「ティア!久し振り~」
「あれだけメールが来てたら久し振りって感じしないわよ。直接会うのは何時振りかしらね」
笑顔のスバルと、何だかんだ言いながらも笑みを溢すティアナ。二人とも忙しい部署の為なかなか会えないが、良く連絡はしているようで、互いの近況はそれなりに把握している。勿論、今日は雫が居る事も。
「ヴィヴィオも雫ちゃんも、久し振りね。雫ちゃん、背、伸びた?」
「はい、ティアナさん」
雫は人より成長が早いらしく、12歳にしては少し大人びている。段々と今のすずかに似てくるその姿。ただ、すずかと違って、少し自信が無さげなのがティアナ達には不安だった。
「ティアナさん、今日はどうしてこっちに?」
ヴィヴィオの疑問に、「ええ、ちょっと‥‥‥ね」と、雫をチラリと見て答えるティアナ。
《連続殺人の捜査でね。後で108部隊にも寄るから》
念話で雫に分からないように話すティアナ。雫から見えない位置でスバルとヴィヴィオは表情を引き締めた。
◆◇◆◇◆
夕方、陸士108部隊隊舎。今後の捜査方針について話す、ティアナ、スバル、チンク、それにルネッサ。
ティアナがモニターに資料を映しながら、淡々と説明している。
「今回の被害者は古代ベルカ専門の考古学者のコーレルマクバード。凶器は鋭利な刃物。手口はこれ迄と同じで、被害者の喉を刺して殺害、その後、周りを巻き込んで爆破」
「犯人はマリアージュと名乗る、身長170㎝前後の女性。3か月前にフォルスの遺跡地帯での殺人が6件。その後バイゼンで同様の事件が4件。その後、ミッドでの殺人」
その説明に、腕を組んで考えているチンク。その隣で険しい表情のスバルが口を開く。
「どうして古代ベルカ専門家ばっかりなんだろうね?」
「その辺も含めて調査中よ。それと、一応‥‥‥」
ティアナはチラリとチンクを見る。チンクもそれで充分理解したようで、コクン、と頷く。
《分かった。陛下とアインハルトの警護は、妹達にそれとなく付いてもらう》
念話で答えたチンクに「うん、一応古代ベルカ絡みだし、お願いね」と返したティアナ。そのティアナを見ながら、(他に何か‥‥‥?聖王教会の警護か何か?)と、ルネッサは疑問を浮かべていた。
「あの、執務官。チンク捜査官には何を?」
「ちょっとね。ルネにはまだ言えないのよ、ごめんね」
「‥‥‥いえ」
聖王と覇王の存在は、トップシークレット。何処から漏れるか分からない以上、おいそれと話す訳にはいかない。勿論それは、相手がティアナの補佐になりたてのルネッサでも。
「じゃあ、私とチンクは引き続き捜査を。ルネは108部隊での指揮とサポートお願い」
ティアナの言葉に頷く一同。「それじゃ、私は司令に報告入れとくから」とスバルが席を立ったのを切欠に、一同は解散した。
◆◇◆◇◆
(海底トンネル、綺麗だったな‥‥‥)
夜、ベッドで横になっている雫は、夕方の事を思い出していた。マリン・ガーデン内にある海底トンネル。総クリスタル張りのトンネルから見る海底と海底遺跡は、何とも幻想的だった。
(ティアナさんに、スバルさん。それに、ヴィヴィオお姉ちゃん‥‥‥‥‥‥はぁ)
両親のフェイトとすずかばかりでなく、ティアナ達も。雫の周りには、一流の魔導師ばかり。どんなに取り繕っても、魔法への憧れは捨てられない。
分かってはいる。皮肉にも魔法の才能が無かったからこそ、あの時フェイトが見つけてくれて、今こうして両親と幸せに暮らせているという事くらい。けれど、自分は仮にもこの世界に数人といない、SSランク魔導師のクローンだというのに。
(魔法‥‥‥使ってみたかったな‥‥‥‥‥‥)
《夜更かしは美容の大敵でしてよ?》
何時までも寝ずに悩み、溜め息をついている雫を心配してか、スノーホワイトが声を掛けてくれた。すずかの優秀な相棒であるこのデバイスは、こうしてしばしば雫の枕元に陣取っている。雫を心配しているのは、すずかやフェイトだけでは無く、この優秀過ぎるデバイスも、という事。
「ねえ、スノーホワイト。私‥‥‥」
《ストップ、ですわ。その話なら何度も申し上げました。魔法が全てでは有りませんのよ?この翠屋で、すずかが魔法を使って営業しているのを見た事がお有りですか?》
「‥‥‥ない」
雫は少し悲しそうに返事をすると、瞳を閉じて寝返りを打ち、スノーホワイトから顔を背ける。スノーホワイトは雫がまだ起きている事を前提に、過去の話を話し始めた。すずかが大きな魔法の力を持ったが為に傷付き、周りに支えられながら何とかやってこれた、という昔話を。
《‥‥‥‥‥‥‥‥‥ですから、魔法が万能という訳では有りませんし、高位魔導師が絶対という訳でもな‥‥‥寝ましたわね》
漸く寝息を立てて眠りについた雫を確認し、スノーホワイトはフワフワと主の元へと戻っていく。部屋に一人になった雫は、瞳は閉じたままで「‥‥‥分かってるもん」とポツリと呟いた。
何かサプライズがあるらしく、明日はアリサの所へ遊びに行く予定になっている。色んな思いを抱えたまま、雫は眠りに落ちていった。
◇◆◇◆◇
(JS事件‥‥‥スカリエッティが起こした地上本部襲撃事件‥‥‥機動六課‥‥‥)
ルネッサは一人108部隊隊舎に残り、モニターを開いていた。検索項目は、JS事件と、機動六課。
(閲覧ロック‥‥‥?どうして?)
だが、事件の全貌と、六課の詳細にはロックが掛かっていて、閲覧不可。
疑問を浮かべているルネッサの背後から近付く、一人の影。
「どうした?」
ルネッサが振り向くと、チンクが立っていた。少し険しい表情で見ている。
「いえ、前線で協力して頂ける人材がいないかと思いまして」
そう答えたルネッサに疑惑の目を向けながらも、チンクがロックを一部解除する。
「機動六課か。あの事件は色々と難しい事件だったからな。閲覧ロックが掛かっているのも仕方無い。‥‥‥当時のメンバーは皆忙しい。協力は難しいと思うぞ」
チンクが解除できるのはレベル3迄。当時の六課の隊員の簡易データが見れる程度。
「ありがとうございます。捜査官は、その‥‥‥お若いのにご活躍で」
「‥‥‥これでも29になる。補佐官の一回り上だ」
ルネッサの勘違いも無理はない。チンクの見た目は昔と変わらず、少女の姿のまま。ヴォルケンリッターを除けば、チンクが一番年齢不詳。ただ、見た目の事を密かに気にしているチンクは、ルネッサの言葉に少し不機嫌になった。ルネッサも気付いて、「すみません」と謝罪する。
「構わない。余り無理はしないようにな」と言ってその場を離れるチンクを確認し、ルネッサは再びモニターに向かう。
(機動六課‥‥‥これは‥‥‥!)
現在の管理局の重要人物ばかりが名を連ねる六課の構成メンバーに驚くルネッサを、チンクは遠くから疑惑の目を向け見ていた。
2話。108部隊チンク捜査官登場。本編では活躍の機会が無かったからがんばって!
雫は魔法使えないのを、実は結構気にしてました。