Crescent Moon tears   作:アイリスさん

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after story第6話『今を』

 

 

すずかはヴィヴィオに駆け寄って、支えて歩き、雫の隣に座らせる。

 

《随分と派手にやられましたわね、ヴィヴィオ》

 

「面目ないです」

 

スノーホワイトの言葉に苦笑いしながら、治癒魔法が得意ではないすずかに治癒を施してもらう。

 

「ごめんね、ヴィヴィオ。これだけはどうにも苦手で」

 

「大丈夫。ありがとう、すずかママ」

 

ある程度ヴィヴィオの傷を回復させた所で、すずかは雫の正面に座り、抱き締める。

 

「良かった。心配したんだよ?‥‥‥足、見せてみて」

 

「うん」

 

すずかは雫の左足の脛を、静かに触る。「痛っ」と思わず声を上げる雫。

 

「やっぱり折れてる。戻ったらちゃんとお医者様に視てもらおうね」

 

すずかによると、マリン・ガーデンの火災報道の後直ぐに雫に連絡を入れたが通じず、焦って現場まで来てみたら休みだったなのはが居た、と。それではやてとヴォルツの協力の下、救出に参加したそうだ。

 

「だから、なのはちゃんも来てるよ。ホラ」

 

すずかが指し示す方向に目をやると、遥か上から桜色の極光が走り、4人が居る最下層迄を貫き、脱出口が出来た。相変わらずのなのはの馬鹿魔力にヴィヴィオが感心している隣で、すずかは優しい笑顔を浮かべながら、イクスに視線を移す。

 

「もう大丈夫だよ。貴女、お名前は?」

 

すずかの問いにイクスが答える前に、雫が代わりに「この子、イクスヴェリアっていうの」と話す。

 

「そっか。貴女がイクスヴェリア‥‥‥。聞いてたのとは随分違うのね」

 

イクスは俯き、「私に構わず、脱出してください」と悲しそうに答える。視線を外したまま、イクスは続ける。

 

「私が居れば、また今回のような事が起きるかも知れません。これ以上皆さんを危険な目には遭わせられない‥‥‥。私は、この世界に存在しない方がいいんです」

 

すずかは優しい笑顔のままイクスを抱き締める。戸惑うイクスに、諭すように語りかけた。

 

「そんな事言っちゃ駄目だよ。存在しない方がいい人間なんて、この世界には居ないの。もっと自分を大切にしなきゃ。それに‥‥‥」

 

すずかはヴィヴィオの方をチラリと見る。ヴィヴィオはコクン、と頷き、イクスの手を取る。

 

「『困っている人が居て、自分に助けてあげられる力があるなら、その時は迷っちゃいけない』。私は、貴女を助けたい。だから、行きますよ、イクス陛下?」

 

ヴィヴィオはイクスを抱き上げて、地上へと飛び立つ。すずかもそのすぐ後に、雫を抱いて脱出した。

 

◆◇◆◇◆

 

改めまして、こんにちは。雫・テスタロッサ・ハラオウンです。

あれから大変でした。私は病院に搬送されて。フェイトママは私に抱き付いて泣きじゃくるし。でも、はやてさんやなのはさん、他にもあんまり会えない人達がたくさんお見舞いに来てくれて。嬉しかった。それに、イクスちゃんとも色々話せましたし。私やヴィヴィオお姉ちゃんの生まれの事とか、アインハルトさんの事とか、この世界の事とか。私が退院したら、色んな所へ連れて行ってあげるって約束したんです。色々お話してみたら、イクスちゃん、古代ベルカのお姫様だったみたいで。当時は大きな戦争があって、今みたいな綺麗な青空は見えなくって、大地は荒廃していて‥‥‥って、悲しいお話ばかりだったから、『それなら私が今の世界を案内してあげる』って約束しました。あの澄み切った青空でもあんなに感動してたんです。きっともっと感動してくれる筈です。きっと‥‥‥‥‥‥。

 

 

 

 

 

「どうしたの、雫ちゃん。足、痛むの?」

 

「いいえ、シャマル先生。なんでもありません」

 

回診に来たシャマルに返事を返し、流れる涙を拭う。雫は窓の外に視線を移し、問いかける。

 

「シャマル先生、イクスちゃん、目覚めますよね?」

 

「‥‥‥‥‥‥今は少し長い眠りに就いてるけど、目覚めるわよ、きっと」

 

雫はベッドに横になったままで、シャマルに抱き付いて声を上げて泣き始めた。シャマルはそっと、彼女を無言で抱き締める。

 

雫だって、理解している。イクスは今回、無理に封印から解かれて目覚めた。シャマル達の診断では、今度眠りに就いたら、次に自然に目覚める事はほぼ無いという。もう2度と話せないかも知れない、そんな残酷な現実。もっと色んな話をしたかった。もっと色んな所へ連れて行ってあげたかった。

 

「う゛っ‥‥‥う゛っ‥‥‥折角、友達になれたのに‥‥‥」

 

雫が泣いている部屋の外で、雫が落ち着くのを、すずかとフェイトは静かに待っていた。

 

◆◇◆◇◆

 

それから、数ヶ月。雫は、海鳴市に居た。

 

「ありがとうございました!」

 

「大分良くなって来たよ。なのはよりもよっぽど才能有るよ、雫ちゃん」

 

高町家の道場内。雫は、美由希に剣を習い始めていた。イクスの件があってからというもの、雫は週2回は道場へ通って剣を習いつつ、すずかに料理を教わる日々。だからと言って、勉強していない訳ではない。前にも増して、勉強に取り組んでいる。

魔法が使えなくても、人を助け、料理も出来て、イクスを目覚めさせられる位の知識も欲しい。少しでも、両親に近付けるように。

 

「今日はここまでにしようか。丁度エリオが迎えに来たみたいだし」

 

美由希の言葉に入口を見ると、笑顔で手を振るエリオの姿。雫は満面の笑みで駆け寄る。

 

「エリオさん、お久し振りです!何時此方に?」

 

「久し振りだね、雫ちゃん。ミッドにはさっき着いたばっかりだよ」

 

その二人の様子を、微笑ましくもニヤニヤしながら見ている美由希。エリオに「おっ、久し振りだね、フラグクラッシャー」と意味深な言葉を掛ける。

 

「その『フラグクラッシャー』っていうの、止めてくださいよ。美由希さんこそ、そろそろ身を固めたほうが‥‥‥」

 

「言ってはいけない事を言ったわね!」

 

口ではそう言ってはいるが、顔は笑っている二人。雫はそんな二人の隣で、然も自然を装ってエリオと手を繋ぐ。

 

「じゃあ、行きましょう、エリオさん!」

 

「そうだね。それじゃ、お邪魔しました、美由希さん」

 

月村家のミッド直通ゲートを抜けて、キャロと合流、翠屋へと帰る3人。

 

「雫ちゃん、少し顔赤いよ?熱あるんじゃない?大丈夫?」

 

そう言ってしゃがんで顔を近付けるエリオ。雫は「大丈夫ですよ」と笑顔で答え、エリオの頬に軽くキスをする。

 

「雫ちゃん!?」とエリオが声を出したと同時にそのエリオの鳩尾にキャロの肘が入る。「グハッ」と悶絶しているエリオを頬を染めながら見ている雫と、笑顔ながらも眉をヒクヒクと動かして青筋を立てているキャロ。

 

「キャロお姉ちゃん、私、精一杯生きるって決めたんです。だから、一歩も引きませんから」

 

「なっ‥‥‥!雫ちゃん、それは、私とルーちゃんに対する宣戦布告!?」

 

満面の笑みで「ハイ!」と答える雫。これから一騒動も二騒動も有りそうだが、テスタロッサ家の平和(?)な時はこうしてゆっくりと、時に波乱に流れて行く。

 

 

 

 




ありがとうございました。
After storyイクス編は、エリオが更に大きな爆弾を抱えた所で完結です。
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