ジュエルシード、シリアルⅡを封印入手したその日の夜。
「出来ない。出来ないよ‥‥‥どうして?母さん。どうしてなの?」
時の庭園から一人戻ったフェイトは部屋の片隅で体育座りで膝を抱え、一人小さく丸くなっていた。
「どうして?助けて、すずか、アルフ‥‥‥」
今はすずかには会えない。アルフもいない。母プレシアの非情な命令に、フェイトの心は引きちぎれそうだった。
ジュエルシードの確保の他にプレシアがフェイトに命じた事はただ一つだけだった。それは‥‥‥。
◆◇◆◇◆
その日の昼過ぎに遡る。
「あったよ、アルフ。あそこだ」
「やっと見つけたね。でもこれだけ探し回って、たった一つか。こりゃ海のほうも探さないとダメかもだね」
やれやれ、という表情を浮かべ話すアルフ。フェイトはその隣で疲れの色を見せながらも、バルディッシュをシーリングモードで展開する。
「ジュエルシード、シリアルⅡ、封印!」
ジュエルシードがフェイトの金色の魔力光に包まれ、封印が終わる。フェイトは「フゥ」、と一息ついてバルディッシュにそれを収納した。
その帰り道。探査妨害を展開しながら歩く、フェイトとアルフ。
「ねぇ、フェイト。これってあの白い魔導師の魔力だよね?」
アルフも気付いたその魔力は、あの砲撃魔導師のもの。恐らく、ジュエルシードを封印しているのだろう。ジュエルシードを諦めるのは辛い所だが、ここで出ていくのは管理局に見つかる可能性もあるし、やり過ごす事にした。その反応はまだ遠いが、気付かれないよう慎重に歩を進める。
「なぁフェイト、何してるんだい?さっきからキョロキョロして」
「えっ?」
アルフに言われるまで気付かなかったが、フェイトは無意識に視線を動かしていたようだ。フェイトにしてみたらちょっと、ほんのちょっとだけすずかに会えるかも、と思っていただけのつもりだったのだが。
「ハハーン、すずかを探してたのか。それならそうと言ってくれたら‥‥‥」
「アルフ!ちっ、違うから!すずかに会いたいとか、そんなこと思ってないよ!」
フェイトのその思考駄々漏れの答えに、「ハイハイ、分かったよ」と言いつつニヤニヤとするアルフ。
そんな二人の方角へ飛んで来るものがある。敵の砲撃かと警戒する二人だったが、目視できる位置まで近付いた所で止まったそれは、何かの機械のようだ。警戒しながらそれを確認するアルフ。
「通信機?確かこの世界の‥‥‥携帯電話ってヤツだね?何でこんなのが?紙切れが付いてる」
その紙を渡されたフェイトは、日本語で書かれたそれを訳すと、思わず笑みを溢した。
「すずかだよ、アルフ。これですずかと連絡がとれるって」
そうフェイトが言ったのと同時に、ヴヴヴッ、と携帯電話のバイブが作動した。
「何か動いてるよ、フェイト!」「えっと、使い方は‥‥‥」とあたふたして使い方を見た二人。呼び出しのバイブが終わる前に何とかボタンを押す。
《フェイトちゃん?》
「すずか!」
フェイトのテンションが明らかに高くなる。
《そんなに頻繁には使えないかも知れないけど、此れならきっと時空管理局にも気付かれないと思うから。でも一応気をつけてね》
「うん。ありがとう、すずか。連絡する時は気を付けるね」
《またね》と言って電話を切るすずか。そう言えば、すずかはこんなこと迄してくれるのはいいが、大丈夫なのだろうか。その、立場とか。
「まぁ、大丈夫なんじゃないかい?すずかって器用みたいだしさ」というアルフの言葉には微妙に説得力を感じないが、今の所は大丈夫なのだろうと自分に言い聞かせる。いつでも連絡出来るのが嬉しい訳ではない、決して、と。
◆◇◆◇◆
「お帰り、すずか。上手く渡せたの?」
「うん、アリサちゃん。ちゃんと渡せたよ。クロノ君達には気付かれなかったみたいだし、上手くいったかな」
アースラ艦内のアリサの部屋。周りに細心の注意を払い、盗聴の可能性も考えてヒソヒソと話す二人。
「それで、次はどうする?」
「うん、次は‥‥‥フェイトちゃんが今住んでる所に行ってみたいかな。その方が落ち着いて話せそうだし」
「あのロリコンに気付かれないように気を付けないとね」
ロリコンはちょっと可哀想かも、と思いつつ、クロノには気を付けないと、とすずかは思い直した。執務官と言ったか。あの年でそれなりの役職に就いているという事は、それだけのスキル、思考力、洞察力、実力があると言う事。気を付けるに越した事はない。
すずかとアリサがヒソヒソと話す部屋の外。長い廊下を歩くクロノとエイミィは、プレシアについて話していた。
「ねぇ、クロノ君。調べるの苦労したんだけど、プレシアってさ、ヒュードラ事件の‥‥‥」
「そうだよ、エイミィ。あの事件で追放された大魔導師。それで、他に分かった事は?」
「それがさ」と少し躊躇したあと、エイミィはうつむきながら話す。
「すずかちゃんの言ってた『アリシア』ちゃん、亡くなってるんだよね。ヒュードラ事件で」
クロノは腕を組み、うーん、と思考する。初めから違和感を感じてはいたが、すずかの言う通りフェイトは本当にプレシアの娘なのか?アリシアの後に産まれた?しかし。
「それでさ、そのあと子供を産んだって記録ないんだよ、プレシアって。変だよね?フェイトちゃんの事は何も記録にないなんて」
「何だって?エイミィ。確かなのか?」
クロノはエイミィの実力は良く知っているつもりだ。買い被りでも何でもなく、彼女のスキルは他の誰よりも高い。本人には恥ずかしくて中々言えないが、エイミィが調べて見落とすなど考えられない。だとすると考えられる可能性は‥‥‥。
「確かなんだよね、それが。しかも、これ見て?」
と言ってエイミィが画像データを見せる。写っているのがアリシアだと言う。しかしこれは‥‥‥まさか‥‥‥。
「悪い、エイミィ。もう少し調べてくれないか?プレシアのその後と、フェイト・テスタロッサについてだ」
クロノは思う。願わくば、嫌な予感が当たらない事を。
◆◇◆◇◆
一方。フェイトは入手したジュエルシードをプレシアに渡すために、再び時の庭園に戻っていた。
「本当に大丈夫かい?フェイト」
「大丈夫。母さんにジュエルシードを渡すだけだから」
アルフの心配は尤もなのかも知れないが、母さんだってそんなに何度も叩いたりは‥‥‥。
無意識にスカートの裾をぎゅっと握るフェイト。その手が微かに震える。
「フェイト?」
心配そうに此方を見るアルフ。「大丈夫だよ」と再度アルフに言いつつ、玉座の間へと進む。
「じゃあ、アルフ。すずかから連絡あるかも知れないし、これは預かってて」
そう言って携帯電話をアルフに預ける。幸か不幸か、これがこの後のアルフの運命を分ける事になるとは‥‥‥。
その後数刻経過して。やはり、とも言うべき響くフェイトの悲鳴と鞭が打たれる音。
遂にアルフは耐えられなくなり、玉座のドアをその拳でぶち破る。
「プレシアァ!アンタ!」
目の前に倒れて気を失っているフェイトを見やり、沸々と怒りが込み上げる。
「アンタどうしてこんなこと!フェイトの母親だろう!」
プレシアはそんなアルフを冷たい目で見ているだけ。
「‥‥‥あの子は使い魔の作り方が下手ね。余分な感情が多すぎる」
一言そう発したプレシアに、アルフは飛びかかった。
「どうして!どうしてあんなに頑張ってる子にあんな事が出来るんだ!アンタはっ!それでも母親か!」
動こうとしないプレシアのシールドを無理矢理こじ開け、せめて一撃だけでも、と拳を振り上げたアルフ。
「‥‥‥違うわ。それに、目障りよ」
「何だって?!」と声をあげたアルフに、プレシアの雷が放たれた。
◆◇◆◇◆
「フェイト。起きなさい」
プレシアのその声に、フェイトは目を覚ました。
「母、さん?」
寝起きでまだ寝惚けたままのフェイトに、プレシアは話す。
「フェイト。貴女が集めてきたジュエルシード。六個じゃまだ足りないの。早くもっと集めてきて。障害になるものは全て排除しなさい」
「‥‥‥はい、母さん」
心なしか俯いて頷くフェイトに、「それから」と言ってプレシアは続ける。
その一言に、フェイトは激しく狼狽した。
「氷結魔導師、あれは母さんの邪魔なの。貴女なら出来るわ。彼女を殺しなさい」
エイミィとクロノの名コンビ、真相に迫る、の回。原作からは少しずつずれていく。
フェイトさんのすずか依存が進んでいます。
海ジュエルシード回を待たずしてアルフさんが離脱。
なのはさんは出番無しでした。