実力派エリートの弟 作:唯一無二の緑刀使い
人影のない警戒区域の住宅街に空中を飛ぶ一つの影があった。
(うちの学校って正隊員いなかったっけ。もしかするとC級ならいるかもしれないけどC級じゃ危ないか)
グラスホッパーで空中を高速移動しながら悠紀は頭を悩ませていた。現在修が学校に現れたモールモッドと戦っているのだが、悠紀は修がボーダー隊員だという事を知らない。と言っても修はC級なので結局危ない。
(もう少し……ん?)
学校まで直線距離約200メートルというところで学校内の気配を探ると案の定モールモッドが校舎に侵入していた。それまでなら想定内だが、そのモールモッドの目の前に人がいるのだ。それが一般生徒ならほぼ即死。一般生徒でなくともB級下位程度なら一人でモールモッドに勝つことはできない。勿論、C級もだ。
「ヤバいな……」
学校まで直線距離約100メートルというところでモールモッドは足についたブレードを振り上げた。
「バイパー……じゃ間に合わないか。仕方ない。いけるか……」
悠紀は空中で弧月の柄に手を置きそのまま体を固定し、目を瞑る。そして自身のサイドエフェクトで目標のモールモッドの位置の詳細を捉えた。
「いや、やるしかない。ふぅ……旋空……弧月!!」
瞠目すると同時に弧月を引き抜いた。現在学校までの直線距離約70メートル。卓越した技術とサイドエフェクトを用いたもはや狙撃とも呼べる絶技は瞬時に目標を斬り裂いた。
◆◇◆◇◆◇
モールモッドに片腕をやられた修は残った方の手でレイガストを持ち、冷や汗を流していた。
(やっぱり僕には無理だったのか?)
正直に言うと修にこの状況の打開策は一つもなかった。そもそも自分のトリガーはC級用つまり訓練用なのだ。訓練用トリガーは正隊員のものよりも威力が抑えられている。
だが、生徒達がいる中で自分だけが逃げる訳にはいかない。今は少しでも時間を稼がなければならないのだ。
修はモールモッドと距離を取る事でなんとか時間を稼ごうとしたが、相手は戦闘用にプログラムされたトリオン兵。下がれば当然距離を詰めてくる。かと言って自分から前に出ると、
「がっ……!?」
モールモッドの高速で振り回されるブレードの餌食になる。修は胸の位置にあるトリオン供給機関を貫かれた。
C級の訓練用トリガーには緊急脱出機能のベイルアウトがついていない。したがって、修はモールモッドの目の前で換装を解除されてしまった。
生身でモールモッドの目の前に立つなど自殺行為だ。ボーダー隊員が使う弾丸は安全処理が施してあるので生身に当たっても穴が開いたりはしないが、敵のトリオン兵に安全処理など施してある訳もなく、このままでは修の体は八つ裂きにされるだろう。
無情にもモールモッドは生身の修に向かってブレードを振り上げた。修は両腕で頭を守ろうとするが、それはただの気休めにしかならない。トリオンでできたブレードにかかれば修の両腕などバターのように斬り裂かれるのだ。
万事休す。
まさしくその言葉通りの状況になってしまい、修は来るであろう衝撃に備えて体全体に力を入れた。が、一向に衝撃は来なかった。恐る恐る目を開けるとそこには弱点である目の部分からトリオンを噴き出しているモールモッドの姿。
「え……!?」
修は何が起こったのか分からず、少しの間キョロキョロすると、修の知った声が聞こえてきた。
「案外いけるな……あ、遅くなった。三雲」
「迅!?」
「正義感の強いやつだとは思ってたけどまさか生身でモールモッドに立ち向かうほどだったとは」
悠紀は生身の修しか見ていないので一度勘違いを始めた。いくら彼のサイドエフェクトでも生身かトリオン体かは分からないのだ。修の片腕が無い時に感知すれば分かったかもしれないが、悠紀が修の気配を感知したのは生身に戻ってからだった。
「いや、実は……」
そう言いながら修はトリガーホルダーを悠紀に見せた。
「三雲、お前ボーダーだったのか。てことはC級か」
「ああ……」
C級隊員は基地以外でのトリガーの使用は許可されていない。今回の修のトリガー使用も規則違反なのだ。だが、修の行動がなければ生徒達は無事では済まなかっただろう。悠紀はその事を分かっているし規則違反についてどうこう言うつもりは無い。
「ありがとう。多分三雲がいなかったらヤバい事になってた」
「え、いや、僕は……」
無駄でトリガーを使った事を咎められると思っていたからか、修の反応は芳しくなかった。だが、悠紀はそんな事も気にしなかった。
「ま、とりあえず下に降りよう。嵐山隊も向かってるらしいし」
悠紀は修を連れて生徒達が避難している運動場に向かった。ついでにもう一体モールモッドがいたが、悠紀によって瞬殺された。
◆◇◆◇◆◇
「へ~、いいやつじゃん。ジンって」
「ああ、でも僕が規則違反を犯したのは事実だ。多分本部に行ったら何らかの罰があると思う。嵐山隊の木虎も言ってたし」
「俺ああいうやつは嫌いだ」
嵐山隊が到着した後、悠紀は現場を嵐山隊に任せて防衛任務に戻った。実はそれから遊真と木虎は一悶着あったのだ。結局、決着がつかないまま今に至るのだが遊真は木虎の事を良く思っていないようだ。
そして放課後。
正門の前で木虎は生徒達に囲まれてポーズをとっており、少し離れた場所に悠紀も立っていた。
「三雲、何もしないと思うけど一応本部までついていくよ。木虎はなんか忙しそうだし行こうか」
悠紀は修に気付くと歩み寄ってきてそう言った。すると、木虎も気付いたようで人混みを掻き分けて三雲の元へ駆け付けた。
「あなたが逃げないように本部まで連行するわ」
「えー、俺は?」
「悠紀君は黙ってて。これはA級の仕事よ」
「いや、俺もA級だし。て言うか一位。俺A級一位なんだけど」
「こ、これは嵐山隊の仕事よ」
「ふ~ん。じゃあ、行こう三雲」
「あ、ああ」
「無視しないでくれる!?」
ちょっとしたコントを繰り広げてから悠紀達は歩き出した。それにはしれっと遊真もついてきている。まあ、元々遊真の方が先に修についてきていたのだが。
遊真と木虎はあまり仲が良くない様子で修もA級隊員二人を前にして萎縮しているのか何も話さないのでこの場には気まずい雰囲気が広がっていた。だがこの沈黙は思わぬ形で破られる事になった。
『緊急警報。緊急警報。市街地に門が発生します。市民の皆さまは直ちに避難してください。繰り返します。市民の皆さまは直ちに避難してください』
響き渡るサイレン音に続いて悠紀達が歩いていた市街地の上空に門が開き、その中からは大型のトリオン兵が二体現れた。そしてそのトリオン兵は宙を浮き、二体とも別々の方向へ進み出した。
「何このネイバー、こんなの見たことないわ!?」
「新型か?はあ、こんな事ならバイパー入れとけば良かったかな。太刀川さんの真似なんてするんじゃなかった」
悠紀は焦ることなく冷静に呟く。大型のトリオン兵はかなりの高さを飛んでいるため、普通のバイパーなどの弾丸は届かないか届いても威力が足りなくなるだろうが、悠紀のトリオン量をもってすれば飛距離と威力を両立する事が出来るのだ。
だが、今悠紀のトリガーセットに弾丸のトリガーは入っていない。
そうこうしている間に大型のトリオン兵はメテオラのように爆発するものを投下し始めた。当然すぐ下にあった建物は崩れる。住民達は避難を始めているが、これが続けばいずれ間に合わなくなってしまうだろう。
「どうやら他の隊員を待っている暇は無いようね。私は右の方をやるから悠紀君は左の方をお願い」
「分かった」
「「「トリガーオン」」」
悠紀と木虎はトリガーを起動し、修も同時にトリガーを起動した。修は学校でトリオン体を破壊されてしまったのでもう一度換装する事は出来ないはずだが、トリオンが少ないおかげでトリオン体が再び生成されるまでの時間がかなり短いのかもしれない。
だが、それでも完全に回復した訳ではないようで武器のレイガストを生成する事は出来なかった。
「やっぱりC級ね。ここは私達に任せなさい」
「すぐに片付けてくるよ。グラスホッパー」
悠紀はグラスホッパーを使って直接空中に、木虎は走って大きな橋に向かった。その二人が自分達から遠ざかったのを確認すると、修は口を開いた。
「イルガーか、珍しいな」
「空閑、あれは?」
「あれは……爆撃用のトリオン兵だ」