熱はまだ完全には引いておらずフラフラと覚束ない足取りで、すずかは和室まで歩く。ちょこんと座って炬燵に入ると、隣に座るフェイトに寄りかかり、瞳を閉じて身を委ねた。フェイトは自分の肩の辺りに寄りかかっているすずかの頭に、そっと自分の頭を寄せる。
「ごめんね、フェイトちゃん。ありがとう。だいぶ良くなったよ」
消え入るような小さな声で囁いた程度だったが、すぐ隣で密着しているフェイトにはそれで充分だった。フェイトもまた隣のすずかにしか聞こえないような声で囁く。
「良かった。すずか、あのね」
「なあに?フェイトちゃん」
和室の前まで来て、まさにその扉に手を掛けていたエイミィ。その扉の中から感じるものに気付き、(入れなくなった‥‥‥)と開けるのを躊躇していた。
そこに運良くか、はたまた悪くか。「あ、ちょっと、二人とも!」というエイミィの制止も聞かず、「アレ?エイミィさん何してるんですか?」と言いながら、アリサとなのはが炬燵にあたろうと躊躇なくその扉を開ける。
額に手をあて、「アチャー」というエイミィの声が漏れたのと同時に、くっついていた炬燵の二人はパッと離れ、すずかもフェイトも顔を真っ赤にする。
全く気付かないなのはは、「アレ?二人ともいたんだ?」と相変わらずスッ惚けている。アリサはと言えば、そのすずかとフェイトを見て、盛大に溜め息をついた。
「ハァ。あんたたちさ、この家には今アタシらもいるんだから‥‥‥」
と言いかけたアリサは、すずかの左の胸元にチラリと見える物に気付き、その顔を紅く染める。
「すずかっ!むっ、胸元にアザが!アッ、アンタ達一体何やって‥‥‥」
「えっ!?」と驚き、自身の胸元を見るすずか。その隣で、アリサとフェイトが、「フェイト、アンタすずかの胸元にキ、キスとかしたの!?」「む、胸元にはしてないよ!」「‥‥‥他の所にはしたのね。ハァ‥‥‥」などと聞くのも恥ずかしい話をしている。
(フェイトちゃん、私にキス、したんだ)と、恥ずかしい思いをしながらも、その胸元を確認すると、ほんの1~2㎝程の大きさだが、確かにアザのようなものがある。しかし、それはアザ、と言うよりは何かの模様の一部といった感じの物。
(何だろ?これ)と疑問に思っていたその傍からヒョイと覗きこんだエイミィには、それに心当たりがあったらしい。すずかの目の前でウーン、と考え込み始めた。
全員が集まっていたのが丁度良かったのか、クロノも遅れて和室に入ってきた。「丁度良かった。みんな、これからの事なんだが」と言おうとした所をエイミィに引っ張られる。
「クロノ君、ちょっといい?このアザなんだけど、これってさ」
「これは‥‥‥この間の力が発現した時の紋様の一部か?」
と、会話とそのアザに夢中になっていたクロノは自分に向けられている殺気に気付く。振り返ってみると、フェイトがハイライトの消えた瞳で冷徹な眼差しをクロノに向け、バルディッシュを突き付けていた。
「クロノ‥‥‥許さない!!」
そう静かに怒るフェイトは、そのまま斬りかかりかねない勢い。
「フェイト、一体なんの」
つもりだ、と言おうとしたクロノは、現状を再確認して焦る。
クロノはすずかの襟元を引っ張り、そのすずかの服の中の胸を覗きこむ形で見ていた。すずかの顔は羞恥心その他諸々の感情で紅く、今にも泣き出しそうな表情。
「いや、待て。ごっ、誤解だ!」
そう叫んだクロノに向けられる、他の3人の軽蔑の眼差し。フェイトはすずかの服を掴んでいたクロノの手を振りほどき、守るようにすずかを抱き寄せた。
「やっぱりロリコンなのね!?この変態!」
アリサの罵倒を聞きながら、(ごめん、クロノ君)と心の中で謝るエイミィだった。
◆◇◆◇◆
ボロボロ(主に精神的に)のクロノは、ゴホン、と1つ咳をして、改めて方針を告げる。
「今、整備中のアースラに、魔導砲『アルカンシェル』を搭載中だ。出来れば使いたくないが、最悪の場合、それを使う事になる。それと、すずか」
クロノに名前を呼ばれ、すずかはビクッと反応する。まだ先程の事を引きずっているのか、怯えてフェイトに抱き付いている。フェイトもクロノの視界からすずかを隠すように庇い、まだ怒りのこもった眼差しでクロノを見る。
「えっと、その、さっきはすまない。それでだ。君は次の出撃時には待機してくれ。まだ万全じゃないんだ。治るまでは無理はするな」
フェイトの後ろから少しだけ顔を覗かせて、「うん。分かった」とすずかは小さく頷いた。
突然、アラートが鳴り響く。瞬時にエイミィがモニターを開くと、異世界で魔法生物を相手にしている、シグナムとヴィータの姿。
「なのは、フェイト。頼む」
「うん。わかった、クロノ君。じゃあフェイトちゃん!」
「行こう、なのは」
フェイトとなのはの二人は転移装置から異世界へ。「少しやることがある」とだけ告げたクロノはエイミィと別の場所へ、とそれぞれ動いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いつ見ても立派やな」
門にあるインターホンを押しながら、はやてはザフィーラに話す。ザフィーラが「はい、主」とだけ返したタイミングで、インターホンのマイクから声が聞こえた。
『八神はやて様ですね。中へどうぞ』
立派な門が音を立てて開く。「ほな、行くよ、ザフィーラ」と言うと、はやては翠屋の箱を大事そうに抱えて歩き出す。思いの外距離のある道を歩き、入口の扉まで辿り着くと、その扉が開き、中からはすずかの姉である忍が現れた。
「いらっしゃい、はやてちゃん」
「忍さん、こんにちは。今日はすずかちゃんのお見舞いに来ました。これ、良かったら」
そう言い、ケーキの箱を渡すと、奥から声が聞こえた。誰かがフラフラと此方に歩いてくる。その姿が確認できるくらいになり、はやてはその人物に声をかけた。
「すずかちゃん!もう出歩いてもええの?結構重病って聞いとったんやけど」
起きたばかりなのか、少し涙目のすずかが答える。
「うん。ありがとう。フラフラするけどだいぶ平気だよ」
フラフラと覚束ない足取りではあるが、顔色は良さそうなすずかの姿に安心したはやて。
「この子5日間も寝たきりだったから。まだ本調子じゃないし余り長話は‥‥‥」
忍がそう言うと、はやてはそれもそうかと思いなおし、「じゃあ、すずかちゃん。早く良くなってな?」と言い、今日の所は帰る事にした。良く見ると、忍の目の下が泣き腫らしたようになっていたが、それだけ心配したんやな、とそれほど気に留めず月村邸を後にするはやて。
そのはやてが帰った後。自室で寝ているすずかを確認し部屋を出る忍。胸の所に覚えのないアザのようなもののある妹に不安を覚えながら、忍は腕を組み何やら考え込んでいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「これは‥‥‥魔力か?すずかのとは違うな」
「だね、クロノ君。凄い微量だけど、確かに魔力だよ」
モニターを見つめるクロノとエイミィ。先程のすずかの胸元のアザからは、感じられない程ごく微量の魔力が観測できる。しかも。
「あのときの魔力データと同じ物だね」
「ああ、エイミィ。僕の憶測が当たっていなければいいんだが」
その魔力データは、『エグザミア』の力が顕現したときと同じ。クロノはアリサに通信を入れた。
《アリサ、すずかは?》
《今目の前で寝てるわ。全く、よっぽどフェイトと一緒に居たいのね。まだ全快には程遠いのに起きたりしてさ》
《そうか》とアリサに告げたクロノは、僅かに目を細めてモニターのデータを見る。
(闇の書は主を侵食するんだったな。まさか、エグザミアも‥‥‥?ユーノ、検索を急いでくれよ)
はい、まだ激甘回の続きでした。すずかはフェイトちゃんに陥落したのか?はたまた病気で人肌が恋しいだけなのか?
ということで、やっぱりクロノは優秀な執務官です回でした。