「気持ちいいね、なのはちゃん」
「そうだね~、すずかちゃん。あったかいね」
二人は月村邸で、入浴中。
あの後、なのはが目覚めるまで介抱し、すずかの家に泊める事にしたのだ。なのはの家族は、揃いも揃って異常な感性の持ち主ばかり。そのままなのはを帰せば、恐らく何かしら感づかれる。ユーノと相談した結果、こうして一緒にお風呂に入っている訳だ。因みにユーノはというと、フェレット状態で目隠しなうえに、レイジングハートとスノーホワイトの監視付き。
《私のマスターを視姦するなんて、万死に値しますわ!!》と怒り心頭なスノーホワイトを、《貴女のようなデバイスには初めて会いました》と評したレイジングハート。別次元から来たせいか、妙に人間味のあるデバイスに、ユーノも戸惑っていた。
そのユーノは、すずかについて考えていた。初めて会った時は、確かに魔力を持たない、一般人だった。並行世界のすずかになった時も、魔力は感じなかった。では、何時から魔力を?まさか、次元震を起こしたジュエルシードが原因?ともあれ、なのは同様、自身よりも強力な魔力の持ち主が味方になった。あの戦術知識と魔力なら、大きな戦力になる。それに、次元世界でも貴重な氷結変換のレアスキル。フェイトの雷変換に充分に対抗しうる力だ。とそこまで考え、一度思考を止める。
「えっと、トイレに行きたいんですけど」
《貴方はそんな事を言って、すずかを覗きに行くつもりですわね!》
「イヤ、ほんとに」
なかなかユーノを信用しないスノーホワイト。身から出た錆とはいえ、そろそろ許して欲しい所だ。
そんなやり取りをしていると、丁度風呂から戻ってきたなのはとすずか。
我慢も限界だったユーノは、フェレットのままトイレへ。なのはとすずかの2人が椅子に座ったタイミングで、コンコン、とノックの音。それに慌ててデバイスを隠す2人。そこに入ってきたのは、すずかの姉、忍。
「なのはちゃん、今晩は。ゆっくりして行ってね」
「忍さん。お邪魔してます」
笑顔でなのはに挨拶を交わし、忍はすずかを見る。その目が、いつもの優しい目ではない鋭い目だった事に、すずかはビクッと身体を震わせた。
「さてと。ちょっと聞きたい事があるんだけど。なのはちゃん、すずか、貴女達、一体何をしているの?」
最大の障害が自身の家族に居た事を、すずかは失念していた。姉の忍の勘の良さと洞察力の高さを忘れていた。
《どうしよう、すずかちゃん!?》
《えっと、えっと……》
忍に気付かれないよう念話でやり取りするも、いい言い訳は浮かばない。
「お姉ちゃん、あの、えっと……」
「正直に話してごらんなさい。悩み事があるんでしょ?最近のすずか、辛そうだもの」
その言葉に、すずかの中の、異世界に来た不安、寂しさ、恐怖など、必死に考えないようにしてきた事が、一気に溢れる。泣きたいのを必死に我慢し、すずかは口を開いた。
「お姉ちゃん、今はまだ話せないの。全部終わったら、きっとちゃんと話すから。だから、心配しないで」
「……分かった。でも、無理したら駄目よ?無理な時はちゃんと相談すること。いい?」
忍はすずかの頭を優しく撫で、部屋を出ていった。悲しそうな表情のすずかを見ながら、なのはは訊ねる。
「良かったの?すずかちゃん」
「うん。危険な事だし、あんまり心配かけたくないから」
「そっか。そうだよね。私も、家族のみんなにいつかは言わないとなんだよね」
なのはの顔が曇る。何の取り柄もないと思っていた自分の、やっと見付けた居場所。でも、それが危険な事と知ったら、家族はどう思うだろう。
「今日はもう寝よっか、なのはちゃん」
「……うん」
考えれば考える程沈んでいく思考を打ち切り、二人は寝る事にした。二人一緒のベッドで、枕を並べて横になる。すずかはなのはの腕に抱きついた。
「なのはちゃん。ごめんね。今日だけ、だから」
異世界にたった一人で来て、不安でない筈がない。一見すると同じように見えるが、実際はみんな、すずかの知る人達ではない。頼れるのは、ユーノとなのはしか居ないのだ。
「ううん、いいよ、すずかちゃん」
なのははそんなすずかを抱き寄せ、眠りにつくのだった。
次の日の朝。月村邸まですずかを迎えに来たアリサは、家からなのはが一緒に出てきた事に、ショックを受けた。
「あれっ?なのは。すずかの家にお泊まりだったの?」
「うん。昨日の宿題で分からない所があって、すずかちゃんと一緒にやって、そのままお泊まりしたんだ」
嘘だ、とアリサは思った。最近2人だけでコソコソと隠れて何かをしている。それに、2人とも何かを悩んでいるようなのに、アリサには一向に相談してこない。一人だけ蚊帳の外、疎外感。
「あのさ、なのはもすずかも最近放課後何してるの?」
「何っていつも通りだよ?」
「そうだよ、アリサちゃん。私もすずかちゃんもいつもとおんなじだよ?」
また嘘だ。イライラする。自分だって2人の役に立ちたい。それなのに、話すらしてくれない。
「あーもう、イライラする!どうして2人とも何も話してくれないの?どう見たって悩んでるじゃない!!」
機嫌を損ね、感情の爆発したアリサは、一人で先に行ってしまった。本当の事を言う訳にもいかず、なのはとすずかは通学路を俯いたまま歩いた。
◆◇◆◇◆
「大丈夫なのかい?フェイト。あの白い魔導師、明らかに強くなってるし、氷結魔法使う奴だって居るんだ。どう考えたって不利だよ!」
3対2、という状況に、アルフは不安を抱いていた。なのはとか言う砲撃魔導師はレベルアップしているし、未知数の氷結魔導師。いくらフェイトが強くても。そう考えていると、
「まだ大丈夫だよ、アルフ。それに、ジュエルシードだって、ホラ」
アルフに今までで手に入れた4つのジュエルシードを見せるフェイト。
「でもねぇ」と渋るアルフをなだめ、フェイトは母プレシアの待つ時の庭園へ転移すべく魔法陣を展開する。
「次元転移。転移座標876C 4419 3312 D699 3583 A1460 779 F3125。開け、誘いの扉。時の庭園、テスタロッサの主の元へ。」
金色の光が2人を覆い、フェイトとアルフは転移した。
時の庭園につくと、2人(1人と1匹)は真っ先にプレシアの元へ向かっていた。玉座の間へと続く、長い廊下を歩く2人。やがて扉の前に着く。
「じゃあ、ここで待ってて、アルフ」
「うん、フェイト。気を付けてね」
「? 別に大丈夫だよ」
一抹の不安を覚えたアルフは、フェイトに忠告した。今までだって、フェイトに対するプレシアの態度は、母親のそれとは到底思えない態度だった。特にリニスが居なくなってからは、日に日にプレシアの機嫌は悪くなり、フェイトにもよく手をあげるようになっていた。そこには母親の愛情など微塵も感じられない。少なくともアルフにはそう見えた。そうしてフェイトが部屋に入って数刻。
「……ぁ………っっ……ぅぁ……」
聞こえてきたものの残酷さに、アルフは思わず目を瞑ってしゃがみこみ、耳を塞いだ。短期間でロストロギアを4つも集めたというのにどうして。
何度も何度も打たれる鞭の音と、その度響くフェイトの悲鳴に、アルフは必死に耐えていた。
◆◇◆◇◆
放課後に一人歩くアリサ。
(もう!なのなのよ、2人して!相談もしてくれないなんて……もしかして、アタシ何か嫌われるような事したのかな……)
よくよく考えてみたら、他になのは・すずか程仲の良い友達もいない。このままだと、一人ぼっちとか……などと落ちていく気持ちに合わせるかのように歩くスピードも落ちていく。沈む気持ちを紛らわそうと、海辺へと足を運ぶアリサ。海に出ると、ふと一本の木の下に光る物を見つけて近付く。
(何コレ?菱形の宝石……?)
ほのかに光るそれをアリサが手にすると、その石が眩い光を放った。
◆◇◆◇◆
《なのは、すずか!ジュエルシードが発動した!》
「海のほうだよね!行こう、なのはちゃん!」
「うん、すずかちゃん!」
ユーノを伴って、一路海辺へと急ぐ。ユーノが念のため結界を張り、現場に近付く3人。その刹那、焔の塊がなのはを襲う。まだバリアジャケットすら着ていないなのははシールドを張ろうと手を前に出すが、一瞬焔のほうが早い。思わず目を瞑ったなのはだったが、すんでのところで、氷の鏡が焔の軌道を反らし、なのはのすぐ右後ろで爆発した。
「大丈夫?なのはちゃん!」
「ありがとう、すずかちゃん」
「ジュエルシードが人を取り込んでる!油断しないで、なのは、すずか!」
ユーノの言葉にジュエルシードの方を再度見た2人は、そこにいた人物の正体に、言葉を失う。
「嘘っ!取り込まれたのって……」
「アリサちゃん!?」
魔力の焔に包まれ、目を閉じたままのアリサ。アリサは何も反応せず、2人に向けて焔を鞭のようにしならせ、放った。
御約束、バーニングアリサ。
3人の強力な魔導士相手に、木のお化けでは役不足と判断しました。