『古い結晶と無限の欲望が集い交わる地。死せる王のもと聖地よりかの翼が蘇る。死者たちが踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち、それを先駆けに数多の海を守る法の舟も砕け落ちる』
~聖王教会騎士団、予言騎士カリムの予言より~
朝。ベッドの上の二人。
「すずか、起きて。すずか」
「あと、5分だけ」
そう言うと、すずかはフェイトに抱き付き、その胸に再び顔を埋める。何時もと違うのは、ここが機動六課で、今日から始動する、ということ。初日から部隊長が遅刻する訳にはいかない。フェイトはすずかの顔を自分の胸から離し、その頬にキスをする。
「ホラ、駄目だよ、すずか。今日から部隊長なんだよ?」
「まだ‥‥‥仕事始まってないから‥‥‥違うもん」
「もぅ。すずかってば」
すずかはフェイトに回していた手を渋々離し、ベッドから這い出る。
「フェイトちゃん‥‥‥シャワー、先に使うね」
すずかは寝惚け眼で、シャワーを浴びにバスルームへとフラフラと歩いていく。フェイトは、昨日の就寝直前にベッド回りに脱ぎ散らかした、自身とすずかの服やら下着やらを拾ってから、すずかの居るバスルームへと向かった。
◇◆◇◆◇
「おはようございます」
ギンガが目を覚ますと、既に起きていた、伊達眼鏡をしたフィアッセが挨拶をしてくれた。「おはよう、フィアッセ」と自身も返事を返し、ベッドから降りる。
身支度を整え、雑談しながら朝食をとりに隊舎の食堂へと向かう二人。
フェイトと共に捜査担当兼フィアッセの保護者として、今日から六課勤務。
『フィアッセは過去の高町なのは』という事実をどう受け入れていいものか悩む。周囲への影響は計り知れないので、まだフィアッセ本人にも、回りにも内密に、との事だ。フィアッセの記憶は、戻ったほうが良いに決まっている。だが、記憶が戻ったら折角できた可愛い妹が遠くへ行ってしまいそうで寂しい。
「ギン姉!おはよ~」
食堂に付くと、先に食事をしていたスバルとティアナがいた。スバルの皿には、ギンガ同様呆れる位山盛りのパスタ。
「おはようございます、ギンガさん。その子が、例の。ホント、なのはさんソックリ‥‥‥」
「おはよう、ティアナ。ええ。フィアッセよ」
紹介されたフィアッセは、ティアナと呼ばれた、自身を見て驚いている女性と挨拶を交わす。
「初めまして、ティアナさん。フィアッセです。今日から宜しくお願いします」
「ええ、フィアッセ、宜しく」
ティアナは挨拶を交わしながら、この課の異様さを改めて考えていた。六課始動直前に来たAランクのギンガは兎も角。課長、部隊長は其々SSとSS-。隊長は二人ともS+。副隊長でもニアSランク。ロングアーチの面々も、将来有望とされている者ばかり。加えて、八神課長の個人保有戦力である、ヴォルケンリッター。これだけの、異論無しに管理局最強と呼べるこの六課の異常さは、何の為なのか。只の遺失物管理部とは思えない。
そう考えると、わざわざ六課で預かる身となっている目の前のフィアッセも、特殊な事情があるように思えてならない。現に、彼女はスターズ分隊隊長である高町なのはと瓜二つ。
(でも、なのはさんの関係者だったらギンガさんが面倒観てるのもおかしいわよね‥‥‥)
きっと関係はないだろうと、ティアナはその場は結論付けて、ロビーへと足を運んだ。
◇◆◇◆◇
「「失礼します」」
すずか、フェイトが扉を開けると、中に居たのははやてと、一足先に来ていたなのは。
「おはよう、フェイトちゃん、すずかちゃん。よう似合うとるよ。こうしてみんなで同じ制服着るんも、中学生以来やね。ようやく発足にこぎ着けた夢の部隊や。みんな、宜しくな?」
「うん、はやてちゃん。それじゃ、フェイトちゃん、なのはちゃん?」
すずかの合図と共に、はやての方を向いて敬礼する3人。
「月村すずか三等陸佐」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官」
「高町なのは一等空尉」
「「「本日より、機動六課へ出向となります」」」
はやてはその3人に、「うん」と一言頷く。はやての副官でレティ提督の息子、グリフィスに促され、課長挨拶の為に四人はロビーへと向かう。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥以上、機動六課課長、八神はやてでした」
はやての挨拶が終わると、はやてとフェイト、ギンガは地上本部へ、なのはは機動六課フォワードの教導へと向かう。
(えっと、私何したら良いのかな?)
ギンガと別れ、一人寮の部屋で過ごすフィアッセ。ナカジマ家に居たときとは違って、家事をする必要もない。此れからは、何か打ち込める物を見付けないと。そう思い、取り敢えず部屋を出る。
「フィアッセちゃん」
部屋を出るとすぐに、部隊長のすずかに声をかけられた。
「すずかさん?」
「うん。フィアッセちゃん。少し、お散歩しようか?」
すずかは隊舎の外を、車椅子を押しながら歩く。
「すずかさんは、お仕事はいいんですか?」
フィアッセの問いに、「フフッ」と笑い答えるすずか。
「初日の教導が終わってからミーティングなの。だから今は平気だよ?それに、フィアッセちゃんのお相手もちゃんと課長命令だからね」
そう言っている間に着いた先は、六課の訓練スペース。そこでは新人フォワードの四人が、バーチャルのガジェットドローン相手に悪戦苦闘していた。
「機械兵器‥‥‥ですか?あれって」
フィアッセは頭に何だかモヤモヤしたものを感じながら聞いた。
(あれ?何だか嫌な感じがす‥‥‥‥‥‥苦しい!助け‥‥‥て!)
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
言いかけた途中で、フィアッセは過呼吸になり、パニックを起こしていた。
すぐに気付いたすずかは、「フィアッセちゃん、落ち着いて!」と叫ぶも、治まらない。すずかは咄嗟に、フィアッセの唇を自らの口で塞ぐ。そうしてその発作がようやく治まり、戸惑うフィアッセ。
「あの‥‥‥す、すずかさん」
「‥‥‥過呼吸の時はね、落ち着いて一度息を止めて、ゆっくり呼吸するんだよ?」
すずかは優しく答え、フィアッセの頭を撫でた。
「ちっ、治療ですよね、咄嗟の対処ですよね。ちょっとビックリしちゃって」と自らの勘違いに赤くなっているフィアッセを見ながら、すずかは考えていた。
(車椅子はやっぱり11歳の時の撃墜が原因かな。ガジェットドローンは不味かった、か)
昔なのはが撃墜された当時、なのはを襲ったのも機械兵器。恐らくトラウマとなっているのだろう。何も覚えていない現時点ではフィアッセにガジェットを見せるのは賢明では無さそうだ。すずかは車椅子を押して、再び隊舎へと戻ることにした。
◆◇◆◇◆
「ねぇ、すずか。フィアッセにキスしたって本当?」
「うん。過呼吸起こしててね、治まらなくって、応急処置だよ」
夜。食堂へと向かう二人。フェイトの機嫌は悪かった。分かってはいる。すずかはレスキューだし、咄嗟の判断で対処しなくてはいけない事だってある。しかし、だ。
「過呼吸の時ってさ、いつもキスするの?」
「いつもはしないよ?キスっていうんだったら、人工呼吸とかのほうが、よくやるし‥‥‥あ」
言いかけてすずかは後悔した。命のかかっている現場で、すずかはそれを治療としてちゃんと割りきって行っている。恐らく、目の前で嫉妬に震えるフェイトだって分かってはいるのだろう。頭では。
「すずか」
不機嫌を隠さないフェイトは、隣を歩くすずかを抱き上げ、そのまま今来た廊下を戻り始めた。「フェイトちゃん!?」というすずかの声は聞き入れられない。
「すずかは誰にも渡さない。私のものだからね」
「フェイトちゃん、恥ずかしいよ。おろしてもらえないかな‥‥‥」
「ダメだよ、すずか。今日は覚悟してね?」
顔を紅くしているすずかを抱き上げたまま、フェイトは部屋へと入っていった。
始動初日。フェイトちゃん嫉妬に狂う、の回。
諸事情でギンガが初日から六課にいます。
フィアッセは当面の退屈しのぎを模索中。
※(悲報)残念ながら、次回はフェイ×すずの寝起きはお休みです。