『ーーー!ーーー!しっかりしろ!嘘だろ!?ーーー!!』
雪の降る夜。ゴシック調の赤い服を着た小さな女の子が自分を抱き抱え、叫んでいる。自分の名を呼んでいるようだが、肝心の名前の所が聞き取れない。
(この子、誰?確か‥‥‥思い出せない)
どうもその子を知っている気がするのだが、思い出せない。
『チクショウ!よくもーーーを!やるぞ、アイゼン!!うあぁぁぁ!!』
自分達を取り囲むように並んでいる、機械兵器の大群。怒りに震える赤い服の少女は何処からかハンマー型の武器を取りだし、機械の群れに向かっていく。
(何、これ‥‥‥赤い?)
自分の着ている、真っ白な服にこびりつく、大量の赤い液体。ドロッとしたそれは。自らの身体から流れ出ていた。
(血?‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥あぁぁぁぁ!!!)
「ぁぁぁぁぁぁ!!!」
叫んだまま、飛び起きる。全身、汗。
(今のは、夢?でも)
夢と言うには、あまりにも鮮明。まるで昔の記録を再生しているかのようだった。もしかしたら、思い出せない記憶の一部なのかも知れない。だが、それはそれで。
(怖い‥‥‥あんなに血が吹き出して‥‥‥)
バタン、と扉が開き、血相を変えてギンガが飛び込んできた。
「フィアッセ!大丈夫!?」
「ギンガさん、大丈夫です。ごめんなさい。ちょっと怖い夢を見ちゃって、それで」
ギンガはフィアッセの言葉に、安堵する。未知の敵に襲われたとか、犯罪者に狙われていてその追っ手が来た、とかではない事に胸を撫で下ろし、フィアッセをそっと抱き寄せる。
「そっか、何もなくて良かった」
「‥‥‥ごめんなさい」
悲しそうな顔で謝るフィアッセにギンガは「謝らなくていいわよ」と言って落ち着かせる。
「どうした?なんかあったか?」
少し遅れて、ゲンヤが入って来る。一応レディの部屋なのだが、扉が開け放たれていた為に、そのまま入室。
「父さん、大丈夫です。フィアッセが怖い夢を見たらしくて」
「そうかい。まぁ、無事なら良かった」
ギンガの言葉に安心したのか、ゲンヤは再び部屋へと戻っていく。昨日も帰りが遅かったらしく、もう一眠りするようだ。
◆◇◆◇◆
「父さん、フィアッセ、出来ましたよ」
食器に盛られ、朝食が運ばれてくる。全て並べ終わり、ギンガが席につく。
「「「いただきます」」」
そうして3人は朝食を食べ始めた。
フィアッセがナカジマ家に居候して、一番驚いた事。それは、フィアッセの隣に座るギンガの皿に山のように盛られた、恐るべき量の食事。最近はだいぶ慣れてきたものの、初めの頃は見ているだけで食欲を失っていた。このスタイルの良いギンガの何処にこの量の食べ物が消えているのだろうか?
「父さん、明日はお休みですよね?お花見に行きませんか?」
「いいけどよ、何でだ?」
「家に籠ってばかりではね。フィアッセの気分転換です」
「花見か。悪くねえな。じゃあよ、あれ見に行くか。97管理外世界の」
「サクラ、ですよね?」
自分を差し置いて、何やら話が進んでいる。しかしながら、花見に行くのは悪くない。丁度春だし、桜ならきっと綺麗な色に咲いて‥‥‥‥‥‥!
「私、桜知ってます!」
突然叫んだフィアッセに驚く二人。
「サクラ、知ってるの?何か思いだしたの?」
ギンガはフィアッセの肩を掴み問う。ただ、桜は分かるが、どうやら思い出したのはそれだけ。けれど、何かまた思い出すかも知れない、という事で、花見に行く事は決定となった。
◆◇◆◇◆
六課隊舎に移ったフェイトとすずかは、ダブルベッドに向かい合うように横になっている。
「すずか、明日は何処に行こっか?」
「そうだね、んー‥‥‥フェイトちゃんと一緒なら何処でもいいよ」
同じように横になっているつもりだが、身長差のせいか、それともわざとなのか。すずかが頭半分程フェイトよりも低くなって寝ている。お蔭でフェイトを上目使いで見上げる形。そのすずかの仕草がフェイトにとって色々と不味い。主に理性の面で。
「たまにはお花見とかどうかな?六課が始動する前に、ちょっとゆっくりしたいし」
フェイトはそう言って少しぎこちなく笑う。
「いいけど、フェイトちゃん、どうしたの?」
そのぎこちなさに気付いたのか、すずかは疑問を浮かべている。上目使いのまま、少し首を傾げたすずかの威力になす術もなくフェイトは陥落。そのまま抱き寄せて、キスを交わす。
「フェイトちゃん‥‥‥やン‥‥‥んちゅ‥‥‥んん‥‥‥」
二人は一度唇を離す。すずかは流される前に、口を開く。
「だーめ。ちゃんと明日の予定決めないと」
「メッ」としているすずかを見て、苦笑いで「うん」と頷き、再度予定を立て始めるフェイト。今度はスノーホワイトとバルディッシュを交え、時間等を決めていく。出掛ける時くらいは、時間は有効に使いたい。
「すずか、じゃあ明日はこれでいいよね?」
「うん。フェイトちゃん、明日はゆっくりしようね」
スケジュールもコースもバッチリ決めた所で‥‥‥と思っていたフェイトとは裏腹に、すずかはそのまま「おやすみ、フェイトちゃん」と言ってスヤスヤと寝てしまった。思いの外眠かったらしいすずかの寝顔を見て、フェイトは再び苦笑いを浮かべて、自身も仕方無く瞳を閉じた。
そう、アリサやクロノが海鳴から持ち込んだ、『桜』を明日見に行く為に。
◆◇◆◇◆
「良かった。綺麗に晴れたわね」
「ハイ。お花見って久し振りな気がします」
フィアッセの心は弾む。久し振りに外に出る。普段はギンガもゲンヤも仕事でいないので、一人で留守番する事が多い。勿論、洗濯等で庭に出たりもするが、出掛けるとなると話は別。
「待って、フィアッセ。貴女は少し目立つから」
そう言ってギンガは、度の入っていない伊達眼鏡を手渡す。この世界では、自分とソックリという『高町なのは』は、雑誌で特集を組まれる程の有名人。フィアッセのほうが少し幼くはあるものの、余計なトラブルは避けるに越した事はない、との配慮。とは言っても、只の眼鏡なので気休め程度かも知れないが、無いよりはマシ。
まさか花見に行った先で出会うバカップルが、自分の運命の歯車を動かすとは、この時はまだフィアッセは知るよしもなかった。
遂に次回、フィアッセとフェイ×すずが対面。
今回は作者はどうにか踏みとどまりました。早く六課スタートしてくれないと、タグがR-18になってしまう(汗)
フラストレーションが溜まったので、フェイ×すずの日常、50.5話をどうぞ。
◆◆◆プレゼントは、苦く、甘く◆◆◆
2月13日。海鳴で言うところのバレンタイン前日。本来は無かった習慣だったが、エイミィとアリサによって発信され、なのはが雑誌で口にした事から、ここミッドチルダでも急速に広まった。
とあるマンションの一室。朝から甘い匂いの漂うキッチン。
「すずか、何してるの?」
「フェイトちゃん、バレンタインのチョコ作ってるんだよ?」
匂いで分かってはいる。しかし、そういうのは本来、渡す相手に見えない所でやるものでは?とフェイトが不満に思ってキッチンへと向かうと、驚くべき光景が。
「えっ!?すずか、何、この量のチョコ」
「だから、バレンタインのチョコだよ?」
「うん、それは分かるんだけど」
普通に考えて、あり得ない量のチョコが型に入っている。いくらなんでもこんなに食べれない、と思っていると、すずかは見透かしたように言う。
「フェイトちゃんのじゃなくて、同僚のみんなの分だよ。明日はフェイトちゃん内勤でしょ?だから、フェイトちゃんの方の分も」
「あ、そうなんだ」とガッカリして言うフェイト。内心、『私の気持ちの大きさだよ』とすずかが言ってくれると思っていたので、ダメージは大きい。
「お嬢様、受け取りに参りました」
「うわっ!?ファリンさん!?」
いつのまにか音も無くマンションに上がり込み、大量のチョコを引き取りに来たファリン。そのあまりの突然さに、フェイトも驚く。まあ、良く良く考えてみれば、いくらなんでもこの部屋の冷蔵庫に入る量ではない。月村家の厨房の冷蔵庫を使わせてもらうらしい。
「お嬢様、では、また後程」
「うん、ファリン。宜しくね?」
再び音も無く帰っていくファリン。
「ねぇ、すずか。あれって、もしかして半分は私が配るんだよね?」
「うん。同僚の皆さん全員分あるから」
と、笑顔で答える恋人に(あの量のチョコ配るのかぁ)と、苦笑いのフェイトだった。
◆◆◆
次の日。2月14日。予想通りとも言える、昼休みほぼかけてのチョコ行脚。実際は作ったのはすずかだし、どう見ても義理チョコなのだが中にはフェイトから貰えて狂喜乱舞する局員も居て、思いの外手間取った。
帰ってきて、「ただいまぁ」と言ってドアを開けると、真っ暗。特救は今日も忙しいらしく、すずかの姿はない。
フェイトは少しガッカリしてシャワーを浴びて、ベッドに倒れこむ。「ハァ」と溜め息を漏らし、枕に顔を埋めると、何やら当たる物がある。枕をどけてみると、綺麗に梱包された箱と、「いつもお疲れ様、大好きなフェイトちゃんへ」と書かれたメッセージカード。中にはハートの容器に入ったチョコレートケーキ。
(ありがとう、すずか)
柔らかな笑みをこぼし、大事そうにその箱を抱えて、そのままキッチンへと向かうと、すずかが帰ってきた。
「ただいま、フェイトちゃん」
「うん、おかえりなさい、すずか。ありがとう」
そう言うなりフェイトはすずかを強く抱き締め、お姫様だっこで抱えあげる。
「ふふふっ、すずか。じゃあ私からのプレゼントは‥‥」
「フェイトちゃん、立場的にはそれ私のセリフだと思うんだけど」
「いいの!」と一言だけ発し、フェイトはすずかをお姫様だっこしたまま、部屋の奥へと消えていくのだった。