『貴女には、運命は止められない』
シグナムの頭の中を、その言葉が廻り続けていた。
言葉通りの意味なら、自分には主はやては救えない、という意味にしか聞こえない。だが、それならどうやってこの状況を知ったのか。それに、確かに魔力を奪った筈の氷結魔導師が、あの短時間で、どうやって復帰したのか。しかも、あれほどの恐るべき魔力。ヴォルケンリッター全員でかかっても敵わないだろう。恐らく、はやてが闇の書の真の主になったとしても果たして敵うかどうか‥‥‥。
(‥‥‥ん?)
シグナムはふと疑問を覚えた。過去、闇の書のページを全て埋めて、真の主となった所を見たことがない。主が代わる時に記憶がリセットされる、というなら其れまでだが、それだと過去の主となった人物や、その収集の記憶が残っているのと矛盾する。
(何だ、この違和感は。何か重大な事を忘れている気がするのだが‥‥‥)
思い詰めた顔をしてしまっていたのか、「シグナム、どうしたん?帰って来てからおかしいよ?」とはやてに心配をかけてしまった。
「何でもありません。少し考え事をしていただけです。その‥‥‥シャマルの料理がどうしたら上手くなるかと」
「シグナムひど~い!プンプン!」といくら言ってもやめないシャマルの口調を聞き流し、シグナムは朝食を再開した。
《何かあったか》
再開と同時に、ザフィーラからの念話。
《後で話そう。また主はやてに心配をかけてしまうかも知れん》
《フム》
また顔に出るかも知れないと考え、シグナムはこの場は朝食に集中することにしたのだった。
◆◇◆◇◆
バルディッシュ、レイジングハート、スノーホワイト。破損した其々のデバイスに残るデータを見て、エイミィは首を傾げる。
「アリサちゃん、クロノ君、これ見て?おっかしいんだよね。これすずかちゃん?だよね。魔力量の数値がおかしいんだよ。故障かな?」
エイミィが故障と思うのも当然。映像では異様な姿をしているものの、ユーノの証言通りなら確かにすずか。しかし、リンカーコアを奪われ、殆ど魔力の無い状態から復帰、結界を破壊するという荒業を成し遂げている。しかも、本来AAの筈のすずかの魔力量がSSSオーバーという異常な数字を叩き出し、その時の記憶は本人にはない、という。
「それに、過去のデータだと、プログラムの守護騎士が感情を持って話した、なんて記録も無いんだよね。それから」
そう言ってエイミィは1枚のカードを見せる。見たことのない少女の描かれたカードに、クロノは当然疑問を持つ。
「エイミィ、これは?」
「すずかちゃんの持ってるカードだよ。闇の書の現主かも知れないって」
「何だって!?」
クロノの驚きも当然。管理局がいくら探しても見つからない闇の書の主。それが、こんな少女、しかも、すずか達と同じ学校に通っているかも知れないとのこと。アリサがその名を読み上げた。
「Ha・ya・te・Ya・ga・mi‥‥‥やがみはやて?」
「また97管理外世界か‥‥‥全く、君達の世界はどうなっているんだ、アリサ」
「アタシに言わないでよ!」
「兎も角、母さ‥‥‥艦長に報告する。それからエイミィ。すずかから目を離すな。前回みたいになったら堪らない。アリサもいいな?」
クロノの指示に、それぞれ「りょーかい、クロノ君」「ハイハイ、執務官殿」と答える補佐の二人。優秀は優秀なのだが、何処か不真面目というか、なんというか。最近やけに溜め息をつくことが多いクロノは、やはり今回も「ハァ」と溜め息をつき、部屋を後にした。
◇◆◇◆◇
時空管理局本局の医務室。介抱が早かった事もあり、なのは、すずかはそれぞれ今日中に退院できる。しかし、医者からは、
「二人ともさすが若いね。もうリンカーコアの回復が始まっている。けど暫くは魔法が使えないから気をつけるように」とのこと。
二人を助けるのが遅れてしまったと悔やむフェイトは、部屋の中で俯いたまま。
「あの、すずか、なのは」
「フェイトちゃんが気にすることじゃないよ。助けに来てくれてありがとう」
「そうだよ、フェイトちゃん。私もすずかちゃんも、もう元気だから」
「でも」というフェイトに、「もう平気だから」と返す二人。「ごめんね、二人とも」と言い俯くフェイトに、二人はベッドから降りて、それぞれフェイトの手を握る。丁度そこに現れた、クロノ。
「フェイト、面会の時間だ。なのはとすずかも、ちょっといいか?」
なのは、フェイト、すずかの3人は、ギル・グレアムと会った。フェイトの保護観察官。フェイトが友人や信頼する人達を裏切らない限り、行動に一切の制限を設けない、という。
すずか達が部屋を後にして数刻。グレアムはモニターを開くと、彼の使い魔の一人、リーゼアリアと通信を繋いだ。
《アリアか。月村すずかには注意するんだ。あの子にはくれぐれも近付けさせるな》
《了解です、父様》
◆◇◆◇◆
リーゼアリアとグレアムがそんなやり取りをしていた頃、すずかはベッドの上で、自身のデッキカードを広げていた。
(やっぱり、ない)
あのとき自身の意識に語りかけてきた者。その声の主に心当たりのあったすずかは、持っているカード全てを広げて確認していた。無くなっていたカードは、やはりユーリ・エーベルヴァインのカード。あの時、すずかの身体を借りて顕現し、状況を打開したこちらの世界のユーリ。自身に語った、『メザメタクナイ』とはどういうことか?まだ彼女の行動の意図も、わからない。
(この世界で、あなたは一体何者なの?ユーリちゃん‥‥‥)
それと同時刻。クロノはユーノを呼び出していた。
「ユーノ、君に調べて欲しい事があるんだ。無限書庫を使ってくれ。許可は取ってある」
無限書庫を使う程となると、かなりの大事なのだろう。とは言っても、ユーノには大方の見当はついていた。おそらく。
「『闇の書』と‥‥‥すずかの『あの力』について、だね?」
「話が早くて助かる。出来るだけ早く、出来るだけ多くの情報を頼む」
闇の書のデータはキーワードも分かっているし、何とかはなるだろう。すずかの『あの力』は、ちょっと苦労しそうだと考えながら、ユーノは「分かった、何とかしてみるよ」と返事を返した。
◆◇◆◇◆
整備中のアースラを背に、リンディはスタッフを集めて、作戦行動の指示を出す。
「さて、皆さん。今回のロストロギア闇の書の捜索、及び魔導師襲撃事件、私達アースラスタッフが捜査を正式に担当する事になりました。ただ、肝心のアースラが暫く使えない都合上、現地に臨時作戦本部を置くことになります。分割は、観測スタッフのアレックスとランディ。ギャレットをリーダーとした捜査スタッフ一同。司令部は、私とクロノ執務官、エイミィ執務官補佐、フェイトさん、バニングス補佐官補。以上3組に分かれて駐屯します」
「ちなみに」とリンディは付け加え話した。
「司令部は、すずかさん、なのはさんの保護を兼ねて、二人の家の近所になりま~す」
仕事だなんだとは言ってはいるものの、要するに暫く近くに住むということ。すずか、フェイト、なのはそれぞれの顔から笑顔が溢れる。
不謹慎、かも知れないが、フェイトの胸も高鳴る。暫くすずかと一緒にいられる。一緒に買い物に行きたい。一緒に遊びにも行きたい。一緒に旅行もしてみたい。一緒に‥‥‥。
「ん?フェイトちゃん唇乾いたの?私リップ持ってるよ?」
というなのはの声にハッとしたフェイトは、赤くなって「だっ、大丈夫」と返す。無意識に右手の中指で唇を触っていたらしい。
その様子を見ていたアルフとアリサはフェイトに聞こえない程度の大きさの声でヒソヒソと話す。
「フェイト‥‥‥重症だねぇ」
「そうですね、アルフさん。重症ね」
何故か最後は締まらないリンディ提督、の回。
フェイトちゃんの暴走は果たして止まるのか?
もうお気づきかとは思いますが、A's編のサブヒロイン(?)はオッパイ魔神ことシグナムさん。
あ、銭湯は次回に持ち越しになってしまいましたm(__)m