息を切らせ、辺りをキョロキョロと見回しながら、フェイトは走っていた。愛娘の名を叫びながら。
「ヴィヴィオー、ヴィヴィオー!お願い、返事して!ヴィヴィオー!!」
(どうしよう。何処にもいない‥‥‥ま、まさか誘拐!?)
顔を真っ青にして、その場に立ち止まる。息を切らせ、そのフェイトの方へと駆け寄ってくるすずか。
「フェイトちゃん、そっちは?」
「駄目だよ、二人共見つからない!誘拐だったらどうしよう!」
悪い考えが頭を過り、フェイトは足がすくんでその場にヘタリ込んでしまう。
「そんな!アインハルトちゃんも一緒なのに誘拐なんて‥‥‥。でも、私のサーチャーにも掛からないなんて」
座り込んでしまい、すずかの足にしがみついているフェイトの頭を撫でながら、すずかは考えていた。
(試合も目の前なのに。まさか、対戦相手の妨害とか‥‥‥?でも、あの二人がそんな簡単に‥‥‥。ま、まさかまた古代ベルカ関連とか?だとしたら二人が危険かも‥‥‥!)
JS事件からはもう4年。聖王関連ではもう心配はないと油断していた感は否めない。危険な思想の勢力が今になって体勢が整い、動き出した可能性だってある。もしそうだとしたら、聖王のクローン、覇王の直系という二人の『王』が、格好のターゲットになったという可能性も‥‥‥。
「とっ、兎に角落ち着いて。取り合えずなのはちゃんに連絡を入れて。クロノ君やアリサちゃんにも協力してもらって‥‥‥」
もはや涙目で腰を抜かし、「うん」と小さく頷いているフェイトからは、腕利きの執務官の姿など全く想像出来ない。そのフェイトを何とか立たせてベンチに座り、今も教導中のなのはに通信を入れようとした時。今迄黙っていたスノーホワイトが口を開いた。
《すずか、今は何年の何月ですの?》
「えっ?それってどういう事?」
突然、今の日付を聞いてきたスノーホワイトに困惑気味のすずか。その質問の意図が全く掴めない。
《良いから。何年何月ですの?》
「79年の、6月‥‥‥それがどうかしたの?」
《質問を代えますわ。闇の書事件、覚えてますわよね?》
突然14年前の事件を持ち出したスノーホワイトに、困惑を深めるすずか。
「勿論覚えてるよ?でもそれと何か関係があるの?」
《結構固い封鎖ですわね‥‥‥では、その後の、砕け得ぬ闇事件はどうです?》
「忘れるわけないよ!だって、あの事件は‥‥‥あれ?」
砕け得ぬ闇事件と聞いて、何かが引っ掛かるすずか。大事な事を忘れている気がする。何か‥‥‥。
《その時、すずかを救ってくれたメンバーは覚えています?》
「忘れるわけない。フェイトちゃんに、はやてちゃんに、それから‥‥‥‥‥‥!!」
ハッとして何かを思いだし、微笑を溢すすずか。「そっか。そうだったね」と呟きフェイトを立たせるとその手を引き、歩き始める。
《思い出しましたわね。固い記憶封鎖でしたわね》
「そうでもないよ。でも覚えてたのに今迄黙ってたんだね、スノーホワイト?」
《未来に影響を与える訳には行きませんでしょう?》
もしスノーホワイトが人間だったなら、さぞかし悪戯な笑みで見ていたに違いない。そんなスノーホワイトを指でつつきながら、すずかは最初にヴィヴィオ達を見失った場所へと歩く。
「大丈夫だよ、フェイトちゃん。此処で少し待ってようね?」
「うん」と答えるのが精一杯の、涙目の執務官をあやしながら、すずかはすぐ側のベンチに座って、二人が戻ってくるその時を待つことにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「良し、フェイト、ここまでにしよう」
アースラの訓練室でのテストを終え、部屋を出るフェイトとクロノ。
「運用の方は大丈夫そうだな。後は」
「うん、クロノ。すずか、だよね?」
未だにすずかとU-Dを分離する方法は見つからない。もう決戦も近いというのに。
「ああ、その事なんだが。やはり闇の書事件の時のはやてのように、すずかの意識を覚醒させるしかないんじゃないか?」
「でも、どうやって?」
「それが分かれば苦労はないんだが」
考え込む二人。そこへシュテルが戻って来た。シュテルの身体で抱えるには不釣り合いな、キリエを抱えて。
「執務官、キリエ・フローリアンを保護しました。治療と聴取を」
「そうか。すまないな」と礼を言ってキリエを連れていくクロノ。それを見送ったシュテルはフェイトの方を向き、話しかける。
「フェイト、貴女達が本当に互いに大切な存在であるなら、月村すずかを目覚めさせる事は貴女にしか出来ない。きっとその方法がある筈です」
「うん。ありがとう、シュテル。何だか前にもシュテルにそんなこと言われた気がする。変かな?」
「いいえ」と返答したシュテルは、立ち去っていくフェイトの背中を見ながら思う。
(フェイト。ユーリとの最終決戦に『なのは』も『魔導殺し』も居ないこの世界で鍵を握るのは、恐らく貴女です。諦めてはいけませんよ)
◆◇◆◇◆
「キリエ!執務官、キリエは無事なんですか!」
「落ち着いてくれ、アミタ。シュテルが保護してくれた。気は失っているが、無事だ」
アースラ医務室。かなり回復したアミタと同室に運ばれてきたキリエ。見た目にはボロボロで、治療も必要ではあるが、どうやら無事。アミタは胸を撫で下ろす。
「良かった!ありがとうございます、執務官」
「礼を言うなら、僕にではなく、シュテルに言ってくれ。今マリエル技官が準備しているから、治療はもう少し待っていてくれ」
言い終わって部屋を出ようとしたクロノ。アミタはそのクロノを呼び止めた。
「あの‥‥‥執務官」
「どうした?」
「いえ、何でも」
「そうか。では、また」とぶっきらぼうに部屋を出るクロノ。
そんなクロノを見送り、アミタは溜め息をつく。
「私は、未来から来たギアーズ。彼は、この時代の執務官。どう考えても無理ですよね‥‥‥」
クロノとアミタの間には、越えられない壁が聳えている。元々出会う筈の無かった者同士。このまま、何も進展させずにいるほうがきっと。そんな事を考えていたアミタの隣から、不意に声が飛んでくる。
「フーン、お姉ちゃん、あの執務官が良いのね。健気なお姉ちゃんにビックリ、K・O・B、ね」
「キッ、キリエっ!!い、何時から起きてたんですか!」
ベッドに横になったままで、顔を赤くして焦るアミタを横目で見ながら、キリエは話を続ける。
「部屋に入ってからずっとよ。別に時代が違ったって、ギアーズだって良いんじゃないの?当たって砕けるくらい」
「でっ、でも‥‥‥ハッ!?砕けたら駄目じゃないですかぁ!!」
◆◇◆◇◆
海鳴市。沖合いの海上。
「調子はどうですか、ディアーチェ」
「ウム。魔力溢れる、とまでは行かぬが、此れなら戦える。レヴィとシュテルのお蔭よのう」
「そうですね。まさか私も、『私』が現れるとは思いもよりませんでしたから。先ずはレヴィと合流しましょう」
海上に浮かぶ、シュテルとディアーチェ。修復を終えた二人は、レヴィと合流。改めてU-Dを探して飛び立った。
ちょっと寄り道、Vividのフェイ×すず近況回。フェイトさん涙目です。これでも、その人ありと言われる程の執務官です。
魔導殺しことトーマ君は本作には出ない事確定。え?知ってたって?