「どっ、どうかな、すずか」
「似合ってるよ、フェイトちゃん」
顔を紅くして、笑みを溢しながら歩くすずか。その隣を歩くフェイトは、少し恥ずかしそうにしながら、返事を返す。
「ありがとう、すずか。でも、すずかのドレス姿も見たかったな」
「今回は私は全体を見なきゃだから。また今度の機会に、ね?」
そう言って首を傾げるすずかの仕草の可愛さに、キスをしたいのをどうにか踏みとどまったフェイトは、《フェイトちゃん、何してるんや》というはやての催促を受けてすずかと別れ、オークション会場の受付へと向かう。
《じゃあ、またね、フェイトちゃん》と念話を送り、すずか自身は警備の配置確認のためにロビーへと向かった。
ホテル・アグスタ。今日はそのオークションの警護が任務である。居ないのはザフィーラとギンガ。ザフィーラは例によって『ヴィヴィオ』の捜索、ギンガは引き続きガジェット関連の捜査。フィアッセは留守番である。
受付へと向かったはやて、なのは、フェイトはドレス姿。管理局の身分証を見せた時は少し驚かれたが、3人は無事会場入り。オークション会場内の警備システムをチェックして回っている。
すずかはスターズ、ライトニングそれぞれの副隊長であるヴィータ、シグナムと打合せ中。外の警備は主にフォワード陣の役目である。
「やっぱり怪しいわよね?あの二人」
「ちょっと仲良いだけだよ。良いじゃない。考え過ぎだよ、ティア」
相変わらずのスバルの反応。ティアナには、すずかとフェイトはやはりどうしても仲が良い以上に見える。
「だって、隊長達って親友なんでしょ?それにしてはフェイトさんと部隊長だけやたらと距離が近いような‥‥‥二人の反応もなんだかね」
どうにも腑に落ちないティアナは、密かに『僕に振られませんように』と願っていたエリオに話かける。
「エリオは部隊長達とは長いのよね?二人の仲とか知ってるんでしょ?」
エリオは少し悩んだ後、気まずそうに「お二人とも仲良いですよ」と答えるのが精一杯。ティアナに真実を話していいのかどうか悩む。
と、運良くと言うべきか。ティアナがエリオに何か言いたげだった所へ、すずかから絶妙なタイミングで通信が入った。
《お喋りはそのくらいで。みんな、配置について》
フォワード陣はそれぞれ配置につき、周辺警戒を始める。すずかは屋上でシャマルと共にサーチャーを張り巡らせていた。
「すずかちゃん、あの子達の会話聞いててわざと通信で会話切ったのよね?」
「フフっ。どうですかね。‥‥‥シャマル先生、私は一度下に降ります。何かあったら呼んで下さい」
シャマルの問いに悪戯な笑顔を見せたすずかは、「はーい、部隊長」と抜けた返事を返したシャマルを背にして移動を開始。
入口を警備していたスバルは、ホテルの外の、森の方へと向かうすずかを見つけ、呼び止めた。
「あれ?部隊長、どこ行くんですか?」
「うん。ちょっとその辺を見てくるね」
特に深くは考えずに「行ってらっしゃ~い」と少しだけ呑気に答えたスバルと別れたすずかは、笑顔を繕っていた表情を険しいものに変え、探査妨害を展開して慎重に森の先を目指す。
(‥‥‥確めなきゃ)
◇◆◇◆◇
「召喚」
少女の足元に、召喚魔法陣が展開される。
「ミッション、オブジェクトコントロール。行ってらっしゃい。気を付けてね」
ルーテシアはインセクトを大量に召喚。既にアグスタに向かっているガジェットに向かわせる。目的のロストロギアは彼女の召喚獣であるガリューに任せてある。六課の面々がガジェットと対峙している間に事はカタがつく。現に、六課のフォワード陣と副隊長はガジェットと交戦中。全ては予定通りである。
「ルーテシア、こちらにあちらの融合騎が近付いているようだぞ」
「大丈夫。この子達がいるから」
リインが一人でルーテシア達の方へと向かっていたようだが、ルーテシアの召喚したインセクトに阻まれ、どうやら引き返したようだ。ゼストは丘の上からガジェットと六課の面々が交戦する様子を眺めていた。
インセクトがガジェットに追い付き、コントロールを始める。ガジェットの動きは機械の動きのそれよりも遥かに良くなり、ホテルまで撤退する副隊長の二人。眺めながらゼストは、ルーテシアに話し掛けた。
「目的の物は手に入れたのか?」
「うん。ガリューが直接ドクターの所へ持っていってくれた」
余り表情を変えずに答えるルーテシア。ゼストは「ならば、お前はもう戻れ」と、ルーテシアに撤退を促す。「うん」と一言答えてその場を離れるルーテシア。
◇◆◇◆◇
ルーテシアがかなり離れたのを確認し、ゼストはアグスタの方向に向かって口を開いた。
「ここから先へは行かせる訳にはいかんな」
「見付かってましたか‥‥‥ゼストさん、ですよね?」
「月村か。久しいな。随分と成長したものだ」
すずかは探査妨害と迷彩を解き、ゼストの前に姿を現す。その手にスノートライデントを構え、魔力を込める。
「お久しぶりです。生きていらしたんですね。8年ちょっと振り、くらいですよね?」
「死ぬまでの余生が少しだけ伸びたに過ぎん。俺はあのとき死んだままだ」
冷静に話してはいるものの、すずかの手には汗が滲む。
能力リミッターのある今の状態で、果たしてどこまでゼストに対抗出来るのか。
「それにさっきの子‥‥‥まさかメガーヌさんの?」
「答える義理はないな」
他にも聞きたい事はある。ガジェットとの関連とか、どうしてホテルを襲っているかとか、今まで何をしていたのかとか。だが、話してくれそうになく、どうにも対決は避けられそうもない。
ゼストも槍を構え、二人の間に緊張が走る。すずかの額に、一筋汗が流れる。
「どうした、月村。昔ほど力を感じんな。能力リミッター付きで勝てるほど俺は甘くないぞ」
「やってみないと分かりませんよ」
すずかはトライデントを構え直す。少しの間。先に動いたのはゼスト。槍型デバイスに魔力を込めて、すずかに降り下ろす。すずかはスノートライデントを振り上げて、それを受け止めた。
(おっ、重い‥‥‥)
高々Aランクのレベルで、オーバーSのゼストにどこまで出来るかは分からないが、やるしかない。出来れば先程のメガーヌの娘かも知れない少女と共に、ゼストを保護したいところ。
ゼストはそのすずかから一度距離を取り、口を開く。
「成る程。魔力を接地点の一点に集中させての防御か。考えたな」
「お見通しって訳ですか」
不敵な笑みを浮かべ、軽口を叩いてはいるが、今のすずかには全く余裕はない。それが分かっているのか、ゼストはユックリと間をとってから、再びすずかに向かって来た。ガキン、と二本の槍が数回ぶつかる。余裕のあるゼストとは違い、すずかはゼストの槍がスノートライデントにぶつかる瞬間に神経を集中させている。
と、すずかのジャケットのスカートの前側の先が指1本分くらい切れてハラリ、と落ちる。すずかの頬に、嫌な汗が流れる。
「付け焼き刃か?長くは持たんぞ、月村‥‥‥‥‥‥もう少し相手をしても良かったが、撤退させてもらうぞ」
そう言ったゼストの足元に、ルーテシアの召喚魔法陣が現れて、ゼストが消える。「待ってください、ゼストさん‥‥‥ゼストさん!」と叫んだすずかが一人残され、森には静けさが戻る。
《月村部隊長、説明して貰えるやろか?》
丁度はやてから通信が入る。すずかは少し躊躇したあと、重々しい表情で、話し始めた。
《はい、八神課長。実は‥‥‥‥‥‥》
アグスタのすずか目線回。
そりゃエリオには答えられません。
次回は8年前のお話。