12月2日、早朝。すずかは海鳴公園へと向かう。なのはは珍しく寝坊。連日の鍛練で疲れているのだろうと思い、そのままにして今日は一人。
PT事件中に何故か使えるようになった、アリサのカードとデュランダルのカード。それに加え、これまた何故か昨日から魔力を帯び、使えるようになった、ユーノのストラグルバインドのカードと、もう一枚。すずかは公園のベンチに座ってその4枚を持ち、ボーッと眺めていた。
(もしかしてこの世界にも居るの?はやてちゃん‥‥‥)
気を取り直し、すずかは結界を展開。周りの空気が変わっていく。最近はなのはとレイジングハートに付き添い、自身の鍛練も休みがち。今日は一人だし、たまには鍛練でもしようと考え、バリアジャケットに身を包んだすずかは、大きく深呼吸をして、スノーホワイトに語りかけた。
「久しぶりにアリサちゃんとユニゾンしてみよっか?」
《そうですわね》
◆◇◆◇◆
《!! ザフィーラ、お前は主はやての元へ。念のためシャマルを呼べ》
《心得た》
その日、同時刻。海鳴公園でザフィーラの散歩に付き合っていたシグナムは、不意に展開された結界に身構えた。焦りはないが、緊張が走る。
自分達の存在が知られ、不意討ちを食らったのか?だとしたらはやてに危険が及ぶ可能性もある。防御に優れたザフィーラを戻らせ、自身のサポートにシャマルを呼ぶ。シグナムは結界を張った主を注意深く探す。小高い丘の上のベンチの傍に佇む人影がある。彼女が結界を張った主だろうと見当をつけ、少しの間彼女を探る。
(この魔力‥‥‥昨日の魔導師の片割れか。ならば!)
シグナムは自身のデバイス、レヴァンティンを構え、すずかと対峙した。
◆◇◆◇◆
すずかは目の前の出来事に驚きを隠せず固まっていた。見間違えでも何でもない。バリアジャケットを身に付けたシグナムがレヴァンティンをすずかに向けて突き付けている。その瞳はすずかを睨み、殺気を纏っている。
「あ、あのっ!」
すずかがようやく絞り出した声も、シグナムに届く事はなく。
「お前に恨みはないが、我が主の為、その礎となってもらう!行くぞ!」
言い終わると、シグナムはレヴァンティンを振るい、すずかに斬りかかった。すずかは辛うじて反応し、右の爪でその刃を受ける。しかし、その一太刀に耐えきれず、地面に右膝をつく。
「くっ‥‥‥!」
思わず声を漏らすすずか。それは元の世界のシグナムから受けた、どんな一撃よりも鋭く、重い。
「受け止めたか。なかなか出来るな。だが‥‥‥レヴァンティン!紫電一閃!」
レヴァンティンはバシュン、とカートリッジを排出し、その刀身に焔を纏う。すずかは降り下ろされるそれをアイスシールドで受けようとした。
バリン、という音を響かせ、すずかのアイスシールドが真っ二つに斬られ、伸ばしていた右手のスノーホワイトの爪が折れる。「えっ!?」という驚きの声を漏らすのと同時にその一撃をまともに受けたすずかは、吹き飛ばされて近くの大木にぶつかる。その勢いで幹が折れ、すずかはその下敷きになった。
《‥‥‥スノーホワイト、大丈夫?》
《コアは無事ですから、大丈夫ですわ。すずかこそ、大丈夫ですの?》
《うん、何とか。でも》
あえて下敷きになったまま、シグナムが過ぎるのを待つ、すずか。初撃にしろ、紫電一閃にしろ、目の前のシグナムのその太刀のキレ、威力は元の世界のそれを上回る。このまま打ち合っても押し負ける。そう判断し、時間を稼ぐつもりのすずか。幸い、練習の為に準備していたユニゾンのデータロードがもうすぐ終わる。そうなればもっとまともに戦える。だから、もう少しだけ、このままで‥‥‥と思っていたが、そうも行かなかった。シグナムはすずかに真っ直ぐ近付いてくる。やがて目の前迄来たシグナムは、すずかの上に横たわる幹を強引に退ける。
「それくらいでやられてはいまい?」
改めてレヴァンティンをすずかに突き付けるシグナム。どうやら思い通りには行かないらしい。すずかは覚悟を決め、右手のグローブを変形させ、スノートライデントを構える。
元の世界のシグナムとは刀と薙刀とはいえ、週に2~3度手合わせをさせてもらっている。もし根本が同じなら、キレや一撃の重さに違いがあっても、太刀筋は分かる。それに、元の世界のなのはの、文字通り『神速』の御神流と比較すれば、まだついていけるスピード。それならば。
「はぁぁぁ!」
「やぁぁぁ!」
ガキン、と音をたてて交錯する、刀と槍。打ち合う、と言うよりはレヴァンティンを滑らせ、受け流すように受け、そのまま切り込むすずか。しかしシグナムの反応は思っていた以上に早く、すぐに止められてしまう。
「なかなかいい太刀筋だ。‥‥‥レヴァンティン」
バシュン、バシュンとカートリッジが炸裂。レヴァンティンを再び受け流そうとしたすずかのスノートライデントの刃が、そのままレヴァンティンに斬られて落ちる。
「そんな!」と驚愕の声をあげたすずかは、シグナムに一撃をもらい再び吹き飛ばされる。
《ロードcomplete!何時でも行けますわ!》
「はぁ、はぁ、はぁ。ロード時間短縮ってできないの?」
肩で息をして、愚痴の1つも言いながらも、それが間に合った事に安堵したすずか。焔を纏うアリサのカードを左手に携え、魔法陣を展開した、まさにその時。
《すずか!!!》
「‥‥‥あ゛‥‥‥‥‥‥ぁ゛‥‥‥ぁ゛‥‥‥」
すずかは全身が痺れ、力が抜けていくのが分かった。自分の胸の部分から、何処かで見覚えのある手だけが伸びていて、すずかのリンカーコアを掴んでいる。
どこからか、《収集開始》と聞こえたような気がする。すずかのリンカーコアは次第に小さくなり、やがて伸びていた腕が消える。膝から崩れ落ちたすずかはそのままうつ伏せに倒れ込み、霞む瞳でシグナムの方を見ると、後方に微かに人影が見えた。
《すずかちゃん!!》
まだ遠くだが、白いバリアジャケットの彼女は、確かになのは。「ダメ‥‥‥逃げて、なのはちゃん‥‥‥」と微かに呟いたのを最後に、すずかは意識を失った。
◆◇◆◇◆
「おっかしいわね。今日は早朝訓練してるって言ってたのに」
フェイトの判決も出たということで、アリサは先程からすずかに通信を送っているのだが、一行に繋がらない。もしかして気付かないだけかもと思い、一応なのはにも通信を送るが、結果は同じ。もしやまだ寝ているのかとも思うが、なのはは兎も角として、すずかまでというのは妙だ。
「二人とも寝てるとか?珍しいね?一応調べて‥‥‥何コレ!?」
一応エイミィが調べてみると、海鳴公園一帯にミッド式でない結界が展開されていた。ご丁寧にジャミング付きで、結界内の観測は出来ない。
「結界‥‥‥?まさかすずかちゃんもなのはちゃんもあの中に?」
アリサとエイミィの脳裏には、あることが過った。ロストロギア闇の書。あれからよくよく調べてみると、関連する事件は全て97管理外世界の周辺で起きている、という。
「エイミィさん、コレってひょっとして不味いんじゃ‥‥‥」
「クッ、クロノ君!?クロノ君はどこ!?」
血の気が引き、焦るエイミィ。そんな二人の慌て振りを見て、フェイトが近寄ってきて話しかける。
「どうしたの、二人とも?」
アリサの「エイミィさん!フェイトには言い方気をつけないと!」という忠告も無視して、エイミィはフェイトに捲し立てた。隣でアリサの「あーあ」という声が空しく響く。
「あっフェイトちゃん!大変なんだよ!すずかちゃんとなのはちゃんが闇の書事件の犯人に襲われてるっぽくてさ!‥‥‥アレ?フェイトちゃん聞いてる?おーい、フェイトちゃーん?」
その場に立ち尽くし顔面蒼白、明後日の方角を見て、焦点の合っていないフェイトは、先程から「すずかが襲われた、すずかが襲われた、すずかが‥‥‥」とブツブツと呟いている。
「みんなどうした?」とクロノがユーノと一緒に来たのは、少し経ってからだった。
◆◇◆◇◆
なのはは地面に仰向けになっていた。芝生に寝転がって二度寝、とかではない。地面にできた大きなクレーターのど真ん中。
シグナムとの交戦の末、上から叩き落とされ、更に真上から強烈な一撃。レイジングハートは傷付き、弱々しく点滅している。バリアジャケットも原型をどうにか留めている程度の損傷。なのは自身も、意識が朦朧としている。
「う‥‥‥う‥‥‥」
シグナムがなのはに近付いてくる。動けず、どうする事も出来ないなのははそれをぼーっと見ているだけ。
と、上から黒い影が降りて来た。幻覚でも見ているのかと思ったが、どうやら違うようだ。なのはとシグナムの間に降り立った、黒いバリアジャケットに金色の魔力光。
「フェイト‥‥ちゃん?」
「うん、なのは。遅れてごめん。助けに来たよ。ユーノ?」
その後すぐにユーノが降り立ち、なのはに治癒魔法を施す。
「なのは、大丈夫?」
「ユーノ君‥‥‥すずかちゃんが‥‥‥」
なのはは視線をすずかの方角に向ける。ユーノはそれを確認し、なのはを抱えてすずかの元へと飛ぶ。
「民間人への攻撃‥‥‥重罪です!武器を捨てて大人しく投降してください。抵抗しなければ、貴女には弁護の機会があります」
「あの魔導師の仲間か?」
レヴァンティンを構えたままのシグナムのその質問に、フェイトはすずかのほうにチラリと視線をやり、迷う事なく答える。
「時空管理局嘱託、フェイト・テスタロッサ。友達です!」
すずかちゃんリンカーコアぶっこ抜かれ事件発生回。
ボロボロのなのはと、静かに怒れるフェイト。
え?ヴィータ?‥‥‥勿論はやての布団で睡眠中です。