サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題)   作:エキバン

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遅くなって本当に申し訳ないです。
上手く考えがまとまらなくて時間がかかってしまいました。
色々捏造設定があります。



トキワシティの攻防

マサラタウンに一番近いトキワシティはそこそこ大きな町だ。と言ってもカントーの中心の都会に比べれば田舎には意義無いのだが。

夕日が差しオレンジ色に染まったトキワシティは外の人通りも少ない。もうすぐ日暮れなのだから仕方ないのだが、旅に出て最初に訪れた町がこう静かだと寂しいものがある。

 

「もうくたくただよ~」

 

「私も早くシャワー浴びたいわ」

 

リカとカスミは町が近い安心感からか休息を望んでいた。

そうしてトキワシティに入ろうとした矢先、

 

「そこのあなたたち」

 

目の前に女性が現れた。

青い帽子を被り、纏っている青を基調とした服は制服のようだ。

ミニスカートからは美しい脚が伸びている。

 

「私はこのトキワシティの治安を任されているジュンサーよ」

 

なるほど、警察というわけか。

しかし……警察の人がそんな風紀を乱すような肌の目立つような恰好をするなん

 

「ってぇ!?」

 

突如背中に痛みが走る。それも二か所。

何者かに思いっきりつねられている。

まさか、このパターンは……

 

「……えっち」

 

「……ばか」

 

左のリカさんと右のカスミさんでした。そんなに睨まないで怒らないでつねらないで、反省してます。もうしません……たぶん。

 

「どうしたの?」

 

「あ、いえ、なんでもないです。お……僕たちは旅をしているトレーナーです。俺と左の彼女はマサラタウンから来ました。右の彼女は途中で出会いました」

 

「あら、マサラタウンのトレーナーなら今日あなたたちの前に2人来たわね」

 

シゲルとナオキか。

 

「町に入る前に身分証明書を見せてもらえるかしら?」

 

え?身分証明書?そんなの貰った覚えが――

と思っていると、

 

「え、それポケモン図鑑じゃ?」

 

「知らなかったの?ほら、ポケモン図鑑のここをこうして……」

 

リカを真似てポケモン図鑑を操作すると、図鑑の音声が流れた。

 

「これが身分証になってたのか……」

 

「もう、図鑑と一緒に説明書も貰ったでしょ、読んでなかったの?」

 

「……はい」

 

「カスミのそれは?」

 

カスミは小さなカードを手に持っていた。

 

「これはトレーナーカードよ。普通はこれがポケモントレーナーの身分証になるのよ」

 

なるほどな、トレーナーに関する決まりはしっかりしてるんだな。

ジュンサーさんは俺たち3人の身分証をまじまじと見ると笑顔になる。

 

「はい、3人が町に入ることを許可します」

 

「「「ありがとうございます」」」

 

危機は去った……まあ、そんな大袈裟なものではないけどな。

すると、ジュンサーさんは面白そうに笑い、俺に話しかけてきた。

 

「それにしてもあなた、こんなに可愛い娘たちと両手に花の旅なんて隅に置けないじゃない」

 

ジュンサーさんは面白がるように俺とリカとカスミを見比べた。

 

「な、なななな何言ってるんですかジュンサーさん。私とこいつはたまたま会ってここまで来ただけで、そうよね、リカ……リカ?」

 

「わ、私とサトシがそんな……ま、まだ手も繋いでないのに……で、でも、サトシがどうしてもって言うなら……」

 

「おーい……リカー?」

 

「あらあら、本当に可愛い娘たちね」

 

2人とも……ジュンサーさんは揶揄っただけだろ、本気にしなくていいよ。

 

「あのジュンサーさん、ポケモンセンターはどこですか?」

 

「ポケモンセンターなら、この道を真っすぐに行った先にあるけど、結構遠いわよ。今から歩いたら夜になるわ。詳しい道はそこの地図に載っているけど」

 

ジュンサーさんの説明を聞き終えると交番に掲示されているこの町の地図を見つけた。

トキワシティは思ったより広いな。ゲームでは建物も少ないように描かれていたが、現実に沿ったら一般の都市くらいの広さは当然だが。

 

「まあ、今日はポケモンセンターに泊まるつもりでしたので暗くなっても問題ないです」

 

「そう、じゃあ、気を付けて行ってらっしゃい。その娘たちに何かあったらあなたが守ってあげるのよ。トレーナー君」

 

ジュンサーさんはウィンクして悪戯っぽく笑った。

 

「ええ、もちろんです。いろいろありがとうございました」

 

「「ありがとうございました」」

 

俺に続いてリカとカスミもお礼を言った。

 

そのまま俺たちはジュンサーさんに見送られながらトキワシティへと入って行った。

 

すると、カスミが話しかけてきた。

 

「サトシ、言っとくけど、私はただ守られるだけの女じゃないわよ」

 

「わ、私もだよ。サトシと一緒に戦えるよ」

 

なるほど、先ほどのジュンサーさんの言葉に対するものか。

カスミは負けず嫌いなのはなんとなくわかっていたが、リカもかなり積極的なんだな。

微笑ましくて頬が緩んでしまう。

 

「ああ、わかってるよ。俺が危ないときは頼りにしてるからな」

 

「う、うん、任せて」

 

「わ、わかればいいのよ」

 

リカは照れて頬を染め、カスミは誇らしげな顔で同様に頬を染めていた。

この2人はいちいち反応が可愛くて困るわー

 

 

***

 

 

辺りは真っ暗になった。ジュンサーさんの言う通り、着く前に夜になってしまった。

 

「あ、もしかしてあの建物?」

 

リカの指さす方には、周りとは形や雰囲気が違う建物があった。

赤い屋根にモンスターボールの飾り、看板を確認すると『ポケモンセンター』とあった。

 

俺たちはつい嬉しくてポケモンセンターまで走り出した。

 

自動ドアを通過すると、綺麗な床が見え、その先には受付らしき場所があった。

しかし、中には人っ子一人いなかった。

 

「すいませーん」

 

すると、受付の奥から女性が現れた。

白衣にスカート、被っている帽子には十字のマークがついていた。

 

「こんばんわ。ようこそポケモンセンターへ私は当センターの責任者のジョーイです」

 

ジョーイさんはその整った顔立ちで綺麗な笑顔を見せてくれた。

服の上からもスタイルの良さが――と危ない。また2人からお仕置きされるところだった。

 

「こんばんわ。あの、ポケモンの回復をお願いしたいんですけど。あと、今日ここに宿泊できますか?」

 

「回復承りました。宿泊については部屋は空いているのであとで鍵を渡しますからね」

 

「ありがとうございます」

 

「はい、ではこちらにモンスターボールを乗せてください」

 

ジョーイさんが取り出した3つのトレイに俺たちはそれぞれ自分のボールを乗せる。

俺とリカは1個でカスミは3個だ。

 

「それではお預かりします」

 

すると、ジョーイさんの後ろから大きなピンクのポケモンが現れる。

 

「ラッキー」

 

ラッキーだ。そう言えば、ポケモンセンターではラッキーがお手伝いをしていると聞いたことがあった。ジョーイさんと同じ帽子を被ったラッキーはボールの乗ったトレイを運んで行った。

 

「良かった~泊まる部屋があって」

 

「あんまり人も少ないみたいだな」

 

「まあ、このあたりはトレーナーが少ないから」

 

田舎町だからということか。

 

こうしてしばらく談笑していると、

 

『テンテンテレレ~ン』

 

例の音が鳴った。

 

「皆さんのポケモンは元気になりましたよ」

 

「「「ありがとうございます」」」

 

トレイに乗ったボールを受け取る、すると、ボールが勝手に開きピカチュウが飛び出してきた。

 

「ピカチュウ!」

 

「うお、ピカチュウ!ははは元気になって良かったな」

 

俺に抱き着いてきたピカチュウは俺に頬ずりをしてくる。

ピカチュウの頬っぺたってこんなに柔らかいんだな、くせになりそうだ。

 

「ピカピカ~」

 

「うふふ、仲良しなのね……あら?」

 

ジョーイさんが俺を見て怪訝な顔をした。

 

「どうかしました?」

 

「あなた、その手はどうしたの?」

 

ジョーイさんは指ぬきグローブに包まれた傷だらけになっているの俺の手を見ていた。

 

「あ、えーと、これは……」

 

「少し、見せてもらえるかしら?」

 

「あ……」

 

何と答えたらいいものかと考えているとジョーイさんは俺の手を取り観察を始めた。

ジョーイさんの細くてしなやかな指に触れられるのはなんとも心地よかった。

 

「この切れ方は、刃物?いえ、それよりも……」

 

するとジョーイさんは何かしらの器具を取り出してパソコンに繋げると俺の手に当てた。

 

「この反応はひこうタイプの技の反応ね。鋭いひこうタイプの技と言えば……『エアカッター』か『エアスラッシュ』かしら。どうしてあなたの手から反応が出ているの?」

 

パソコンの画面を見ながらジョーイさんは俺に問いかけてきた。

 

「実は……」

 

俺は観念して、ここに来るまでにピジョットと直接バトルしたことを語った。

 

「なんて無茶なことをしたの!?」

 

「いやぁ、あはは……」

 

ジョーイさんの物凄い剣幕に気おされながらも笑うしかなかった。

 

「笑いごとではないわ。大型のポケモンは大人でも大怪我を負わせるのよ!子供が立ち向かって行くなんて、取り返しのつかないことになったらどうするの!?」

 

「すいませんでした。ピカチュウに無理をさせたくなくって、ピジョットからは逃げられないし、それに直接ぶつかればピジョットのことを知れるかもしれないと思い、無茶だとはわかっていたのですが、軽率でした」

 

「あなたに何かあったら、あなたのご両親やそこにいるあなたのお友達も悲しむわ。それに……」

 

ジョーイさんはピカチュウに視線を送る。

 

「あなたのピカチュウもそうよ。ポケモンにとって、トレーナーはかけがえのない存在なの。その子には、あなたしかいないのよ」

 

その言葉に俺は肩に乗ったピカチュウを見つめる。

そうだよな、せっかく友達になれたのに、すぐにさようならするのは悲しいよな。

もっと、ピカチュウと冒険したいんだよな。

すると、ジョーイさんは軽く微笑んだ。

 

「けれど、あなたのポケモンを思いやる気持ちと、ポケモンを知りたいと思うことは大事なことだと思うわ」

 

「はい」

 

「その気持ちは忘れないでね。だけど、無茶は禁物よ」

 

「はい」

 

怒られたが、褒められて嬉しかった。

ピカチュウを見ると彼もまた笑っていた。

 

 

***

 

 

俺はセンター内のパソコンを操作していた。

そして、画面に目的の人物が現れる。

 

「ママ?」

 

「あら、サトシ!?」

 

画面に映るママは就寝前なのか寝巻き姿だ。

 

「さっきぶりだね。トキワシティに着いたから連絡したんだ」

 

「まあ、もうトキワシティに着いたの?結構早いんじゃないかしら?」

 

「そうかな?まあ、今日一日でいろいろあったよ。今リカと一緒なんだ」

 

「まあ、リカちゃんと?仲良くしてる?」

 

「もちろん。それから、もう1人カスミって女の子と一緒にいるんだ」

 

「あら、サトシったら、結構手が早いのね」

 

「そういう言い方はやめてくれよ」

 

息子を好色扱いせんといてください!

 

「うふふ、はいはい。それでそのカスミちゃんは可愛いの?リカちゃんとどっちがタイプなのかしら?」

 

「タイプとかそういう話じゃないよ。確かにカスミも可愛いけどさ」

 

「えー、せっかく女の子と仲良くなったんだから、もっとこう……楽しいことすればいいのに〜」

 

なんだよ楽しいことって。

 

「旅始めたばかりでそんな余裕無いよ」

 

「じゃあ、これからなのね。うふふ……」

 

女子かこの人は。あ、女性だったな。

 

「それじゃあ、また次の町に着いたら連絡するよ」

 

「そう。サトシ、女の子には優しくするのよ。変なことしちゃダメよ」

 

「しないよ!切るよ」

 

「はーい、またの連絡お待ちしてまーす」

 

なんだか旅の話よりも俺の女性関係の話しかしてないような気がする。ま、いいか。

そうして電話を切るとちょうどリカもご両親との連絡を終えたようだった。

 

 

「パパとママが一日でトキワシティに来れたのがすごいって褒めてくれたんだ」

 

嬉しそうに笑うリカ。

初めての旅立ちを褒められるのは嬉しいよな。

 

「……パパとママか」

 

「カスミ、どうした?」

 

「……ううん、なんでもないわ」

 

少し憂いを帯びていたカスミが気になりながらも、次の人に連絡することにした。

 

「よし、次は博士に連絡だな」

 

「うん、一緒にしよっか」

 

リカに促されパソコンを操作すると画面が切り替わる。

 

画面の向こうには誰かの後ろ姿があった。

まあ、誰かなんて一人しかいないんだろうけど。

 

「オーキド博士?」

 

「む?おお、その顔はもしやサトシ君か?この電話は……トキワシティからかかっとるのお、今日中にトキワシティに到着して何よりじゃ」

 

電話の相手はオーキド博士。近況報告のために連絡をしたのだ。

 

「博士ー私もいますよ」

 

「おお、リカ君。もしやサトシ君と一緒かの?」

 

「はい、道の途中で一緒になりました」

 

「それから、途中で水ポケモンのトレーナーのカスミって娘に出会いました」

 

「そうかそうか、トレーナー同士の出会いとは良いものじゃ。互いが互いを高めあう良き関係となるじゃろう。それで2人とも、ポケモンは何体捕まえたのかな?」

 

「「……まだ1体も」」

 

「な、なんじゃと?」

 

「いやぁバトルしまくってたら捕まえることすっかり忘れてしまいまして」

 

「のんびりポケモンたちを観察してたら忘れてしまいまして」

 

一日目とは言え、博士をがっかりさせて申し訳ない。

 

「はぁ~まったく、シゲルはもう何体か捕まえたというのにの」

 

なんと、あのシーゲル君は真面目に捕獲していたのか、さすがは優等生君。

 

「ナオキはどうですか?」

 

「うーむ、ナオキ君も君らと似たようなものじゃな、ポケモンを鍛えることに集中しておるようじゃ」

 

強くなりたいと言っていたからな、自分のポケモンを強くすることを優先したのか。

しかし、4人中1人しかまともに捕獲をしようとしないとは、人選大丈夫か?

自分のことなんだけども。

 

「ポケモンは捕まえていませんが、友達はできましたよ」

 

「ぬ?」

 

「道の途中でピジョットとオニドリルに会ってバトルして友達になりました。あとギャラドスも」

 

「な、ピジョットにオニドリルにギャラドスじゃと!?」

 

俺の言葉に博士は前のめりになり、画面いっぱいに博士の顔が広がる。

 

「ええ、ほら、俺とリカの図鑑に出会った記録があるでしょ?」

 

「す、少し待て……うーむ、その記録を見たいから図鑑のデータを送ってくれまいか」

 

博士に手順を教わり、図鑑のデータを博士の研究所まで送ると「少し待っておれ」と博士は無言になりデータに目を通し始めた。

 

「……あの地域は小型のポケモンしか住んでおらんと思っておったが、それらが進化しておったのか。うむ、とても貴重なデータじゃ、感謝するぞ2人とも」

 

「お役に立てて何よりです」

 

「それから……おお、リカ君は写真も撮っていたのか」

 

「はい、興味深いと思った写真を記録しました」

 

「いつの間に」

 

「えへへ……」

 

というか図鑑にそんな機能があったことも知らなかった。ホントによく説明書を読んでおくべきだったな。

 

「ほう、同じ木で違う種類のポケモンが食事をしておるの」

 

「はい!これってすごく珍しいことだと思うんです!」

 

「うむ、野生のポケモンは縄張り意識が強いものが多いはずじゃが。リカ君、この写真はかなり珍しいものじゃ、素晴らしいぞ」

 

「ありがとうございます」

 

嬉しそうに笑うリカ。ご両親にもオーキド博士にも褒められて、幸先の良いスタートになって良かったな。

 

「む?」

 

「どうしました?」

 

「……この写真、サトシがピジョットと戦っておるように見えるのじゃが、わしも年で老眼が悪化したのか?」

 

あ、そこ触れちゃう?

 

「……それ、見間違えじゃないです。サトシはピジョットとバトルしました」

 

「お主なにをやっとんのじゃ」

 

博士は今まで以上のあきれ顔で俺をジーッと見ていた。

すんません、おじいさんに見つめられても嬉しくないっす。

 

「あはは……リカとカスミにも言われましたし、さっきジョーイさんにも怒られました」

 

「そうか、ならばわしからはあまり言うまい。いや、しかし、ポケモンを知るためにトレーナーが直接ぶつかるというのは……なかなか理にかなっているやもしれん。それに……」

 

博士はブツブツと何やら思案を始めた。

 

「博士?」

 

「む?な、なんでもないぞ。そう言えば『友達になった』と言っておったが?」

 

「はい、バトルをして友達になりました。捕まえることもできたかもしれませんが、あのポケモンたちの群れのことを考えてしなかったのですが」

 

「うーむ、確かにむやみやたらにゲットするのも自然環境に悪い影響を与えるかもしれん。サトシ君の判断は間違ってはいないじゃろう」

 

うむうむと頷き感心する博士。

すると、足元にいたピカチュウがテレビ電話の画面に顔を出した。

 

「ピカピカチュウ!」

 

そのままピカチュウは「もっとかまえ」と言わんばかりに俺の顔をスリスリしてきた。

よしよし可愛い可愛い。

 

「む、もしやピカチュウか?」

 

「ピカ!」

 

驚く博士。

あんなに不愛想だったピカチュウが笑顔で俺に懐いているんだからな。

 

「まあ、いろいろあってご覧の通り仲良くなれました」

 

博士はますます驚いた顔で俺とピカチュウをマジマジと見ていた。

 

「まさか、あのピカチュウがそこまで懐くとはの。サトシ君もなかなかやりおるの」

 

「ははは、どうも」

 

「それでは2人とも、これからもしっかりポケモンのことを学ぶのじゃぞ」

 

「「はい」」

 

「では、また連絡してくるのを楽しみにしておるぞ」

 

そうして、画面が消えた。

 

 

***

 

 

オーキド博士への連絡を終えた俺とリカはロビーで待っていたカスミと合流して、今後の予定を話し合おうとしていた。すると、リカが口を開く。

 

「ねえ、サトシ。一緒に旅しない?」

 

なんと、女の子からお誘いを受けるとは、いや確かにこんな美少女と旅ができるなんて願ったり叶ったりなんだが。

 

「お誘いは嬉しいけど、どうしてなんだ?」

 

「サトシはすごいよ。ピカチュウも心を開いてくれて、野生のポケモンとすぐに友達になって。こんなことできるなんて、絶対にサトシはすごいトレーナーになれるよ。そんなサトシと一緒に旅して、サトシから色々学びたいんだ」

 

真っすぐ俺の目を見てくるリカ。

こんなに女の子から褒められるなんて生まれて初めてかもしれないな。

 

「わかった、けど、俺もリカからいろいろ学ばせてもらうけど、いいかな?」

 

「え!?い、いやそんな、私に学ぶところなんて……」

 

「リカはポケモンをよく観察して自分なりによく考えているよ。それこそすごいことだと俺は思うよ。だから、学びたいんだけど、どうかな?」

 

照れた顔になったリカは嬉しそうにうなずいた。

 

「……うん、わかった。それじゃあ、よろしくね」

 

「ああ、よろしく」

 

そして置いてけぼりにしていた彼女に話を振る。

 

「カスミはどうするんだ?」

 

「うーん、そうねぇ。旅をするのは確定なんだけど……」

 

「それならさ、カスミも私たちと旅しようよ。人数は多い方が楽しいし、水ポケモンのことも教えてほしいな」

 

「いいの?」

 

不安げに俺に尋ねてくるカスミ。

俺の答えはもちろん、

 

「ああ、俺もカスミなら大歓迎だぜ」

 

「そっか、それじゃあ2人ともよろしくね」

 

「やった!」

 

「ただ、これだけは言っとくわ」

 

急に怒気を強めたカスミは俺の前に出て、ビシッと指さした。

 

「サトシ、私と旅するからにはあんたには変な無茶はさせないからね!」

 

「急にどうしたんだよ?」

 

「丸腰で大型のポケモンに突進していくような人は心臓に悪いってこと。だからしっかりあんたのこと監視させてもらいますからね!」

 

「……俺のこと心配してくれてるのか?」

 

そう言うと、カスミは顔を赤くして驚いた顔になる。

 

「な、ち、違うわよ!私の目の前で死なれでもしたら眼覚めが悪いの!それだけよ!わかった!」

 

「あ、はい……」

 

目の前まで顔を近付けてまくし立ててくるカスミの剣幕に圧されてしまった。

 

「ふふ……素直になればいいのに」

 

「だぁかぁらぁ!」

 

「きゃー」

 

リカの言葉にカスミは顔を真っ赤にして接近した。リカはそんなカスミから小走りで逃げた。

じゃれつく2人は微笑ましいなー

 

一通りじゃれたリカとカスミは元の位置まで戻る。

そして、俺が音頭を取ることになった。

 

「よし、リカ、カスミ、これから頑張ろうぜ!」

 

「「うん!」」

 

 

***

 

 

警報ベルがなったのはその直後だった。

 

『警報です。警報です。トキワシティに何者かが侵入しました。ポケモン誘拐団の恐れがあります』

 

「これは?」

 

「なんなの?」

 

何かの気配を感じて天井を見上げると、そこにある天窓から何かが飛来した。

 

「上から何か来るぞ!」

 

ガラスの割れる音がした後、現れたのは2個のモンスターボール。そして2人の人間だった。

 

「「ハッ!!」」

 

「シャー!!」

 

「ドガ~ス!」

 

2人組が着地すると、モンスターボールから蛇ポケモンのアーボとガスポケモンのドガースが出現した。

それは男女の2人組だった。

女はピンクの長い髪にへそ出しのシャツにミニスカートでボディラインが強調されている。

男は青い髪長袖と長ズボンの長身。

2人の服は制服なのか、真ん中に大きく『R』の文字が描かれている。

 

「一体なんなの!?」

 

ジョーイさんの言葉に2人はニヤリと口角を上げると、口を開く。

 

「なんだかんだと――」

 

「ピカチュウ、『でんきショック』!」

 

「ピィカチュウウウウ!!!」

 

「「あばばばばばば!!!」」

 

2人組が何かを喋る前に俺は動いた。

よっしゃあ、先制攻撃成功だぜ!

 

「ちょっと何すんのよー!」

 

「名乗ってる時は攻撃してはいけないっていうお約束を知らないのかー!」

 

全身が焦げた2人組は怒りの形相で俺にクレームを入れてきた。

 

「いや、あんたら悪者だろ。悪者ならやっつけるのが普通のことだと思うけど?」

 

「まったく、これだから子供はヤなのよ。もっかいやったげるからよーく聞きなさいよ……なんだかん――」

 

「フシギダネ、『つるのムチ』!」

 

「ダネフシャ!」

 

リカの足元にいるフシギダネが2本の蔓で2人を滅多打ちにする。

 

「「痛い痛い痛い痛い痛い!!」」

 

はははー良いぞリカちゃん。グッジョブだぜ!

 

「「だからー!」」

 

今度はリカに文句を言う2人組。

 

「えと、サトシ、攻撃して良かったのかな?」

 

「もちろんだ。リカは間違ってないぞ」

 

「間違いだらけよー!」

 

「おみゃーらいつまで遊んでるのにゃ!」

 

不意に聞こえた見知らぬ声。

声の主を探そうとキョロキョロしていると、それは2人組の足元にいた。

 

それは紛れもなく猫ポケモンのニャースだ。

 

「早く仕事に取り掛かるにゃ!」

 

ニャースが口を開くと、言葉が飛び出してきた。

 

「「「「ニャースが喋ってる!?」」」」

 

俺、リカ、カスミ、ジョーイさんは驚きを隠せず言葉が見事にはもった。

 

「ポケモンが人間の言葉を話せるなんて!」

 

ジョーイさんは好奇心が抑えられないと言った雰囲気でニャースを見ていた。

 

するとニャースは顔を上げて、遠い目をし始める。

そして、語りだす。

 

「……そこには聞くも涙語るも涙の苦労があったのにゃ。そう、あれは――」

 

「ピカチュウ、ニャースに『でんきショック』」

 

「チュウウウウ!!!」

 

「あにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!?」

 

「こりゃー!話を遮るにゃー!」

 

焦げ猫ニャースは「フシャーッ」と言った具合に俺を睨みつけた。

 

「もういいよ。んで、悪者さんたちはここに何しに来たんだ?」

 

「話す途中でまた電撃ビリビリするつもりじゃないでしょうね?」

 

「天丼のやりすぎは皆さまに飽きられるぞ、わかってるのか!」

 

皆さまって誰だよ?

 

「はい、どうぞ」

 

「コホン、私たちは悪の組織ロケット団。私はムサシ」

 

「俺はコジロウ。このポケモンセンターには珍しいポケモンを頂きにきたのだ」

 

「ニャーはニャースでにゃーす」

 

名乗りを上げたロケット団。ムサシ、コジロウ、ニャースは先ほどのコントのような雰囲気が嘘のように悪人の顔で語りだす。まあ、コントになったのは俺のせいだけどさ。

 

「待って、このセンターにはそんな珍しいポケモンなんていないわ」

 

というか、お前たちのニャースの方が珍しいポケモンなんじゃないか?

 

「ここには病気で入院しているポケモンがたくさんいるはずだ」

 

「中には何匹か珍しいのもいるはずよ。それに――」

 

するとムサシは不適な笑みで視線を送る。

その視線の先にいたのは――

 

「さっそく珍しいポケモンはっけーん」

 

「え?」

 

「ダネ?」

 

リカとフシギダネだった。

 

「フシギダネは新人に配られるポケモンとしてなかなか希少価値の高いポケモンだ。そいつは確実にいただいていくぜ!」

 

「な!そんなの嫌よ!」

 

「あんたの意見なんて聞いてないわ。ポケモンはぜーんぶ私たちロケット団のものなのよ」

 

「随分勝手なこと言うんだな。それに、俺たちがポケモンを奪われるのを黙って見てるとでも思ってるのか?」

 

「ピカ!」

 

俺はロケット団を睨み、牽制と挑発をした。

ピカチュウは俺の気持ちに応えるように、頬を帯電させてロケット団を睨み前に出た。

 

「まったく……我らロケット団に逆らう生意気なジャリガキ共にお仕置きをしないといけないわねぇ……子供の躾は大人の仕事。あんたたちは私たちがちゃーんと教育してやるわ」

 

「俺たちの教育はスパルタだ。泣いてもやめない、どんどん厳しくだ」

 

不適な目で俺たちを見るムサシとコジロウ。その目には自分たちの敗北を微塵も感じていない。俺たちをどう叩きのめすかを考えている加虐的な目だ。

 

「やってやるのにゃおみゃーら!」

 

「あったりまえよ!行けアーボ!」

 

「ドガースお前もだ!」

 

「シャーボ!」

 

「ドガ~ス!」

 

ニャースの号令でムサシとコジロウ、彼等のポケモンであるアーボとドガースが動き出す。

 

「俺たちも行くぞピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

「私たちも戦うわ!さっき言ったでしょ、守られるだけじゃなくて一緒に戦うって」

 

「リカ……ああ、頼んだぜ。カスミはジョーイさんを守ってくれ」

 

「ええ、わかったわ。任せて」

 

カスミがジョーイさんと一緒に奥に行くのを見届けると、俺とリカはロケット団に向き合った。

これは俺とリカのタッグバトルだな。絶対勝つぜ!

 

「ふふん、どくタイプの恐ろしさを見せてあげるわ。アーボ『どくばり』!」

 

「シャー!!」

 

アーボはその紫の長い体を思いきり振り上げると口から複数の針を発射した。

あれに当たるのはまずいかな。

するとリカが動く。

 

「任せて。フシギダネ、前に出て受け止めるのよ!」

 

「フシャ!」

 

フシギダネは迫る毒針を浴びながらも前に突進していく。

 

「はははは、これでそのフシギダネは毒々に――」

 

「『たいあたり』!」

 

「ダネ!」

 

「シャボッ!?」

 

「あれ?」

 

フシギダネは何事も無かったかのように走った勢いのまま『たいあたり』をアーボに浴びせた。

アーボはその威力の高さに吹き飛ばされる。

 

「よし、いいぞリカ!ピカチュウ、ドガースに『でんこうせっか』だ!」

 

「ピッカァ!」

 

負けじとピカチュウもトップスピードの一撃をドガースにお見舞いする。

 

「ドガ~」

 

間の抜けた声を出しながらドガースも吹き飛ぶ。

 

「ちょ、ちょっと!?なんで毒にならないの!?」

 

焦った声で文句を言い始めたムサシにコジロウがフォローを入れる。

 

「フシギダネはどくタイプを持っていて、どくタイプは毒状態にならないんだよ」

 

「ええ!?なにそれずっるいじゃない!」

 

「お、落ち着けムサシ!お前のアーボと俺のドガースもどくタイプだから、毒にはならないってことだ」

 

「あ、そうか。アーボあんた偉いじゃな~い」

 

説明を受けて機嫌が良くなるムサシ。

ポケモンのタイプの性質くらい覚えろよ。

それに『どくばり』は確実に毒を与える技ではないからな。

 

「フシギダネ、『はっぱカッター』!」

 

「毒にならなくてもこれならどう?アーボ、躱して『へびにらみ』!」

 

リカの追撃をアーボは素早く躱すと、不思議な力を込めて睨みつける。

 

「ああ、フシギダネ!」

 

『へびにらみ』は蛇ポケモン固有の技で、相手を麻痺させる強力な技だ。

それを受けたフシギダネは動きづらそうになり苦しみだす。

 

「アーボ、そのまま『まきつく』!」

 

アーボは動けないフシギダネに巻き付き締め上げる。

フシギダネは麻痺とダメージで苦しそうな顔をしている。

このままだとフシギダネが危ない!

 

「ピカチュウ、フシギダネを助けるんだ!」

 

「おっとぉ、お前の相手はこっちだ。ドガース『ヘドロこうげき』!」

 

「ドガ~」

 

ピカチュウの行く手を阻もうとするドガースが口からヘドロを出して攻撃してくる。

悪いがお前の相手をしている暇は無い!

 

「ピカチュウ!躱してアーボのところまで走れ!」

 

俺の指示にピカチュウは高速で動き、ヘドロを避けてドガースを通り過ぎた。

 

「アーボに『でんこうせっか』!」

 

「ピカッ!」

 

ピカチュウの高速の突撃がアーボの顔面を捉え、アーボの体は遠くまで飛んでいく。

同時にフシギダネの拘束も解かれる。

 

「シャボッ!?」

 

「よし!」

 

「サトシ、ありがとう!」

 

リカの言葉に俺は頷いた。そして、その一瞬が油断になった。

 

「今だドガース、『どくガス』攻撃!」

 

ドガースがピカチュウの後ろに迫ると、口から黒いガスを放った。

ピカチュウはそれをまともに受けてしまい、毒状態になってしまった。

 

「ピ……ピ、カ……」

 

「しまった!」

 

毒で苦しそうに立つピカチュウはフシギダネに近寄る。次の瞬間、ピカチュウはフシギダネを背負い、こちらに猛スピードで走り出した。

 

ピカチュウは俺の元まで来ると勢いのまま倒れ込んだ。

ダメージを負いながらも仲間を助けることに全力を尽くしたのか。

そんなピカチュウに俺は胸が熱くなった。

 

「ピカチュウ、フシギダネ!」

 

リカは近寄ると、フシギダネを抱き寄せた。

 

俺は閃き、バッグの中を探る。

そして見つけた。

 

「ピカチュウ、モモンの実だ。食べてくれ」

 

震える体でモモンの実を咀嚼するピカチュウ。

するとみるみるうちに顔色が良くなり元気を取り戻した。

良かった。毒は綺麗さっぱりなくなったようだ。

 

問題はフシギダネだ。麻痺を治すのはクラボの実だが、俺は今持っていない。

 

「リカ、クラボの実は持ってるか?」

 

リカは悲痛そうに首を振る。

 

まずい、このままではフシギダネが、

 

「こっちよ!」

 

声のした方を振り向くと、カスミとジョーイさんが部屋からこちらに手を振っていた。

 

「行こう」

 

「ええ」

 

俺とリカは部屋まで走り出した。

後ろからは物が壊される音がする。おそらくアーボとドガースがセンター内の機材を破壊しているのだろう。そして、ドガースの毒ガスが建物内に充満してきた。ガスに追いつかれる前に行かなくては。

 

俺とリカは必死に走り、カスミのいるところまで到着した。

部屋に入るとシャッターが閉まる。

 

「これで毒ガスも防ぐことができるはずよ」

 

その時、部屋の電灯が一瞬消えたかと思うと、部屋が真っ暗になってしまった。

 

「停電だ」

 

おそらくロケット団がセンターを壊しているうちに電気がやられたのだろう。

 

「大丈夫よ、自家発電があるから」

 

すると、機材の入ったガラスケースが現れた。

そのケースの中にはたくさんのピカチュウがいた。

 

「「「「「「ピカピカチュウチュウピカチュウチュウ。ピカピカチュウチュウピカチュウチュウ」」」」」」

 

ガラスケースの中のピカチュウたちはランニングマシンのような機材の上を電気を発生させながら走り出した。

すると、明かりがついた。

部屋の中の電気が回復したようだ。

なるほど、でんきタイプのポケモンは自家発電のために重宝されると聞いたことがあるが、その力を目の当たりにするとなかなか不思議な気持ちになる。

 

「ジョーイさん、フシギダネが痺れて苦しそうなんです……」

 

リカが今だ麻痺で苦しむフシギダネを抱きしめながら辛そうな顔でジョーイさんに懇願する。

 

「わかったわ。少し待ってて」

 

ジョーイさんが棚に手を入れると、何かを取り出してリカに手渡した。

 

「はい、『まひなおし』よ。これで痺れが取れるわ」

 

「ありがとうございます」

 

リカは手渡された『まひなおし』をフシギダネに与えると、フシギダネは麻痺が全快したようで気力が戻った顔になった。

 

「ダネ……」

 

「良かった、フシギダネ……」

 

リカは喜びでフシギダネを強く抱きしめた。

 

「けど、フシギダネはダメージが多いみたいね。しばらくボールの中で休ませてあげて」

 

確かに麻痺は治ったが、心なしか弱っているようにも見える。

アーボの『まきつく』のダメージが大きいようで、無理はさせられないな。

 

「はい、戻ってフシギダネ」

 

「私はセンターのポケモンたちをニビシティのポケモンセンターに転送するわ」

 

 

突如、シャッターから大きな音が鳴った。

そして、次第に毒ガスが漏れ始め、ついにはシャッターが壊れるとアーボが飛び出し、続いてドガースが部屋に侵入してきた。

ロケット団2人とニャースが現れる。

 

「隠れても無駄よ」

 

「覚悟するんだな」

 

向こうのポケモンだってそれなりにダメージを受けているはずだ。

完全にあっちが有利ってわけじゃない。

 

「ピカチュウ、まだやれるな」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウが元気に返事をすると、カスミが俺の傍まで来た。

 

「サトシ、今度は私も参加するわ」

 

「ああ、わかった」

 

次はカスミとのダッグだな。

 

「カスミ、お願い」

 

リカは自分の代わりに戦うカスミにエールを送る。

 

「任せて。さあ、泥棒さん。世界の美少女カスミちゃんの実力を見せてあげるわ。お願い、My Steady!」

 

「ヘアッ!」

 

カスミのボールからヒトデマンが飛び出す。

こっちは準備OK。バトル開始だ!

 

「ピカチュウ、『でんこうせっか』!」

 

ピカチュウは高速でアーボに突進する。

 

「今度はその鼠を痺れさせてやるわ。アーボ『へびにらみ』!」

 

アーボは鋭い眼でピカチュウを睨む――が、

 

「あ、あれ?」

 

ピカチュウは何事も無いように『でんこうせっか』をヒットさせ、アーボは飛んでいく。

 

「でんきタイプは麻痺にならないんだよ」

 

「ちょっとズルいわよ!」

 

「知らん!ピカチュウ『でんきショック』!」

 

「ピカチュウウウウウ!!!」

 

「シャボー!!?」

 

追撃の電撃が、アーボに放たれる。

よし、行ける。

 

そして、カスミのヒトデマンはドガースの相手をしていた。

 

「ドガース『たいあたり』だ!」

 

「ヒトデマン『こうそくスピン』!」

 

互いに体をぶつける攻撃をする。しかし、回転と持ち前のスピードで攻撃するヒトデマンの方が分があり、ドガースは力負けし吹き飛ぶ。

 

「おのれ、ならば『どくガス』だ!」

 

「ドガ~」

 

口から放出される毒ガス。

あれを浴びれば毒状態になる。どうするカスミ?

 

「ヒトデマン、もっと回って!」

 

「ヘアッ!」

 

毒ガスがヒトデマンに迫る。しかし、ヒトデマンはさらに回転スピードを上げる。すると回転によって発生した風圧が毒ガスを吹き飛ばす。

 

「なに!?」

 

「いいわよヒトデマン、『みずでっぽう』!」

 

水流によって吹き飛んだドガース。その先にはピカチュウとバトルしてるアーボがいる。

ドガースとアーボが激突した。

 

「今よサトシ!」

 

「ああ、ナイスだカスミ。ピカチュウ、2体まとめて『でんきショック』!」

 

「ピィカ、チュウウウウウウ!!!」

 

「シャボー!!」

 

「ドガー!!」

 

容赦のない電撃がアーボとドガースを襲う。ここまでのダメージなら戦闘不能は確実だろう。

 

「ああ、アーボ!?」

 

「ドガースッ!」

 

戦闘不能とまでは行かないが、2体はフラフラになり立っているのがやっとという感じだ。

次で決める。そう思った時、

 

「おみゃーら何を遊んでるにゃ」

 

喋るニャースが前に出た。

 

「まったく、おみゃーらはニャーがいないとダメだにゃ」

 

次はこのニャースがバトルするのか、と思っていると、ニャースはその手(前足?)に何かの機械を持っていた。そして、不適に笑う。

 

「覚悟するのにゃ。ロケット団の本当の恐ろしさを教えてやるのにゃ。あ、ポチッとにゃ」

 

地響きが鳴る。

 

すると、天井が破壊され、何かが出現した。

それはニャースだった。ただし、見上げるほど大きなニャース。

そしてそれは生き物ではなく見るからに機械、ロボットだった。

 

「な、なんだこれ……」

 

「これぞ、ニャーたちの秘密兵器。『ウルトラメカニャース』だにゃ!」

 

誇らしそうに胸を張るニャース。だが、俺は言わずにはいられない。

 

「おいこら猫ふざけんなよ!ポケモンバトルにロボットなんて卑怯だ!」

 

「そうよ、ちゃんと正々堂々とバトルしなさいよ!」

 

俺とカスミは抗議した。しかし、ニャースはそれを大笑いした。

 

「にゃははははは!ロケット団は悪の組織、卑怯はモットー、卑怯は褒め言葉なのにゃ!正々堂々なんて三下のやることにゃ。一流の悪にそんなものないにゃ!」

 

「ははは、さあ、お前の力を見せてやれスーパーメカニャース!」

 

「ウルトラメカニャースだにゃ」

 

「ロケット団の力を見せておやり、ロボニャース!」

 

「ウルトラメカニャースだにゃ!」

 

ロケット団がアホなやり取りをしている隙に攻撃だ。

あのロボットは何があるかわからない。

先手必勝で倒してしまわないといけない。

 

「一気に決めるぞカスミ!ピカチュウ、『でんきショック』!」

 

「ええ、わかってるわ!ヒトデマン、『みずでっぽう』!」

 

「ピィカ、チュウウウウ!!!」

 

「ヘアッ!」

 

電撃と水流がメカニャースに直撃する。しかし、メカニャースはビクともしない。

 

「くっ!」

 

「そんな!?」

 

「にゃははははは!!そんなショボい技じゃウルトラメカニャースはビクともしないにゃ。さあて、今度はこちらの番にゃ。ポチっとにゃ」

 

メカニャースがその大木のような腕を振り上げ、ヒトデマン目掛けてパンチを繰り出した。

大きなロボットの鋼鉄の拳はヒトデマンを容易く吹き飛ばした。

 

「ヘアッ!?」

 

「ヒトデマン!?」

 

想像よりもパワーがある。攻撃が来る前にスピードで攻める!

 

「ピカチュウ、『でんこうせっか』!」

 

「ピカ!」

 

猛スピードのピカチュウの『でんこうせっか』がメカニャースの腹部に決まる。しかし、

 

「効かないと言ってるにゃ、無駄無駄なのにゃ!」

 

メカニャースの装甲には大きなダメージにはなっていないようだ。

そして、ニャースが操作すると、メカニャースは腕を振るってピカチュウを薙ぎ払う。

 

「ピカ!?」

 

ピカチュウは地面に叩きつけられる。

 

「ピカチュウ!」

 

「いいことを教えてやるのにゃ。鼠は猫には勝てないのにゃ!!」

 

「いいぞー!」

 

「やっちゃいなさーい!」

 

メカニャースが倒れるピカチュウを踏みつけようとする。

この……やらせるかよ!!

 

「おおおおおっ!!!」

 

俺は駆け出していた。そして、右拳を振るい、メカニャースを殴りつけた。

 

「なに!?」

 

「嘘ぉ!?」

 

「ウルトラメカニャースが!?」

 

メカニャースは俺の拳で装甲が凹み、そのまま後退した

 

「そっちがポケモンバトルをする気がないなら、こっちもそれなりに対応させてもらう。こっからは俺が相手だ!!」

 

「な、なあ、あのメカニャースは結構軽いのか?」

 

「そんなはずないにゃ、かなりの重さのはずにゃ」

 

「じゃあ、なんであのジャリボーイのパンチで後退させられちゃうのよ?」

 

「ニャーが聞きたいのにゃー!!」

 

あちらさん驚いているようだな。このまま攻める。

 

「よっし、行くぜ――」

 

「シャーボ!」

 

「なっ!?」

 

再びメカニャースまで駆けようとした瞬間、アーボが俺の腕に巻きついてきた。

ダメージが大きくて動けなかったはずなのになぜ!?

 

「ははは!ここはポケモンセンター。ポケモンを元気にする薬はたんまりあるんだよ!」

 

そう言うコジローの傍らには元気になったドガースがいた。

こいつら薬をくすねていたのか!

 

「あんまおいたするんじゃないわよジャリボーイ。アーボ、そのまま『どくばり』!」

 

「シャー!!」

 

腕に巻きついたアーボは口から無数の毒針を発射する。回避できない俺は反射的に空いている左腕でガードする。

 

「ぐううううっ!」

 

針の痛みが左腕を襲う。

 

「「サトシ!?」」

 

「ピカピー!?」

 

まず怠さが全身を襲い、俺は膝をついた。

そして体が熱くなり、痛みがあちこちに走って来る。

ピカチュウはこんな苦しみを感じていたんだな。

 

モモンの実はさっきピカチュウに食べさせたのが最後だし、参ったな……

 

荒い呼吸をして動けないでいる俺にロケット団が迫る。

 

「さあ、ジャリボーイ。私たちロケット団を舐めたツケを払ってもらうわ」

 

「大人の怖さを教えてやるぜ」

 

「やるのはニャーだけどにゃ」

 

朦朧とする頭で大ピンチであることを自覚したその時だ。

ふと、何かの低い音がした。

 

すると、ピカチュウが俺の足元で何かを言っていた。

 

「ピカピー!ピカピカチュピカピカピカチュウ!」

 

ピカチュウが何か俺に伝えようとしている。

そして、ピカチュウは天井を指差した。

俺はその意味を理解してしまった。

 

「……まさか、お前……」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウの顔は真剣そのものだ。

だから俺はトレーナーとしてピカチュウに応えなければならない。

 

「わかった」

 

ピカチュウは走り出した。俺もフラつきながら走り出す。

 

「逃がさないにゃ、行くのにゃウルトラメカニャース!!」

 

クソ、追いつかれる!

 

「サトシ!」

 

「おっとぉ!ここから先は毒ガスフィールドだぜ〜」

 

「ドガ〜ス」

 

俺を助けようとしたカスミはコジロウとドガースに阻まれる。

リカ、カスミ、ジョーイさん。俺は大丈夫だから、そのままそこにいてくれ。

 

「「「「「ピカピカチュウチュウピカチュウチュウピカピカチュウチュウピカチュウチュウ!!!!」」」」」

 

「な、なんだ!?」

 

「ピカチュウがいっぱいよ!?」

 

「にゃんにゃこいつらは!?」

 

センターの自家発電を担当していたピカチュウたちがロケット団の前に立ちふさがる。

このピカチュウたちは俺たちを助けてくれてるのか?

 

「ピカチュ!」

 

ピカチュウたちの内の1体がこちらを振り向いた。

「早く行け」ということか。

彼等も俺のピカチュウの意図を理解してくれているのか。

 

「ありがとう!」

 

俺はお礼を言うと、そのまま走り出した。

 

 

***

 

 

発電ピカチュウたちは、センターを襲った悪党を見据え、構えた。

 

「「「「「ピカピカ、ピカー、チュウウウウウ!!!!」」」」」

 

ピカチュウたちは帯電したかと思うと、全員で『でんきショック』を放った。

たくさんのピカチュウの電撃は大きな塊となり、メカニャースを襲う。

 

しかし、その電撃はメカニャースの動きを少し止めただけで大きなダメージを与えてない。

ピカチュウたちは今まで発電に力を注いでいたから大きな力は残っていなかった。

発電だけでかなりの疲労が溜まっていたが、センターを守ろうとしてくれたサトシたちを守るために協力しようとしているのだ。

 

限界が来たのか、ピカチュウたちの電撃の放射は終わり、彼等は肩で息をしていた。

 

「鬱陶しいにゃ……邪魔するんじゃ、ないにゃー!!!」

 

薙ぎ払われるピカチュウたちはそのまま倒れる。

ロケット団はメカニャースを先頭にサトシたちを追いかけて行った。

 

それでもピカチュウたちは立ち上がる。

勝つ可能性のあるサトシたちを信じて。

 

 

***

 

 

俺とピカチュウはポケモンセンターの外に出た。

毒が回って来ているのか、思ったよりも体が動かせない。

フラつきながら歩いているうちに、膝をついてしまった。

ピカチュウが心配そうに俺を見上げる。

 

「ピカピ!」

 

「ああ……ピカチュウ、平気だ……少し、キツイだけだか、ら……」

 

すると、後ろから複数の足音がした。

もちろんロケット団とメカニャースだ。

連中はあざ笑うように俺を見ていた。

 

「ジャリボーイ、あんたの魂胆はわかってるわよ」

 

「今日の天気は雨、外にメカニャースを出してずぶ濡れにすれば動けなくなるって思ったんだろ?だが、残念ながら、雨はぜ〜んぜん降ってなかったな〜」

 

「にゃはははは。雨が降っててもメカニャースは濡れただけでは何ともないのにゃ。つまり、おミャーのやったことは結局無駄だったのにゃ!」

 

「勘違いすんなよ。雨は必要ない。曇りで十分だよ」

 

「「「は?」」」

 

3人とも俺の言葉を理解できないというポカンとした顔をしていた。

 

「訳が分からないにゃ。大人しくやられるのにゃ!」

 

ニャースがリモコンを操作すると、メカニャースが再び動き出す。

 

「ピカチュウ、躱し続けるんだ!」

 

メカニャースの巨体をピカチュウは持前のスピードで回避し続ける。

やはりスピード勝負ならピカチュウに軍配があるようだ。

 

そうして躱している内に、俺たちとロケット団に位置がいつの間にか逆になっていた。

今、俺の後ろにセンターがある。

 

「しつこいわね!」

 

「いい加減やられろよ!」

 

口々に文句を言うがもちろん聞くつもりはない。

 

「「サトシ!」」

 

建物からリカとカスミ、そしてジョーイさんが出てきた。

あの様子だと、ポケモンは全部転送できたみたいだな。

 

そして、またあの音がした。

そろそろだな……

 

「ピカピ!」

 

「行けるかピカチュウ?」

 

「ピカ!」

 

作戦を実行しようと構えた時だ。

 

「「「「「ピカピカチュウピカチュウピカピカチュウ!!!!!」」」」」

 

俺たちを逃してくれたセンターのピカチュウが俺たちの前に現れた。

みんなボロボロだった。

 

「お前たちは……」

 

「「「「「ピカピカチュウ!!!!!」」」」」

 

その強い目を見て、彼等の意思が伝わってきた。

 

「……手伝って、くれるのか?」

 

「「「「「ピカッ!!!!!」」」」」

 

ピカチュウたちは強く頷いた。

 

「……ありがとう」

 

「なによなによ、なにする気よ?」

 

「どうせつまんない足掻きだろ。たくさんのピカチュウとダンスでもしてればいいのにな」

 

「ニャーは猫らしく、鼠どもを1匹1匹弄んでやろうかにゃ」

 

音が鳴った。そして、空を見上げると、雲がところどころ光っていた。

 

 

 

雲の中では静電気が発生する。その静電気は次第に雲に蓄積され、その雲は帯電していく。

そして、その溜まった大きな電気は、いつしか地表へと落ちる。

 

雷となってーー

 

強烈な光が雲から発生した。

 

「ピカチュウ、今だ!!」

 

「ピカピカー!!」

 

「「「「「ピカピカチュウ!!!」」」」」

 

雷はピカチュウたちへと落ちていった。

凄まじい光が当たりを包み込み、雷の勢いは地面の砂埃を巻き上げる。

この場にいる皆は反射的に顔を腕で守る。

 

「な、なんだ?」

 

「かんだ?」

 

「にゃんだ?」

 

 

激しい光が収まり、砂埃が晴れると、そこには元気なピカチュウがいた。

 

「へへへ……大成功……だな」

 

「ピカチュ!!」

 

「「「「「ピカチュウ!!」」」」」

 

俺のピカチュウは小さな両腕を握りこむと、頬が帯電した。それは今まで以上の電気を帯びていた。

 

周りのピカチュウたちは疲れ果てたように次々と倒れてしまった。

ピカチュウたち、本当にありがとう……

 

「な、なにが?」

 

「避雷針、だよ」

 

リカの疑問の声に俺は答える。

雷は落ちたのではなく、ピカチュウたちに吸い寄せられたんだ。

 

「まさか、自然の雷を引き寄せるなんて……」

 

ジョーイさんが驚きの声を上げた。

 

そう、でんきタイプのポケモンは電気を引き寄せる避雷針になることができる。さっきから雷の音が鳴ってたからな。その雷を上手く利用してピカチュウの力に出来ないかと思っていたが、上手く行ったな。センターのピカチュウたちも協力してくれたお陰でより確実に雷を引き寄せることができた。

 

「ピィカァ……!」

 

ピカチュウは頬だけだった帯電を全身で行なっていた。まるで溜まった力を放出したくてうずうずしているかのようだ。

 

「あ、あれー?なんかさっきよりたくましくなってなーい?」

 

「電気ビリビリで元気ビンビンなのー?」

 

「狼狽えるにゃ!なにをしようと関係ないのにゃ。言ったはずにゃ。鼠は猫には勝てないのにゃー!!」

 

ニャースが操作し迫りくるメカニャース。

しかし、俺の思考は冷静だった。

目の前の巨大な鉄の塊がまったく脅威に感じない。

 

俺は図鑑を確認し、俺のピカチュウのデータを確認し、ほくそ笑んだ。

ああ、ここまで上手くいくなんてな。

俺はフラつく体に力を入れて、両脚に力を込めて大地を踏みしめる。

そして、目の前の相手を見据え、大きく息を吸う。

 

「ピカチュウ……『10まんボルト』!!」

 

「ピィカ……チュウウウウウウウ!!!!!」

 

ピカチュウの全身から暴力的な電撃が放たれる。

その電撃は暴龍がのたうち獲物を目掛けて飛んでいくようにも見えた。

圧倒的な破壊の電撃がメカニャースを襲う。

 

「にゃあっ!?メカニャースが!?」

 

メカニャースは『10まんボルト』をまともに受け、電撃に包まれた巨体は動きを止めた。

そして、破壊の電撃はメカニャースを通過して、後ろのロケット団にも襲いかかった。

 

「あにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!?」

 

「「あばばばばばばば!?」」

 

そして、メカニャースに異変が起こった。ガタガタと動き、煙を体中から放出したかと思うと、ピーッピーッと音を出しメカニャースは爆発を起こした。そして、轟音と共に強風が巻き起こる。

 

「メカニャースが……」

 

「いいとこまで行ったのにー!」

 

「ちっくしょー覚えてろー!」

 

「「「やな感じー」」」

 

ロケット団は捨て台詞を叫んでどこかへ飛んで行ってしまった。

勝ったんだな……

 

「やったなピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

「ああ、ほんとに、よか……た……」

 

全身の力が抜けてきた。

もう意識が……

 

「ピカピ!?」

 

「「サトシ!!」」

 

そのまま俺の意識は暗転した。

 

 

***

 

 

目を覚ますと見知らぬ天井だった。

 

「あれ……ここは……」

 

俺は真っ白はベッドで眠っていたようだ。

そっか、病院か。

ふと、横を見るとそこには相棒が眠っていた。

 

「ピカチュウ……」

 

そして、目線を動かすと、俺の足のある場所には仲間が眠っていた。

 

「リカ……カスミ……」

 

これ、かなり心配かけたよな。

毒で死にかけたしな……

 

無茶はしないって言ったばかりなのにな……

 

「……ピカピ?」

 

ピカチュウが起きた。

 

「ピカチュウ、おはよう」

 

「ピカピ、ピカチュウ」

 

ピカチュウは不安げに俺を見上げていた。

 

「心配かけてごめんな」

 

俺はピカチュウの頭を撫でる。

すると、ピカチュウは俺の胸に飛び込み、頬ずりをした。

 

「ピカチュ……」

 

俺はピカチュウの背中を撫でる。

 

「本当にごめんな、ピカチュウ……」

 

「チャー」

 

ピカチュウは優しく返事をしてくれた。

 

「起きたみたいね。おはよう」

 

顔を上げると、そこにはジョーイさんがいた。

 

「おはようございます」

 

「幸い、どこにも異常は無いみたい。すぐに退院できるわ」

 

「そうですか、お世話をかけて申し訳ないです」

 

ジョーイさんは微笑み、「それから」と言葉を続けた。

 

「サトシ君。ポケモンセンターを守ってくれてありがとう。責任者としてあなたにお礼を言うわ。本当にありがとう」

 

そう言い頭を下げるジョーイさん。

 

「いえ、成り行きなんで」

 

「謙遜しないで。あなたのお陰でセンターのポケモンたちはみんな無事だわ」

 

優しい顔で微笑んでくれるジョーイさん。

しかし、次の瞬間、引き締めた顔で俺を見た。

 

「ただ、ポケモンの医師として、あなたの行動には少し注意したいことがあるわ」

 

「ピカチュウを雷でパワーアップさせたことですね」

 

「ええ、そうよ。あれは危険な行為だったわ。自然の雷はエネルギーが大きすぎるのよ。小型のピカチュウは自身の電圧を上げる前に電気を取り込み切れずに脳や電気発生の器官に異常が出る可能性だってあったわ……最悪の場合、本当に取り返しのつかないことにも……」

 

「……はい、軽率でした」

 

俺はジョーイさんの指摘に頭を下げたすると、ピカチュウは俺とジョーイさんに割って入った。

 

「ピカ!ピカピカピカチュウ!」

 

ピカチュウはジョーイさんに全身で身振り手振りをし、必死に何かを訴えていた。

 

「……そう、あなたが望んでしたことなのね。だけど、危険性の高い行動には違いないの」

 

ジョーイさんがそう言うとピカチュウは耳を垂らさせる。

 

話を続けるジョーイさん。けれど、彼女は最初のように笑っていた。

 

「あなたもピカチュウも無茶が目立つわ。けど、互いが互いを思いやるからこそそうやって無茶をするんだと思う。あなたたちは良いコンビなのかもね」

 

「へへ……」

 

「ピカ……」

 

不意にジョーイさんは俺の右手を両手で掴んで、見つめてきた。そんなことされるとドキドキしますよ。

 

「けど、もう危険なことはしないようにね」

 

真摯な目でそうお願いしてきた。

俺は、

 

「約束……できないかもです」

 

「ピカ」

 

「もうっ!」

 

ごめんなさい嘘はつけません。

俺の答えに不満げなジョーイさん、しかし、おかしそうに笑っていた。

 

「んっ……」

 

「ふぁ……」

 

可愛らしい声がしたと思ったら、リカとカスミが起きた。

 

「「……サトシ?」」

 

「お、おはよう……」

 

寝ぼけ眼で俺を見上げる2人。

 

「「サトシ!!」」

 

「うおっ!?」

 

リカとカスミは勢いよく抱きついてきた。

 

「良かった……元気になって良かったよ〜!」

 

「このバカ!あれだけ言ったのに無茶して、ホントバカ!」

 

そう言う2人は泣いて、震えていた。

柔らかさを堪能する暇も無い。

俺はこの娘たちを悲しませてしまった。

 

「……リカ、カスミ……ごめんな」

 

ただそう謝罪するしか俺にはできなかった。

 

 

***

 

 

俺の体の毒も綺麗さっぱり無くなり、異常はどこにも無いため退院が許された。

俺たちは病院の外でジョーイさんに見送られていた。

 

「サトシ君、リカちゃん、カスミちゃん。ポケモンセンターを守ってくれてありがとうございます。トキワシティを代表して感謝いたします」

 

丁寧なお辞儀をするジョーイさん。

改めてお礼を言われると照れるな、成り行きだし、自分たちの身を守る意味もあったしな。

するとジョーイさんは「でもね」と続けた。

 

「サトシ君はポケモンのためなら危険でも構わず動く子だわ。言ってもたぶん聞かないと思うから。リカちゃんとカスミちゃんがサトシ君を支えてあげてね」

 

さっきまで泣いていた2人にジョーイさんがお願いした。

 

「はい、任せてください!」

 

「一緒に旅をするから監視をしっかりするって決めてますから」

 

「それなら安心ね」

 

ははは……俺が危なっかしい人間なのは確定事項ですか。否定はできないけど……

 

「サトシ君、リカちゃん、カスミちゃん。あなたたちの旅の無事を祈ってます。他のポケモンセンターには私の姉妹や従姉妹たちがいるから。会ったらよろしくね」

 

「「「はい」」」

 

 

そうしてトキワシティの出口まで歩いて行く。

 

「いや〜、まさか旅の初日を病院で一晩明かすことになるなんてな」

 

「あんたが無茶なことしたからでしょ」

 

「もう危ないことダメだよ」

 

はいごめんなさい。反省してます、本当です。

 

「よっしゃ、次の町はニビシティ。出発だー!」

 

「「誤魔化さない!」」

 

「……はい」

 

心配させすぎたよな。ママから「変なことするな」と注意されたけど、悲しませるのもいけないよな。

けど、また似たようなことが起こって何もしない自信ないな……

 

不意に、両手が何かに掴まれる。

 

「んっ?」

 

前を歩いていたリカとカスミがそれぞれ俺の手を片方ずつ掴んでいたのだ。

細くてすべすべした2人の手が触れるのは胸がときめくが……

 

「こ、これも監視のためよ」

 

「危ないサトシ君はこうして捕まえておかないとね」

 

左様ですか。

すると、俺の腰のボールが開いてピカチュウが出てきて、俺の肩に乗った。

 

「ピカピ!」

 

「あら、ピカチュウも危なっかしいサトシを見張りたいのね」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウまで、俺を監視ですか……

 

昨日のことで俺の信用は無くなったな。いや、こうして俺と旅をしてくれてるのは信用が有るからなのか、どっちなんだろうな。

 

「「行こう!!」」

 

リカとカスミは俺の手を掴んだまま駆け出した。

女子2人に引かれながら、俺たちの旅は再開した。




アニメ第2話はどうにか1つにまとめることができました。
アニメよりも早いですが、ピカチュウが『10まんボルト』を覚えました。雷吸収からパワーアップはどうしても書きたかったです。

ただ、理屈は無茶苦茶だと思いますが、どうかご容赦ください。

捏造設定

①ポケモン図鑑の写真機能
無印ですが、図鑑にも写真機能を付けました。

②ウルトラメカニャース
ロケット団はロボットをよく使うので、今回の最初の戦いでも強敵として登場させました。
ここのサトシとピカチュウは原作よりも強いので、今後の敵も強くなると思います。

③ピカチュウの雷吸収
このピカチュウの特性は原作と同じく「せいでんき」です。
特性が「ひらいしん」や「ちくでん」がは無いでんきタイプも電気を吸収してパワーアップ出来るのではと思いました。アニメでもそうでない特性のポケモンがパワーアップしてる描写がありましたから。

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