Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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『絆』

 

「母さんにお話があって来ました」

 

相当悩み抜いたのか、フェイトの表情には決意の色が伺える。杖からバルディッシュを離し、すずかを抱きかかえ上げ(所謂お姫様抱っこ)て、プレシアを見つめる。

 

しかしプレシアは、「私は」と話し始めようとしたフェイトの言葉を遮るように言う。

 

「興醒めだわ。あなたと話す事などない。私にはもう時間が‥‥‥ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」

 

話途中から咳き込み、血を吐くプレシア。「母さん!」と心配するフェイトを睨み付けたあと、玉座の方へと歩き始める。

 

「母さん、私は!」

 

「‥‥‥あなたを娘と思った事などないわ。アリシアだけよ。私の娘は。貴女見ていると虫酸が走るわ」

 

そう言ったプレシアが玉座の後ろの扉を開けると、そこには生体ポッドがあった。その中に入っていたものを見たフェイトは、エイミィに全てを聞かされていたとは言え、思わず目を背けた。それに。

 

「ヴっ‥‥‥オ゛ェッ‥‥‥」

 

覚悟はしていたものの、『親友の死体』を見てしまったすずかは思わず吐き気を催し、まだ動く右手で口を押さえた。

 

すずかを心配そうに見たあと視線を戻し、フェイトはプレシアに問う。

 

 

「アリシア、ですね」

 

「そうよ、フェイト。人形の貴女とは違う。私の『一人娘』。貴女と違ってアリシアは優しく笑ってくれた。優しく手を握ってくれた。貴女はアリシアとは全てが違う。私は貴女を作った時から、貴女の事が大嫌‥‥‥」

 

「フェイトちゃんは!」

 

プレシアが言い終わる前に、俯き震えるフェイトの手を握り、すずかは最後の力を振り絞り叫ぶ。

 

「フェイトちゃんは!確かに貴女の娘です!生まれ方は少し違うかも知れないけど、貴女とアリシアちゃんの血と遺伝子を受け継いだ、貴女の娘で、アリシアちゃんの妹です!」

 

「‥‥‥貴女に何が分かると言うの?」

 

『妹』、という言葉に少し反応したように見えたプレシアの問いに、すずかは続ける。

 

「分かります!私は‥‥‥私は次元漂流者だから!!並行世界の、姉妹として存在してるアリシアちゃんとフェイトちゃん、それに過剰なくらいの愛情を注いでるプレシアさんを毎日見てきたから!」

 

プレシアは「だからプレシアさん!」と続けるすずかから視線を反らしたあと、フェイトを見た。フェイトはすずかの告白に驚きながらも、プレシアから視線は外していない。

 

「母さん。私は‥‥‥私は貴女の生み出した人形なのかも知れません。アリシアの遺伝子から作られた、偽物なのかも知れません。ですが、例えどんなことがあっても私は貴女を守る。私が貴女の娘だからじゃない。貴女が私の母さんだから!」

 

続けようと思った、「だから貴女を人殺しになんてさせない」という言葉は飲み込んだフェイト。そんなフェイトとすずかを見たまま、少しの間止まっていたプレシア。暫くして、しかし彼女は「くだらないわ」と口を開くと、手に入れた12個のジュエルシードを起動する。

 

「これから私はアリシアとアルハザードに向かう。こんな筈じゃなかった現実をやり直す為に!」

 

アルハザード。あらゆる技術、魔法を極めたとされる、失われし都。ソコに向かうとプレシアが言い終わったのと同時に、起動したジュエルシードによって次元震が起きる。俯いてしまったフェイトを見て、「プレシアさん!貴女は!」と言いかけてゲホッゲホッと再び血を吐くすずか。プレシアを止めないと、という気持ちをよそに、少しずつ意識が遠退く。

 

「この世界は!こんな筈じゃなかった事ばっかりだよ!!」

 

頭から血を流し、魔導炉の封印をなのはとユーノに託して駆けつけてきたクロノは、すずかの後ろから、気持ちを代弁するかのように叫ぶ。

 

「それから目を背けたり、囚われたりするのは個人の自由だ!けど、それに他人を巻き込んでいい権利なんて、何処にもありはしない!プレシア・テスタロッサ!今すぐジュエルシードを止めて投降するんだ!貴女の存在が必要な人間がまだいるんだ!!」

 

「もう、遅いわ」

 

心なしか悲しそうな表情に見えるプレシアは、クロノの問いに一言そう答えると、起動しているジュエルシードとアリシアの入ったポッドと共に、次元震によってできた虚数空間に落ちていく。

 

《庭園が崩れるよ!みんな早く脱出して!!》というエイミィの声が響く中、すずかは意識が途切れる前に、確かにプレシアの声を聞いた。

 

《もっと早く貴女に会っていれば良かったわ。フェイトをお願い》

 

そこですずかの意識は途切れ、フェイトはすずかを抱えたまま、アースラの突入メンバーと共に崩れる庭園を後にした。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「‥‥‥さん。母さん!」

 

「ふぁぁ。おはよう、フェイト」

 

「おはようじゃないよ。もう。お昼休憩もうすぐ終わりだよ?」

 

ホビーショップT&Hの休憩室。プレシアの意識はまだまどろみの中。もう、昼休憩終わりの5分前。どうやらうたた寝をしていた所をフェイトに起こされたようだ。

 

「あら、もうそんな時間?ちょっと変わった夢を見ていたの」

 

「どんな夢?」

 

フェイトの問いに、プレシアは何故か戸惑ったあと、答える。

 

「そうね‥‥‥すずかちゃんに、フェイトの大切さをお説教された夢、って所かしら」

 

確かに夢だった筈のそれは、しかし何故か妙に現実感があり、まるで昔の記憶を再生しているかのようでもあった。

 

「大切さ?‥‥‥すずかの夢?」

 

「あぁ、すずかちゃんまだ体調悪いんだったわね。母さんデリカシー無かったわね。ごめんね、フェイト」

 

そう言ってフェイトを抱き締めるプレシア。瞳に涙を一杯に溜めたフェイトが「すずか‥‥‥元気に戻って来るよね?」と聞いてきた事に疑問を感じながらも、「大丈夫よ」とフェイトの頭を優しく撫でる。

何故か思い出される夢の中のすずかの事を考えながら、「きっと元気にしてるわ。あのくらいで負けるような子じゃないもの」と発言し、自分の発した言葉に驚くプレシア。あれは夢だったのか、それとも‥‥‥

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「普通なら禁固100年は間違いない所なんだが」

 

「そんな!」

 

「なんだが!!」

 

クロノの回りくどい言い回しに、なのは思わず声をあげてしまった。最後まで聞いてみれば、フェイトは情状酌量で最低でも執行猶予は確実、上手くいけば無罪もあると言う。

 

「よかったぁ~」と言うなのはに、「全く君達は‥‥‥」といいかけたクロノは、「ハァ」と溜め息をつき、エイミィと目を合わせる。

今もベッドで寝ているすずかは重傷ではあるが、命に別状はない。そのすずかに付きっきりのフェイト。

次元空間の乱れが落ち着けば、なのは達を下ろし、ミッドに向かう事になる。そうしたら、フェイトは裁判を受けなくてはならない。裁判自体は切り抜けられるだろうが、フェイトは大丈夫なのか。その、すずかと離れる事に対して。

 

クロノが部屋を出ると、アリサが立っていた。決意を秘めた瞳を見て、クロノは大方の予想をつけ、アリサに向かって言った。

 

「本気でミッドチルダに‥‥‥管理局に来る気なんだな」

 

「愚問よ。行くに決まってるわ。ちゃんと私も連れてきなさいよ」

 

「そうか。後で僕と艦長が親御さんに説明に行こう。すずかの家にも説明しなきゃならないしね。あの怪我では誤魔化し切れない」

 

 

そう言うとクロノは再び歩き出す。自分のような思いをする人間を少しでも減らせるようにと、父と母の背中を追いかけ入った管理局。しかし事件に関われば関わる程に、傷つく人間は増えていく。

 

「フゥ」と一息ついて、クロノはモニターを開く。今回の事件の報告書を仕上げるには骨が折れそうだ。

 

◆◇◆◇◆

 

海鳴公園。別れの時は迫っていた。

海辺に佇むフェイトと、彼女を見て涙ぐむなのはと、複雑な表情のアリサと、優しい笑みを浮かべるすずか。左腕はそうでもなかったが、プレシアに踏みにじられた左足は重傷。元には戻るそうだが、今はまだ車椅子。

 

「みんな、今までありがとう。きっと戻って来るから」

 

「うん。フェイトちゃん。みんなで待ってるよ。それから」

 

そう言ってすずかが差し出したのは、三日月形のトップのついたペンダント。

 

「みんなでお小遣い出しあって買ったの。私達からのプレゼント。みんなとの友情の証だよ」

 

「すずか、私‥‥‥!!」

 

涙を流し、それ以上は言葉に詰まるフェイト。車椅子のすずかに合わせ、立ち膝ですずかを抱き締める。

 

「きっと、きっと会いに来るから!みんなに‥‥‥すずかに!」

 

「悪いが、そろそろ時間だ」というクロノの声に、すずかが戻ろうと車椅子の車輪に手を掛けると、フェイトに強く抱き寄せられた。

 

「えっ?」

 

というすずかの唇に、フェイトの柔らかい唇が触れる。すずかの顔が真っ赤になり、なのはは「ふぇぇぇ!?」と何やら叫んでいる。

 

「フェイト!?あんた何やってんの!?」

 

動揺しているアリサの質問に、フェイトは落ち着いて答える。

 

「この世界では、好きな人と別れる時はこうするんじゃないの?」

 

ポカーン、という音が聞こえてきそうな間。《フェ、フェイトちゃん!それは恋人同士の時だけなんだよ》というすずかの念話に、フェイトの顔も真っ赤になる。

 

「そっ、そろそろいいか?」

 

少し声の上擦るクロノ。その声を聞くと、アリサはアースラ側に移動する。それを見て、なのはとすずかが驚いた。

 

「「アリサちゃん!?」」

 

「私も行くわ。いつか言ったでしょ?『管理局に入ってすずかが戻る方法見付ける』って。もう決めた事だから」

 

「で、でも!」

 

食い下がるすずかに、アリサはウィンクして答える。

 

「すぐに会いに来るわよ。安心して待ってなさいよ」

 

其々の思いを胸に、別れの時は過ぎていく。このあと訪れる脅威など、この時は微塵も知るよしもなく。

 

 

 

 

 

 

‥‥‥因みに、レイジングハートはこの時の二人のシーンを映像に残していた。この映像は後にヴィヴィオとはやてに見付かり、すずかとフェイトを悶絶させる事となった。

 

 

 

 

 




PT事件完結です。次回からは闇の書編。八神家を知っているだけに、すずかの行動が鍵になりそうです。

良いじゃないですか。プレシアさんが救われる世界があっても。

期せずして、嫌、狙ったのか?すずかの初めてを奪ったフェイトちゃんの回でした。

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