Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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『地上のエース』

 

 

ホテル・アグスタ襲撃事件から遡ること、8年と約半年。すずか達が時空管理局に入局してから少し経った、小学4年生の秋の事だった。

 

「な、何やて!?すずかちゃん‥‥‥アカンで、それはアカンで!」

 

すずかの話を聞いたはやては心底驚愕。焦りの色が伺える。

 

「でも、はやてちゃん。折角クロノ君が気を回してくれたんだし」

 

そう答えたすずかの言葉には全く聞く耳を持たないはやて。そう。はやてにとっては、一大事だったのだ。

 

「すずかちゃんが居らへんかったら‥‥‥今年の運動会、うちのクラス優勝できへんやないか!エース無しでどうやって闘えっちゅうんや!私の初めての運動会なんよ!?私の初の晴れの舞台、優勝で決めたいやんかぁ!」

 

劇的なスピードで足腰が回復した、はやての初の運動会。八神家一同は既に全員当日の休みを確保している。どうしても優勝したいはやては、無理と分かっていてもすずかを必死に引き留めようとしていた。

 

申し訳無さそうに「ごめんね、はやてちゃん」と謝っているすずか。

すずかは、来週から2週間、研修に出て戻らない。それが丁度運悪く運動会の日と重なったのだ。

すずかだって、参加したくない訳はない。しかし、今回は事情がある。

 

はやてと同じく、自らの意思ではないにしろ第1級捜索指定ロストロギアを事件を起こす形で使用したすずか。そのすずかが管理局で上に上がって行くには、どうしても実力者とのパイプが必用。クロノの友人である聖王教会は、生憎地上本部との仲は良くない。地上本部でやっていくには、別の力が必用だった。そこでクロノとリンディが白羽の矢を立てたのが、地上のエース、ゼスト率いる所謂ゼスト隊。

単純に権力で言えばレジアスに頼む所なのだろうが、すずかを頼むには余りにも食えない人物。はやての事を犯罪者呼ばわりするレジアスにはとてもではないが頼めない。

 

そんな訳で、クロノとリンディはゼストの所にすずかを研修に出す事にしたのだ。近い将来、きっとすずかは管理局を背負って立つ事になる、と考えての事だった。

 

‥‥‥‥‥‥が。そうは言ってもまだ10歳の魔導師達。しかもはやては漸く小学校に通い始めた所。みんなと参加する初めての運動会が楽しみでなかった筈はない。

 

なのはの隣で、瞳に涙を一杯に溜めて、この世の終わりでも見ているかのような絶望に満ちた表情で「すずかに暫く会えない、すずかに暫く会えない、すずかに暫く会えない‥‥‥」と呪文のようにブツブツと繰り返しているフェイトと共に、はやては精一杯の抵抗をしていたのだった。

 

◇◆◇◆◇

 

2週間の間、寝泊まりは寮の空いている部屋を貸してもらった。すずかは部屋のベッドの上に荷物を一先ず置き、予定の時間がまだ先なのを確認して、備え付けの椅子に腰掛けた。

 

(2週間も一人‥‥‥)

 

一人だけでの寝泊まりは、初めてだった。やって出来ない事はないのだろうが、やはり寂しい。フェイトと恋仲になってからは、これだけの期間会えないのは、ユーリに身体を乗っ取られて以来である。

 

寂しさをグッと堪えて、すずかは管理局の制服に着替え始める。

 

着替え終わり、(頑張らなくちゃ)と気持ちを切り替えて外へと出る。すると一台の車が止まっていて、運転席から女性が降りてくる。

 

「月村すずかさんね?」

 

「はい。えっと‥‥‥」

 

すずかと同じ制服を着た彼女は、『クイント・ナカジマ』と名乗った。すずかを迎えに来たようだ。

 

助手席に座るすずかは、クイントの『ナカジマ』という姓が気になった。普通に考えたら、すずか達と同じく日本出身という事になる。

だが、極めて単純な理由だった。

 

「ああ、ナカジマ?私の旦那のご先祖様が97管理外世界の出身なのよ」

 

「そうなんですか?」

 

「まぁ、行ったことは無いんだけどね」

 

互いの話をしながら、地上本部に到着。クイントに連れられ、すずかは扉を開いた。

 

「今日からお世話になります、嘱託魔導師の月村すずかです。宜しくお願いします」

 

その場の動きが一瞬止まり、軽く挨拶を交わし、再び動き出す現場の一同。

 

そのあまりの素っ気なさに、不安を覚えるすずか。「あ、あの」と心配そうに聞いてきたすずかに、クイントはフォローを入れる。

 

「ごめんね、すずかちゃん。みんな忙しいだけだからね?冷たい訳じゃないから」

 

そう言ったあと、クイントはすずかの背中を押して歩かせる。先ずはこの先に見えるデスクに座るこの部隊の長、ゼストに挨拶をしなければ。

 

「可愛い子ねぇ。この子がうちで研修?ホントに?」

 

向かう途中で話し掛けてきたのは、この隊でクイントと並ぶ魔導師、メガーヌ・アルピーノ。ルーテシアの母親である。まだ小さな娘を管理局の託児所に預け、公務に復帰したばかり。

 

「初めまして、月村すずかです」

 

「うん、初めまして。宜しくね、すずかちゃん」

 

そうしてようやく奥にたどり着いたすずか。およそ噂とは縁遠い、書類に目を通して事務作業をこなしているゼストと対面。

 

「話は聞いている。あの執務官の坊主からの紹介だったな」

 

すずかを一見して、そうぶっきらぼうに答えたゼスト。徐に立ち上がる。

 

「取りあえず、実力を見せてもらう。クイント、模擬戦の相手をしてやれ」

 

「へ!?でも、こんな小さな子と?」

 

驚いているクイントに、ゼストは更に追い討ちをかける。

 

「構わん、全力で相手をしてやれ」

 

納得が行かないが、訓練室で仕方無く準備を始めたクイント。その様子を見ながら、ゼストはすずかに言った。

 

「そうだな‥‥‥炎熱とのユニゾンは使ってもいい。それ以上はここでは危険だろう」

 

「!!」

 

どうしてそれを、と言いかけた所で、クイントのアップが終わったようだ。すずかもリライズアップをして、氷爪に魔力を込める。

 

「じゃあ、準備して、スノーホワイト」

 

《ええ、すずか。ロードを開始しますわね》

 

空中に飛び上がったすずかに、クイントはウィングロードを展開して迫る。初めて見た魔法に驚いたすずかだったが、すぐに落ち着いてアイスシールドを展開。クイントの一撃を受け止めた。

 

「うっそ‥‥‥!硬い‥‥‥!」

 

スノーホワイトの爪がクイントに迫るが、クイントは大きく後ろに飛び退き、空を切る。

 

「やるわね」と呟き、再び動き出したクイントとの距離を量り、すずかはアリサのカードを翳した。

 

「『ユニゾン・イン!』」

 

◇◆◇◆◇

 

結果は、引き分けであった。単純な魔力だけならば、すずかのほうが上。しかしながら、現時点ではクイントのほうが巧さでは1枚上手。

 

「あの子、なかなか将来有望かもね」

 

ゼストと話すクイントは、そう感想を洩らす。

 

「あれは月村の実力の半分も出していない。末恐ろしい、と言うべきだな。流石は闇の書事件の立役者の一人、だ」

 

「嘘でしょ!?あの『闇の書事件』の!?」

 

ゼストの話を聞いて驚くクイント。ゼストはすずかを遠目に見ながら、一人密かに思っていた。

 

(確かに今後の地上には必要な戦力だな。クロノ執務官め。俺を『砕け得ぬ闇の器』のダシに使う気か。食えない坊主だ)

 

◇◆◇◆◇

 

2週間後。何事もなく、クイントやメガーヌにお世話になりながら過ごし、再び海鳴へと戻ってきたすずか。

 

すずかが登校して来るや否や、感極まったフェイトが抱きついて来た。

 

「すずか、お帰り!すずか、すずかぁ」

 

「フェイトちゃん、ただいま」

 

フェイトの頭を撫でながら笑顔で答えるすずかに、はやてとなのはも近寄って来る。

 

「すずかちゃん、お帰りなさい!」

 

「すずかちゃん、お疲れさまや!ちょう聞いて聞いて!うちのクラス、運動会優勝したんよ!」

 

興奮気味に話すはやては、その詳細を話し始める。フェイトが頑張って活躍したとか、はやても3位になったとか、皆でお弁当を食べたとか。しかしながら、何故か一向に出てこない話があった。

 

「ねぇ、はやてちゃん。なのはちゃんの話は?」

 

「へっ?なのはちゃんは、まぁ、なんちゅうか‥‥‥」

 

すずかの質問にあからさまに目を反らし、答えないはやて。すずかがなのはに視線を移すと、なのはは涙目で訴え始めた。

 

「なのはも頑張ったもん!みんなの応援とか頑張ったもん!ちょっと結果が出なかっただけで、一生懸命頑張ったもん!!」

 

結果は、察しの通りである。

 

 

‥‥‥‥‥‥‥‥‥すずかが、ゼスト隊が全滅した、という事実を耳にしたのは、それから半年後の事。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

(あのゼストも相手にせなアカン訳か‥‥‥これは益々ヴィヴィオの捜索を急がな)

 

すずかの話を聞き、六課の自らのデスクで悩むはやて。はやてはモニターを開き、聖王教会のカリムに通信を繋いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




過去回想回。なのはの運動音痴はあの時点ではまだ変わらず。

すずかが砕け得ぬ闇に関わっていたのはトップシークレット。アクセス権限はごく一部です。
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