「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
すずかはただひたすら走っていた。いや、逃げていた、と言うべきか。只の変質者や変態などの一般的に言うところの犯罪者からではない。正体不明の魔導師からである。
(あの角を左に曲がって‥‥‥)
すずかのリンカーコアはまだ回復途中。万全には程遠い。例え使えたとしても、せいぜい初級魔法が数発撃てる程度。ハッキリ言って問題外である。おまけにスノーホワイトもまだ修理から戻って来ていない。今のすずかに出来る事は、なんとかハラオウン家まで逃げおおせる事。クロノの所まで行けば‥‥‥。
「キャア!」
その追手の蹴りを喰らい、壁にぶつかり地面に叩きつけられる。その衝撃を和らげる為に貴重な魔力を使い、その魔力も尽きかけていた。
(蹴り‥‥‥?さっきまでは近接でも魔法攻撃だったのに?)
仮面の男。見るからに怪しいその魔導師は、すずかが参考書を借りようかと図書館に入ろうとしたその瞬間、いきなり魔法攻撃を放ってきた。しかも、クロノと同じスティンガーを。横に倒れる事でそれをなんとか避け、こうしてどうにか逃げている。
それからはまるで鬼ごっこのように、付かず離れずで図書館から遠ざかるように走っていた。
(そういえば、どうして全力で来ないのかな‥‥‥)
そういえば、いきなり攻撃をしてきてから今に至るまで、仮面の男は威力のある攻撃を一切してきていない。今のすずかは、他の子よりも運動神経のいい小学3年生の域を出ない。何時ものように魔法を使えない今のすずかなら、バインドで縛ってちょっとした攻撃魔法で充分倒れる。それなのに、どうしてか、仮面の男はただすずかを追いかけ回し、時々牽制のように攻撃を仕掛けるだけ。その攻撃も、何とか避けられるくらい、もしくは食らっても起き上がれるくらいのものしかして来ない。すずかが逃げ惑う姿を楽しんでいるのか?だとしたらタチが悪い。充分変態だ。
(い、今は逃げなきゃ)
もうかなり走った所で、何故か突然仮面の男は追うのを止め、すずかを睨んでいるかのように佇むだけになった。その間も全力で逃げていたすずかは、その事には気付かず。追手がいつの間にか居なくなった事に胸を撫で下ろしていた。気が付けば、図書館からはかなり離れてしまっていた。
(助かった‥‥‥?よ、良かった。でも、参考書借りたかったのに)
愚痴を言っても仕方ない。今日の所は諦めて、後日また借りる事にした。図書館まで戻って、またあの仮面の男に会ったら堪らない。すずかは自身の後ろに怯えながら、ハラオウン家迄の道を歩いた。
◆◇◆◇◆
(こ、これって役得だよね?で、でも今はそんな事考えたら駄目‥‥‥でも)
フェイトは只今、良心と絶賛格闘中。すずかが涙目でフェイトに抱きついている。ここで優しい言葉でもかけてあげて、抱き締めれば‥‥‥と思う反面、それをするあと一歩が踏み出せない。そうこう考えている内に、クロノが事態を察し家から出てきた。普通なら流石は執務官、となる所なのだろうが、家の中に通されるすずかを見ながら、フェイトは「クロノの‥‥‥ばか」と呟いた。
部屋に入り、すずかの話を一通り聞いたクロノ。しばしの間考えたあと、口を開く。
「すずか。もしかしたら、その図書館に何かあるんじゃないのか?心当たりとかはないか?」
「図書館にって言われても、本が沢山あるくらいしか‥‥‥あっ!」
すずかはもしや、と思った。本と魔法が結び付くもの。今のすずかの知識の中では1つしか思い当たらない。ある人物しか。
「まっ、まさか『はやてちゃん』?」
「確か闇の書の主かも知れない人物、だったか。どうやらビンゴみたいだな。僕は今からその図書館に行く。君らはここで待機。一応艦長に連絡しておいてくれ」
◆◇◆◇◆
はやてがシャマルと図書館から出て、帰るのを横目で見ている、2匹の猫。
《やれやれ。お子様のお守りも楽じゃないね》
《ロッテ、そう言わない。私らは、父様の言い付け通りに動くだけさ。『八神』が覚醒するまでは近付けさせない。クライド君の仇、きっと‥‥‥!》
◆◇◆◇◆
ハラオウン家で待機している二人の所へ、エイミィが本局から戻ってきた。
「だだいま、フェイトちゃん。バルディッシュとレイジングハート預かってきたよ。それから、すずかちゃん、ちょっと」
エイミィは直ったバルディッシュをフェイトに渡すと、難しい顔をしてすずかを呼んだ。
「何でしょう?」
「ちょっと今から本局迄来て欲しいんだよ。スノーホワイトのエラーメッセージがよく分かんなくて」
そうして再び本局へ。
担当技官のマリエル・アテンザに会ったあと、すずかはスノーホワイトのエラーメッセージを確認する。
「どう?すずかちゃん、分かる?」
マリエルによれば、モニターには『データが足りません。カードをダウンロードしてください』と書いてあるという。
「カードって言っても‥‥‥もしかしてこれですかね?」
そう言ってすずかが出したのは、魔力を纏う4枚のカードの、最後の1枚。エイミィはそれを覗き込み、疑問を口にした。
「それ、すずかちゃんが描いてあるね?でも、いつものバリアジャケットと違う?」
「これは、お揃いなんです。元の世界のはやてちゃんと」
それは、ロードオブグローリーと呼ばれる、はやての纏う騎士甲冑。そのカードをスノーホワイトにかざすと、カードが収納され、モニターにはロード中の文字と、%表示が現れた。どうやら正解のようだ。
「これってつまり‥‥‥どういう事?」
マリエルは事態を今一掴めない。
《こういう事ですわ!》
いつの間にかロードを修了していたスノーホワイトがすずかの手に収まると、光に包まれる。万全でなかった筈のすずかのリンカーコアがその息を完全に吹き返し、魔力が溢れる。
「嘘っ!凄いですよ、エイミィ先輩!これならいけますよ!」
すずかの魔力の計測値を見て、マリエルが興奮している。
光が収まったすずかを見たエイミィは、自分の目を疑った。目に映っていたのは、先程のカードと同じ姿のすずかと、すずかがその左手に持つ、どう見ても闇の書にしか見えない本型のデバイス。
「すずかちゃん、それってまさか闇の書じゃ」
「違いますよ。あっちの世界のはやてちゃんが持ってる『夜天の魔導書』の同型です」
「ヤテンの魔導書?」
「はい」
◆◇◆◇◆
《こっちは空振りだった。図書館には収穫無しだよ。ユーノ、そっちは?》
《こっちは少し。闇の書は、元々は夜天の魔導書って言うらしい》
図書館を隈無く探したものの、何も見つけられなかったクロノは、無限書庫のユーノから経過報告を聞いていた。闇の書、もとい夜天の魔導書は、元々は優れた魔法の収集本だったらしい。歴代の持ち主の誰かがそのプログラムを弄り、今のような凶悪なものとなったと。
《闇の書のページが全て埋まると、防衛プログラムが暴走して主の魔力を際限なく使わせて、破滅させる。そのプログラムの改変は真の主となった人物しかできないからタチが悪い》
《そうか。どう対処するか‥‥‥。引き続き調査を頼む。それと、もう一つの件は?》
《うん。それらしい候補なら出てきたよ》
ユーノがモニターに映したものは、夜天の書そっくりな魔導書と、すずかの姿が変わった時と特徴が同じ少女の絵。
《ユーノ、これはなんだ?》
《まだ、これしか。もう少し調べてみるよ》
第3段階変身完了回。そりゃすずかは主役ですから。主人公補正です。
かわいそうに、ロッテとアリアは変態扱い。
無限書庫は何でも出てきますよ回でした。