軽い夕食を食べた後、すずかはそのまま直ぐにベッドに横になった。寝て起きたら、あちらの世界に『戻っている』かも知れない、と思いながら。一人になると、止めどなく涙が溢れる。
(フェイトちゃん‥‥‥もう会えないのかな)
そのまま泣き疲れて眠り、次の日。ベッドから起きたすずかは、シャワーを浴びて着替え始める。と、ドアをノックする音。
「すずか、もう大丈夫なの?」
「うん、お姉ちゃん。今日は日曜日だし、T&Hに行ってくるね。みんな心配してるだろうし」
きっと心配している。何故なら、自分はこの世界に居なかった筈だから。
シャワーを浴びた際、すずかは見つけてしまった。自身の左胸にある、あの紋様を。そして、今も感じる事ができる、自身のリンカーコア。
ホビーショップT&Hに向かう道中でも、すずかは溢れそうになる涙を必死に堪える。客観的に見れば、それはおかしいのかもしれない。突然異世界に飛ばされて、帰る宛も無かった筈が無事帰って来れたのだから、普通なら喜ぶべきところ。けれども、すずかの心は深く沈んでいた。それは、あちらの世界の、何者にも代えられない大切な存在、フェイトとの別れを意味しているから。すずかにとって、フェイトと別れる事は自身の半身を失うのと同じ。ろくに言葉も交わせずの別離ならば尚更。
T&Hに着いた頃には、すずかはその悲しみに耐えられず泣き出してしまっていた。店内から彼女を見つけたアリサが、血相を変えて跳んでくるのが見えた。
「すっ、すずか!心配したんだから!バカッ!」
アリサにしては珍しく素直にその感情をストレートに表現し、すずかに抱き付いて泣き始める。すずかに気付いた他の3人も、2人のもとへと駆け寄って来る。
「すずか!」「すずかちゃん!良かった‥‥‥良かったよぅ」
なのはに至っては、顔をぐちゃぐちゃにして盛大に泣き始めてしまった。道の真ん中で留まっていた5人は、暫くしたあと店の奥へと入っていく。
「すずかちゃんの快気祝いやぁ!」
中でははやて達八神堂の面々が待っていた。パァン、とクラッカーを撃ち鳴らすはやては、T&Hにすずかが来る、とどうやって知ったのだろう?
「思ったよりも元気そうだな」と笑顔を向けるシグナム、「心配しちゃったわよ~」と抱き付いてくるシャマル、「よ、良かったです」と照れ臭そうにするヴィータ、「あ、主。店内でクラッカーは‥‥‥」とはやての事ではいつもブレないアインス。
あちらの世界では考えられない、しかしいつもの八神堂の面々。
「皆さん、心配かけてごめんなさい」
深々と謝りながらも、内心は複雑なすずか。
復帰祝と称してのチーム戦に持っていくあたりも、いつも通りのはやて&アリシア。しかし、いつもと違う点が、ただ1つあった。それは。
『Winner‥‥‥T&Hエレメンツ!』
「じょ、冗談やろ‥‥‥すずかちゃん」
その場の全員が驚愕した事態。アリサやフェイトの負担が減ったとか、そういう次元ではない。ヴィータを撃ち倒し、シグナムとシャマルをバインドで拘束。アリサとフェイトがはやての相手をしている間に、アインスを捉え、撃破。ついこの間までのすずかとは、動き、キレがまるで違う。アリシアとなのはは文字通り出る幕など無かった。全国1位のシュテルが相手でも平気で勝ってしまいそうなその強さに、全員が固まっていた。それはそうだろう。すずかはつい昨日まで、死を賭してその相手と戦っていたのだから。命を懸けた鬼気迫る相手の気迫、キレ、一撃、その一挙手一投足に比較すれば、この世界のブレイブデュエルは今のすずかにとっては温い。
「すっ、凄いよ、すずかちゃん!!」
笑顔で抱き付いてきたなのはに、僅かに笑みを溢す。
「すずか、凄いね!」と言うフェイトの言葉に、僅かに紅くなって笑みを溢してしまう。別人とは分かっていても、そこは同じフェイト。反応せずにはいられない。
「おやおや?アリサちゃん、これはウカウカしてられへんよ?」
「なっ!?ばっ、バッカじゃないの!なに言ってんのよ、はやては!」
何やら遠くでアリサに絡んでいるはやてを見ながら、すずかは思う。
(あっちの世界のはやてちゃんを、助けなきゃいけなかったのに‥‥‥)
そんなことを考えていたすずかの肩をポン、と叩く人物があった。すずかが振り向くと、プレシアが立っていた。
「どうしたの?すずかちゃん。何かあったの?」
「プレシアさん‥‥‥」
すずかは俯き、黙りこむ。相談しようにも、信じて貰える訳がない。『並行世界にもう一度行きたい』 なんて世迷い言、言っても相手にされるわけが‥‥‥
「『あのとき』のあなたとはまるで別人のようね。『あの後』フェイトはうまくやれてる?」
(‥‥‥えっ?)
何を言っているのか、すずかには咄嗟には理解出来なかった。確信も持てなかった。プレシアの次の言葉を聞くまでは。
「こう言えば分かるかしら。『あっちの世界』の、あなたに『お願い』したフェイトとは、うまく行ってるの?」
「‥‥‥え?」
「アラ、押しが足りないかしら?えっと‥‥‥『ジュエルシード』って言えば通じるわよね?」
その言葉に、すずかは咄嗟に身構える。それを見て慌てたプレシアは、すずかの頭を撫でながら、やさしい口調で話す。
「ごっ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの。あっちの世界、今の私で言えば前世?かしら。記憶はあるのよ?でも、今の私とフェイト達の関係には少しも影響してないわ。それに、そのお陰で今のフェイトとアリシアがいるんですもの。感謝こそすれ、恨みや暗い感情なんて微塵もないわよ」
そう言い、笑顔を浮かべるプレシア。これだけでも、あのときすずかが命を張った甲斐はあったのだろう。
「プレシアさん‥‥‥」
微かに笑顔を見せたすずかの頭を再度撫でながら、プレシアはすずかに選択を迫る。恐らく、もう答えの出ている選択を。
「すずかちゃんはどうしたいの?この世界で今まで通り平和に暮らしたい?それとも、戦いの日々が待っているとしても、あっちの世界に行きたいの?」
(そうだ。助けなきゃ、フェイトちゃんを!)
「プレシアさん、私は! あ、でもどうやってあっちに?」
自身の気持ちを再確認したすずか。しかし、どうやって並行世界を渡ったらいいのか。方法が分からない。
「そうねぇ‥‥‥。じゃあヒントをあげるわね。迷った時は、原点に帰ってみるものよ?」
「原点、ですか?」
すずかは考える。原点‥‥‥家?そう言えば、自分は居なかった筈なのに、姉である忍は5日間寝ていたって‥‥‥忍が何か知っている、ということだろうか?
「私、家に行ってみます!」
すずかは決意の表情を浮かべ、足に力を込め、走り出す。この世界のみんなに、心の中で謝りながら。
(みんな、ごめんね。ごめんなさい。私は‥‥‥。待ってて、フェイトちゃん、はやてちゃん!)
入口を出ようかというところのすずかを、プレシアが追いかけてきて、呼び止める。
「待ちなさい。これを持っていきなさい。きっと貴女の役に立つ筈よ」
そう言ってプレシアが渡したのは、プレシアの少女時代の姿が描かれた、リライズ用の激レアカード。
「ありがとうございます!プレシアさん!じゃあきっと‥‥‥必ず戻って来ます!」
◆◇◆◇◆
走り去っていくすずかの後ろ姿を見送るプレシア。プレシアは、その隣に佇む、明るいオレンジのロングヘアーの女性に話しかけた。
「‥‥‥これで、良かったのかしら。あの子には辛い選択なんじゃないかしら」
「『月村司令』ご自身からの指示ですから。『あのときプレシアさんにアドバイスをもらったから』って。大丈夫です。それに、月村司令が私達の世界に来てくれないと、機動六課の部隊長を八神司令が兼任する事になっちゃってたでしょうし」
「そうなの?すずかちゃんも偉くなるのね。あっちのあの子‥‥‥フェイトはどうしてるの?」
「フェイトさんですか?私が一人前になれるように指導してくださって‥‥‥若い子達の憧れですよ?男の人にも人気ありますし、私達の世界では有名人です」
「ふふふ。さすがは私の娘。私の愛娘ね。そうそう、フェイトとすずかちゃんに、今度長い休暇が取れたら遊びに来るように言っておいてもらえるかしら。えっと‥‥‥」
オレンジの髪の女性は、少し間を置いて答える。
「ティアナです。ティアナ・ランスター」
「じゃあ、よろしく伝えてね?ランスター執務官?」
「はい、プレシアさん。必ず伝えます」
不意打ちのティアナ執務官回。
すずかさん六課では部隊長だったんです。はやてが課長さん。
無印のエンドはこの回の為に。