「みんなでお見舞いに行こうよ。もう3日も休んでるんだしさ」
海聖小学校の帰り道。アリシアは暫く会えていないすずかのお見舞いを提案した。倒れてから既に3日。その長さに一抹の不安を抱いていた。
「そうよね、アリシア!いくら具合が悪くても、顔見るくらいならいいわよね?」
アリサもそれに同意する。見かけに依らず運動神経抜群で身体は丈夫な筈のすずかが3日も休んでいる。嫌な予感がする。
「で、でも、アリサちゃん」
「何よ、なのは。今日予定でもあるの?」
「何でも、ない‥‥‥」
なぜか不安そうななのは。そんな姿にフェイトは疑問を抱く。
「なのは。何かあったの?」
「フェイトちゃん、えっと‥‥‥」
言い淀むなのはに、更にアリサも尋問する。
「何なの?言いたい事があるならハッキリ言いなさいよね」
隣で「?」を浮かべるアリシアを見ながら、なのはは昨日の事を思い出しながら話す。
「えっとね、実は昨日私一人でお見舞いに行ったんだ。でもその時は具合が良くないからって言われて会えなくて。でね?夜中にトイレに行きたくなっちゃって起きたの。そしたらね、お父さんとお母さんが話してるのを聞いちゃったの」
次になのはが発した一言に、三人は衝撃を受けた。三人の「えっ!?」という驚きの声が揃う。「すずかが行方不明」と。
「怖くてそこから先は聞けなくて部屋に戻ったんだけど。私‥‥‥どうしたらいいのか分からなくて‥‥‥」
話しながら涙目になるなのは。もし誘拐とか、事件に巻き込まれていたらと考えると気が気ではない。
「とっ、兎に角さ、すずかの家に行きましょ。出来たら事情も聞きたいし」
自らも動揺を隠せないが、事情の一つも分からないなんて納得出来ないアリサの提案で、四人は月村邸に向かう事にした。
その日の夕刻。月村邸内。モニターに写る、T&Hエレメンツの四人の姿を確認したメイド長のノエルは、忍に確認をとるために訊ねた。
「忍お嬢様、すずかお嬢様のお友達がみえたようですが、如何致しますか?」
「‥‥‥なのはちゃん達ね。すずかは今日も具合が悪くて会えない、と言っておいて」
忍はノエルにそう告げると、自室にフラフラと歩いて戻っていく。もう三日もまともに寝ていない忍を心配してか、ノエルはファリンになのは達の応対を任せ、自身は忍の後をついて行った。
インターホンが鳴り、お見舞いに来たであろう四人と顔を合わせるファリン。
「折角おいでくださった所申し訳ありません。すずかお嬢様はまだお会い出来るほど回復されておりませんので、生憎ですが本日のところは‥‥‥」
「すずかが行方不明ってどういうことですか!」
アリサの発言に、ファリンは狼狽した。こんなにも早く知られるのは予想外。忍には、『まだ口外しないで』と言われているだけに、悩んだ末、四人に目を合わせないまま口を開く。
「‥‥‥此れは私の独り言です。月村邸は、24時間体制で常に監視網が敷かれています。監視の目が無いのは、それぞれの自室のみです。その為、侵入者があればすぐに分かります。‥‥‥逆を言えば、監視網に掛からずに外に出る事は不可能です。‥‥‥データに改竄やハッキングの形跡は有りませんでした。にも関わらず、すずかお嬢様は自室から姿を消しました。外に出た形跡もなし。まるで魔法のように居なくなってしまわれたのが、倒れられた三日前の夜です。出来ればこの事はまだ内密にして頂きたい。独り言は以上です。‥‥‥‥‥‥本日はもうお引き取り願えないでしょうか?」
唖然としたまま動けない四人。やがてアリサがトボトボと歩き出し、それに三人が付いていく。人が消える、なんてあるのだろうか。手掛かりすら掴めず、やりきれない四人は無言のまま帰路についた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
すずかはアースラで割り当てられた部屋のベッドにうつ伏せに寝そべり、スノーホワイトと一緒に自身のブレイブデュエルのデッキカードを眺めていた。
「ねぇ、スノーホワイト。私のこのスキルカードってなくても魔法は使えるんだよね?」
《ええ、すずか。すずかの魔法はカードが無くても別に使えますわ。魔力の氷結変換などは無意識にでもなってしまう現象ですわね》
何故かスノーホワイトに収納されていたすずかのカード。何か意味でもあるのかと思ったのだが、自身の魔法の発動には無関係だという。
「そうなんだ」と呟き、懐かしそうにカードを見る。T&Hエレメンツの面々のカードや、はやて達の八神堂のカード、グランツ研究所の面々のカード。まだたいして時も経っていないはずだか、もう何年も会っていない感覚がする。
そのうちの何枚かを見て、すずかはふとあることに気付いてスノーホワイトに話す。
「ねぇ、スノーホワイト。ちょっと聞きたいんだけど」
《はい、なんですの?すずか》
「これってさ、ーーーーー」
◆◇◆◇◆
《マスター、もっとです!魔力を一点に集中させるイメージで!》
「もっとだね、レイジングハート!」
アースラの訓練室。なのはは必殺技の習得を急ぐ。なのはの足元には巨大な魔法陣が広がっており、レイジングハートに溢れんばかりの魔力を湛えている。
「『ハイペリオンーー、スマッシャー!!』」
けたたましい轟音と共に迸る、桜色の魔力の奔流。威力も充分。しかし。
「ねぇ、レイジングハート。これって確かに強力だけど、決め技にはならないよね?」
《そうとも言えます。魔力効率の問題ですね。威力が大きい分、使用する魔力も大きい。消耗した状態では使い難いと言えます》
なのはは「うーん」と唸り、ペタンと座って考え込む。もっと効率良く、もっと大威力の砲撃があれば、プレシアに対抗する切り札になるかもしれないのだが‥‥‥。
「ねぇレイジングハート、魔力を周りからたくさん集めて撃ったりは出来ないの?」
《その手がありましたか。使い切れずに周りに散らばった魔力を集める事なら出来ます。それなら大して魔力が残っていなくても、大威力の砲撃が可能です》
それはつまり、戦いが終盤になればなるほど、相手が強大な魔導師であればあるほど、威力が大きくなる事を意味する。プレシアが大魔導師であるなら、それは此方にとっては大きなプラスに成りうる。
「それって私でも出来る?」
《出来ます。マスターなら必ず》
本来、収束砲撃をマスターするのは非常に難しい。使える魔導師が殆どいないのもその為。だが、レイジングハートはなのはなら出来ると確信していた。
なのはは早速、周りから魔力を収束する練習を始めた。それは、後になのはの代名詞ともなる超大威力収束砲撃‥‥‥。
◆◇◆◇◆
「ああっ!もう何なのよ!せめて英語か日本語にして欲しいわっ!何なのよこのミッド語って!」
「アリサちゃん、そこは覚えてもらわないと‥‥‥」
「分かってます。分かってますよ、エイミィさん。ちょっと叫びたかっただけですから」
アリサはモニターとにらめっこをして、見慣れない言葉と格闘していた。まずは此れを覚えない事には、すずかを元の世界に戻すなど到底出来ない。新たにジュエルシードが見つかる迄の間の約束でエイミィを先生にご教示頂いている訳だが、馴れないミッドの言葉に思いの外苦戦中。
時々こうして叫び声を上げながら、すずかの為に必死にモニターに食らいつくアリサの姿は、訓練室から時々聞こえる轟音や、近くで言い合うクロノとユーノの口喧嘩に悩まされながらも、次のジュエルシードが見つかるその時迄続いた。
エレメンツの近況と魔法世界のすずか達の近況。ちょっと寄り道回でした。