サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題)   作:エキバン

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お待たせして本当に申し訳ないです。
毎日少しずつでいいから書くべきだということが身に沁みました。書かないと上手にならないんですよね。
今回は前後編に分けました。

活動報告でご意見募集をしております。
ご一読いただければ幸いです。


いざ行かん、トキワの森 前編

トキワシティから出るとその先には森へ続く大きな道がある。

 

そこにはポケモンの探索やポケモンバトルをするトレーナーたちがいた。

そして、俺の目の前にはバトルを挑んできた同年代の少年がいる。

 

彼の使うポケモンは小柄だが屈強な体を持つ格闘ポケモンのワンリキーだ。

 

ワンリキーの『からてチョップ』を素早く回避する。スピードならピカチュウの方が上、そして、遠距離で使える技もある。

 

「ピカチュウ、『10まんボルト』!」

 

ピカチュウが全身を帯電させる。全身に力を込めたとき、ピカチュウが少しフラつく。しかし、ピカチュウは構わず『10まんボルト』を発射した。

高速で迫る電撃がワンリキーを襲う。

眩い閃光はワンリキーの強靭な体を包み込み、大きなダメージを与える。

光が晴れると、ワンリキーはそのまま倒れ、動かなくなる。

 

「ワンリキー戦闘不能、ピカチュウの勝ち。勝者、マサラタウンのサトシ!」

 

審判を務めてくれたお兄さんの宣告でバトルが終わる。

 

「やったぜピカチュウ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

対戦相手の少年と握手を交わし、審判のお兄さんにお礼を言うと、カスミとリカが待っているベンチまで戻った。

 

「勝ってきたぜ」

 

「お疲れ様」

 

「絶好調でよかったじゃない」

 

報告すると、リカとカスミが労いの言葉をくれた。

 

ピカチュウを見るとお疲れのようだった。

 

「大丈夫なの? ピカチュウ?」

 

「連戦で疲れてるね」

 

お疲れピカチュウをこのままにしておくわけにはいかない。

どうすれば……

 

「うーむ……そうだ!」

 

「「?」」

 

「ピ?」

 

疑問に思う3人に構わず、俺はピカチュウを抱き上げるとリカとカスミが開けてくれたベンチの間のスペースに座り、ピカチュウを膝の上に乗せた。

 

疲れ気味のピカチュウを膝の上に乗せてマッサージをしてあげる。

 

「どうだピカチュウ?」

 

「チャ〜」

 

ピカチュウは気持ち良さそうに目を閉じて身を捩る。

可愛いな〜ピカチュウ。毛並みもふわふわでマッサージしてるこっちも気持ち良くなってくるな。

 

「「いいなぁ……」」

 

左右から同時に聞こえた呟き。そっか、そういうことか。

 

「それなら2人もどうだ?」

 

「「へっ!?」」

 

リカとカスミは何故か顔を真っ赤にして素っ頓狂な声をあげた。

 

「な、ななな、何言ってんのよサトシ!? わ、私たちべつにそういう関係じゃ……」

 

「そうだよ! ま、まだ早いよ! も、もっと順序が……」

 

慌てた様子で両手で自分の肩を抱く2人。

順序? よくわからんが、そんなもん気にしなくていいだろ。

 

「いいよ、2人とも仲間だしな。遠慮すんなよ」

 

「あ、あああんた……本当に?」

 

「あわわわ……」

 

さらに赤みが増した2人は口をパクパクと動かした。

どういう反応かよくわからんが可愛いです。

 

「どっちからにする?」

 

「「ええと……」」

 

2人は互いに見つめ合うと無言になる。

するとカスミが先に口を開いた。

 

「わ、私は後でいいわよ。リカ、どうぞ」

 

「え、でも……」

 

「いいの。リカの方がサトシと付き合いが長いんだし、後から出た私は後回し。ここはリカが先にすべきよ」

 

カスミは優しいくもどこか儚い微笑みでリカに向けた。

リカは俯くと膝の上に乗せた両手をキュッと強く握った。そして、顔を上げるとその顔は決意を秘めたもので、カスミに応えるように嬉しそうな笑顔を向けた。

 

「……カスミ、ありがとう」

 

カスミは頷いた。

話は決まったな。

 

「じゃあ、リカからだな」

 

「う、うん……や、優しく、お願いします」

 

少し恥ずかしそうにもじもじとしだしたリカ。

うん?よくわからないが。

 

「はい、頼んだ」

 

俺は抱き上げたピカチュウをリカに渡す。

 

「「はへ?」」

 

「マッサージよろしくな」

 

リカとカスミもピカチュウをマッサージしたいんだよな。この気持ち良さを独占してはいけないよな。

 

「え、あ、えと……うん……」

 

「こいつ鈍感……私ったらバカみたい……」

 

リカが乾いた笑いとハイライトの消えた目でピカチュウを受け取り、カスミは片手で頭を押さえるとため息をついた。

カスミは頭痛でもあるのか?

 

リカは無表情でピカチュウを撫でていたが、ピカチュウが気持ちよさそうに反応すると、次第に目のハイライトが戻り、楽しそうに両手を動かした。

 

「どうだピカチュウ、リカのマッサージは気持ちいいか?」

 

「チャ〜」

 

ピカチュウはゴロゴロとリカの手にされるがままだ

 

「うふふ、ピカチュウったら可愛い」

 

「ダネ〜」

 

フシギダネが自分からボールを飛び出してリカの足元で頭をスリスリと擦りつけていた。

 

「フシギダネもマッサージしてほしいみたいだな」

 

「それじゃあ、カスミと交代だね。はい、どうぞ」

 

リカがピカチュウをカスミに手渡すと、フシギダネがリカの膝の上にピョンと飛び乗った。

 

「うん、ありがとう」

 

ピカチュウを受け取ったカスミはそのまま膝の上に乗せると撫で始める。

ぐぬぬ……リカはスカートだったが、カスミは生の太ももだ。羨ましいぞピカチュウ。

 

「あはは……フカフカね。ピカチュウ」

 

「ピー」

 

「フシギダネ、気持ちいい?」

 

「ダネダネ〜」

 

小動物と戯れる美少女たち、良いね〜。

 

するとリカは思い出したように俺に話しかけてきた。

 

「やっぱりサトシとピカチュウはすごいよ。さっきのバトルで今日は5連勝だよ」

 

リカは俺の戦績を自分のことのように喜んで褒めてくれた。

そんなに言われると照れるな。

 

「ああ、俺はピカチュウとどこまでだって強くなるからな」

 

「ピカ!」

 

そこでふと、先ほどのピカチュウのバトルを思い返す。特に大きなダメージを受けたわけではないのに、疲労が溜まっていたピカチュウのことを考え、あることが頭に浮かんだ。

 

「どうしたのサトシ?」

 

「ああ、ピカチュウなんだが、電撃の扱いが少々難しくなっている気がしてな」

 

「ええ?さっきのバトルはすごかったよ」

 

「そうよ。それに昨日の雷で『10まんボルト』を覚えて強くなったんじゃないの?」

 

「確かにピカチュウの電気は強くなった。けど、強くなった分、ピカチュウの体の負担も大きくなったみたいなんだ」

 

「どういうこと?」

 

「ピカチュウは常に全力でバトルしている。でんき技を撃つときも最大パワーで攻撃しているみたいなんだ」

 

「えと、つまり……」

 

「このままだとピカチュウの体に悪いってことね」

 

その通り。トレーナーとしてピカチュウの体のことを考え、教えてあげなくてはならない。

俺はカスミの膝に座るピカチュウに話しかける。

 

「なあ、ピカチュウ。一生懸命に全力でバトルすることは良いことだと思う。けど、自分の体力や技の強さを把握しておかないと、すぐに疲れて戦えなくなる」

 

「ピカ」

 

「それに今のピカチュウは電気の力が大幅に上がっている。もし自分よりも、その……力も体力もずっと下の相手とバトルするときも全力を出しすぎたら相手に大怪我をさせてしまうかもしれない」

 

「ピ……」

 

ピカチュウは考え込むような表情になる。

 

「そうならないためにも、自分の力のコントロールは必要なんだ。これはお前がもっとすごいポケモンになるための手段でもあるんだ」

 

「ピカ!」

 

わかってくれたようで、ピカチュウは笑顔で俺の言葉に頷いた。

 

「よし、それじゃあこれからは力をコントロールする特訓だ」

 

ひとまず先に進むために俺たちはトキワの森を目指すことにした。

 

「あ、見て見てサトシ!」

 

リカの声に彼女の指差した方を向くとそこに2体のポケモンがいた。

 

「お、あれは……」

 

「ニド」

 

「ニン」

 

ニドラン♂とニドラン♀、2体は草むらで仲良くきのみを食べていた。

 

「ニドランじゃない、オスとメスが揃ってるなんて珍しいわね」

 

「可愛い〜、ゲットしたいな〜」

 

カスミが感心し、リカが弾んだ声を出す。

そろそろ新しい仲間も欲しいと思ってたからちょうどいいな。

 

「よっし、ゲットしようぜ!」

 

カスミは水タイプ以外はパスのようで、俺たちから一歩下がった。

そのため、俺とリカがそれぞれゲットすることになる。

 

「サトシはどっちがいい?」

 

「俺はそうだな〜……オスにしようかな」

 

男がオス、女がメスという単純な理由だけどな。

 

「じゃあ、私はメスだね」

 

話が決まったため、俺とリカはニドランたちの元まで近づいた。

するとニドランたちは俺たちに気づき、真剣な目つきになり、両脚で大地を強く踏みしめ構えた。

 

「ニド!」

 

「ニン!」

 

向こうさんはやる気みたいだな!

 

「ピカチュウ、君に決めた!」

 

「お願い、フシギダネ!」

 

俺とリカはモンスターボールから相棒を出す。

 

ピカチュウvsニドラン♂。

フシギダネvsニドラン♀。

ある種のダブルバトルが始まる。

 

「さあ、ニドラン、愛しのあの娘に良いところを見せてみろ!ピカチュウ、『でんこうせっか』!」

 

ニドラン♂は右に跳ぶことで『でんこうせっか』を回避する。

 

ニドラン♂がピカチュウに向かって突進してきた。しかも、頭についてる角を向けた突進。これは『つのでつく』だ。

 

「ピカチュウ『10まんボルト』!」

 

「ピィカァ……」

 

ピカチュウは全身に力を込めて帯電する。

そこでふと先ほどピカチュウに話した電気のコントロールについて思い出した。

 

「あ、ピカチュウ、威力を――」

 

「チュウウウウ!!」

 

そう言ったときには遅かった。ピカチュウの全力の『10まんボルト』がニドラン♂まで走る。

 

「ニド!?」

 

強力な電撃が直撃したニドラン♂はそのまま倒れる。

 

「ニィ……ド!」

 

ニドラン♂は四つの脚を踏みしめ立ち上がった。

その眼はまだまだ闘争心でギラギラとしていた。

 

「やるな……」

 

ピカチュウの全力の『10まんボルト』を受けてまだ立ち上がるなんて、こいつはかなり強いニドランみたいだな。

 

「ニドォ!」

 

ニドラン♂は再び疾走しピカチュウに『つのでつく』を仕掛ける。

 

「ピカチュウ。今度は力のコントロールに気を付けるんだ。『10まんボルト』!」

 

「ピカ、チュウウウ!!」

 

先ほどよりも細くなった電撃がニドラン♂に襲いかかる、しかし、ニドラン♂は電撃を走りながら回避する。ピカチュウが『10まんボルト』を放つ度に右に左に跳んで躱す。

想像以上の素早さだな。

 

「ニィドォ!!」

 

するとニドラン♂は跳躍し、後ろ脚で蹴りを放ってきた。あれは『にどげり』か!

 

「それならピカチュウ、そのまま引き付けろ!」

 

ピカチュウは四つ足で俺の指示に従いそのまま待つ。

俺はタイミングを見計らう。

 

「今だ、『しっぽをふる』!」

 

「ピカ……ピカ!」

 

ピカチュウは尻尾を振り回し、ニドラン♂の左脚を払う。一発目の蹴りが不発になったニドラン♂は驚きながらも右脚で二発目の蹴りを放つ。

しかし、ピカチュウは体を回転させ、尻尾を下から振り上げて二発目も払いのける。

 

ニドラン♂の攻撃を回避すると同時に『しっぽをふる』の効果でニドランの防御も下げることができた。一石二鳥の動き。

防御が下がったところに、撃つ!

 

「ピカチュウ、『でんこうせっか』!」

 

「ピッカァ!」

 

「ニドォ!?」

 

ニドラン♂にクリーンヒットする。

 

 

 

***

 

 

 

リカはフシギダネと共に野生のニドラン♀と相対していた。

このバトルは彼女にとって初めての野生のポケモンをゲットをするためのもので、いつもと違う緊張感があった。

それでも、隣でニドラン♂とバトルしているサトシに負けないように己を鼓舞し、フシギダネに指示を出す。

 

「フシギダネ、『つるのムチ』!」

 

「フッシャー!」

 

フシギダネは蔓を伸ばし、ニドラン♀を捕らえようとする。しかし、ニドラン♀は蔓を避けたかと思うと、その蔓の上を走りフシギダネに突進してきた。

 

「ニン! ニンニンニンニン!」

 

ニドラン♀は前脚を振り上げ『ひっかく』攻撃を繰り出す。

ニドラン♀の爪がフシギダネの額を捉える。

 

「ニンッ!」

 

「ダネッ!?」

 

思わぬ動きとダメージにフシギダネはわずかに怯む。

しかし、リカは冷静に対処していた。

 

「フシギダネ、『はっぱカッター』!」

 

「ダネェ!」

 

鋭い葉が連射され、そのうち何枚かがニドラン♀に当たる。

 

「ニン!?」

 

体勢が崩れたニドラン♀はすぐに立て直すと再びフシギダネに突進する。

そして、射程圏内に入ると蹴りを繰り出した。

ニドラン♂と同様の『にどげり』だ。

 

「ニンニン!」

 

「フシギダネ、『つるのムチ』!」

 

二本の蔓がニドラン♀を捕えようと襲い掛かる。

しかし、ニドラン♀の『にどげり』が二本の蔓を弾く。

再びニドラン♀はフシギダネに『ひっかく』を仕掛ける――

リカの狙いどおりに――

 

「フシギダネ、蔓を使ってジャンプ!」

 

フシギダネの蔓が地面に強く叩きつけられる。その反動でフシギダネは跳びあがり、ニドラン♀を飛び越えた。

 

「『やどりぎのタネ』!」

 

フシギダネの蕾から一粒の種が発射される。

それは落下速度も加わり、ニドラン♀が反応できないスピードになっていた。

種がニドラン♀に背中に当たると、それは芽を出しニドラン♀に絡まる。

『やどりぎのタネ』は対象のポケモンの体力を時間とともに奪う技だ。

ニドラン♀は動くのには問題ないが、少しずつ体力が奪われることで疲労が見えてきた。

 

 

 

***

 

 

 

ピカチュウもフシギダネも良い具合にバトルができているな。

2体のニドランはかなりのダメージが溜まっている。

ここがチャンスだ。

 

「リカ、行くぞ!」

 

「ええ!」

 

俺とリカは空のモンスターボールを取り出し、構える。

 

「行け――」

 

「行って――」

 

「「モンスターボール!!」」

 

俺とリカは同時にそれぞれボールを投げた。

そして、同時にニドラン♂とニドラン♀に当たると、ボールは開き光を現れる。

その光がニドラン♂とニドラン♀を覆ったかと思うと、それぞれのボールに吸い込まれた。

 

ボールの揺れが収まる。それはすなわち……

 

「よっしゃ!ニドラン、ゲットだぜ!」

 

「ピッピカチュー!」

 

「やった!ニドラン、ゲットよ!」

 

「ダネダネー!」

 

リカも初めてのゲットで文字通りに飛び跳ねながら喜んでいる。

ほほう、彼女の気持ちに呼応しているのか立派な双丘様もぷるんぷるん弾んでいらっしゃる。

スカート様も良い感じにめくれそうになっていますな~。

ありがとうございます。

 

「2人ともおめでとう」

 

後ろからカスミの声がかかる。

 

「へへへ、初ゲット上手くいったぜ!」

 

「新しい友達だよ!」

 

「そうよねぇ、新しいポケモンをゲットして友達になれたら嬉しいのよね」

 

ゲットの喜びに満ちていたが冷静になるとあることが頭に浮かぶ。

そのことをリカに話すと彼女もハッとなり、ボールを見つめると頷く。

それなら早速……

 

「出てこいニドラン」

 

「ニドラン出てきて」

 

「ニド?」

 

「ニン?」

 

「なあ、ニドラン。こうしてお前たちをゲットしたんだけどさ、お前たちは俺たちについて来てくれるか?」

 

ニドランたちが俺とリカを見上げて首をかしげる。

 

「どうしてもお前たちが野生で生きていきたいっていうなら、その気持ちを尊重したいんだ」

 

無理やり連れ回すようなことはしたくない。ポケモンは自由であるべきだと思うから。

 

ニドランたちは互いに顔を見合わせると、俺とリカに近寄った。

 

「ニドニド!」

 

「ニンニン!」

 

元気の良い声だった。

 

「私たちと旅をしてくれるの?」

 

2体はコクリと頷く。

俺たちを受け入れてくれたんだな。

 

俺とリカはそれぞれがゲットしたニドランを抱き上げる。

 

「これからよろしくな、ニドラン」

 

「これから楽しい旅をしようね、ニドラン」

 

「ニド!」

 

「ニン!」

 

新しい仲間を迎えて、俺たちはトキワの森を目指した。

 

 

 

***

 

 

 

トキワの森は木々が生い茂っているため日が高くても薄暗い。

そんな暗い場所には人間はあまり来たがらないため、自然豊かな場所は、多くの野生のポケモンにとって住みやすい場所なのだそうだ。

人が来ないと言ってもここはトキワシティとニビシティを行き来するには通らなければいけない場所でもあるため、人が通るための道は存在している。

 

俺は今、そんな人が通る道から外れた場所にいる。

目の前には緊張した面持ちで俺を見つめるカスミがいる。

俺がカスミに一歩近づくと、カスミは一歩下がる。そのままカスミを大きな木まで追い込んでいた。

 

「……なぁカスミ、やっぱりダメか?」

 

「だ、だめ……だめなのぉ……」

 

顔を逸らし、喘ぐようにカスミは言葉を紡ぐ。

 

「そんなこと言うなよ。ほら……」

 

「ダメよサトシ……わ、私ほんとにダメだから……」

 

 

 

 

「ほら、ビードル可愛いだろ?」

 

「む、虫はいやぁ……虫はダメなのぉ……」

 

カスミは俺がゲットした新しい仲間のビードルに慄いていた。

 

遡ること数十分前。トキワの森に入ってすぐ、しばらく自由行動として俺たち3人は別々に森の中を散策していた。

 

そこで俺はビードルをゲットした。

リカはキャタピーをゲットした。

カスミにゲットしたビードルとキャタピーを見せた途端、彼女は顔を真っ青にして震え上がった。

どうやらカスミは虫ポケモンが苦手のようだ。

 

「……リカは、怖くないの?」

 

同じ女の子のリカが平気でキャタピーに触れていることにカスミは驚いているようだ。

 

「うん、私は平気。可愛いもん」

 

リカは膝の上に乗るキャタピーを撫でながら答えた。

 

「そう、なのね……」

 

どこか自分を責めているようにも見える顔でカスミは俯いた。

 

「まあ、無理にとは言わないよ。けど、こいつらはいつでもカスミをウェルカムだぜ」

 

「ビー」

 

「キャタ」

 

可愛らしく小首をかしげながら、ビードルとキャタピーは鳴いた。

 

「……うん。できる限りやってみる……」

 

頑張って笑顔を作ったカスミはそう答えた。

 

 

 

***

 

 

 

俺たち3人は道なりにトキワの森を歩いている。

そんな俺たちの足元にはポケモンたちがいる。俺はピカチュウとニドラン♂を、リカはフシギダネとニドラン♀をボールから出して一緒に歩いている。

ビードルとキャタピーはゲットしたてて疲れていることと、カスミが怖がるためボールの中だ。

また、カスミの水ポケモンは陸地を長く歩くのには向いていないため彼らもボールの中だ。

 

「あれ? この感じ……」

 

「ピカ?」

 

ふと、ピリピリとした感覚を覚えた。

ピカチュウも何かを感じたようだ。

この近くに何かが、誰かがいる。

 

俺とピカチュウは感覚が強い方向を振り返る。

すると、そこにいたのは見慣れた2つの存在だった。

 

「え、ピカチュウ?」

 

「野生のピカチュウよ!」

 

振り返った草むらにいたのは、俺のピカチュウと同じくらいの大きさの2体のピカチュウだ。

トキワの森はピカチュウの生息地だったのか。

彼らはジッと観察するように俺たちを見ていた。

 

「ピーカー!」

 

その時、俺のピカチュウは野生のピカチュウたちの元まで走って行った。

同族に会えて嬉しいのだろう。

 

「ピカ!」

 

「チュー!」

 

2体のピカチュウは鋭い鳴き声をあげた。

その目もまた鋭く、俺のピカチュウに敵意を抱いているようだ。

 

「ピカ?」

 

「警戒、してるの?」

 

「そんな、同じピカチュウなのに……」

 

カスミとリカが驚きの声を出すと、そのまま2匹の野生のピカチュウは森の奥へと消えていった。

 

「ピ……」

 

ピカチュウは耳を垂らさせ落ち込んでいた。

せっかく仲間に会えたのに、あんな反応されたら辛いよな。俺はそんなピカチュウを撫でるくらいしかできなかった。

 

「仕方ないのかも。野生のポケモンって人間を警戒することが多いし、人間の匂いのついたポケモンだって例え同種族でも敵視することってよくあるのよ」

 

カスミは残念そうにつぶやく。

人間を警戒するポケモンが多いのは知っていたが、同じポケモンにまでそうだとはな……

 

「そんな……」

 

「大丈夫か?」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウは元気に振り返った。

けれど俺には彼が無理をして笑っているのがわかった。

そんなピカチュウを俺は抱き上げ、背中を撫でてあげる。

トレーナーの俺にできることがそれくらいなのが、なんとも情けなく思えた。

 

 

 

***

 

 

 

「もう真っ暗だよ」

 

昼にトキワの森に入ってから数時間後、日は落ちすっかり夜になってしまった

 

「今日はここで野宿だな」

 

「ええ〜そんな〜」

 

カスミが不満そうに答える。

 

「まあ、野宿も旅の醍醐味だぜ」

 

「そうだね。さ、準備しよう!」

 

リカは生まれて初めての野宿に結構ワクワクしていた。

自然に囲まれてポケモンや友達と一緒に夜をすごすのには前からあこがれていたのだ。

 

ちょうどいい大きさの切り株を見つけ、その近くに荷物を置いて座った。

 

「よし、それじゃあみんな出てこい!」

 

「出てきてー!」

 

リカとサトシはそれぞれ3つボールからポケモンたちを出すと、皆自由に動き回った。

フシギダネは近くに生えている花の匂いを嗅ぎ、ピカチュウはキャタピーとビードルと一緒に木の上に向かい、ニドラン♀とニドラン♂は一緒に遊んでいた。

すると、リカは歩き続けたことによる自分の脚への疲労を自覚した。

帽子を外して座り込むと、お昼にピカチュウにしてあげたように、自分の両脚を揉みこみほぐした。

しばらくするとカスミが話しかけてきた。

 

「そこの川で水浴びしましょう」

 

「うん、そうだね。汗かいちゃったし」

 

身体にこびりついた汗や汚れの不快感はどうしても流してしまいたいと思っていたところだった。

本当は熱いシャワーを浴びたいが贅沢は言えない。体を洗い流せる水があるだけで充分と思わなくてはいけない。

 

リカとカスミはタオルと替えの下着と寝間着を手に持つと近くの川に向かおうとする。

すると、カスミが振り返る。

 

「サトシー覗くんじゃな――」

 

「ぐおー、かー……ぐおー、かー……」

 

サトシは大きないびきをかいて爆睡していた。

 

「……寝ちゃったね」

 

「……なんか複雑な気分ね」

 

カスミの言葉通り、リカは自分の心に妙なモヤモヤを感じていた。

覗きはいけないことだ。しかし、サトシが自分にそんな「いけないこと」をしないというのは正しいことのはずなのに、なんとなく悔しい思いがあった。

 

 

川のほとりに来ると、リカとカスミは脱衣を始める。

 

裸になった2人は服と下着を綺麗に畳んで置くと、そのまま入水した。この辺りの川は汚れも無く澄んだ美しいものだ。

 

リカは身体を洗うカスミを見ていた。

 

(カスミ……やっぱり綺麗……)

 

全体的に細身でありながら、女性らしいふくよかさは見事で無駄の無いプロポーションだ。

胸は自分の方が大きいが、大きすぎる胸は不恰好なのではと思うときがある。

また自分たちよりも先に外の世界を知っているカスミはずっと大人に見えた。マサラタウンでチヤホヤされていた世間知らずの田舎者の自分が恥ずかしくなるほど、カスミは女性としての魅力に溢れていた。

 

(サトシは、ああいうオシャレな女の子の方が好きなのかな……)

 

サトシへの気持ちを自覚してから、リカは女性らしさというものをより強く意識するようになった。

サトシはどんな娘が好きなのか、自分はサトシが好ましいと思える女になのか。

不安と心にチクリとしたものを感じながら、リカは夜空を見る。

 

 

 

***

 

 

 

カスミは身体を洗いながらリカを見る。

 

(やっぱり、リカって物凄く可愛いのね)

 

自分もスタイルには自身はある。

胸も同年代の女子に比べて大きく、脚も自分で見せびらかしたくなるほどの美脚の自負がある。

 

それでも、リカは自分よりも可愛い女の子なのだと思う。

自分よりも大きな胸、別に胸の大きさが女の子の全てだと言うつもりはない。しかし、リカは胸だけでなく、キュッとくびれた腰、まだ美しい丸みのお尻、全てを合わせたリカの身体はまさに一つの芸術のように思えた。

 

(サトシは付き合いの長いリカの方が好き……なのかな)

 

カスミの知る同年代の男の子というのは、ガキばかりだ。うるさくてくだらないことで盛り上がって、そのくせちょっと言い負かしたら癇癪を起す情けない存在。そんな認識だった。

だから、カスミが好きなのは大人の男性。物静かで知的で何を言っても笑顔でいてくれる。そんな男性といつか素敵な出会いをして、素敵な時間を過ごしたい。そんな夢を見ていた。

 

サトシはカスミの理想の男性そのものかと言われればそうではない。

まず同い年、自分がガキだと思った同い年だ。それにむちゃくちゃ、ポケモンに生身で喧嘩を売ったり、怪我を顧みず動く。ある意味ガキよりもたちが悪いかもしれない。

 

けれど、彼の行動には一つの信念のようなものがある。

「ポケモンのため」。自分のであろうと他人のであろうと野生であろうと、彼はポケモンのために無茶をしている。

それに無茶をしながらも、彼は冷静に周りを見ている。ポケモンバトルにしても、自分のポケモンの得手不得手や相手のポケモンの性質をよく見てバトルをしている。

 

そんなことができるサトシは果たして自分が嫌う「ガキ」なのだろうか? 冷静な判断ができるのはまるで大人のようにも思えた。

 

ガキでもない、大人でもない、そんなどっちつかずでよくわからない男、カスミはサトシがよくわからない。

ただ一つ言えるのが、サトシが気になっているということだ。

 

そんな気になる男の子に可愛い幼馴染の女の子がいる。

そして自分はサトシにどう思われているのかわからない。

カスミの心は少しざわついた。

 

 

 

***

 

 

 

「カスミはサトシのことどう思ってるの?」

 

「は?」

 

水浴びを終えて着替えるとリカはカスミに尋ねた。

いきなりのことでカスミは素っ頓狂な声をあげた。

 

「いきなりごめん。けど、どうしても聞きたかった」

 

本当は「どうしてそんなことを聞くの?」と聞き返したかったが、質問を質問で返すのは失礼に思えた。

そして、リカの真剣な表情を見て、誤魔化さず真剣に答えたいと思った。

 

「……たぶん私は、サトシのことが気になってるんだと思う」

 

「……そうなんだ」

 

「リカはどうなの?」

 

「……私は……好き、サトシのことが大好き」

 

やっぱりか、という思いだった。

リカのサトシに向ける目線はとても熱がこもっていた。好意があるのは間違いないとは思っていた。

だとすれば、彼女にとって自分はきっと邪魔になるだろう

 

「私は、カスミがサトシのことが好きでいてくれて嬉しいな」

 

思わぬリカの言葉に、カスミは驚く。

 

「どうして? いきなり現れた女が自分と同じ人が好きなのって嫌でしょ?」

 

「ううん……なんていうか、好きになった人がたくさんの人に好かれてるのって嬉しい。それに……カスミなら一緒でもいいなって思えるの」

 

「リカ……」

 

その言葉はきっと嘘じゃない。リカの私を見る目はそう確信させるものだった。

 

「カスミこそ、私がサトシのことが好きなのは嫌じゃないの?」

 

「まったく思ってない……なんて言えないわね。だってこんなに可愛い娘がライバルなんだもの」

 

「もうっ! カスミったら!」

 

カスミの冗談めかした言葉に、リカはおかしそうに笑っていた。

 

「それでも、こういう関係も良いと思ってるのよね。リカのことも好きだから。大好きな人たちとの旅なんて、素敵じゃない」

 

そうだ。こうやって過ごすのも自分の求めていた時間なのかもしれない。

 

「カスミ……」

 

「だから、これからもあなたたちとずっと旅がしたい」

 

「うん、私も!」

 

ふときがつくと心の中のざわつきは無くなっていた。

目の前で笑うリカもきっとそうなのだろう。

 

「さて、戻りましょう。晩御飯の用意もしなくちゃだしね」

 

「そうだね。お腹空いちゃった」

 

2人とも軽い足取りで川をあとにした。

 

 

 

***

 

 

 

カスミは戻る前に川で自分の水ポケモンたちをしばらく遊ばせることにした。

ポケモンたちをボールから出してからキャンプまで戻るとサトシは相変わらず眠っていた。

カスミとリカは互いに顔を見合わせて苦笑いをした。

 

「サトシー起きなさーい」

 

「晩御飯食べるよー」

 

「むにゃ……もう食えねー……」

 

「……夢の中で晩御飯?」

 

「現実でも食べないとだよ、ほら!」

 

「それから水浴びもしてきなさい!」

 

2人で揺らしてサトシを起こす。

寝顔を見てドキドキしたのは、本当に彼のことが好きだからなんだなと少し頬が緩んだ。




サトシはニドラン♂とビードル、
リカはニドラン♀とキャタピーを仲間にしました。

誤字脱字、違和感のある表現、描写がありましたらご報告、アドバイスをお願いします。

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