Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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光の中の、深淵の闇

 

「ごめんね、はやて」

 

「ええよ。ヴィータが無事やったらそれでええ」

 

本局の医務室。全身に包帯姿のヴィータは、ベッドの上から申し訳なさそうにはやてを見る。はやては優しい笑顔を浮かべてヴィータの頭を撫でた。アリサがヴィータは重傷だと言うので飛んできたわけだが、思ったよりは悪く無さそうだ。彼女が夜天の書の守護騎士、というのも回復促進の手助けとなっている。一週間も入院していれば、治るだろう。一行はホッと胸を撫で下ろした。

 

「それで、ヴィータを襲ったのはどんな人だったの?」

 

フェイトの質問に少し躊躇したあと、はやてを見るヴィータ。暫しの間を置いて口を開く。

 

「それが‥‥‥はやてとソックリだったんだ。術式もエンシェントベルカだったし、まるで双子を見てるみてぇだった」

 

最悪の事態かも知れない。自身の中の闇を抑える為の制御ユニット、紫天の書。それを扱える唯一の者が、もし敵だとしたら。それの意味する所は、すずかにとって‥‥‥。いや、まだ決まった訳ではない。まぁ、シュテルが立ちはだかった時点で、ディアーチェも敵である可能性が高いわけだが、あれはシュテル自身が、『試す』と言っていた。本当に実力を測っていただたけで、敵ではない可能性もあるわけだが、ヴィータが重傷になるまでやられたとなれば話は別。祈るような思いのすずか。

 

「ヴィータちゃん、その子って、はやてちゃんと騎士服色違いじゃなかった?」

 

「ああ、そうだった」と、そのすずかの質問にヴィータは答える。

 

「なのはの色違いの魔導師と関係がありそうだな」

 

クロノが当りをつけている。すずかは、ヴィータの答えで確信する。

 

(ディアーチェちゃんだ。敵なんて、そんな‥‥‥)

 

それは、平和的解決がほぼ不可能に近い事を意味している。ディアーチェが改心でもしない限り、すずかを助けるような事は先ずない。加えて、紫天の書はディアーチェにしか使えず、無理矢理奪っても何の意味も為さない。

すずかの顔に動揺の色が浮かぶ。

 

そんなすずかが見えているのかいないのか、クロノは再びロストロギア事件を解決すべく、現97管理外世界の魔導師達に役割を分担する。

 

「兎に角だ、はやてとフェイトはその魔導師の行方を探してくれ。今なのはにはユーノと共になのはソックリの魔導師の追跡をしてもらってる。それから、ヴィヴィオだったか?」

 

少し緊張して、「は、ハイ!」と答えたヴィヴィオに、クロノはアインハルトの件も交えつつ、話した。

 

「君の友達にも協力してもらってる。今なのは達と一緒だ。少しでも人員は欲しいところだ。君も協力してくれるか?」

 

「勿論です!」

 

◆◇◆◇◆

 

すずかとフェイトとクロノは、はやての車椅子を押しながら出口へと向かう。すずかは時折感じる、すずかに向けられる張りつめたような視線にゾクッと身体を震わせる。

 

(今の人、何か私の事睨んでたような‥‥‥?)

 

「すずか、どうしたの?」

 

フェイトの心配に、すずかは「ううん、何でもないよ」と作り笑いで返す。フェイトにだけは、心配をかけたくない。

 

(やっぱりそうだ)

 

再び感じた、すずかを睨むような視線。さっきの一人だけなら、まだ偶々相手の機嫌が悪かったとか、目つきが悪いだけとかでも納得できる。

しかし、すれ違い様ではあるが、すずかに鋭い視線を送った者は数人いた。あからさまに睨む者もいた。フェイトの手をギュッと握り、俯いて立ち止まる。

 

「どうしたの?すずか」

 

「フェイトちゃん、あのね、何だか睨むような視線を感じるの」

 

「大丈夫、きっと気のせいだよ。ここは管理局だよ?悪い人なんていないから」

 

そう。あの視線は恐らく、悪人がすずかに向けた視線ではないだろう。睨んでいた者はきっと知っていたのだ、砕け得ぬ闇とすずかの事を。だとすれば、かつて闇の書がそうだったように、自分は次元世界の脅威と認識されているのかも知れない。クロノ執務官とフェイトが一緒でなかったら、もしかしたらここで拘束されていたのかも知れない。ビクッと震え、不安そうにフェイトの腕に抱き付く。

 

「すずか?」

 

「フェイトちゃん」と言って抱き付いたまま、不安そうにしているすずか。そんなすずかに何かを察したクロノは、一人向きを変えて出口とは違う方へと歩き出す。

 

「すずか、フェイト。君達は先に戻っていてくれ。僕は少しやることがあるから」

 

◆◇◆◇◆

 

(全く、もうちょっとだったのに)

 

海鳴の沖合いの海上に一人浮かぶキリエ。エグザミアをもう少しで、という所で、フェイトに撃退され、策を練る。戦闘で悠長な事を言っていられる程フェイトは弱くない。ならば、仕方ないがここはオーバードライブで吹っ飛ばして‥‥‥と考えていた所に、聞き覚えのある声がこだました。

 

「見つけましたよ、キリエ!」

 

「ゲェ」

 

キリエの視界に現れたのは、自分と同じ意匠のバリアジャケットにデバイス。赤い髪を後ろで1つに束ねた、姉のアミティエ・フローリアン。

 

「仮にも長女である私に向かって、『ゲェ』とは何ですか!」

 

「誰にも邪魔はさせない‥‥‥させないんだからぁ!!」

 

キリエは両手に持ったデバイスをアミタに向けて、睨みながら叫んだ。

 

◆◇◆◇◆

 

(気のせいかな?身体が、重い)

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

海鳴市へと戻ったすずか、フェイト、はやての3人は、ヴィヴィオと共にハラオウン宅へと向かうべく、駅前の通りを歩いている。

 

「すずか?大丈夫?具合悪いの?」

 

先程から肩で息をして、辛そうに歩くすずかを心配そうにしているフェイト。すずかはそのフェイトと、これまた心配そうに見ているヴィヴィオに、「大丈、夫、だよ」と息も途切れ途切れに答える。しかし、辛そうな表情のすずかを見る限りでは、少なくとも10人が見て10人とも大丈夫には見えないと答えるだろう。

 

そんな4人を違和感が覆う。すずか達を閉じ込めるように展開された結界に、すずか以外の3人は身構え、其々魔法陣を展開し、バリアジャケット姿になった。

はやてとフェイトが辺りを警戒している中、スノーホワイトを手に取ったまま、未だ私服のままで魔法陣すら展開していないすずか。その足元はフラフラと覚束なく、倒れそうになってヴィヴィオにもたれ掛かる。

 

「すずかマ‥‥‥すずかさん、本当に大丈夫!?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥うん‥‥‥」と答えてヴィヴィオに寄りかかったままのすずかに代わり、スノーホワイトが静かに言った。

 

《魔力が殆ど結合出来ませんの。平たく言えば、すずかは今、残念ながら魔力を少し感じられる程度の一般人レベルですわ》

 

「うそっ!?なんで」とヴィヴィオが驚いている最中に、何処からともなく、嘲笑うかのような高笑いが聞こえてきた。

 

「ハーッハッハッハッハ!ようやく現れおったか!待ちくたびれたわ、月村すずか!」

 

「我々も今来たばかりですよ」

 

「やかましいわっ!ようやく見付けたという意味で言ったのだ、シュテル」

 

「‥‥‥‥‥‥ハイ、王」

 

「シュテル、貴様さては我を尊敬しておらぬな?」

 

「そんな事はありません。私はただ単に事実を述べただけです」

 

何だか漫才のようなやり取りの二人を見て、(ボケもツッコミもイマイチやな)と、心の中で思いつつ、はやては驚く。

 

「ホンマに私ソックリや!?」

 

その二人を見て、すずかも苦しそうに口を開く。

 

「ハァ、ハァ、ハァ‥‥‥ディアーチェ、ちゃん」

 

すずかにディアーチェと呼ばれたその魔導師は高慢な態度を崩さずに、「ええい、ちゃん付けで呼ぶでない!」と喚いている。

 

辛さに耐えられず座り込んでしまったすずかは、すぐ傍に立つヴィヴィオの手を握って引っ張り、消え入るように微かな声を出した。

 

「‥‥‥‥‥‥げて」

 

「えっ?すずかママ、何?」

 

「に‥‥‥‥‥‥げ‥‥‥て」

 

 

 

 




ディアーチェ、シュテルんと共に華麗に登場!?回。

キリエはアミタに遭遇。ヴィヴィオが参戦。そしてすずかの意味深な一言。
次回、事態が動き出します。

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