サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題)   作:エキバン

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いよいよサトシとリカのジム戦です。


対決ニビジム サトシvsタケシ

ニビジムの扉を開けると、目の前に岩がたくさんある四角形のフィールドが見えた。

なるほど、いわタイプのポケモンジムらしく岩のフィールドというわけか。

 

「ようこそニビジムへ」

 

声をかけられた。

声の主はもちろん、このニビジムの主であるジムリーダーのタケシさんだ。

まずは時間ギリギリになってしまったことへの謝罪だ。

 

「どうもお待たせしまして申し訳ないです。ニビジムに挑戦しに来ました」

 

「いや、こちらこそ待たせたな、少年とお嬢さん。どちらから来るのかな?」

 

当然の疑問。

俺は前に出た。

 

「俺です」

 

「ふむ、もしかして君たちはジム戦は初めてかな?」

 

「ええ、そうですけど」

 

「ジム戦は野良試合とは大きく変わる。ルールがありそれを守らねばならない。そして、俺もジムリーダーとしてポケモンを育てているが、そのあたりのトレーナーとは違うと言っておこう」

 

タケシさんの言葉は昨日の時とは打って変わって重いものだ。

これはジムリーダーとしてトレーナーを試すためのプレッシャーの言葉なのだろう。

 

不思議と背筋がゾクリとした。

だが、こんなことで臆するわけにはいかない。

 

「もちろんです。そうじゃないと張り合いが無いですから!」

 

俺はタケシさんの目を見て強い口調で答えた。

 

「ほう、なかなか自信があるようだな」

 

タケシさんは立ち上がるとフィールドの前に立つ。

 

「たしか、君とお嬢さんはマサラタウンの出身だったな」

 

「ええ、そうですが」

 

「実は数日前にマサラタウンから来たトレーナーの挑戦を受けたんだ。2人の少年の挑戦をな」

 

2人の少年……まさか。

 

「もしかして、シゲルとナオキって名前の2人ですか?」

 

「うむ、あまりチャレンジャーの情報の公開はよろしくないが、同郷ならばいいだろう。そうだ。2人はそう名乗っていた」

 

顎に手を当ててタケシさんは続けた。

 

「最初に来たのはヒトカゲを連れた少年だ。ほのおタイプのヒトカゲは我がいわタイプのポケモンとの相性は悪い。にもかかわらず圧倒的な攻めに俺は敗北した。ヒトカゲの炎のようにその少年も燃え滾っていた」

 

ナオキか、あいつは宣言通り強くなってるんだな。

 

「次に来たのはゼニガメを連れた少年だ。いや、ゼニガメだけでなく、多くの女性を引き連れていた。みな美しい女性で彼女たちに応援されていたというのは本当に羨ましい……」

 

語っている内にタケシさんはどこか遠い目をして羨望を抱くような表情になっていった。

 

「あの、タケシさん?」

 

「ん、ああ、それは置いといて。みずタイプのゼニガメはさすがに相性が悪い。しかし、俺もジムリーダーとして相性の悪いポケモンの対策もしている。だが彼は計算されたバトルスタイルでこちらの対策を悉く打ち破った。完敗だったよ」

 

シゲル……ふざけているように見えてちゃんとトレーナーとして勉強しているんだな。

というか応援団の女の子連れてジム戦してるのかあいつは。

 

「とにかく、前に訪れたマサラタウンのトレーナーは強かったということだ。君はどうだ? 俺を驚かせるトレーナーなのか?」

 

「それは……バトルで見極めてください」

 

俺の答えにタケシさんは口角をわずかに上げて呟いた。

 

「……ふ、違いないな」

 

すると、奥からタケシに似た少年が現れる。

身長がタケシより低いだけで顔も髪型もそっくりだな。

 

「俺の弟だ。今回は審判を務める。誓って言うが身内贔屓をした判定はしないから安心してくれ」

 

「わかりました」

 

ジムリーダーがそんな卑怯なことしたら信用はガタ落ちだし、タケシさんの人柄からそんなことを許すとは思えないからな。

 

俺とタケシさんがバトルフィールドの前で構えるとタケシさんの弟がルール説明を開始する。

 

「使用ポケモンは2体、すべてのポケモンが戦闘不能になった方が負け、交代はチャレンジャーのみが認められます」

 

初のジム戦、まだワクワクが止まらない。

行くぞみんな! 勝ってバッジをゲットだぜ!

 

 

 

***

 

 

 

「バトル、開始!」

 

「行け、イシツブテ!」

 

「ニドラン、君に決めた!」

 

「ラッシャイ!」

 

「ニド!」

 

サトシはニドランを出し、タケシは大きな岩にゴツい顔、2本の腕が生えたポケモン、イシツブテを出した。

 

「イシツブテ、『いわおとし』だ!」

 

「躱しながら進め!」

 

「ラッシャイ!」

 

「ニドニド!」

 

イシツブテから放たれる多量の岩石、しかし、ニドランは持ち前のスピードで右に左に回避し、ダメージはない。

 

「む、速いな」

 

サトシの作戦は単純、スピードで勝負。

岩ポケモンは頑丈で防御も攻撃も高いだろう。だがその分スピードは遅いとサトシは見ていた。

フットワークの軽いポケモンで攻撃をかわしながら速攻で攻撃をしていく、これがジムリーダータケシ攻略の鍵。

 

「『にどげり』だ!!」

 

「ニドォ!」

 

ニドランが飛び上がり、両脚で2発の蹴りをイシツブテに浴びせる。

1撃目、2撃目ともにイシツブテの体(顔面?)に直撃した。

 

「ラッシャ!?」

 

効果抜群のかくとうタイプの技を受け、イシツブテは苦悶の顔で後退する。

 

「パワーもなかなか、よく育てられている」

 

「ありがとうございます!」

 

タケシの賞賛にサトシは喜びが湧き上がる。

 

(よかったなニドラン!)

 

「いいわよニドラーン!」

 

「その調子だよー!」

 

「ニンニン!」

 

応援席でらリカとカスミだけでなく、リカのニドラン♀も声援を送っていた。

 

(ニドラン、みんなの応援に応えるんだぞ!)

 

サトシが見るとニドランはいっそうやる気が出たようで、まだまだ健在のイシツブテに対し構える。

 

「ならばこれはどうする? イシツブテ、『ころがる』!」

 

「ラッシャ!」

 

イシツブテは体を丸めるとその場で回転を始める。そして、猛スピードでニドランに突撃してきた。

 

「迎え撃つぞ! 『にどげり』!」

 

ニドランは蹴りを放つ。

しかし、イシツブテの高速の転がりに弾き飛ばされてしまった。

 

「ニド!?」

 

「くっ、効かない!」

 

「『ころがる』は転がるほど威力が上がるわ。早くどうにかしないと」

 

カスミの言葉通りイシツブテはこれからどんどん速度と威力を上げていく。

そこでサトシは合点がいった。

 

「岩ポケモンはスピードが弱点と思っていたのに、さすがジムリーダー、対策はバッチリですか」

 

「無論だ。挑戦者は対策が破れた際の対応も重要だ。

そうしたトレーナーの戦略の成長を促すのもジムリーダーの役目。さあどうする。『ころがる』攻撃はまだ続くぞ!」

 

見ているうちにイシツブテはどんどん回転スピードを上げている。あまり時間もない。

このまま速度が上がりつづければ威力も……

 

(そうだ!)

 

サトシは攻略法に気づく。

 

「走れニドラン!」

 

「ニドニドニドニド!」

 

ニドランは猛ダッシュを始め、転がるイシツブテに向かって行く。

 

「む! イシツブテ!」

 

「ラッシャイ!」

 

迎え撃とうとイシツブテはニドランに向かう。

 

走り続けるニドランはトップスピードに乗った。

 

「今だ、『にどげり』!」

 

ニドランは跳び上がり、『にどげり』を放つ。

その勢いは先程のものよりも速く、強い蹴りとなった。

 

「ニィ、ドオオ!!」

 

「ラッシャ!?」

 

一撃目の蹴りがイシツブテに炸裂すると、回転は弱まり遂に止まってしまい、イシツブテにダメージを与えた。

 

「なに!?」

 

タケシは驚愕の声を上げる。

そして、ニドランの攻撃はまだ終わってない。

 

「もいっぱあああああつ!!」

 

「ニドォ!!」

 

「ラッ、シャア!?」

 

サトシが叫び、二発目の蹴りがイシツブテにクリーンヒットする。

イシツブテはそのまま吹き飛び、目を回して動かなくなる。

 

「……アイヨ」

 

「イシツブテ戦闘不能、ニドラン♂の勝ち!」

 

「やったぜニドラン!」

 

「ニドニド!」

 

「やったあ!」

 

「いいよーニドラン!」

 

「ニンニン!」

 

声援を送るカスミたちにサトシは手を振る。

先手を取れたことで流れを掴んでいる感覚があり、一気に決めにいこうと気を引き締めた。

 

「戻れイシツブテ。ご苦労様、ゆっくり休んでくれ……見事だサトシ。よく『ころがる』を攻略した」

 

タケシはイシツブテをボールに戻してサトシに声をかけた。

威力が足りないなら上げればいい、それはスピードで勢いをつけることで上げることができる。

これも単純な策だ。

 

「『ころがる』で思いついた作戦ですから」

 

「ははは、なるほどな。素晴らしい発想だ。ならば、次はこいつだ。いけ、イワーク!」

 

「イワアアアク!!」

 

タケシの次のボールから現れたのは、複数の大きな岩石が連なった蛇のような体をしたポケモン。

 

「で、でかい……」

 

「ニド……!」

 

その巨体はジムの天井に届くのではというくらいに大きく、足が竦むほどの緊張を覚え、サトシは息を呑んだ。

しかし、サトシは気合を入れなおす。相手がいかに巨大で恐ろしくても、トレーナー自身が臆せばポケモンにもそれが伝わってしまう。

 

「いけるかニドラン?」

 

「ニドォ!」

 

ニドランの目は強かった。

相手が巨大でも立ち向かおうとするガッツは見事だ。

 

「そうこなくっちゃな! よおし、『にどげり』だ!」

 

ニドランはイワークに向かって走り出した。

すると、イワークが動く。

 

「イワーク、『がんせきふうじ』!」

 

「イワアァク!」

 

イワークを囲むように複数の岩が出現し、それらすべてがニドランに襲いかかる。

 

「ニド!?」

 

「大丈夫かニドラン!?」

 

「ニ……」

 

岩石の直撃を受けたニドランはダメージを負いながらも立ち上がる。

しかし、イワークの攻撃は終わらない。

 

「『すてみタックル』!」

 

イワークがその巨体をニドラン目掛けてぶつけようとしてきた。

 

「まずい、避けろニドラン!」

 

「ニ……ドォ……」

 

回避を指示するが、ニドランは足をフラつかせて動きが鈍い。

 

「どうしたんだ!?」

 

「たしか『がんせきふうじ』は素早さを下げる技だった」

 

「しかも、当たれば確実に下げられるわ」

 

カスミとリカの説明でサトシは理解した。

この技もタケシさんの素早い相手の対策ということだ。

 

「その通りだ。ニドランの素早さを封じさせてもらった」

 

イワークの『すてみタックル』が動けずに無防備なニドランに直撃する。

 

「ニドラン!」

 

「ニドォ!!」

 

ニドランは大きなダメージを受け吹き飛ばされる。

 

「でも、『すてみタックル』は使ったポケモンにもダメージを与える!」

 

カスミの言葉通り、威力が高いぶん反動があるのが『すてみタックル』だ。

 

「イワアアアアアク!」

 

しかし、イワークはなんともないように大きな雄叫びを上げる。

 

「全然ダメージを受けてない?」

 

リカが疑問を上げる。

だがサトシの中でこの疑問はすぐ氷解した。

 

「『いしあたま』か!」

 

「そうだ。特性『いしあたま』は反動ダメージを無くすことができる」

 

「つまり、大技の『すてみタックル』をダメージを気にせず撃つことができるのね」

 

「イワーク、もう一度『すてみタックル』だ!」

 

素早さを封じられ、ダメージの蓄積したニドランに回避の術はない。

 

「ニ……!」

 

ニドランは吹き飛ばされ、そのまま目を回して倒れた。

 

「ニドラン♂戦闘不能、イワークの勝ち!」

 

俺は倒れたニドランを抱き上げた。

 

「ニドラン!」

 

「ニド……」

 

ニドランは薄目を開けて俺を見た。それはとても申し訳なさそうな視線だった。

 

(そんな顔しなくていい、お前は良くやったよ)

 

サトシは微笑み頷き、ニドランをモンスターボールに戻した。

 

「ありがとうニドラン、ゆっくり休んでくれ」

 

「さあ、次はどうする、サトシ」

 

タケシさんとイワークはまるで勝利を阻む巨大な壁のように立ちふさがる。

 

(これを乗り越えなければ俺は前に進めない。だから、俺は負けない!)

 

サトシはモンスターボールを構える。相棒のボールを……

 

「ピカチュウ、君に決めた!」

 

「ピカチュウ!」

 

「頼んだぜピカチュウ!」

 

「ピッカ!!」

 

ボールからピカチュウが元気良く飛び出す。

ピカチュウを見たタケシは怪訝な顔をした。

 

「……じめんタイプを持つイワークに対してピカチュウだと? 単に手持ちがピカチュウだけなのか、何か作戦でもあるのか?」

 

「さあ、けれど一つだけ言えるのはピカチュウは俺の相棒で簡単には負けないってことだけですよ!」

 

その言葉にタケシはほんの少し口角を上げた。

 

「そうか、ならば行くぞ。イワーク、『がんせきふうじ』!」

 

「イワアアク!」

 

イワークから岩石が出現し、ピカチュウを目掛けて飛来してきた。

 

「ピカチュウ、『こうそくいどう』!」

 

「ピカピカピカァ!」

 

素早さを上げる技『こうそくいどう』を使用してピカチュウは『がんせきふうじ』を回避する。

サトシの戦略は最初と同じスピード勝負。ピカチュウの持ち前の素早さをさらに上げて一気に攻める。

素早さを下げる『がんせきふうじ』も当たらなければ何も問題ない。

 

加速して走り続けるピカチュウはイワークの真下に迫った。

 

「今だピカチュウ……『アイアンテール』!!」

 

「チュー、ピッカァ!!」

 

ピカチュウのギザギザの尻尾が硬質化し鋼の力を得る。そうしてピカチュウはジャンプし、イワークの胴体目掛けて尻尾を直撃させた。

 

「イワアアア!?」

 

「イワーク!?」

 

イワークは苦悶の声を上げて後退し、タケシは驚愕の声を上げた。

 

(よし、狙い通り効いたぜ!)

 

「『アイアンテール』はがねタイプの技ね!」

 

「そっか、トキワの森での特訓はこの技のためだったんだ」

 

カスミとリカはピカチュウの技をすぐに理解した。

リカの言う通りサトシはピカチュウはここまでの旅の中でアイアンテールを特訓していたのだ。

 

「大丈夫かイワーク!?」

 

「イワァ……」

 

効果抜群の技を受けたイワークは少し辛そうにしていたが、すぐに態勢を立て直した。

 

「まさかはがねタイプの技を覚えていたとはな」

 

「ピカチュウが自分に不利なタイプのポケモンを相手にした時の対策ですよ。それにニビジムがいわタイプのジムだってことは前から知っていましたから」

 

「そうか……やはり無謀にピカチュウをぶつけたわけではなかったのだな。面白くなってきた、勝負はこれからだ! イワーク、『すてみタックル』!」

 

「『アイアンテール』で迎え撃て!」

 

「イワア!」

 

「チューピッカ!」

 

イワークの全身突撃に、ピカチュウは鋼鉄の尻尾を振るう。

技と技がぶつかり合う。そして押し勝ったのはイワークだった。

ピカチュウは吹き飛ばされる。

 

「ピカ!?」

 

「なに!?」

 

「イワークはパワーでは負けていないぞ!」

 

(やっぱり簡単にはいかないか)

 

しかし、イワークも『アイアンテール』とぶつかって無傷では無いはず。

その証拠に痛みを紛らわすように頭を振っていた。

 

「『がんせきふうじ』!」

 

タケシはすぐにイワークに攻撃をさせ、サトシも続いてピカチュウに指示を出す。

 

「ピカチュウかわせ!」

 

「ピカ!」

 

襲いかかる岩石を自慢のスピードで回避していくピカチュウ。

 

(よし、このままーー)

 

「『すてみタックル』!」

 

イワークがピカチュウに突進して来た。

 

「ピカ!?」

 

「なに!?」

 

イワークの予想外の素早い動きにサトシとピカチュウは驚愕する。

 

まるでピカチュウがどこを動くのか読んで待ち伏せしていたような動きだ。

 

(っ!? そういうことか!)

 

『がんせきふうじ』はピカチュウにダメージを与えるためではなく、わざとかわさせて動きを制限するためのものか。

かわした先を読んで『すてみタックル』を仕掛けてくる。

 

「イワーク、『がんせきふうじ』!」

 

タケシは再びイワークに指示を出す。

つまり先ほどと同様の戦略だ。

『がんせきふうじ』を受けたらダメージを負い、素早さを下げられる。

避けたら『すてみタックル』で大ダメージになる。

 

もはや逃げ場はなく、サトシとピカチュウは追い詰められる。

しかし、サトシは諦めない。

 

(だったら……)

 

「ピカチュウ、『10まんボルト』!」

 

「イワークに電気は効かない!」

 

「『がんせきふうじ』を押し返せ!!」

 

「ピィカチュウウウウウウ!!」

 

ピカチュウから放たれた電撃が、飛来して来た岩石群とぶつかる。

『10まんボルト』が押し勝ち、岩石はイワークの元まで戻り、全てその巨体に激突した。

 

「イワアアア!?」

 

自分が生み出した岩石群がイワークの全身を襲い、タケシは信じられないというような声を上げた。

 

「そのままイワークまで走れ!」

 

「ピッカァ!!」

 

イワークの動きが止まった隙にピカチュウは接近する。

 

「『アイアンテール』!」

 

「チュー……!」

 

「避けろイワーク!」

 

「イワァ!」

 

「ピッカァ!」

 

持ち直したイワーク長い体を器用に動かし、『アイアンテール』は空振りに終わった。

 

「くっ……」

 

そして、イワークの長い胴体はピカチュウを取り囲む位置にいた。

 

「そのまま『しめつける』攻撃!」

 

イワークはとぐろを巻きピカチュウを岩の体で挟み込もうとする。

岩の体に締め付けられてしまえば、ピカチュウに脱出の手段は無い。

 

「回転しながら『アイアンテール』!」

 

ピカチュウはイワークの体が触れる瞬間、そこに手を置き支点として自分の体を横回転させて巻きつこうとしたイワークに『アイアンテール』をぶつけた。

 

「イワアアア!!」

 

回転の『アイアンテール』は締め付けを阻むと同時にイワークに大ダメージを与える一石二鳥の攻撃となった。

苦痛の雄叫びを上げるイワーク。

 

「決めるぞピカチュウ、『アイアンテール』!」

 

「負けるなイワーク、『すてみタックル』!」

 

お互いこれが最後の攻撃。ピカチュウは尻尾に渾身の力を込め、イワークは全力で突進する。

 

「チュー……」

 

「イワアアア!!」

 

そして、イワークが先にピカチュウに『すてみタックル』を決める。

吹き飛ばされるダメージを負うピカチュウ。

しかし、持ちこたえて態勢を立て直し鋼鉄の尻尾をイワークの頭に振るう。

 

「ピッカァ!!」

 

『アイアンテール』の直撃を受けたイワークはそのまま倒れた。

 

「イワァ……」

 

巨体が倒れ、ズズンと重い音がフィールド内に響く。

 

「イ、イワーク戦闘不能、ピカチュウの勝ち。よって勝者、マサラタウンのサトシ!」

 

審判であるタケシの弟が宣言した。

サトシの勝利だと。

 

「勝っ……た……勝った、勝ったんだよな!?」

 

「ピカピカチュウ!!」

 

「やった、勝ったああああああっ!!」

 

湧き上がる達成感がサトシとピカチュウを満たし、2人は全身で喜びを表した。

 

 

 

***

 

 

 

「すごいすごいよカスミ! サトシ、ジム戦で勝ったよ!!」

 

「ええっ! 初めてで勝つなんてやるじゃない!」

 

観客席からリカとカスミの声援が聞こえる。

俺、本当にジムリーダーに勝ったんだ!

 

「見事なバトルだった。少年……いや、サトシ君」

 

「ありがとうございます。俺も楽しかったです!」

 

あんなに熱いバトルは初めてかもしれない。

心から楽しいと思えた。これは偽らざる本音だ。

 

「楽しい……か、そうか。その気持ちが一番大事なのかもしれないな」

 

「さあ、これがニビジムで勝利した証、グレーバッジだ」

 

タケシさんの手にあったのは八角形の名前の通り灰色のバッジだ。

これがジムバッジ、俺が勝利した証。

喜びと緊張によって震える手で俺はグレーバッジを受け取った。

 

「ありがとうございます」

 

おっと、言うことがあったなこれを言わないとサトシじゃない!

俺は高らかに叫ぶ。

 

「グレーバッジ、ゲットだぜ!!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

ピカチュウも一緒に言ってくれた。

さすが相棒!

 

「おめでとうサトシ!!」

 

「ジム戦初勝利おめでとう!」

 

「リカ、カスミ、ありがとう。2人とニドランの応援嬉しかったぜ!」

 

「えへへ」

 

「あれだけ応援してあげたんだから勝たないと怒ってたわよ」

 

はにかむリカと冗談めかして言うカスミ。

本当に心から2人の応援は心強いと思うよ。

 

するとカスミはリカに話しかける。

 

「リカ、次はあなたの番よ」

 

「うん、そうだね。タケシさんお願いします!」

 

リカはやる気充分、けどたぶん……

 

「すまないお嬢さん。今回のバトルのダメージは大きいんだ。俺のポケモンを回復させたいからお嬢さんとのバトルは明日でいいかな?」

 

「あ、そうですよね。ごめんなさい気づかなくて」

 

リカの謝罪にタケシさんは「大丈夫だよ」と言ってくれた。

俺たちはジムを出ようと踵を返した。

 

「あの、タケシさん!」

 

その時カスミがタケシさんを呼んだ。

 

「どうしたんだ? 君は、挑戦者じゃない方のお嬢さんだな」

 

「ええ、その……あなたは……」

 

カスミはタケシさんに何か聞きたそうだが、なぜか口ごもる。

 

「む?」

 

「いえその、やっぱりジムリーダーは育て方も戦略も普通とは違ってすごいなと思ったんです」

 

「ああ……だからこそジムリーダーを任されているんだ」

 

タケシさんはフッと笑うとそう答えた。

 

「はい、ありがとうございました」

 

カスミは頭を下げると俺たちに追いついた。

 

「……カスミ?」

 

「ううん、なんでもないわ」

 

どこか歯切れの悪いカスミだが、俺はそれ以上追求しなかった。

 

 

 

***

 

 

 

俺たちはニビジムを後にし、昨日からの宿であるポケモンセンターに向かった。

 

すると、行く先からこちらに向かう人が見えた。

 

「あ、ムノーさん」

 

「やあ、ジム戦はどうだったかな?」

 

「へへへ、勝ちました! ほら、グレーバッジです!」

 

「ほう、タケシに勝ったか。すごいじゃないかサトシ君」

 

「ありがとうございます!」

 

するとムノーさんはどこか言いづらそうに尋ねてきた。

 

「ああ、その……どうだった? ジムリーダータケシは?」

 

「タケシさんですか? すごいトレーナーだと思いました。使うポケモンがとても頑丈で強くて、何よりポケモンたちがタケシが大好きなんだってバトルしてわかりました」

 

「うんうん、みんな生き生きしてたよね!」

 

「そうね……あれだけポケモンを大事にできる人なら、ブリーダーになればすごいことになってたはずなのに、残念です」

 

「……そうか」

 

ムノーさんはどこか安心したように静かに呟いた。

 

「うむ、良かった。明日はお嬢さんのジム戦か。頑張りたまえ」

 

「はい!」

 

ムノーさんはそのまま立ち去って行った。

 

なんにしても今日は勝てて良かった。

明日のリカのジム戦に切り替えていこう!

 

「よしリカ、今夜はしっかり英気を養おうぜ」

 

「そうだね。明日になって風邪とか引いたら大変だもんね」

 

「それから今日のタケシさんのバトルスタイルをよく思い返して、明日の参考にするのよ」

 

「うん!」

 

カスミのアドバイスはさすがに先輩らしいな。

俺も今日のバトルがリカの勝利に繋がったら嬉しい。

 

「あーなんだか緊張してきたー」

 

「リカ、大事なのはポケモンを信じることだ。そうすれば勝てる」

 

俺にできるのはこんなアドバイスだけだ。それでも俺もなにか伝えたかった。

 

「サトシ……うん、頑張るからね」

 

リカは力強くガッツポーズをした。




前後篇に分けました。
リカvsタケシは次回です。

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