日常の終わり、非日常の始まり
夕方、私立海聖小学校の下校路を歩く少女が5人。
「大会も近いし、みんな今日は帰ったらT&Hに集合!」
「連携の確認と、それから……」
「あ、アタシ試したい事あるんだけど!」
「ふぇっ!?」
「フフっ。みんな頑張ろうね」
アリシア、フェイト、アリサ、なのは、すずか。ホビーショップT&Hの誇る、チーム『T&Hエレメンツ』の5人。アリシアは6年生。他の4人は4年生。いつものように下校し、いつものように体感型シミュレーションゲーム、『ブレイブデュエル』に熱中し。そんな放課後になると誰もが信じて疑わなかった。
「あれ?地震だ」
最初に気付いたのは、アリシア。始めは小さな揺れだったそれは、段々と大きくなる。
「ちょ、ちょっとコレ大きくない?」
建物が壊れる、という程ではないにしろ、最近の地震の中では大きい方だった。恐怖で思わずアリサに抱きつく、フェイトとなのは。
「ちょっと!アタシが動けないじゃない!…………どうしたの?すずか。すずか?ちょっと!すずか!」
アリサの目の前で意識を失い、倒れるすずか。3人が混乱してしまったが、アリシアがすずかの家に連絡。そのまま家に運ばれる。残された4人は、すずかの事が心配でデュエルに興じる余裕などなく、各々家に帰っていく。
◆◇◆◇◆
「おはようございます、すずかお嬢様」
「おはよう、ファリン」
すずかが目を覚ますと、そこは自宅のベッドの上。メイドのファリンに起こされたようだ。確か地震があって、意識を失って……家のベッドまで運んでくれたのかな?そう理解したすずかはふと時計を見た。朝の、7時30分?
「大変!学校の準備しないと!」
「制服なら此方に準備してありますよ」
そう言ってファリンが出した制服は、いつも見慣れた海聖小のものではない、知らない制服。
「ファリン、その制服は?」
「お嬢様、まだ寝惚けてるんですか?ちゃんと聖祥の制服ですよ。朝だからってもっと確りしてくださいね」
「う、うん……」
聖祥なんて聞いた事がない。何故そんな制服があって、さも当然かのように着ろというのかが理解出来なかったが、他に準備してくれたものもないので、とりあえずそれに着替える。朝食を食べて、家を出ようとしていた所へ、インターホンが鳴る。みんなが迎えに来た。この制服はどうしようと思いながらモニターを見ると、そこに映っているアリサとなのはも同じ制服。おかしい。一体何が起きているというのか。
すずかは2人と学校へと歩く。いつもの見慣れた、通学路。だか、見えてきた学校は通い慣れた海聖小ではなく、私立聖祥大付属小学校。しかも、3年生。2人に3度も確認し、逆に心配された。ちゃんと教室には自分の席もあった。
当然ながら、既に習った授業。すずかは全ての事が上の空。心配も限界だったなのはとアリサは、昼休みにすずかを屋上へと連れ出した。
「すずかちゃん、今日はどうしちゃったの?」
「そうよ。何かあったの?朝からおかしいわよ?」
「何もないよ。いつもと一緒だよ」
そう答えたすずかだったが、内心は動揺と不安で一杯だった。一見、いつもと同じに見えて、全く違う日常。
放課後、帰り道を帰る3人。すずかは既に不安で押し潰されそうだった。あれだけ熱心だったブレイブデュエルすら『知らない』と答えた2人。更に言えば、帰り道の途中にある筈の『ホビーショップT&H』も、その影も形もない。やがてすずかは、怖くて聞けなかった、居るはずの友人姉妹の事を2人に尋ねた。
「あの……アリサちゃん、なのはちゃん。アリシアちゃんとフェイトちゃんは?」
「は?すずか何言ってんの?誰?それ」
言葉も素振りも、全く知りませんと言っているアリサ。2人とももしかしたら知らないのかもと思っていたすずかは、なのはの予想外のリアクションに少し驚く。
「す、す、すずかちゃん!?何で知って……」
そこまで言いかけ、なのはは自分の口に手を当てて閉ざす。
アリサに「知ってる子?」と聞かれても「知らない」の一点張り。そこまで気にかけなかったアリサと違い、すずかはなのはに一筋の希望を見いだした。
もしかしたらアリサに聞かれたら不味い事なのかも知れないと思ったすずかは、別れた後になのはだけを月村邸へと呼んだ。なのはは何か覚悟を決めたような顔で月村邸に来たのだが、何故か肩にフェレットのユーノを乗せてきた。
「なのはちゃん、とりあえずフェイトちゃんの事なんだけど」
「すずかちゃん、何処まで見たの!?セットアップまで!?それともフェイトちゃんと戦ってる所!?」
半分涙目のなのはが言っている事の意味がよく分からない。さっきまではブレイブデュエルは知らないと言っていたのに、どこかでコッソリやっているという事なのか。とにかく何処かにはフェイトがいて、一緒にデュエルをしているという事は分かった。でも今更どうして隠している?ますます分からない。
「あのですね、すずかさん。落ち着いて聞いてください。僕は、この世界の人間じゃありません」
ついにユーノまで変な事を言い始めた。ユーノはフェレットなんだから、人間じゃないに決まっている。今更何を言っているんだろう。
「なのはちゃん、ユーノ君。言ってる事の意味がよく分からないよ。とりあえず、フェイトちゃんは何処にいるの?元気なの?」
耐え切れなくなったすずかは、なのはに再確認をする。それを聞いたユーノは何やら怪訝そうな表情を浮かべ、なのはと何か話しているようだ。涙目だったなのはは落ち着きを取り戻し、すずかの方を見る。
「あのね、すずかちゃん。魔法って信じる?」
「魔法?」
「なのは、もう一度ちゃんと見せたほうが早いよ。広域結界!」
ユーノは結界を展開し、その瞬間周りの空気が変わる。辺りには誰もいなくなり、なのは、すずか、ユーノだけになる。なのはの胸元からレイジングハートが出てきて浮遊している。
「えっ?嘘!?レイジングハート!?」
すずかは混乱していた。シミュレーターの中でしか存在しない筈のなのはのレイジングハートが実体化しているのだから。そして、なのはの次の行動は、すずかに自分がどうなってしまったか理解させるのには充分だった。
「『風は空に、星は天に、不屈の心はこの胸に。この手に、魔法を。レイジングハート、セーット、アーップ!』」
その瞬間、なのはは直視出来ない程輝く桜色の光に包まれる。その光が収まると、すずかの前には、バリアジャケットに身を包んだなのはの姿があった。その手には、デバイスモードのレイジングハート。バリアジャケットは胸元にリボンがある等、すずかのよく知るなのはのセイクリッドスタイルとはデザインの細部が違う。
「なのはちゃん、それって……」
「これが私の魔法。フェイトちゃんは、ジュエルシードを狙うライバルなの。でも」
「友達になりたい」と、俯きながら言うなのは。
すずかはようやく理解した。どうしようもない現実を。これが夢でないなら、自分は今までとは違う世界に来たのだと。
「なのはちゃん、ユーノ君。ちょっと聞きたい事があるの!」
すずかは決心し、自分がこの世界のすずかではないという事を話す事にした。普通なら頭のおかしい子、と思われるかもしれない。だが、ここは魔法のある世界。なのはは魔法使いだし、もしかしたらすぐに帰れるかもしれない。淡い期待もあった。
「そっか。う~ん」
一通りを聞いたユーノは、その場で腕を組み、悩む。フェレットが腕を組んでいる様はなかなかシュールだが、ユーノの顔は真剣そのもの。
「どう?ユーノ君。すずかちゃんは戻れそうなの?」
すずかの境遇を心配するなのは。世界が変わってもやはりなのははいい子だ。
「僕らの力だけじゃ難しい。時空管理局に協力してもらって、すずかさんの元居た世界の座標が分からないと。それでも平行世界となると難しいだろうね」
ユーノは極めて現実的な、絶望的な答えを出してきた。すずかは遂にそれに堪えきれなくなり、ポロポロと涙を流す。
「じゃあ、もう二度と『あっちの世界のみんな』には逢えないの?なのはちゃんにも、アリサちゃんにも、アリシアちゃんにも、フェイトちゃんにも……」
バリアジャケットのままのなのはに抱きつき、大声をあげて泣くすずか。こんなすずかを初めて見たなのはは、どうしていいか分からず、「えっと、あの」とオロオロしていたが、すずかを抱き寄せ諭すように話す。
「大丈夫だよ、すずかちゃん。私が戻る方法きっと見つけるから。それまでは私がすずかちゃんのフォローもするよ!」
なのはに抱きつき泣きながら、すずかには「うん」と答えるのが精一杯だった。その時に、すずかの胸元にうっすらと光る物があった事には、3人は気がつかなかった。
すずかさん萌え小説スタートです。こちらはもうひとつの小説が一段落したら、本格的に執筆します。行ける所まで頑張ります。