Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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その心、見つめて

 

 

「フィアッセ?‥‥‥ねぇ、フィアッセ、どうしたの?」

 

午後。ユーノの不定期カウンセリングの後。ギンガが呼び掛けるが、フィアッセは答えずにボーッとしていた。心此処に在らず、といった所だ。

 

早朝の、なのは達の過去の話を聞いてから、フィアッセは悩んでいた。先ず、この世界は自分の居た世界の並行世界と見ていいだろう。歳こそ違えど、同じ外見、同じ経歴、同じ魔力光、同じ魔力資質。決定的に違うのは、すずかがなのは以上の魔導師として存在しているのと、自身には覚えのない事件『碎け得ぬ闇事件』の存在、そして何よりも此方の世界のなのははリハビリを経て中2の頃には完全復帰している事。

それに。帰る方法は此れから考えていくとしても、現在この世界に『高町なのは』が二人居る、というのはどう考えても良くない。いっその事このまま記憶喪失を演じ続けて、『フィアッセ・クリステラ』として此処ミッドチルダで生きた方が幸せなのでは、とも思ってしまう。

 

帰れないかも知れない、という事もフィアッセの心を深く沈めている一因。ユーノの幸せを願いながら傍で見守っているのと、もう2度と会えないのとでは雲泥の差。この世界の、総合SS-という規格外の魔力のすずかを以てしても、並行世界の壁を破れていないという事実。それを考えただけでも頭痛がするし、悲しいし、ユーノに会えないという現実はその身が引きちぎれる程に辛い。

 

「フィアッセ?」

 

漸くギンガに呼ばれている事に気付いたフィアッセは、取り繕うように慌てて返事を返す。

 

「はっ、ハイ!どうしたんですか?」

 

「ボーッとしちゃって、何かあったの?」

 

「なっ、何でもありませんから」

 

悩むフィアッセは、ギンガに「気分転換にでも」と連れられ、隊舎の外へと向かう。このまま落ち込んでいくよりは、1度リフレッシュしてからもう一度考え直すのも悪くない。そう考えながら、車椅子に腰を下ろした。

 

◇◆◇◆◇

 

カウンセリングを終えたユーノは、いつものようにはやてに報告をしていた。フィアッセの現状や記憶の回復具合等を。いつもなら、記憶のほうは『あまり良くない』と言うところなのだが、今回は違っていた。

 

「で、今回はどうやった?」

 

「うん、はやて。フィアッセの記憶なんだけど‥‥‥戻ってるんじゃないかな、多分」

 

「ホンマか?」

 

「本人が言わないし、認めてないから断定は出来ないけど、多分」

 

はやては腕を組み、考える。もしも記憶が戻ったのなら、守ってもらいたい事がある。一つは、混乱を避ける為、フィアッセが『高町なのは』だという事は伏せる事。もう一つは、過去からの時間移動をしてきたという事実を隠すこと。

 

「さて、後はどうやって確認するかだけど」

 

ユーノの問いに、はやては「私に任せてくれへん?」と答えニヤリと笑みを浮かべた。

 

◇◆◇◆◇

 

気分転換の後、そのまま捜査に出たギンガと別れ、フィアッセは部屋へと続く廊下を車椅子で移動していた。これからどうしようか悩む彼女の前に突如として、白銀に輝く魔法陣が現れる。呆気にとられているフィアッセの前に現れたのは、彼女が良く見知った女性、否、少女の姿だった。

 

「イタタタタ」と尻餅をついて痛めたらしいお尻を擦りながら立ち上がる少女の姿は、この世界のそれとは違う、フィアッセと同じ歳位の、はやて。

 

「イタタ‥‥‥着地失敗してもうたわ。にしても、ここどこやろ?‥‥‥なのはちゃんやんか!今まで何やってたんや!心配してたんよ?」

 

はやてのその言葉に、思わず涙が溢れる。はやてだ。フィアッセの良く知っている、はやて。

 

「はやてちゃん!どうしてこの世界に?」

 

瞳を潤ませながら叫んだフィアッセに、はやては周りをキョロキョロしつつ、答える。

 

「それが、どうやって来たのかは‥‥‥なのはちゃん、ここ何処なん?」

 

再会の嬉しさの余り、涙の止まらないフィアッセ。彼女は気持ちを1度落ち着かせる為に深呼吸をして、涙を拭う。

 

「それがね、はやてちゃん。驚かないで聞いて。此処は、私達の居る世界の、少し未来の並行世界みたいで。もう一人の私やはやてちゃんやフェイトちゃん、すずかちゃんも居て‥‥‥」

 

そこまでフィアッセが答えると、はやての表情は辛そうなものに変わる。いきなりこんな状況に陥ったのだから当然‥‥‥と考えていたフィアッセに、はやては不意に頭を下げた。

 

「ごめんな、なのはちゃん。こんな試すような真似して」

 

「へっ?」と声をあげたフィアッセの目の前で、はやては白銀に輝きながら本来の姿、19歳のこの世界の、機動六課課長、八神はやての姿に戻った。

 

暫く茫然としていたフィアッセは、再び大粒の涙をポロポロと溢して、大声をあげて泣きながら、はやてに向かって叫んだ。

 

「はやてちゃんの‥‥‥‥‥‥ばかぁ!」

 

そんなフィアッセを申し訳なさそうな表情で抱き締めるはやて。

 

「管理局を変える為とは言え‥‥‥私、こんなに卑怯になってしもうたわ。ごめんな、なのはちゃん。独りで辛かったんよね?こんな私で良ければ、何でも力になるよ」

 

「グスッ‥‥‥でも、八神さん‥‥‥」

 

「はやてちゃん、でええよ。みんなの事も。呼びにくいやろ?」

 

フィアッセははやてに抱かれたまま、溢れる涙を堪えて、何とか言葉を絞り出す。

 

「うん‥‥‥はやてちゃん‥‥‥辛いよ‥‥‥寂しいよ‥‥‥みんなに‥‥‥会いたいよ」

 

◇◆◇◆◇

 

「分かりました。その2つは気を付けます」

 

漸く落ち着き、答えるフィアッセ。一先ず、これですずか達が砕け得ぬ闇事件の真相を思い出す心配は無さそうだと胸を撫で下ろすはやて。

 

「敬語は要らんよ。私が話し難いしな。それで、なのはちゃん。この世界に飛ばされた時の事覚えてるか?」

 

これは一応聞いておく必要がある。次元震などの災害で此方の世界に飛ばされたのだとしたら、元の世界に帰れるのは4年後になってしまう。しかし、もしもディアーチェ達が原因なら‥‥‥。

 

「うん。見たことない魔法陣が現れて、目の前が真っ白になって‥‥‥」

 

(ビンゴや)

 

はやては確信した。昔、ヴィヴィオ達から聞いたのと同じ転移の仕方。これなら、シュテルやアミタ辺りが探してくれているかも知れない。フィアッセが戻れるまでは、せめて力になろうと、はやては彼女の肩にポン、と手を置く。

 

「何か有ったら何時でも言うてな?」

 

「はやてちゃんは、ギンガさんと仲良くなってね?」

 

「アハハ‥‥‥努力するわ」

 

はやては、今試みているどんな事よりも難しそうだと、思わず苦笑いした。

 

◇◆◇◆◇

 

夜にガジェットドローンが出現して出動があったりして、深夜。フィアッセはロビーにいた。帰れないかも知れないという不安は消えないが、今は兎に角やれる事をやるしかない。あれこれ悩むフィアッセに、ゆっくり近付く人物があった。

 

「ちょっと、いいかな?」

 

なのははそう言ってフィアッセのすぐ傍のベンチシートに座る。フィアッセは少し戸惑った後に、話を切り出した。

 

「あの、えっと‥‥‥」

 

「そっか。呼び難いよね?貴女も私なんだし。取り合えず今まで通り『なのはさん』でいいんじゃないかな?私も『フィアッセ』って呼ぶから」

 

「じゃあ、なのはさん。聞きたい事が、幾つか」

 

「なあに?」

 

「なのはさんは今‥‥‥ユーノ君とはどういう関係なんですか?」

 

質問の意図が読み取れず、なのはは暫くキョトンとしていた。フィアッセの「‥‥‥好きじゃ、ないんですか?」という発言に漸く意図を理解して話し始める。

 

「どうなんだろう。魔法の先生で、尊敬出来て、何でも話せる幼馴染み。自分ではそう思ってるんだけど。フィアッセはユーノ君の事、好きなんだね?」

 

フィアッセは少し赤くなって、「ハイ」と頷く。

 

「そっか。貴女は私なんだし、もしかしたら私も好きなのかも知れないけど、今は分からないかな。一番安心できる異性ではあると思うけど」

 

穏やかな笑顔で話す、なのは。並行世界の差違を感じながら、フィアッセは最も聞いておきたい事を口にした。

 

「じゃあ‥‥‥どうしてリハビリから逃げなかったんですか?私は、逃げ出したから‥‥‥‥‥‥」

 

 

 

 

 




フェイ×すず未登場回。

思い悩むフィアッセの回でもあります。

次回辺りでようやくザッフィーの出番かな?
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