実力派エリートの弟 作:唯一無二の緑刀使い
本部の精鋭部隊①
悠紀が2丁拳銃で緑川と遊んでいた頃、遊真は三輪隊との戦いを繰り広げていた。三輪隊はA級の部隊、普通は一人で勝てる相手ではない。しかし、遊真は三輪隊を圧倒するだけでなく話し合いをする余裕を残していた。それもそのはず遊真のトリガーは悠一の“風刃”と同じ黒トリガーだったのだ。
そしてその夜、悠一は遊真を守るためにボーダーに入らないかと誘った。しかし、黒トリガーになってしまった父親を蘇らせる方法を探していた遊真はこちらの世界でも黒トリガーから人間を蘇らせる事は出来ないと分かるとむこうの世界に帰ろうとした。だが、修の説得で修の幼馴染みの雨取千佳と共に三人でチームを結成する事になり、ボーダー玉狛支部に仲間入りを果たした。
◆◇◆◇◆◇
「さて諸君。諸君はこれからA級を目指す。そのためには……」
宇佐美はトントンとペンでホワイトボードを叩いた。
「もうB級になってる修くんを除く千佳ちゃんと遊真くんの二人にB級に上がってもらわなければならない。それは何故か!」
ホワイトボードには三角形が描かれており、ピラミッドのように上からA級B級C級と書かれていた。
「まずはB級、正隊員にならないと防衛任務にもA級に上がるためのランク戦にも参加出来ないのだ!」
「ランク戦?」
「そう。上の級に上がるにはボーダー隊員同士の模擬戦、通称ランク戦に勝たないと駄目なの」
「ふむ、つまり俺がB級になるにはC級のやつらを蹴散らしてくれば良いんだな。それっていつから?今から?」
「慌てんなよ遊真。お前はボーダーのトリガーに慣れる時間がいるだろ。ランク戦にお前の黒トリガーは使えないぞ」
ボーダー本部の正式入隊日までまだ三週間もの時間があるのでボーダーのトリガーに慣れていたとしてもランク戦には参加出来ないのだが。
「黒トリガーは強すぎるから自動的にS級扱いになってランク戦から外されるんだ。メガネ君や千佳ちゃんと組めなくて寂しくなるぞ」
「そうなのか……じゃあ使わんとこ」
「千佳ちゃんはどうしよっか。オペレーターか戦闘員か」
「そりゃもちろん戦闘員でしょ。あんだけトリオン凄いんだから」
遊真も加わって千佳のポジションを決める為の話し合いを始めた。宇佐美がポジション決めの参考にする為の質問を千佳にすると、返答はあまり芳しくなかったが、修が代わりに持久力や集中力があるという事を言い、結果千佳のポジションはスナイパーとなった。
そして後から顔合わせをした小南、烏丸、レイジがそれぞれ遊真、修、千佳を師匠として鍛える事になった。
◆◇◆◇◆◇
『門発生。門発生。遠征艇が着艇します。付近の隊員は注意してください』
ボーダー本部が壁のように囲っている基地の中心に大きな門が開いた。だが、誰一人として慌てる者はいない。出てくるのは遠征部隊が乗った遠征艇なのだから。
「これが今回の遠征の成果です。お納めください城戸司令」
風間はむこうの世界、ネイバーフットから持ち帰ってきたトリガーを城戸に見せるように机の上に置いた。
「ご苦労。無事の帰還なによりだ」
「おお!素晴らしい!これでボーダーのトリガー技術は更なる進化を遂げるぞ!」
見たことのないトリガーを見て鬼怒田は興奮を顕にする。
「鬼怒田さんさ~、遠征艇もうちょいでっかく作れねえの?俺足長いから窮屈で死にそうだったぜ」
ナンバー1スナイパーの当真は忍田を除く上層部の面々の前にも関わらず飄々とした態度で鬼怒田に言った。ここにいる人間でここまで飄々とした態度をとれるのは当真だけである。
「バカ言え。あれよりでかいのを飛ばそうと思ったらトリオンがいくらあっても足りんわい!どうしてもと言うならたまにしか遠征に行こうとしない玉狛の
「そりゃ、難しいな」
鬼怒田の言うやつというのは悠紀の事である。悠紀のトリオンを利用すれば遠征艇を大きくするのも難しくない。しかし、悠紀は毎回遠征に行こうとする訳ではないのでもし遠征艇を大きくした場合、悠紀が同行しないと遠征に行けなくなり、遠征に行く頻度がかなり少なくなってしまうのだ。
「さて、帰還早々で悪いがお前達には新しい任務がある。現在玉狛支部にある黒トリガーの確保だ」
「黒トリガー!?」
「玉狛?」
上から風間、太刀川がそれぞれ違う部分に反応した。何か思うところがあるのかもしれない。
だが、城戸は気にせずに三輪隊に説明を求めた。
三輪隊は人型ネイバー、空閑遊真と交戦した事を説明し、相手の攻撃を学習して自分のものにするという能力があるという事も説明した。
「黒トリガーの行動パターンは?」
「毎朝7時ごろに玉狛支部にやってきて夜の9時から11時の間に自宅に戻るようです」
太刀川の問いに三輪隊の奈良坂が端末を見ながら答えた。
「じゃあ、今夜にしましょう。今夜」
「今夜!?」
しっかり作戦を練ろうと言おうとした根付は声を上げて他の隊員も思わず太刀川の方を見た。
「太刀川さん、いくらあんたでも相手を舐めない方がいい」
「舐める?相手は学習するトリガーなんだろ。時間が経つほどこっちが不利になるぞ」
「っ……!」
適当に言っているかと思いきやしっかり考えていた太刀川に三輪は言い返せずに黙ってしまった。
「なるほどね」
「確かに早い方が良いな」
当真、風間も太刀川の意見に同意したところで、
「良いだろう。部隊の指揮は太刀川に任せる」
「了解」
城戸の言葉でその場合は解散となった。
◆◇◆◇◆◇
暗闇の警戒区域の中を疾走するいくつかの陰があった。
「おいおい三輪、もっとゆっくり走ってくれよ。疲れちゃうぜ」
今から黒トリガーを“奪いに”行くというのに上層部の面々を前にした当真のように飄々とした態度をとる太刀川に三輪は答えない。
因みにトリオン体に身体的な疲労は存在しない。
「っ!?止まれ!」
玉狛支部までもう少しというところで太刀川達は急停止した。目の前に知った顔の人物がいたのだ。
「なるほどそう来るか」
目の前には黒トリガー“風刃”を携えた悠一と特に何も持っていない悠紀が立っていた。
「やあ、太刀川さん久しぶり。ところでみんな揃ってどちらまで?」
「因みにここは通行止めだよ」
「迅さんじゃん。なんでいるんだ?」
悠一と悠紀を前にして最初に口を開いたのは当真だ。
「よう当真。冬島さんはどうした?」
「後ろからゆっくり来てるのじゃない?」
「ありゃ、バレてんのか」
当真の所属する部隊の隊長である冬島は遠征艇での船酔いでダウンしていたが、当真によって強制的に連れてこられた。今の状態では速く走れないため後ろから追いかける形になっており、相手を油断させられるかもしれないと当真は思っていたが、悠紀のサイドエフェクトの前では無意味だったようだ。
「こんな所で待ち構えてたって事は俺達の目的も分かってるよな?」
「うちの隊員にちょっかい出しに来たんでしょ。最近のあいつらは結構いい感じだから邪魔しないでほしいんだけど」
「そりゃ無理だ、と言ったら?」
悠一と太刀川は目線でバチバチと火花を散らせる。
「その場合は仕方ない。実力派エリートとして可愛い後輩を守んなきゃいけないな」
「右に同じ」
「なんだお前ら随分やる気じゃねえか」
太刀川は僅かに口角を上げ、風間が一歩前に出た。
「“模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる”お前達、隊務規定違反で厳罰を受ける覚悟はあるんだろうな?」
「それを言うならうちの後輩だって立派なボーダー隊員だよ。あんたらがやろうとしてる事もルール違反だ」
「何が立派なボーダー隊員だ!ふざけるな!ネイバーを匿っているだけだろうが!」
風間の次は三輪が噛みつく。しかし、それでも悠一は怯まない。
「正式な手続きで入隊した正真正銘のボーダー隊員だ。誰にも文句は言わせないよ」
「ネイバーを入隊させちゃ駄目っていうルールもないしね」
ところどころフォローを入れる悠紀だが、三輪の眼中にはなかったようで悠一の方を忌々しげに睨む。
「いや、お前の後輩はまだ正式な隊員じゃない。玉狛での入隊手続きが済んでても正式入隊日を迎えるまでは本部ではボーダー隊員と認めていない。つまり俺達にとってそいつはただの野良ネイバーだ。仕留めるのに何の問題もない」
そう言って太刀川はバッグワームを解除した。
大学のレポートをサボって風間に追いかけられたり、隊室できな粉をぶちまけたりと普段は間抜けなやつとしか思えない行動しかしない太刀川であるが、このような場では頭が切れるようになる。
三輪は悠一とやり口が似ている太刀川が苦手だった。あくまで“このような場”限定であるが。
「お前達と争っても仕方がない。大人しく渡した方がお互いのためだ。それとも本部と戦争でもするつもりか?」
「あんたたちにとっては単なる黒トリガーでも本人にとっては命より大事な物だ。別に戦争をするつもりはないけど大人しく渡す訳にはいかないな」
「あくまで抵抗を選ぶか。遠征部隊に選ばれるのは黒トリガーに対抗できると判断された部隊だけだ。その俺達の部隊を相手にお前達二人だけで勝てるつもりか?」
風間は何としても話し合いで終わらせたいのか説得を試みている。しかし、
「俺達兄弟を舐めないでほしいな。俺一人ならまだしもこいつがいれば俺達が勝つよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」
悠一は説得に応じるつもりはないらしい。
「俺だって本部と喧嘩したい訳じゃない。退いてくれると嬉しいんだけどな、太刀川さん」
「なるほど未来視のサイドエフェクトか。面白い。お前の予知を覆したくなった」
「やれやれ、そう言うだろうと思ったよ」
戦いの火蓋が切って落とされた。