すずかとはやては、アグスタでの警備について話していた。
「じゃあ、当日の配置はこれで」
隊長達は会場内。副隊長の二人はホテルロビー。フォワード陣とシャマルは外。それと、武装局員を配置。すずかもロビーで待機。
「そうやね。これで‥‥‥あぁ、アカンわ、すずかちゃん。ザフィーラは別任務なんよ」
「はやてちゃん、ザフィーラさんって最近いつも居ないけど何してるの?フェイトちゃん達とは一緒じゃないみたいだし」
ザフィーラは今日も不在。フェイトやギンガと捜査に出ている訳でもないし、すずかはその目的を知らされていない。すずかの疑問も尤も。まだヴィヴィオの事を知られる訳にはいかない。はやてはそれを悟られまいと、動揺を隠して努めていつも通りに返事を返す。
「ちょっとした捜査や。気にする程の事やないよ」
「それなら、まあいいけど‥‥‥」
余りザフィーラの事を勘繰られるのは得策ではない。府に落ちておらず「うーん」と唸って難しい顔で納得いっていない様子のすずかの気をそらす為、はやては話をアグスタに戻す。
「それでな?すずかちゃん。会場内の警備なんやけど、主催者側から『なるべく目立たないように』、って言われててな?」
「目立たないように‥‥‥制服じゃなくてドレスとかでって事かな?じゃあ、今から実家に見に行く?」
オークションにはロストロギアも出品される。物々しい警備は主催者側が嫌ったようで、会場内は違和感のない格好でなら、という事らしい。折角なのでパーティードレスでも着て、とはやては思っていたのだか、すずかが用意してくれるらしい。すずかの『実家に』という言葉に、別の意味が含まれている気がしてならないが、突っ込むと長くなりそうだと直感したはやては、敢えてスルー。
「貸してくれるんか?助かるわ」
「うん。だって、フェイトちゃんに似合いそうなドレス一杯あるから。どれ着てもらおうかな♪あ、でも『目立たないように』だったんだよね?フェイトちゃんがドレス着たらあまりの綺麗さに目立っちゃうよね‥‥‥」
いや、確かにフェイトがドレスを着たら綺麗なのだが。折角スルーしたのに、笑顔で自分の世界に浸り、嬉々として別の話題でノロケ始めるすずか。はやてはひとつ大きく溜め息をつき、苦笑いを浮かべながらも、訴えるような視線を送る。
「‥‥‥」
それに気付いたすずかは、テヘっと舌を出して、はやての方をみた。
「わかってる、お仕事なんだから、でしょ?」
「公私混同は‥‥‥今回はまぁ、ええか。‥‥‥そうなると問題はフィアッセやな」
今回は会場警備。フィアッセは連れていけない。今のフィアッセは、戦闘時においては、非常に言いにくいが御荷物。警備に穴は空けられないし、フィアッセに怪我をさせる訳にもいかない。
「うん。みんな出払っちゃうけど今回はお留守番かな」
◆◇◆◇◆
(うん。これなら)
フィアッセはフワフワと宙に浮いていた。と言っても、そのまま上空へと上がったり、この世界のなのはのように自由に飛び回れる訳ではない。地面から少しだけ浮いて、徒歩よりも少し遅いくらいのスピードで移動できるくらい。だが、移動は車椅子に乗ってだけだったフィアッセにとっては、自身の世界が広がったのがとても嬉しかった。
今なら、なのはのように飛び回れる気がしたフィアッセは、リンカーコアに魔力を集中させ、その足に桜色のフライヤーフィンを展開させた。
(飛べそうな気がする‥‥‥)
フライヤーフィンに魔力を込めて、上空へと飛び上がる。だが。
(いっ、痛い‥‥‥痛い!)
飛行している最中、絶えることなく襲う全身の痛み。高速飛行はおろか、上空への飛行にもフィアッセの体は耐えられず、悲鳴をあげた。激痛に音を上げ、地面へと戻ったフィアッセ。
地面スレスレをユックリ移動するのが限界な体に、落胆しながら部屋へと戻っていく。
(車椅子無しでも移動できるようになったんだし、良かったと思わなきゃだよね)
無理矢理気持ちを切り替えようとはしたが、空への憧れは捨てられず。フィアッセは窓からぼんやりと空を眺めていた。
何故だろうか。今まで目を逸らしていた悲しい現実を突きつけられたようで辛い。フィアッセのその瞳は涙を滲ませていた。
(なのはさんみたいに、飛んでみたかったな‥‥‥)
◇◆◇◆◇
六課の訓練スペース。捨てないで取っておいたなのはの中学時代の服をフィアッセが着れれば、と持ってきただけだった筈の美由希は、何故かフォワード陣と向かい合う形で立っていた。その手には特殊加工してある刀が一振り。
隣に立つなのはが、刀を構える美由希に話し掛けた。美由希も、笑顔でそれに答える。
「それじゃ、お姉ちゃん。初めてだし手加減してあげてね」
「オーケー、なのは」
ティアナとスバルは、戸惑いながらそれを見ていた。美由希はなのはのようには魔法は使えないと聞いていたのだが。
「‥‥‥ねぇスバル、美由希さんって、一般人よね?」
「だよねぇ、ティア。本当に本気でやっちゃって大丈夫かな?」
前回の海鳴の事件で会った時は、確かに一般人と言っていた。どうしたものか悩む二人を他所に、なのはは笑顔で話を進める。
「制限時間は15分。フォワードのみんなは1発貰ったら撃墜。一本入れるか二人以上が逃げ切ればミッションクリアだよ」
「一人でも逃げ切れば、でいいよ、なのは」
自信ありげな美由希は、刀を構え直す。自ら条件を厳しくしたのは本当に自信からなのか、只の開き直りか‥‥‥。
「じゃあ、最初は手加減するから。四人とも、行くよ?」
なのはの「それじゃあ、ready,go♪」という合図と共に、その一歩を踏み出した美由希。一瞬その美由希から視線を外し、ティアナと顔を見合せるスバル。
「美由希さんに怪我させない程度に‥‥‥」
しかし。「来ます!スバルさん!!」というエリオの声に反応し、咄嗟に美由希の方を見るスバル。一瞬で距離を詰めて凪ぎ払われた刀を、ギリギリ展開したシールドで間一髪防ぐ。
「いぃ!?」
「ウッソ‥‥‥」
と声を洩らし、驚愕しているスバルとティアナ。手加減したとはいえ受け止めたスバルに、美由希がニヤリとして言う。
「おっ、いい反応だね」
刀を受け止め踏ん張るスバルに向かって、エリオが叫ぶ。
「気を付けて下さい、ティアナさん、スバルさん!美由希さんは『御神流』って剣術の宗家で、強さは尋常じゃありませんから!」
「グググッ‥‥‥エリオ‥‥‥もっと早く言ってよ」
愚痴を溢すスバルを見ながら、ティアナは我に返って指示を出し、牽制に魔力弾を2発放つ。
「キャロ、フォロー!エリオ、散開して!」
「「了解!」」
「おっ、いいね。それじゃ、ちょっと本気で行くよ?」
一度スバルから離れ、その魔力弾を正確に切り落として再び刀を構える美由希は、その表情を真剣なものに変えた。
◆◇◆◇◆
「美由希さん‥‥‥強すぎ」
「そりゃなのはさんが凄い訳ね」
結果は、ブーストさせたエリオが逃げ切ってフォワード陣の勝利。美由希はヘバッて座り込んでいるスバルとティアナの方へと近寄り、ティアナの言葉を否定する。
「二人とも、それはちょっと違うかな。なのはは昔から運動苦手だったし、魔法は確かに人よりは才能あったのかも知れないけど、それだって順調に行ってた訳じゃないよ」
ティアナがその言葉の意味を真に理解するのは、もう少し先の事。
魔法が使えたら美由希と恭也は相当強いでしょ。元がアレですし。
フィアッセはレベルが上がった!浮遊魔法をおぼえた!