Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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祈りは奇跡に

焔と氷の嵐が吹き荒れる中、すずかのバリアジャケットが再構築され、赤を基調としたカラーリングに変わる。トライデントは焔を纏い、左のグローブからは冷気が洩れている。すずかは痛む右脇腹を気にしながらも立ち上がり、プレシアの方を見据えると、前方へと飛び出す。火戟の纏う魔力の焔が膨れ上がり、その先端で渦巻いている。

 

「クロイツェル・ソナタで行くよ!」

 

《了解ですわ!》

 

すずかは降り注ぐ雷の中を踊るように避けながらプレシアへと近付くと、それを振るった。

 

「『フレイムリザレクト!!』」

 

槍の先端に限界まで収縮した魔力の焔が津波のように迸り、先程迄のすずかの攻撃とは比較にならない威力でプレシアを襲う。しかしプレシアは右手をかざしてシールドを前方に展開。それをシャットアウトしてみせた。

 

「私の全力だったんだけど、防がれちゃったね。でも」

 

《ええ。プレシアに新たにシールドを張らせる程度には効果がある、という事ですわね》

 

「当てられれば、何とかなる、かな」

 

すずかは再び背中に流れる嫌な汗を感じながら、明らかに不機嫌になっているプレシアを見る。

紫の魔力をうっすらと纏い、すずかを睨むその瞳は、直視するのが怖いくらい鋭い。

 

「‥‥‥小娘」

 

プレシアは一言だけ発すると、先程迄より一回り規模の大きい魔法陣を展開する。それを確認したすずかは、できる限りのシールドを自身の周囲に展開した。

 

(あれは、ちょっと不味いかな‥‥‥)

 

自身の記憶が正しければ、同じものを見たことがある。元居た世界のプレシアがデュエルで何度か放った事がある、強力な一撃。一撃でT&Hエレメンツの5人を行動不能にした正確無比で大威力の範囲攻撃、サンダーレイジ。フェイトのそれとは比較にならないその威力は、例えすずかがユニゾンしていたとしても耐えきれるかどうか‥‥‥。

 

プレシアが杖を降り下ろすと同時に、巨大な雷がすずかを襲った。その電撃と衝撃に耐えきれず、すずかの意識が遠退く。プレシアは口に手を当て「ゲホッ、ゲホッ」と血を吐いたが、意識のないすずかには気付く事は出来なかった。

 

 

 

 

《‥‥‥か‥‥‥ずか!‥‥‥すずか!》

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥!!」

 

すずかは自身のデバイスの呼び掛けに、すぐに意識を取り戻した。しかし、状況は最悪だった。両手足をライトニングバインドで拘束されている。プレシアへと目を向けると、夥しい数の魔法陣が周りに展開されている。その全てがフォトンランサーであることを確認したすずかだが、避ける事はおろか、シールドを張る事すら出来ない。

 

《すずか!》

 

「これはちょっと駄目かも。やっぱりみんなと来ればよかったかな‥‥‥」

 

みんなに迷惑をかけまいと、一人で説得に来たのをちょっとだけ後悔したすずか。

プレシアの「打ち砕け」という声と共に、その夥しい数の電撃の全てがすずかに降り注いだ。

 

◆◇◆◇◆

 

フェイトは医務室のベッドに座り、項垂れたまま。自身の母プレシアと、大切な友達のすずか。その板挟みになっていた。

 

(母さん‥‥‥すずか‥‥‥私はどうしたらいいの?)

 

一人沈んでいくだけのフェイトの元に、コンコン、というノックと共に、エイミィが訪ねてきた。

 

「フェイトちゃん、隣いいかな?」

 

「‥‥‥はい」

 

「フェイトちゃんにとってすずかちゃんは大切なお友達で、プレシアさんは大切なお母さんなんだよね?」

 

「うん。どっちかなんて、私には選べない‥‥‥」

 

俯いて答えるフェイトに、エイミィは優しく諭す。

 

「どっちかなんて、選ぶ必要なんてないんじゃないかな。二人とも大切なんでしょ?」

 

「二人とも‥‥‥?」

 

「そうだよ。どっちもフェイトちゃんが助けてあげなきゃ。それはフェイトちゃんにしか出来ない事だと思うんだ」

 

エイミィはフェイトの頭を撫でる。悩むフェイトは、目に一杯の涙を湛えつつ、答える。

 

「どうしたらいいのかな?」

 

「それは、フェイトちゃんが決める事だよ」

 

「私は‥‥‥」

 

 

◆◇◆◇◆

 

話が終わり、部屋を出るエイミィ。合流したクロノと話す。

 

「もういいのか?」

 

「うん。フェイトちゃんなら、きっと大丈夫だと思うよ」

 

「そうか」とだけ口にしたクロノは、突入組と合流。エイミィは管制に向かい、それぞれ準備に入る。

 

医務室のフェイトは一人じっと考える。やがて考えがまとまったのか、ユックリと立ち上がると、部屋を出て走り出した。

 

◆◇◆◇◆

 

「うっっ‥‥‥ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ」

 

うつぶせに倒れたまま、すずかは再び血を吐いていた。折角再構築されたバリアジャケットも、既にボロボロ。左手には痛みが走り、動かない。左足も。恐らく、折れているのだろう。何とか動く右手と右足で上体を起こして、柱にもたれかかる。トドメは自らの手で下すつもりなのか、プレシアがゆっくりと近づいてくる。

しかしながら、すずかの瞳は、まだ光を失ってはいない。

 

「ハァ、ハァ‥‥‥何とか‥‥‥耐えたよ。準備は?」

 

《いつでも行けますわよ、マスター!カードロード!》

 

次の瞬間、辺りに巨大な魔法陣が現れる。虚を突かれたプレシアは一瞬固まるが、それが何であるか理解した時には、アイスバインドに拘束されていた。

 

「どこにそんな魔力を!」

 

プレシアが叫ぶ。そのプレシアを中心に、四方に巨大な氷の鏡が現れ、辺りが氷の魔力で覆われる。

 

「『悠久なる凍土、凍てつく棺のうちにて、永遠の眠りを与えよ!凍てつけ!!』」

 

すずかが震える右手でそのデバイス、『デュランダル』を振りかざすと、氷結属性を持った四つの巨大な魔力が氷の鏡に反射し、「いっけぇぇぇ!!」というすずかの声と共に、一つとなってプレシアに降り注ぐ。それは轟音をたててプレシアを周りごと凍りつかせた。

 

 

 

しかし次の瞬間、けたたましい破砕音と共に、覆っていた氷を破壊してプレシアが現れた。すずかを睨む目は一層鋭くなっている。

 

「まさか、殆ど無傷だなんて‥‥‥」

 

すずかはプレシアの力にただただ驚く事しか出来なかった。最後の切り札だったクロノのスキルカード『デュランダル』のエターナルコフィンですら、プレシアには通じない。

 

 

「やっぱり、すぐに殺しておくべきだったわ。完全制御は出来ていないとは言え、あれを使えるなんて」

 

プレシアはすずかの元迄来ると、その右脇腹を蹴りあげる。

何とも表現し難い激痛が襲い、「あ゛ぁぁぁあ゛!!」という悲鳴とも叫びとも言えない声をあげるすずか。二度、三度と蹴りあげられたあと、左足を踏みにじられる。蹴られ、踏まれる度に襲う激痛に耐えられず大粒の涙を流し、悲鳴をあげるすずか。暫くの間続いたそれは、すずかにとって拷問以外の何物でもなかった。

 

やがてプレシアは、すずかの息の根を止めようと、すずかの胸元に杖の先端を突き付ける。抵抗する力すら残っておらず、ひたすら続く激痛に泣きわめく事しか出来ない今のすずかにはどうする事も出来ない。

 

「もう逝きなさい」

 

そう言ったプレシアが杖を振り上げる。

 

(助けて‥‥‥誰か‥‥‥)

 

思わず目を瞑ったすずかだったが、痛みの代わりに耳に飛び込んできた「ガキン!」という音を聞いてハッと目を開けた。

 

「‥‥‥何しに来たの?」

 

そう言ったプレシアの杖をすんでの所で受け止めているデバイスは、バルディッシュ。

 

「フェイト‥‥‥ちゃん」

 

涙で滲んでハッキリとは見えないが、すずかを間一髪で助けたのは、間違いなくフェイト。すずかを守るようにプレシアの前に立っている。

 

「遅くなってごめんね、すずか。それと‥‥‥母さんにお話があって来ました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




悲惨なくらいボロボロのすずか。書いてて作者はドSなんだなぁと改めて確認しました。(もっと酷い拷問案もあった)
王子さまのピンチに助けに来たのは姫でした。

‥‥‥すずか無双を期待されていた方、ごめんなさい。

(※クロイツェル・ソナタ:ベートーヴェン。ヴァイオリン・ソナタ・第9番。)
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