《今エイミィさんとアレックスが全力で追ってるわよ》
「本当なの?アリサ。あの状況からどうやって結界を‥‥‥」
フェイトも、なのはも、すずかも。勿論エイミィもアリサも驚愕していた。ついさっきまで結界を破れず、一進一退の攻防を繰り広げ、余裕の無かった筈の二人が、ブレイカー着弾ギリギリの所で、しかも破壊する事なく結界から抜け出たのだから。
一度臨時作戦本部に戻った3人は、未だシグナムとヴィータを追いかけているエイミィを横目に、その隣にいるアリサの前に座る。
「これがなのはのブレイカー着弾直前の映像。ここ見て?」
アリサが指し示した所には、仮面を付けた魔導師らしき人物の姿。それを見てすずかが「あっ!」と声をあげる。
「アリサちゃん、この人、この前私が図書館で追いかけられた魔導師だよ!」
「そうなるとやっぱり守護騎士?でも守護騎士って4人じゃなかったっけ?」
正体の掴めない魔導師に、疑問だらけのアリサ。すずかとて、元の世界の八神堂のメンバーはもうアインスくらいしか思い当たらない。しかし、短髪の黒髪、しかも男。アインスとは到底思えず、だからといって心当たりもない。
その場の全員が考え込んでしまい、ウーンと唸っていたその時。
ドサッという誰かが倒れる鈍い音。音の方を見た全員が何が起きたのか分からず一瞬凍ったように止まる。いち早くフリーズから復帰したアリサが、慌てて近寄る。
「すずか!どうしたの!?」
「はぁ、はぁ、はぁ」
息をするのも苦しそうなすずか。顔は熱り、寒気で身体の震えが止まらず、倒れたまま踞っている。アリサがそのすずかの額に手を当てると、その病状の重さが伝わってくる。
「ちょっと、すごい熱じゃないの!さっきまで何とも無さそうだったのに!?」
《‥‥‥40.8度、ですわよ》
スノーホワイトのその宣告に、その場の全員がすずかを見た。普通なら、とてもではないが動ける体温ではない。
「‥‥‥ちゃん!フェイトちゃん!」
この世の終わりでも見ているかのような顔のまま固まっていたフェイトは、なのはの呼ぶ声に、ようやく我に返った。
「なっ、なのは!私どうしたら‥‥‥」
泣きそうな顔で、すずかを見ながらオロオロするフェイトに、なのはとアリサは、すずかを部屋まで運ぶよう促す。言われるままにすずかを抱きかかえ、ベッドのある自室へと向かうフェイト。
解熱剤を飲ませて、とアリサから渡されたその液状の薬。
「すずか?ホラ、お薬だよ?飲んで早く良くなって」
フェイトが促すも、すずかはベッドで寒気に震え、苦しそうにしているだけ。もしかしたらフェイトの声すら耳に入っていないかも知れない。
(どうしよう‥‥‥私が、何とかしなきゃ。すずか‥‥‥)
フェイトは一度瞳を閉じる。そうして再び目を開けると、その液状の薬を自分の口に含む。
《すずか。私が飲ませてあげるから》
フェイトは自分の前髪を左手で押さえ、その唇をすずかの唇に重ねて、自分の口内からすずかの口に薬を流し入れた。
「‥‥‥んっ‥‥‥っあ」
フェイトは自らの唇を、名残惜しそうにすずかの唇から離す。感じたすずかの感触。フェイトは自分の唇に右手の中指を這わせる。
それでもすずかの震えは止まらない。そもそも40度もある熱が、早々に下がる訳もない。
「すずか、寒いの?」
フェイトは心配そうにすずかを見る。
(こういうときは、確か‥‥‥)
昔、フェイトが風邪で寝込んだ時。アルフがベッドに一緒に寝てくれて暖かかった記憶がある。
(すずか。私が‥‥‥)
フェイトはすずかの寝ているベッドに入って向かい合うように横になり、震えているすずかを優しく抱き締める。
「すずか。私は、ずっと傍にいるから」
「‥‥‥‥‥‥フェイ‥‥‥ト‥‥‥ちゃん」
すずかは微かな声でそれに答え、弱々しくフェイトに抱きつき、そのまま意識を手放した。
◆◇◆◇◆
「みんな、ごめん。見失った」
悔しそうにテーブルを叩くエイミィ。長時間追跡し、もう少しで、という所まで追っていたのだが。
「惜しかったが、仕方ないさ」というクロノは、それとは別件の話をし始めた。
「最初にヴォルケンリッターと遭遇した時のすずかの力についてなんだが。ユーノ、頼む」
《うん、クロノ。まだ途中経過だけど。まず、すずかのあの力は、『エグザミア』と呼ばれる永久結晶の力が顕現したものみたいだ。もともとは、闇の書を乗っ取るために故意に仕込まれたプログラム『紫天の書』の力らしい。どうして乗っ取れなかったとか、どうやってすずかがその力を行使したのかとかはまだだけど》
無限書庫のなかでフワフワと空中を漂いながら、モニターを交え説明するユーノ。
《それから、闇の書だけど。もともとは、夜天の魔導書というらしい。優れた魔法の収集本。それが本来の本の姿。でも歴代の主の誰かが後から追加した自動防衛プログラム『ナハトヴァール』が暴走していて、全てのページが埋まると、主を侵食、取り込んで暴走させて、最終的には破滅、死に至る》
死に至る。そのユーノの言葉に、全員が黙ってしまった。つまり、恐らく現主の八神はやても、収集が完了してしまったらそうなるということなのか。
「それから」というクロノの声が、場の空気を変える。
「すずかのさっきの発熱なんだが、風邪とかではないみたいだ。今は落ち着いていて誤差の範囲内だが、さっきまではすずかの身体の魔力の流れが何かに阻害されてるみたいに異常だった」
「どういうことよ、クロノ?」
何となく嫌な予感のするアリサは、クロノに真意を問いただす。対するクロノもまだ解答には辿り着いていないようで、何とも言えないらしい。
「今確かなことは、すずかの生命活動がその内側から阻害される要因が存在する、ということだけだ。憶測だけで行動していい状況じゃない」
そうは言っているものの、そんな物言いをしているクロノには、ある程度は予測があるのだろう。まだどう転ぶかは分からない。兎も角今はすずかの回復が先。黙ったまま紫天の書の映ったモニターを見ているアリサ。なのはが「あの、みんな。もう少し分かりやすく教えてくれると嬉しいんだけど」と言っているのが、ほんの少しだけ、場の空気を緩めていた。
◆◇◆◇◆
「う‥‥‥ん‥‥‥?」
すずかがようやく気が付くと、ベッドの上。毛布の中に顔を埋めて寝ていたすずかは、心地よい温もりに包まれている事に疑問を感じながらも、その温もりに抱き付く。
(あったかくて、柔らかい‥‥‥)
再び睡魔に襲われて夢の中に落ちていく寸前、その温もりから「すずか、起きたの?」という声が聞こえ、すずかの意識は覚醒した。寝る前の事はよく覚えていないが、どうもフェイトの胸の中で寝ていたようだ。すずかは紅くなって毛布から顔を出す。
「フェイトちゃ‥‥‥わぅ」
言いかけでフェイトに頭を撫でられる。「まだ寝てなきゃ、ね?」というフェイトを恥ずかしそうに見上げたすずかは、小さく「うん」と頷き、再びその温もりに顔を埋めた。
◆◇◆◇◆
そのドアの外。扉を開けようとしたが手を止め、クルリと回れ右をして廊下に戻るアリサ。視界に入ったエイミィに、いつかと同じ事を言う。
「エイミィさん。やっぱりアタシのやってる事って‥‥‥」
「すずかちゃんを思ってやってる事でしょ?大事なことだよ。大丈夫。もしすずかちゃんがフェイトちゃんを選んだとしても、帰れる方法だって必要だよ」
「そうですかね」
エイミィは、いつにもなく不安そうなアリサの頭にポンッ、と手を置き、撫でた。
「そうだよ」
テンプレなユーノの説明回。
そして、作者が書いてて砂糖を吐きそうだった回。
何このピンク色の固有結界‥‥‥。