一は冷や汗を流す。

 

「なるほど。あくまで俺達を帰らせる気か。“撃破”よりも“撤退”させた方が本部との摩擦が少くて済む」

 

「戦闘中に後始末の心配とは大した余裕だな」

 

「風間さん、やっぱりこの人は無視して玉狛に直行しましょうよ。僕らの目標は玉狛の黒トリガー。この人を追い回したって時間の無駄だ」

 

菊地原は悠一の本当の強さを知らないが故の発言だったが、風間は悠一の“逃げ”を封じる良い手と解釈した。

 

「確かにこのまま戦っても埒が明かないな。玉狛に向かおう」

 

これは悠一にとって訪れてほしくない未来だった。そしてそれと同時に一番確率の高い未来でもあった。

 

「やれやれ……やっぱりこうなるか」

 

刹那、悠一の持つ風刃のブレードの根元から光の帯が出現し、同時に塀を伝った斬撃が菊地原の首を撥ね飛ばした。

 

「仕方ない。プランBだ」

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

遡ること数日。

闇夜の玉狛支部の屋上。

 

「まあ、ここに座れよ。はい、これレイジさん特製のココアな」

 

置かれているベンチではなく丁度腰掛けるのに良い高さの塀に腰を下ろして湯気の立つカップを差し出した。

 

「どうしたの?急に改まって」

 

「実はお前に大事な話があるんだ」

 

「大事な話?」

 

「そうだ。三輪隊が遊真を襲ったのは知ってるだろ?」

 

「うん」

 

「それで本部、特に城戸さんが本格的に遊真の黒トリガーを奪おうとしてるらしい。しかも遠征部隊を使って」

 

それは唐突で、それでいてとても信じられない告白だった。しかし、悠一がそんな嘘をつく訳がない。本当の事なのだろう。

 

「城戸さんは本気だ。ちょっとやそっとで退く事はない。どうやっても穏便に済む未来が見えないんだ」

 

悠一のサイドエフェクトは未来視、未来に広がる無限の可能性を見る能力だ。その悠一が見えないという事は0パーセントとまではいかなくても限りなく訪れる可能性が低い未来だという事だ。

 

「それじゃあ──」

 

「ああ、十中八九本部と衝突する事になる。これは多分避けられない」

 

「どうすれば……」

 

「でも一つだけ本部と全面戦争にならない方法がある」

 

そこまで言ったところで悠一から悲しみの感情が溢れだした。

 

「ど、どうしたの?兄さん」

 

それは悠紀が動揺してしまう程のものだった。

悠一は普段飄々としているように見えて実は心中穏やかでない事もある。それは誰にも悟られない事だが、悠紀だけは例外である。自分に向けられた感情が分かるという影浦のサイドエフェクトにすら悟られない感情でも大きければ悠紀にだけは悟られるのである。今はまさにそのような状況だった。

 

「参ったな。お前に隠し事は出来ないな」

 

自分の感情を読み取って驚いているのだと分かると悠一はわざとおどけてみせる。しかし、そんな事で感情は隠せるものではない。

悠紀は真剣な面持ちで悠一を見る。

 

「……風刃を本部に差し出す」

 

「そんな!」

 

「それしかないんだ」

 

悠一は感情を押し殺した声で言った。

 

「風刃は兄さんの……本当に……それで良いの?」

 

「最上さんはそれぐらいじゃ怒らない」

 

「最上さんじゃない。俺は兄さんの気持ちを聞いてるんだよ」

 

「……確かに風刃を手放すのに抵抗がない訳じゃない。でもそうするのが遊真やメガネ君、千佳ちゃんのためだけじゃなく俺達ボーダーにとっても必ず良い未来に進む事になる。俺はその未来のために動くつもりだ」

 

「もう一度聞くけど、本当に良いんだね?」

 

風刃は現在玉狛支部のものとなっている黒トリガーだ。それに加えて起動出来る者が他の黒トリガーと比べ物にならない程多く、本部が欲しがらないはずがない。一度本部に差し出せば二度と返ってこないかもしれないのだ。

 

「ああ」

 

それでも悠一は言い切った。

 

「二度と間違ったりしない。最上さんにそう誓ったんだから」

 

「……分かった。俺は兄さんが決めた事に従うよ」

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

『悠紀、プランBに切り替える』

 

「了解」

 

シールドを張りながらアサルトライフルで連射している悠紀の元に悠一からの通信が届いた。

これは分かっていた未来だ。遅かれ早かれこうなるだろうとは思っていた。

 

悠紀は悠一に一言返すとアサルトライフルを破棄し、愛用する外側が黒、ブレードが緑色の弧月を生成した。

 

「悪いけど、先輩達にはきっちり負けて帰ってもらうよ。今からは──」

 

悠紀はゆっくりと見せつけるように鞘から引き抜いた。

今までのトリオン切れ狙いではない、はっきりとした宣戦布告。全力で相手を倒そうとしているのだ。

 

全ては──

 

 

「──本気でいかせてもらう」

 

──敬愛する兄のために。

 

 

 

 

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