『フェイトちゃん』
優しい笑顔を向けて呼ぶすずか。フェイトはそのすずかに手を伸ばす。
『すずか』
フェイトがすずかに触れた瞬間、すずかの姿が魔法のように消える。そして、遠くに現れて再びフェイトの名を呼ぶ。
『フェイトちゃん』
『すずか‥‥‥すずか!』
フェイトはすずかに向かって走ろうとするが、身体が鉛のように重く、徒歩よりも遅いスピードしか出ない。少しずつ遠ざかるすずかに、フェイトは焦り、叫ぶ。
『すずか!待って、すずか!』
ふと、すずかは遠ざかるのを止め、フェイトの方を悲しそうな表情で見つめ、喋る。
『フェイトちゃん』
と、突然すずかの前方にアースラが現れて、アルカンシェルが展開していく。悲しそうな表情のままのすずかが、フェイトに向かい口を開く。
『フェイトちゃん‥‥‥さようなら』
それを聞いたフェイトは、涙を瞳一杯に溜めて叫ぶ。
『イヤだ‥‥‥‥‥‥嫌だ!すずか!行かないで、すずかぁ!』
距離が全く縮まらず、遠くから見ている事しか出来ないフェイトの目の前で、アルカンシェルが放たれ、すずかを飲み込んでいく。絶望的な光景に、フェイトは叫び声をあげる。
『うわぁぁぁぁぁ!!!』
「‥‥‥‥トママ‥‥‥フェイトママ、大丈夫!?」
フェイトが目を覚ますと、自身を揺さぶるヴィヴィオの姿が目に飛び込んできた。どうやら夢を見ていたようだ。
「夢‥‥‥?」
フェイトの全身は汗でびっしょり濡れていて、瞳からは涙を流している。魘されていたのをヴィヴィオが起こしてくれたようだ。
「魘されてたよ?大丈夫?」
「うん。ありがとう、ヴィヴィオ」
涙を拭って、ベッドから身体を起こすフェイト。バルディッシュの調整が終わるまでに少し時間がかかる、というのでベッドに横になって休んでいるうちに寝てしまったらしい。ヴィヴィオはマリエルに頼まれてフェイトを呼びに来たようだった。
折角のヴィヴィオとの二人きり。フェイトは聞きたい事があった。勿論、すずかについて。
「ねえ、ヴィヴィオ。ヴィヴィオは未来から来たんだよね?未来のすずかってどんななの?」
「うーんと、局では凛々しくて、決断力があって、凄く確りした指揮官‥‥‥だったかな?でもね、家だととっても穏やかで優しくて。フェイトママの前だととっても甘えん坊だよ」
「そっか」と言って頬を少し紅く染め、微笑を浮かべるフェイト。しかし。確かにそれも聞いておきたい事項だったのだが、もう1つ。
「じゃあ、私、どうやってすずかを助けたのかな」
これこそが、今のフェイトが聞きたかった事。すずかを助ける、と決意した迄はいい。だが、どうやって助けたものか。すずかとU-Dの融合を分離する鍵は?方法は?もし、ヴィヴィオが未来の自分達にその方法を聞いていたのなら、是が非にでも教えて欲しいところ。
「ごめんなさい。そこまでは聞いてないの。こんな事になるなら、詳しくお話聞かせてもらえば良かった」
そう言ってヴィヴィオは項垂れる。方法が分からないのは残念だが、何でもヴィヴィオに頼ってばかりな訳にもいかない。
「ううん、ヴィヴィオのせいじゃないから。ごめんね。駄目だよね?自分で何とかしないと。絶対‥‥‥すずかを助けるんだ」
ヴィヴィオがこの時代に来たのはイレギュラーの筈。本来、助ける方法は自力で何とかしないといけないのだ。
「ごめんなさい、フェイトママ。すずかママが少し紅潮しながら話してた事くらいしか‥‥‥」
◆◇◆◇◆
アースラ内、会議室。いつかの時の庭園突入の時もこんなだった気がする。ただ、あのときとは違ってなのはがおらず、代わりにフェイト、はやて、ヴィヴィオが座っている。真剣な表情のはやてはクロノを見つつ口を開く。
「クロノ君、なのはちゃんが目覚ましたで?」
はやての言葉にホッとしているユーノの方をチラリと見て、「そうか、良かった」とだけ喋り、沈黙するクロノ。それに合わせるかのように続く沈黙。重苦しいそれを破ったのは、どこからか通信を受けて不意にモニターを開いたアリサ。
「こっちはバッドニュースかもよ?U-Dが現れたわ」
U-D、というワードに反応し、クロノは思考を巡らせている。考えた所で現時点でとれる行動は少ない。少なくとも、現状ではまだアルカンシェルは使いたくない。とすれば。
「もう少し待って欲しかったが。現有戦力で対抗するしかないな。急いで策を」
「もう少し様子見るゆーのはアカンの?」
はやての言葉に、返答を返すクロノ。
「もうあまり時間的猶予が無いんだ。具体的に言うと、あと3日。それまでに何とか解決法を見付けないと」
「まさか、ホンマにアルカンシェル使う言うんか!」
あと3日。管理局の設けたアルカンシェル砲撃の期限までもう時間がない。気持ちばかりが焦るはやて。
「そうよ、はやて。あと3日しかないの。それまでに、あのはやてソックリの奴に頼る以外の方法を見付けないと、すずかは‥‥‥!」
いいかけて俯くアリサ。その先はどうしても口にしたくなかった。言ったら、本当にそうなってしまいそうだったから。
「せやけど、U-D抑えこむ方法なんて有るんか?ナハトの時みたいに吹き飛ばして分離出来たらええんやけど」
はやて自身の時と状況は少し似ている。あのときのナハトのように、純粋大規模魔力砲撃ですずかと引き離せれば話は早いのだが。しかしアリサは素直に賛成はしなかった。もっと大魔力で放った砲撃でもビクともしなかったのを観測していたから。
「でも、アミタさんが放った砲撃ですら効かなかったのよ?それ以上なんて」
じっと黙って聞いていたクロノが、口を開く。
「せめて、なのはが動ければな。 U-Dのあの膨大な魔力が利用できれば。ブレイカーなら、何とかなったかも知れないんだが」
なのはのブレイカー。確かに、あれだけの魔力を常に放出し続けているU-Dが相手なら、収束砲撃の威力も凄まじいものになる。だからと言って、今のなのはに無理はさせられない。何せ、先刻の瀕死の重傷から目覚めたばかり。代わりになりそうな大魔力は‥‥‥と全員が頭を悩ます中、自身の両手をじっと見ていたはやてが、顔をあげた。
(リインフォースがくれた、私の力‥‥‥)
「スターライトブレイカー‥‥‥何とかなるかも知れへんよ!みんな、作戦会議や!」
◆◇◆◇◆
一点を見つめるフェイトが、凛々しい表情で呟く。
「行くよ、バルディッシュ」
《Yes,Sir!》
「ヴィヴィオちゃんも、準備ええか?」というはやての言葉。
「はい、八神司令」とヴィヴィオが言ったのを合図に、クロノに臨時の指揮権限をもらったはやてが、叫んだ。
「ほな、みんな、行くよ!」
それぞれが同じ方向へと向かう。先頭を飛んでいるフェイトが、その先にいる人物の名を叫ぶ。
「U-D!」
『君達は‥‥‥どうして』
U-Dの魄翼が大きくはためくよりも早く、はやての足下に大規模魔法陣が展開。その手に持つデバイスが白銀に輝く。
「みんな、散開して!先手必勝や!『来よ、白銀の風。天より注ぐ、矢羽となれ!』」
手元に集まった光をU-Dに向け、はやてはそれを開放した。
「『フレースヴェルグ!!』」
シグナムは弓型に変形したレヴァンティンを引き絞る。バシュン、バシュンと2つのカートリッジが炸裂すると、足元の魔法陣と共に光の矢が現れた。
「『翔けよ、隼!』」
《Sturmfalken!!》
はやての魔力と並走するように放たれたそれが、U-Dを直撃。その余波も収まらぬうちに、金色の雷が走る。
「撃ち抜け、雷神!」
《Jet Zamber!》
U-Dの真上に陣取ったクロノは、S2Uを構える。
「出し惜しみは無しだ!『スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!』」
先陣を切った皆のその魔法の威力に驚愕しながらも、ヴィヴィオもその足元に虹色のベルカ式魔法陣を展開させる。
「クリス、私達も!」
「『セイクリッド‥‥‥‥‥‥ブレイザー!!』」
ヴィヴィオの切り札の虹色の魔力がU-Dに走る。
全員の大魔力の砲撃が直撃し、暫く視界から見えなくなっていたU-Dの姿。その輪郭が段々とハッキリしてくる。あれだけの威力をぶつけたにも関わらず、そのシールドすら突破できていないようだ。無傷のU-Dが、静かに此方を見ている。
「効いてへん、か。文字通り化け物やな」
『白兵戦システム起動。出力35%』
今までよりも大きく膨れ上がるU-Dの魔力。魄翼が大きくなり、無数の魔力弾が形成されていく。
「バルディッシュ!」
フェイトはそのU-Dから目を離さず、愛機の名を呼ぶ。《Load complete!》というバルディッシュの返事と共に、フェイトの左手に1枚のカードが現れた。
「‥‥‥行くよ!『ユニゾン・イン!』」
カードから溢れる桜色の光がフェイトの全身を包む。やがて現れたフェイトのバリアジャケットは黒と青を基調とした色に変わり、その全身を青白い雷と桜色の魔力が包んでいる。ザンバーフォームで展開されているバルディッシュの刀身も、なのはの桜色に輝く。
フェイトはもう一度U-Dの方を見て、魔力をたぎらせ、真っ直ぐに向かっていった。
「『ファランクス!!』」
フェイトのその両脇に桜色の魔法陣が多数現れる。U-Dがその魄翼から数多の魔力弾を解き放つのと同時に、フェイトもU-Dに向けてその雷を解き放った。
「『ファイア!!』」
◆◇◆◇◆
《ハァ、ハァ、ハァ。みんな、大丈夫?》
《どうにか》
ヴィヴィオははやてに答える。
あれからかなりの時間フェイトがU-Dとやりあっているお陰で、他のメンバーのダメージは深刻と言うほどではない。
しかしながら、フェイトの方も互角、とはいかず。U-Dのあまりの固さに攻撃の一切が通らず、フェイトもU-Dの攻撃を何とか避けている、という状態。このままではジリ貧、これ以上長引きフェイトの動きが鈍りでもすれば、墜とされるのは必須。エグザミアの力か、ユーリの方は衰える気配はない。しかも、これでも35%だというのだから困る。
だが、魔力は充分散布されている。はやての足元に、万を持して大規模魔法陣が現れる。はやての魔力光とは違う、桜色の魔法陣。
《今から収束に入るよ!みんな、もうちょい頑張って!》
「『咎人達に、滅びの光を』」
環状魔法陣の中心、はやての持つデバイスの先端に魔力が集まっていく。
「『星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ』」
もう少しで収束が終わる、という所で「バキバキッ」という嫌な音がはやての耳に入る。
(アカン、こんな大事な時に!)
もしもはやての持つデバイスが夜天の書の剣十字の杖だったならば、こんな事は起こらなかっただろう。
ディアーチェ戦から続く度重なるはやての大魔力の放出に、デバイスが耐えられなかったのだ。
(デバイス無しやったら、まだコントロールできへん!)
あともう少しでブレイカーを撃てる、という所でデバイスが砕け散る。
それと共にはやての集中力は切れ、魔力は霧散、砲撃は失敗に終わる‥‥‥‥‥‥筈だった。
「へっ!?」と抜けた声をあげるはやて。気付くとはやての右手は見覚えのあるデバイス‥‥‥レイジングハートを握っていた。その手の上に、見慣れた手が重なっている。魔法陣も安定、収束は滞ることなく進んでいた。
「はやてちゃん、駄目だよ、諦めちゃ」
その声にはやてが振り向くと、肩で息をして、刺された脇腹を右手で押さえているなのはの姿。有り得ない、あってはならない状況に、はやては思わず叫ぶ。
「なのはちゃん、何してるんや!まだ動いたらアカンよ!」
なのはは「ハァ、ハァ」と苦しそうに息をしながらも、その瞳には一点の曇りもない。はやてを見つめ、握る手に力を込める。そのなのはの姿に、1度瞳を閉じた後小さく頷いたはやては、もう一度集中し、U-Dを睨んだ。
レイジングハートのカートリッジが2度炸裂、なのはの魔力も加わり魔力球が更に大きくなる。
「「『『貫け!閃光!スターライト・ブレイカー!!』』」」
二人がU-Dに向かってレイジングハートを振り抜くと、轟音と共に恐ろしい迄の魔力流が走る。それはU-Dに直撃。辺りは眩い光に包まれた。
◆◇◆◇◆
「これでも、駄目なんか」
先程のブレイカーに全てを込めたというのに、目の前にはまるで何事も無かったかのように浮遊しているU-Dの姿。
魄翼を広げ此方に向かってくるU-Dが視界に入っているものの、動く事ができないはやてとなのは。
『出力、50%』と呟いたU-Dが、前回と同じく頭を押さえ、『あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!』と叫び何処かへと消える姿を、ただ見つめている事しかできなかった。
◆◇◆◇◆
レヴィは公園に佇み、遠くで激闘を繰り広げているはやて達を見ていた。
《王様、回復は順調?》
深淵の闇の中、修復を続けているディアーチェがそれに答える。
《うむ。お主を別行動にしておいて正解だったわ》
隣で同じく修復をしているシュテルは冷静に事態を分析、次に自分達のとるべき手を考えていた。
《ディアーチェ、プログラムを走らせれば攻撃自体は通るでしょうが‥‥‥U-Dを管理下に置くには分離が必要なようです。ここはやはり》
《シュテル!お主、あの塵芥共と協力しろと言うのかっ!》
《レヴィ、交渉を頼みましたよ》
《分かった。何とか、やってみる》
《我を無視して話を進めるでないっ!》
《それから、ディアーチェ。U-Dに関するデータを発見しました。どうやら我々は、思い違いをしていたようです》
アースラ勢判定負けの回。なのはさんには『無茶をする』というアビリティがデフォルトで付いています。
シークエンスでいうと5~6くらいでしょうか。クライマックスも近づいて参りました。