Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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夜天の光

 

 

すずかが家に帰ってくると、忍の部屋から何やら言い争う声が聞こえてきた。なのはの兄、恭也と珍しく喧嘩でもしているのかと思ったが、どうも違う。忍が言い争っている相手の声は、もうすっかり聞き慣れた、愛機の声。

 

「妹に危険な事を態々させに行かせる訳ないでしょう!」

 

《ですから、何度も申し上げているように、すずかの力が必要なのです!それに、これはすずか本人の意思ですわ!》

 

バタン、と勢いよくその扉を開けたすずか。しまった、とその表情を歪めた忍に、すずかは叫ぶ。

 

「どうして?どうして本当の事言ってくれなかったの?」

 

忍は、自身の真上の、ちょうど天井と忍の間に出来ている『空間の亀裂』、ワームホールをチラリと見て、すずかに答えた。

 

「貴女が、心配だからに決まっているでしょう?すずかがあの裂け目から此方に戻ってきた時に、スノーホワイトから一通りの事は聞いたわ。実の妹が命の危険に晒されている所に、態々送り出す姉なんて居ないわ」

 

そんなことは分かっているつもり。けれど、あそこまで関わった以上、見て見ぬふりなどできない。

 

「でも!アッチのはやてちゃんを助けないと!途中で投げ出したり出来ない!それに‥‥‥」

 

赤くなって言い淀むすずかは、スノーホワイトの方を見る。その意図を正確に汲み取ったすずかの優秀な愛機は、恥ずかしさで言い難そうにしている彼女に代わり話すことにした。

 

《すずか、私が言っても宜しくて?》

 

「‥‥‥うん」

 

スノーホワイトは、すずかに気を使い、なるべく遠回しに忍に問いかける。

 

《例えばですが、忍は、高町恭也と二度と会えなくなると言ったらどうなさいます?》

 

「そんなの、耐えられないに決まって‥‥‥すずか、貴女まさか」

 

「そうだよ。私の場合はアッチのフェイトちゃんなんだけどね。お願い。フェイトちゃんがいない生活なんて考えられないの!一時の気の迷いなんかじゃないの!」

 

「ハァ」と忍は大きな溜め息をついた。まさか自分の妹が、もしかしたら永遠になるかも知れない別れを選ぶ理由が恋人、しかも同性とは。忍にだって、分からないという事もない。しかし、すずかは事情が違う。世界、というか、次元そのものが違う。別れた後家族と会いたい、と思ったとしても、次元の壁が大きく世界を隔てている。帰って来れる保証などない。

 

「でも、帰って来れないかも知れないのよ?フェイトちゃんとだってうまく行くか分からないし。それでもいいの?」

 

「うん。ごめんね、お姉ちゃん」

 

迷う事無くすずかは答える。しかしその瞳は涙に濡れていた。すずかだって覚悟はしている。もしかしたら、もう永久に戻って来れないのかも知れない。みんなとだって別れの挨拶が出来た訳じゃない。けど。きっと彼方の世界では、なのはがたった一人で戦っている。はやてを、フェイトを助ける為に。彼方の世界のなのはやアリサだって、親友。そこに差などない。あるとすれば、彼方の世界には、すずかが助けられるかも知れない命がある、ということと、大切な人がいる、ということだけ。決意を秘めたすずかの表情を見て、忍は大きく息をはく。

 

「‥‥‥ならもう止めないわ。その代わり、絶対にはやてちゃんを救ってくるのよ?それから、必ず戻ってくる方法を見つけて来なさい」

 

すずかは忍の言葉に、込み上げる感情を何とか抑えて「うん、お姉ちゃん、ありがとう」と返すのが精一杯。ポロポロと涙を流しながら、忍の上の空間の亀裂を見る。

 

「じゃ、行くよ、スノーホワイト」

 

《ええ、マスターすずか》

 

すずかはつい先程プレシアから譲り受けたカードをかざす。紫の光に包まれ、すずかの姿は紫と白を基調とした、魔法少女然としたカードのプレシア少女と同じバリアジャケット姿になる。

 

「驚いた。本当に魔法使いなのね。行ってらっしゃい、すずか」

 

忍に向かって泣きながら、しかし出来る限りの笑顔を作ったすずか。

 

「行ってきます、お姉ちゃん!」

 

すずかは閉じかけの亀裂に慎重に制御したフォトンバレットを浴びせてそれを無理矢理こじ開け、その空間に飛び込んで行った。

 

 

 

「良かったのですか?お嬢様」

 

すずかがいなくなってから少しの間を置き、部屋に入ったノエル。問うまでもない質問ではあった。しかし、無理をしているのが明白な忍を見るに耐えず、口にした。

 

「ええ、ノエル。良い‥‥‥わけ‥‥‥ないじゃない‥‥‥!」

 

座ったままで手で顔を覆い、静かに泣いている忍を、ノエルは見ている事しか出来なかった。

 

「お嬢様‥‥‥」

 

◆◇◆◇◆

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

右手で利き腕である左手を押さえ、撃ち抜いた先を見据えるなのは。肩で大きく息をし、バリアジャケットにもダメージを受けている。A.C.S.での零距離砲撃は確かに強力だが、自身も巻き添えを食う危険な技。

 

(ブラスター2、おまけに零距離での砲撃、これなら‥‥‥!)

 

闇の書の周りを覆っていた煙が晴れてくると、無事なその姿が見えてくる。ダメージが通っていない訳ではないようだが、自動修復機能でもあるのか、その傷がなのはの目の前で回復していく。

 

「あんなの、ずるっこだよね、レイジングハート?もっとがんばらないといけないみたいだよ」

 

なのはは再び魔法陣を展開し、アクセルシューターを待機させる。

 

「『シュート!』」

 

その全てを闇の書にロックオンし、シューターを放つ。闇の書に向かって放たれたのを確認すると、ブラスタービット2機が同時に魔力を先端に収縮し始め、なのは自身もレイジングハートに魔力を込める。

 

「『エクセリオンバスター!ブラスト・シュート!!』」

 

牽制兼目眩ましとして放ったアクセルシューターを全て撃ち落とした闇の書に、3本の桜色の砲撃が迫る。

 

闇の書はそれを全て回避し、両腕に魔力を込めてなのはに殴りかかる。

 

「くっ!」

 

なのはは直ぐに反応し、シールドでそれを受ける。ユーノ直伝の、強力なそのシールドに直撃を防がれつつも、その勢いはそのままになのはを吹き飛ばす。

吹き飛ばされる直前に、不意打ちでなのはが放ったクロススマッシャーをも闇の書はシールドで防ぐ。

 

岩礁に突っ込むなのは。体勢を整え直し、再び闇の書へと向かっていく。

 

その後も一進一退の空中戦を繰り広げるなのはだが、なかなか決定打を撃ち込めない。

徐々に溜まっていく疲れ。ブラスターの反動に少しずつ悲鳴をあげ始めた、その身体。

 

「このままじゃ‥‥‥レイジングハート、ブラスター3、行けるよね?」

 

《駄目です、マスター!マスターの身体はまだブラスター3には耐えられません!》

 

レイジングハートの答は、間違っていない。なのはの身体はブラスター3に耐えられる程仕上がってはいない。しかし、なのはは揺るがない。ここで諦める訳にはいかない。

 

「大丈夫!一気に決めてみせるから!ブラスター3!!」

 

更に2機のビットが展開されたところで、なのはの視界が揺らぐ。不味い、と思った時には、『眠れ!!』と叫んだ闇の書の放った巨大な鏃が目の前まで迫っていた。なのはが(避けられない!)とそう思った瞬間の事だった。

 

「『撃ち抜け、雷神!』」

 

《Jet Zamber!》

 

金色の巨大な刃がなのはの視界を走り、なのはの眼前まで来ていた鏃を真っ二つにした。

 

「フェイトちゃん!」

 

闇の書の拘束空間から自力で脱出したフェイトは、危機一髪の所でなのはを助けた。

 

「うん、なのは。すずかは?」

 

フェイトがそう尋ねたのと同タイミングで、闇の書に向かって雷を帯びた紫の光が放たれた。

 

「『フォトンバースト!』」

 

その光が闇の書の元に到達すると、圧縮されていた魔力が開放されて爆発。

 

その大爆発に巻き込まれているであろう闇の書を横目に、3人は再会を喜ぶ。

 

「すずかちゃん!」

 

「ただいま、二人とも」

 

「すずか!」

 

またしても変わっているすずかのバリアジャケット。先程の攻撃魔法といい、バリアジャケットといい、フェイトに母プレシアを想い起こさせる。

 

「すずか、そのバリアジャケットは?」

 

「元の世界の、プレシアさんに会ってきたの。プレシアさんの力だよ」

 

「それって‥‥‥元の世界に戻ってたってこと!?どうして戻って来たの!」

 

驚いているフェイト。すずかはその頬を少し紅く染め、柔らかな笑みで答えた。

 

「そんなの、決まってるよ。はやてちゃんを助けないと。それに‥‥‥フェイトちゃんに会いたかったから」

 

それを聞いたフェイトは、すずかを正面から引き寄せ、そのまま強く抱き締めた。頭半個分くらい下に抱き締められ、上目遣いでフェイトを見上げる形となったすずかの顔に、フェイトの顔が少しずつ近付く。

 

「すずか!大好きだよ、すずか」

 

「フェイトちゃ‥‥‥だめ‥‥‥ヤ‥‥‥ンちゅっ‥‥‥ァ」

 

フェイトの唇はそのまますずかの唇に重なり、その舌が濃厚に絡まる。未だ爆発煙に包まれ、闇の書が動かないのをいいことに、二人のそれは少しの間続けられた。

その場でどうしていいか分からず、苦笑いを浮かべるなのはを他所に。

 

(フェイトちゃんもすずかちゃんも全く‥‥‥私もいるんだけどなぁ)

 

◆◇◆◇◆

 

『どうかお眠りを、我が主!後何分もしないうち、私は私の呪いで、貴女を殺してしまいます。ですから、我が主!』

 

闇の書の管制人格は、夢から覚醒したはやてに泣きながら懇願していた。

 

「そんなことさせへん。大丈夫や。それに、あれを止めな。私らならきっと出来るよ」

 

『ですが、我が主!暴走が止まりません‥‥‥ナハトも!』

 

「止まって!」

 

ナハトの進行に割り込みをかけるべく、その瞳を一瞬閉じて、白銀のエンシェントベルカの魔法陣を展開するはやて。

 

「忘れたらあかん。闇の書のマスターは今は私で、あなたも私の大事な子や。

名前をあげる。もう闇の書とか、呪われた魔導書なんて呼ばせへん。‥‥‥幸運の追い風。祝福のエール。リイン・フォース」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はやて覚醒回。ナハトヴァールとの決戦も間近。

すずか最後のお召し代え、雷光少女プレシアちゃん。

フェイトちゃんとは変わらずラブラブイチャイチャ。

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