「ハァ、ハァ、ハァ」
フォトンランサーの嵐を浴びたであろうなのはのほうを見るフェイト。いつの間にか防御も強固な物になっていたあの子だって、これを食らえばきっと倒れる。そしたら、あの子の持っている残りのジュエルシード全てを持って母さんの所へ行って、すずかを‥‥‥‥。
視界を遮っていた煙が晴れていき、なのはの姿が目視できるくらいになって、フェイトは驚愕した。バリアジャケットの上着こそ吹き飛び、インナーと所々破損したスカートのみの姿になってはいるものの、なのはは無事。その場に浮かび、肩で息をしている。
「うそ‥‥‥あれを受けて無事なんて‥‥‥」
「今のは危なかったかも。すずかちゃんに聞いておいて良かった。フェイトちゃん、お話ちゃんと聞かせてね?」
桜色の光輪が、フェイトの体を拘束する。レストリクトロック。『普通なら』魔法を覚えたての魔導師が使える筈のない、収束系の上位魔法。
「うそっ!?いつの間に!」
なのはの魔法センスには、驚かされてばかりのフェイトだが、この場はこれを何とかしなくては。嫌な予感がす‥‥‥
「今度は此方の番!『ハイペリオンーーー』」
なのはの足元に大規模魔法陣が現れる。あれは不味い。さっきジュエルシードを封印する時に見た、あれは。先日受けて墜とされた砲撃の威力の比じゃない。何とか、何とかしないと。桜色の光輪に何とか抵抗し、右手のロックを外したフェイトは、前方にできる限りのシールドを何重にも張る。
「『スマッシャー!!!』」
その桜色の奔流がフェイトを襲う。何重にも張ったシールドも、徐々に砕かれていく。冷や汗を流しながらも、何とかなのはの一撃を食い止めているフェイト。
永遠にも思える程長く感じた砲撃は、シールドあと1枚を残して終了する。
何とか耐えきった。あの子だって、自分に魔力を渡してるんだ。あれだけの砲撃を撃っているし、限界も近い筈‥‥‥。そう考えたフェイトだったが、目の前の光景に唖然とするしかなかった。なのはを再び大規模魔法陣が取り巻いている。今も尚周りの魔力を集めどんどん収束させていて、まるで巨大な太陽のような魔力の塊。この魔導師は、本当になりたての見習いなのか?なのはのセンスに再び驚愕するフェイト。
「収束‥‥‥砲撃‥‥‥」
あれは、あれこそは不味い。いや、そんなレベルではない。あれを食らってしまえば、恐らく自分は立ち上がれない。自分が倒れたら、すずかを助けに行けない。フェイトは文字どおり『無駄な』抵抗を試みた。しかしながら、なのはのバインドは強固。更に言えばハイペリオンスマッシャーを防ぐ為に魔力の殆どを使ってしまっていた今のフェイトには脱出不可能。
やがて収束を終えたそれは、フェイトの頭上で解放の時を待っていた。
「受けてみて!これが私の全力全開!『スターライト・ブレイカー!!!』」
フェイトは自分を襲うであろう巨大な衝撃を想像し、思わず目を瞑った。しかしながら、衝撃は一向に襲ってこない。もしかしたらそれを感じないほどに自分はダメージを受けてしまっているのか。恐る恐るフェイトが目を開けてみると、予想していなかった光景が飛び込んできた。
「死ぬかと思ったよ。全く、クロノはなんて所に転移するんだい」
「こうでもしないとフェイトに当たっていたかも知れないんだ。それになのはだってちゃんと逸らせた。けど、なのははやり過ぎだ!」
目の前には、いつかの執務官と、アルフの姿。ブレイカーを撃ち終えたらしいなのはとフェイトの間で、フェイトを庇うように飛んでいる。フェイトは思わず、叫ぶ。
「アルフ!」
その声に振り返るアルフ。その身体には未だ包帯が巻かれ、完治には程遠い状態。なのはのバインドから解放されたフェイトは、そんなアルフに、居た堪れずフラフラと近づく。
「アルフ。今まで何処に行ってたの?心配したんだよ?」
「ごめんよ、フェイト。色々あってさ。執務官となのは達が力になってくれるって。フェイト、もういいんだ。プレシアの言うことなんて聞かなくても」
フェイトはアルフの言うことの意味がよく掴めなかった。管理局と協力って?母さんの言うことを聞かなくていいってどういう事?
「駄目だよ、アルフ。ジュエルシードを集めないと、母さんが‥‥‥」
「違うんだよ、フェイト。それに、すずかを助けないと」
すずかを助けないと、という言葉に、フェイトは激しく動揺した。やっぱりすずかは母さんに‥‥‥。泣き出したいのを必死に押さえ、フェイトはアルフの言葉に耳を傾ける。
「すずかが独りでプレシアの元に向かったんだ。フェイトの為にって。でも、あの鬼ババァに話が通じるとは思えないんだよ」
フェイトはそれを聞き、青ざめる。すずかは確かにまだ無事かもしれない。でも、それも時間の問題かもしれない。母さんがすずかに会ったら、きっと母さんはすずかを生かしてはおかない。すずか‥‥‥!
「すずかを止めて!すずかが死んじゃう!」
「フェイト・テスタロッサ。君を悪いようにはしないと約束する。身柄は保護させてもらうが、月村すずかを助けるのに協力してもらえるか?」
先程からアルフの隣にいたクロノ。その彼の言葉に、フェイトは黙って頷く。どのみち今のフェイトの状態では、反撃や不意打ちはおろか、逃亡さえも不可能。今はすずかを助ける事で頭が一杯のフェイトは、クロノにジュエルシードを渡そうと、バルディッシュに収納していたそれを取り出した。
と、さっきまで晴れていた空に暗雲が立ち込める。一人事態を察したフェイトは、静かに呟いた。
「母さん‥‥‥」
次の瞬間。紫の巨大な雷がフェイトを襲い、フェイトは海へと墜落していく。ジュエルシードは次元を越えて出現した魔法陣に吸い込まれていく。アルフとなのはが墜ちていくフェイトを慌てて追っていく中、クロノはその魔法陣を睨み付けた。
「プレシア・テスタロッサか!」
《クロノ君!すぐに戻って!アースラが何者からか次元跳躍攻撃を受けてる!》
エイミィからの通信。タイミングから言って、恐らくプレシアの仕業だろう。クロノは拳を握りしめた。してやられた。すぐに体制を整え、時の庭園に乗り込むつもりだったが、アースラの修理が終わるまで動けないだろう。
《エイミィ、アースラの被害は?》
《通信系を少しに、操舵系。それに‥‥‥あぁ、不味いよ、転送ポートもやられてる。大人数での転移は暫くは無理だね》
なのはに抱えられ、気を失っているフェイトを見ながら、クロノは悔しさを露にし、「クソッ」と呟いた。
◆◇◆◇◆
「今の魔力、大きかったね。プレシアさんの、だよね」
《そうでしょうね。マスターすずか、無理だけはしないでくださいますよう。私は貴女あってのデバイスですから》
「ありがとう。大丈夫だよ、スノーホワイト。いざって時の策だって用意してきた。それに、プレシアさんだって説得すればきっと分かってくれるよ」
《私にはそうは思えませんわ。すずか、油断しないでくださいな》
すずかは時の庭園、その入り口に居た。不気味な程静かな庭園に広がった、先程の大魔力に一抹の不安を抱きながらも、すずかは奧へと歩みを進める。すずかの頭の中にある、元居た世界の(些か過剰な)フェイト思いのプレシア。あの姿が、すずかに説得の余地を与えていた。形は違えど、フェイトがアリシアの妹な事には変わりない。話せばきっと分かってくれる筈。そんな淡い期待を胸に、すずかは進む。
玉座の間に着いたすずかは、少し緊張してそのドアを開けた。その最奧。玉座に座るプレシアに、すずかは語りかけた。
「プレシアさん。お話があって来ました。私は‥‥‥」
「氷結魔導師‥‥‥」
一言そう言うとプレシアは右手をすずかに向けた。その手を魔法陣が取り巻き、雷の矢がすずかに放たれる。
「!!『リライズ・アップ!』」
バリアジャケットを纏い、その場で身を捻ったすずか。すんでのところですずかを掠めた雷撃は、後ろの壁に当たり、それの一部を崩壊させた。
「計画に貴女は邪魔なの。ここで死になさい」
「どうして!形は違うかも知れないですけどフェイトちゃんだって貴女の‥‥‥」
「人形よ、あんなもの。私の娘はアリシアだけ」
プレシアの前に、魔法陣が3個現れる。それが何であるか察したすずかは、自らの前方に氷の鏡を作り出し、何重にも重ねる。
それで充分と判断したのか、プレシアの魔法陣から放たれた、たった3発のフォトンバレット。初級魔法の筈のそれが、すずかの張った鏡の盾を全て突き破り、それをもろに受けたすずかは壁に叩きつけられた。
「がはっ‥‥」
すずかは口の中を切り、血を吐き出す。話さえ聞いてもらえない。一応策は用意してきたが、どこまで通用するかわからない。すずかの背中に冷や汗が流れる。予定外なのだ。すずかの知る、並行世界のプレシアよりも、ずっと重く、破壊力のある一撃。あれが初級魔法だというのだから頭が痛い。
「参ったね、スノーホワイト。お話するって雰囲気じゃないみたい」
《データロードを開始しますわよ、すずか。良いですわね?》
「なるべく急いでお願い。私が持ち堪えられそうにないよ」
《冗談はやめてください》と言い残し、スノーホワイトはその作業を始めた。すずかの切り札。すずかが力尽きる前にそれを間に合わせる為に。それとは別に、右手のグローブが外れ、それが変型していく。三ツ又の槍。立ち上がったすずかは右手に収まったそれを構え、叫ぶ。
「『スノートライデント!』プレシアさん、貴女は間違ってる!いきます!」
フェイトちゃん拘束される、の回。同時に無印編ボス戦突入。
思わせ振りなすずかの切り札は、アレです。