実力派エリートの弟 作:唯一無二の緑刀使い
三雲修①
玉狛支部の訓練室。
いつもの日課を果たすべく悠紀は早めに起きて訓練室を訪れていた。ただし、いつもと違う点がある。
一つ目は悠紀の前に広がる景色。彼の目の前にはいつものバルーンではなく、金やピンクのカラフルなトリオン兵のモールモッドだ。これらは宇佐美がモールモッドを独自に改造したプログラムなので門から出てきたりする事はないが、色々と普通のモールモッドにはない機能がついていたりする。
二つ目は悠紀の腰に提げられている弧月だ。いつもは一本なのに対して今は左右に一本づつの合計
動き出した目の前のトリオン兵を見て悠紀は左右の手をクロスさせるようにそれぞれの柄を掴む。
「旋空弧月!」
いつもの弧月一本の時より単純に手数が倍になっているのだ。当然訓練室の中には激しい斬撃の嵐が吹き荒れる。宇佐美がプログラムしたカラフルなモールモッド達はいとも簡単に切り裂かれた。
「どうかね私のプログラムした“やしゃまるシリーズ”は」
「う~ん、良いとは思うけど、俺的には装甲がめちゃくちゃ硬い“やしゃまるダイヤモンド”とかも作ったらもっと面白いと思うかな。ふあぁ……」
「“やしゃまるゴールド”もなかなかの硬さだと思うけど、確かにダイヤモンドも面白そうですな」
そう言って宇佐美はメガネをキランと光らせた。
今日の日課の様子が変わったのは宇佐美の実験に付き合わされていたからだった。
「眠そうだけど大丈夫?」
「昨日の夜防衛任務入ってたから。でも大丈夫」
「本当に?」
「うん。多分」
登校する用意をすると、悠紀は宇佐美の心配そうな視線に送られて玉狛支部を後にした。
◆◇◆◇◆◇
突然だが、悠紀のクラスメートには三雲修というメガネがいる。正義感が強く不良が誰かを虐めていようものなら迷わず助けに入る。クラスの中でも真面目キャラで通っている。そんな彼は周りには言っていないが実はボーダーに所属している。まだ訓練生のC級隊員のためホームページに名前が載る事もなく、彼がボーダー隊員だという事を知っているのはごく僅かしかいない。そんな彼の目線は自身の席の斜め前の席に突っ伏している悠紀に向かっていた。
(夜遅くまで防衛任務入れるんじゃなかった……)
当の悠紀は眠気に襲われていた。A級一位とはいえまだ中学生。成長期に夜更かしは良くないのだ。
ところで何故修の目線が悠紀に向いているかと言うと、実は彼は特に用事も無かった為、先日行われた公開模擬戦を見るために本部に足を運んだ。そこで彼は度肝を抜かれた。彼が見たのは自分のクラスメートがノーマルトリガー最強の男と呼ばれる忍田本部長と戦いを繰り広げるところだった。同い年の人間が繰り広げるもはや別次元の戦いに言葉が出なかったのだ。
そんなこんなで無意識のうちに修の目線は悠紀に向かっているのだ。勿論、悠紀はその事を知らないが。
「返してよぉ」
「へっ、取ってみろよ」
教室の後ろで不良の生徒が地味めの生徒の筆箱を取って遊んでいる。筆箱を取られた生徒が取り返そうと手を伸ばすと不良はもう一人の不良にパスを出すように筆箱を投げた。近づくとパスし、近づくとパスし、を何度か繰り返すと修が席を立った。止めさせようとしているのだろう。が、その時、不良の手から離れた筆箱は予想外の方向へ飛んだ。そしてその筆箱の先には相変わらず机に突っ伏している悠紀。
(あ……)
修自身はクラスメートとして何度か悠紀と話した事があるので筆箱が当たったぐらいでぶちギレたりしない事は分かっているが、寝起きの人間というのは機嫌が悪いものである。そして修の脳裏には先日見た公開模擬戦の映像がちらつく。万が一、という事があるかもしれない。
「あっ」
「やべっ」
不良達は基本的に悠紀にちょっかいをかけたりはしない。以前チビだとか子供だとか言って悠紀がキレそうになった事があったが、悠紀がボーダー隊員だと知るとそれ以降何もしなくなった。ボーダーに対して何か思う事があるのかもしれない。
が、そんな事は置いといて現在進行形で空中を舞う筆箱は悠紀に向かっていた。
筆箱が悠紀の頭に当たる、と思われたその時、どこからか伸びてきた手が筆箱を掴みとった。誰の手だ?と思われたそれは机に突っ伏したままの悠紀の手だった。そして悠紀はそのまま筆箱を持ち主に向かって投げた。筆箱はすっぽりと持ち主の手の中に収まった。
「みんな、転校生を紹介するから静かにしてね」
扉が開き、クラスの担任が入ってくる。そしてその後ろには制服を着た白髪の子供。よく周りにチビと言われる悠紀よりも少し身長が低い彼は教卓の前に立つと、丁寧にお辞儀をした。
「空閑遊真です。背は低いですが15歳です。遅れてもうしわけない」
遊真が自己紹介を終えて少しすると、担任は修の方を向き直った。
「それじゃあ三雲君、空閑君の事をよろしくね」
修の真面目さが見込まれたのか、偶然修の隣の席が空いているからなのか転校生の面倒は修が見る事になった。その間も悠紀は寝たままだった。
◆◇◆◇◆◇
「さあ!勝負よ!」
「いや、面倒くさいんだけど」
学校が終わった後、玉狛支部に戻った悠紀は小南に絡まれていた。
「今日こそは勝ってやるわ!」
「はぁ……何本するの?5本?10本?」
「10本よ!」
「しょうがない。付き合って上げるよ」
悠紀はソファーから腰を上げるとのそのそと歩き出した。
「その代わり俺が勝ったら小南のおやつ貰うよ」
「い、いいわよ。ど、どうせあたしが勝つし」
悠紀の一言に小南はあからさまに動揺するが、今更止める事は出来ない。このままでは小南のおやつは悠紀の物になってしまう。覚悟を決めるしかないのだ。
「じゃ、先に行ってるから」
「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ」
小南を置いて悠紀は一人で仮想訓練室に入った。そして静かにトリガーを起動する。
「……トリガーオン」
悠紀の腰には相変わらずの黒い弧月が提げられている。
「はぁ、まったく、先輩を置いていくなんて……トリガーオン」
「はいはい」
悠紀に続いて小南もトリガーを起動した。背中に届くような長髪が首筋ほどに切り揃えられたボブカットに変化する。
「いくわよ!」
小南は両腰に備え付けられた小型の片手斧を引き抜き、構えた。
「それじゃあ、まずは……」
そう言いながら悠紀は弧月を引き抜き、
「あんまりあたしを舐めないでよね!」
小南は両手に持った得物を振り下ろした。それを悠紀は弧月で受け止める。つかの間のつばぜり合いが繰り広げられ、一度距離を取るために両者は下がった。
「旋空弧月」
悠紀は再び大振りで旋空を発動した。が、やはり小南は避けた。
未だに悠紀の旋空は小南に掠りもしない。普段ならそうはならない。なら何故か。
そもそも。
本来、トリガーを起動する時やオプショントリガーを使う時、掛け声や技名を口に出す必要はない。何も言わなくてもトリガーを起動する意志を明確にすれば換装する事が出来るし、例えば口でアステロイドと言いながらバイパーを使うという事も出来る。
何が言いたいかと言うと、悠紀や忍田も含めて言わなくても良い技名をわざわざ言う者が多い旋空は相手に自身の攻撃を教えているようなものなので防がれたり避けられたりする事が多い。それに加えて元々旋空は単純な仕組みなので相手に当たりにくい。なので、隊員達は正面からなら旋空を使わずに斬り合う事が多い。旋空は主に牽制や空中などで身動きのとれない相手に使用する傾向がある。
しかし、悠紀、忍田の旋空は他の隊員達とは少し違う。効果時間を減らし、振りを最小限にする事で斬撃の形は“突き”に近くなる。そのため、旋空を発動してから相手にブレードが到達するまでのタイムラグが極端に短い。“忍田旋空”などと揶揄されるこれは受ける側にとって普通の旋空とは別物と言える。
これをほぼ完璧に捌けるのはお互い悠紀と忍田ぐらいなので小南も簡単に避けたりする事は出来ないはずなのだが、今回小南が避けられたのは単純に悠紀が他の隊員達と同じように旋空を放ったからである。簡単な話、悠紀は手を抜いていたのだ。
「あんた、手を抜いてるでしょ」
「分かっちゃう?」
「当たり前でしょ。今日の旋空には全然キレが無いわ」
そう言いながらも振り下ろされる片手斧を見て悠紀は上段に構えていた弧月を下ろした。だが、勝負を諦めた訳ではない。
「いや~」
悠紀は振り下ろされた片手斧が頭に当たる寸前、体を滑らせるように小南の懐に踏み込み、そのまま通りすぎるようにして弧月を振るった。
「たまには旋空で勝負をつけなくても良いかなって思って」
『戦闘体活動限界 小南ダウン』
「生意気なヤツ……」
「まあ、小南が俺に勝ち越せたら先輩って呼んであげるよ」
「良いわ。まだ一戦目だもの。そっちがその気なら今日は勝たせて貰うわ」
「勝てると良いけどね」
◆◇◆◇◆◇
玉狛支部で平和な日常が繰り広げられていた頃。
人影のない場所で修と遊真の二人が向き合っていた。
「俺はあっちの世界から来た。こっちで言うネイバーってやつだ」
「なっ……!?」
修は唐突な告白に驚きを隠せない。
───運命の歯車が動き出そうとしていた。
今回のトリガーセット
メイン
・弧月
・旋空
・free
・free
サブ
・弧月
・旋空
・シールド
・グラスホッパー
今回はこんな感じでした。
終わらせ方が雑になった感が否めないです。