実力派エリートの弟 作:唯一無二の緑刀使い
城戸の策略?で1000本ノックならぬ1000本模擬戦をやらされ、その帰りには担当ではないのにトリオン兵を倒して一般人の少女を助けた翌日。
「いや~、昨日は申し訳ない」
悠紀はソファーに寝転がって頬杖をつきながら修に言った。
「僕の方こそまさか本部でそんな事をしてたとは知らなくて」
「本当に、あのオヤ……城戸さんのせいでひどい目にあったよ。昨日出来なかった分今日で良かったら付き合うけどどう?」
「ありがとう。お願いするよ」
結局昨日は修の訓練は行われなかった。悠一から事情を聞かされた修は文句を言ったりはしなかったが、やはり訓練はしたかったようだ。
「遊真と千佳ちゃんはもう訓練始めてるっぽいし、俺達も始めようか?」
「ああ」
悠紀はソファーから起き上がるとポケットからトリガーホルダーを取り出した。そして訓練室の方へ歩き出す。
修が悠紀の後に続き、訓練室の扉が閉まったのを確認すると悠紀はトリガーを起動した。
「まずは修の腕前を見せてもらう。全力でかかってきな」
悠紀は弧月を鞘から引き抜いて剣先を修に向けた。
「俺は
「あー、うん。的を狙う練習からしようか」
悠紀は両腕を床について肩で息をしている修に声をかけた。
結果だけ言うと修は恐ろしく弱かった。メインにセットしているアステロイドは動かなくても当たらないような場面が何度かあった。そしてサブにセットしているレイガストはただでさえ他のアタッカー用トリガーよりも重いのに修の腕が加わって振るスピードがかなり遅い。
「メインでアステロイド使うんだったらまず当たらないと話にならないし」
とりまる先輩苦労してるんだなぁ。
きっと悠紀はそう思っただろう。修がB級の隊員達と渡り合うのはまだ難しそうだ。
◆◇◆◇◆◇
その頃の本部。
メディア対策室長である根付は今日も忙しく電話対応をしていた。
「ええ…………そうですか…………嵐山隊以外ですか…………分かりました。検討します」
根付は電話を切るとふぅ、と息をついてハンカチで汗を拭う。万が一にもボーダーの信用を失うような事はあってはならない。電話一本でもかなりの神経を使うのだ。
根付が何やら難しそうな顔で悩んでいるところに偶然城戸が通りかかった。
因みにここは根付の自室の前であるが、何故そんなところに城戸が通りかかったかは聞いてはいけない。
「どうかしたのか?」
「城戸司令ですか。実は三門テレビからたまには嵐山隊以外の隊員の特集を組みたいとの打診がありまして」
「嵐山隊以外を、か」
「ええ。嵐山隊の人気は相変わらずですが他の隊員も見たいと視聴者からのリクエストが来たみたいで。誰が適任かを考えていたところです」
「なるほど。ならば彼が適任だ」
「彼?」
「昨日一日中模擬戦をしていただろう」
「もしかして悠紀君ですか?彼には以前テレビ出演を断られた事がありますが」
「なに、私が口添えすれば大丈夫だ」
その時の城戸の顔はかつて見たことがないほど不気味だったという。
◆◇◆◇◆◇
修の訓練に一息ついてリビングでお菓子をつまんでいると悠紀の端末にメールが届いた。悠紀は何事かと内容を確認すると、急に顔をしかめた。
「どうしたんだ?」
「なんか、城戸さんがあとで本部に来いって」
「本部に?」
「うん。嫌な予感しかしない」
つい昨日ひどい目に遭わされた悠紀はそう言った。ただの勘だったが、それははずれではなかった。実際城戸は悠紀にとってよからぬ事を考えていたのだ。
「しかもレイジさんは千佳ちゃんの訓練だし
はぁ、と悠紀は溜め息をつく。
「まあでも、時間は指定されてないし夜になれば支部長も帰ってくると思うから夜に行く事にする。だからまだ訓練は続けられるよ」
「ありがとう」
「じゃ、的狙うのも飽きてきたと思うしもう一回模擬戦形式でやろうか」
サッと立ち上がった悠紀はお菓子を頬張りながら一足先に訓練室に向かった。
A級の、それもボーダーで最強の隊員と訓練出来るなどB級に上がったばかりの自分には贅沢過ぎると修は理解しているが、訓練室に足を運ぶのは少し躊躇われた。彼も遠征部隊を目指している身。いつかは勝たなければならない、と思っている。実際には悠紀に勝たなければ遠征部隊になれないという訳ではないが、実力はいくらあっても困らないものだ。
とはいえ、今の実力で悠紀に勝とうとするのは蟻一匹で象の大群に勝とうとするようなものだ。その可能性は宝くじで一等を当てるのと変わらないほど低い。
先ほどの模擬戦では悠紀は宣言通り弧月一本だけでシールドは勿論、旋空やグラスホッパーも使わなかったにも関わらず修は何も出来なかった。
自分の持つ力、トリガーを使って出来る事を一通り考えたが何をしても悠紀にかすり傷を負わせる事も出来なかったのだ。さすがに実力が違いすぎると実感した修は的当ての訓練で満足していたのだが、どうやらそれは終了。飽きてきたのは悠紀の方だったようだ。
◆◇◆◇◆◇
「と、言う訳で君にはテレビの収録に協力してもらう」
「何ヵ月か前にテレビは断ったはずだけど。それにテレビに出るなら俺よりも太刀川さんとかの方が良いんじゃない?」
現在悠紀は城戸の自室に足を運び、来客用のソファーに遠慮なく腰を下ろしていた。
「これは上層部で満場一致の意見だ。勿論林藤支部長も賛成している」
城戸はいつでも会議室にいるようなイメージだが、別にそういう訳ではない。ボーダー本部内を歩き回る事もあるし、夜は勿論ベッドで寝ている。
「それに、既に成人した隊員よりも君のような隊員の方が学生達も親しみやすいだろう」
「勿論拒否権はあるん──」
「君に拒否権はない。これは決定事項だ」
「……別にいいけどさ。それだけのために呼んだにしては色々用意してるみたいだね」
悠紀の目線の先にあるテーブルには空と飲みかけの二つのグラスと未開栓の高級そうなオレンジジュース、既に栓が空いている確実に高級な酒が置いてあった。
もう既に飲んでいるのだろう。
「少し話に付き合ってもらおうと思ったのでな。今時間は大丈夫か?」
「大丈夫だけど、珍しいね。城戸さんがそんな事言ってくるの。忍田さんとかもいるんじゃないの?」
「今日は忍田君や唐沢君とではなく君と話したい気分なんだ」
「そっか」
悠紀は高級そうなオレンジジュースのビンの蓋を開け、一つのグラスに注ぐ。そして城戸もそれに続くように高級な酒をもう一つのグラスに注いだ。
城戸はグラスに注いだ酒を一口飲むと悠紀に目線を戻した。
「奴の、空閑の息子はどうだ?」
「俺達に危害を加える気もなさそうだし玉狛の皆とは上手くやってると思う。こっちの世界のルールに少し疎いようだけど、それは修、三雲が教えてるからたぶん問題ないよ」
「そうか、それは何よりだ。…………話は変わるが君達は私のことを恨んでいるかね?」
「それはこの前の太刀川さん達が襲いに来た事で?」
「そうだ。あの時は我ながら事を急ぎ過ぎたと思っている」
上層部の面々や城戸派の隊員達の前では非情に徹していたようだが、内心では気にしていたらしい。
「俺達は別に城戸さんを恨んだりしてないよ。確かに奪ってでも手に入れようとするのはやり過ぎだと思うし兄さんは風刃を手放す事になったけど、最後はちゃんと遊真の入隊を認めてくれたから。城戸さんの権限で無理を押し通す事も出来たのにね」
「私はそんな極悪非道な真似はしないさ。ボーダーの監視下におけるならこちらとしても好都合だからな」
口ではこう言っているが、曲がりなりにも昔の仲間の息子。放っておく事は出来ないのだろう。
「まあ、1000本模擬戦の事はちょっと恨んでるけどね。お陰でひどい目にあったから」
「ふっ、あれには少し私情を挟んだかもしれないな。だが、君には良い罰だっただろう。隊員達も鍛えられて一石二鳥だ」
常に仏頂面であるいつもよりもかなり機嫌が良い。本格的に酔ってきているのではないだろうか。
二人はこの後、日を跨いでも雑談などを交えながら話を続けた。案の定悠紀は翌日学校に遅れたが、ボーダーから、主に城戸から学校へ遅れる旨の連絡が入っていたため事なきを得た。
因みに後日テレビ撮影はしっかり行われた。