翠屋のテラスの椅子に座り、キャラメルミルクを飲んでいるヴィヴィオに後ろから抱き付いている、ニコニコという表現がピッタリの終始笑顔のフェイト。理由は簡単。ヴィヴィオの『ママ』発言。
「すずかがママ。私もママ。なら、ヴィヴィオは、私達の子なんだよね?私と、すずかの」
ヴィヴィオが未来から来た自分とすずかの愛娘と信じて疑わないフェイト。
未来でも二人は仲睦まじく生活していて、きっとその頃には同性でも結婚できて、子供も作れて‥‥‥。結婚式はどうとか、ウェディングドレスがどうとか、ヴィヴィオを産むのはやっぱりすずかかな、とか、もう色々すっ飛ばして一人妄想に耽っている。
ヴィヴィオが高町姓だとか、管理局の把握している限りでは時間移動は不可能とか、そういう都合の悪い情報は抜けてしまっているようだ。苦笑いを浮かべるヴィヴィオを見つつ、はやては半ば呆れて言った。
「フェイトちゃん、いくら何でも無理があるで?時間を移動するなんてできる訳ないやろ?」
すずかとの明るい未来設計に水をさされたフェイトは、すかさず反論。
「だって、はやて。ヴィヴィオは私の事ママっていったんだよ?」
はやては頭を抱えて大袈裟に溜め息をつく。「アカン、重症や」と呟いたあと、再びフェイトを見る。
「ほら、ヴィヴィオも困っとるやないか。ママに似とっただけやろ?」
「でっ、でも!私とすずかどっちもママって!」
はやてとフェイトは、ヴィヴィオの方を見る。フェイトの妄想から目を覚まさせたいはやてと、自分の主張を認めて欲しいフェイト。二人の目が訴えている、自分が正しいと言ってと。返答に困ったヴィヴィオが「そっ、それは‥‥‥」と言葉に詰まり、すずかの方を見ると、疲れているのか眠そうに目を擦っている。
「あ、すずか『さん』、大丈夫ですか?」
「うん‥‥‥大丈、夫。ちょっと眠いだけだから」
ヴィヴィオの知る限りではあるが、あの程度の戦闘で疲れる程すずかは弱くは無かった筈。それどころが、ヴィヴィオの時代では総合SS―という、はやてに次いで管理局の最高戦力の一人。そもそも、あの程度の攻撃で押されている、というのもおかしな話。疑問を感じつつも心配な目を向けるヴィヴィオ。
「すずか、少し横になったほうが良いよ。奥の部屋使わせてもらえるように頼んでくるから」
フェイトはヴィヴィオから離れてすずかの手を引く。「行こう、ね?」というフェイトに促され、フラフラと立ち上がったすずかは「うん」と答えると、そのままフェイトに寄りかかるようにして歩く。
「ごめんね。少し、寝てるから」
すずかはそう言ってフェイトと奥に歩いていく。
ソファに横に寝そべり瞳を閉じると、直ぐに眠りに落ちたすずか。そのすずかを見つめていたフェイトは、傍まで寄ると「すずか?」と言って眠りが深いのを確認する。
スヤスヤと寝息をたてて眠るすずかの頭を優しく撫でるフェイト。
(少しなら、いいよね)
自身の感情を抑えられないフェイトはすずかの左頬に軽くキスをする。疲れているからなのか体調が悪いからなのか、うっすらと汗をかいているすずかに、徐にタオルを手に取ったフェイト。
(これは、すずかが汗をかいてるから、拭いてあげないといけないだけ。決して、すずかの素肌が見たい訳じゃない、うん)
そう自身に言い聞かせ(言い訳して)、すずかの首筋を人差し指で軽くなぞる。「んっ」と微かに声をあげたすずかの上着のボタンを外して、服を脱がせて、タオルで‥‥‥と拭こうとしたところで、その行為を止めた。
(これは、どういう‥‥‥?)
フェイトの目に飛び込んできたものは、いつかクロノが覗きこんでいた胸のアザ。しかしフェイトの記憶にあったそれとは比較にならない程に拡がっていて、それが紋様だとハッキリ分かる。
「う‥‥‥ん?‥‥‥どうしたの、フェイトちゃん?」
目を擦り、寝惚け眼でボーッとフェイトを見つめるすずか。
「すずか、これは何?」
フェイトの真剣な眼差し。そしてそれが自身の胸の紋様を指している事に気づき、意識を覚醒させたすずかは、大粒の涙を流し始めた。
「フェイトちゃん、私」
と、純粋にすずかを心配していたはやてから、すずかを起こさないよう念話が入る。
《フェイトちゃーん、すずかちゃんの様子はどうや?‥‥‥って》
部屋に入ったはやてが見たものは、上半身ほぼ服を脱いでいて泣いているすずかと、その服を持ちつつすずかを見ているフェイト。状況を勘違いしたはやては、思わず声に出して叫んだ。
「フェイトちゃんがすずかちゃんを強姦しとる!?」
◆◇◆◇◆
「クロノ君!どうしてこんな!」
「僕達だって辛いんだ、なのは。それに、まだアルカンシェルを使うと決まった訳じゃない。すずかと分離させるか、コントロール出来れば使わなくていいんだ。僕達だって諦めた訳じゃない」
管理局本局。未だドッグに繋がっているアースラ。だがしかし、アルカンシェルは既に搭載済み。もうすぐ97管理外世界に向かう事になっている。目的は勿論、第1級捜索指定ロストロギア。
「でも!」
なのはだって、納得できる訳がない。次元世界の為、という理由で自身の親友、すずかを消し飛ばすなんてさせない。絶対にそんなこと、させる訳にはいかない。
「システムU-Dが覚醒したら、ナハトヴァール以上に厄介になりかねない。それまでに、何とか打開策を見付けるしかないんだ」
クロノも言い難そうに話す。クロノとて諦めた訳ではない。しかし、紫天の書のない現状では、すずかを救う方法を探すのは極めて難しい。
「諦めないから。きっと、すずかちゃんを助けるんだからね!」
「それから、なのはには別の事も頼みたい。とある違法渡航者の捕獲だ。先程すずかを襲った相手。二人なんだが、頼めるか?」
モニターを開き、対象の映像を見る二人。ピンク色のジャケットの女性と、黒いバリアジャケットの特徴的な少女。
「これが二人の画像データなんだが」
「一人は銃型と剣型のデバイスを使うこの女性。それと、もう一人は‥‥‥」
「私と、ソックリ!?」
「そうなんだ。バリアジャケット、デバイス、砲撃主体の戦闘スタイル。顔までなのはソックリだ」
なのはと瓜二つの少女。双子の姉妹とかだったら良かったのだろうが、すずかを襲っているあたり、嫌な予感しかしない。
「分かったよ、クロノ君。私、やるよ。この子に会ってみたいし」
話せば分かり合えるかも知れない。なのはは自分ソックリな少女を、決意に満ちた表情で見ていた。
「いつもすまない、なのは」
◆◇◆◇◆
「すずか『さん』も、フェイト『さん』も、程々にしてくださいね!人前でイチャイチャするの禁止っていつも言って‥‥‥」
「いつも?」
ヴィヴィオの失言に、はやてが反応する。いつもイチャイチャしているのは間違いない。それはもう、はやてがウンザリするくらい。だが、初対面の筈のヴィヴィオが知っているのはおかしい。それに、いつも言っている、というのはどういう意味なのだろう。
「あ、えっと」と口ごもるヴィヴィオに、はやては捲し立てる。その瞳は、疑惑に満ちていた。
「怪しい。怪しいで、ヴィヴィオちゃん。何隠しとるんや?」
「えーっと、や、やっぱりここのシュークリームは美味しいデスネ」
どうにか誤魔化そうとしているヴィヴィオだが、いいアイデアが浮かばないらしく、シュークリームを無理矢理頬張ってチラチラとすずかを見ている。すずかはヴィヴィオの視線に気づくと、念話を送る。
《私はヴィヴィオちゃんが私達の子だって信じるよ。並行世界の移動ができるくらいだもん。時間移動だって、きっと》
《‥‥‥すずかママ。これ以上は、聞かないで。未来に影響があるかも知れないの。未来が変わっちゃうかも知れない。私、ずっとママ達の娘でいたいから》
ヴィヴィオが同じ時間軸から来たとは限らない。けど、少なくともヴィヴィオの世界では、すずかは死なずに無事大人になっている。すずかが闇に飲まれず、無事な未来もあるということ。僅かだが希望を見出だしたすずかは、ヴィヴィオに笑顔を向けて、念話を返す。
《分かった。もう聞かないね。じゃあ、ヴィヴィオちゃんが帰れる方法、みんなで探そうね》
そんなやり取りをしていたところへ、アリサから緊急通信が入った。かなり焦った様子のアリサ。
《大変よ、みんな!》
《何や、アリサちゃん、どうしたん?》
《ヴィータが魔導師にやられて、重傷なの!》
《何やて!!嘘や!ヴィータがそんな‥‥‥》
はやては狼狽した。ヴィータが重傷なんて。それ以前に、ヴィータが負けるなんて信じ難かった。
《誰なんですか?ヴィータさんがやられたのって》
ヴィヴィオもヴィータがやられる程の相手が気になるらしく、真剣な眼差しでアリサに問う。
《それがさ、はやてソックリの‥‥‥って、アンタ誰よ?》
途中まで話して、アリサはモニターに映る、見たことのない少女に気が付いた。
フェイトちゃんは今日も平常運転、の回。「ヴィヴィオは高町言うてるやろー!」というはやての突っ込みにもどこ吹く風。
なのはvsシュテルんはもうすぐ実現。