サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題)   作:エキバン

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お待たせいたしました。
ニビジム戦のリカのバトルです。
彼女はどう戦うのか。


対決ニビジム リカvsタケシ

翌日、サトシたちは再びニビジムに訪れた。

今回はリカのジム戦であるためサトシは観客席でカスミと共にフィールドを見ている。

 

昨日と同様にタケシはフィールドの奥で仁王立ちしていた。

リカは挑戦者の位置についてタケシと相対していた。

 

「今日はお嬢さんが相手か。全力で行かせてもらう」

 

「はい、お願いします!」

 

リカとタケシがボールを構える。

 

「行け、イシツブテ!」

 

「お願い、フシギダネ!」

 

「ラッシャイ!」

 

「ダネダネ!」

 

リカはフシギダネをタケシはイシツブテを出す。

 

「くさタイプか、セオリー通りに来たな。それにしても可愛い花飾りだな」

 

「えへへ、この娘のお気に入りなんです」

 

「だが手加減はしない。行くぞイシツブテ、『ころがる』!」

 

「フシギダネ、『はっぱカッター』!」

 

「ラッシャ!」

 

「ダネフシャ!」

 

イシツブテが高速回転を始めそのまま突進してきた。フシギダネはイシツブテ目掛けて鋭い葉を連射する。

 

鋭い葉を数発受けるがイシツブテは止まらない。

 

「効いてないの!?」

 

「いや、そうじゃないみたいだぜ」

 

カスミは驚いたがサトシは冷静に見ていた。

 

一見イシツブテにダメージは無いように見える。しかし、相性の良い攻撃に、『ころがる』は確実に失速していた。そしてリカはそのことを見抜いていた。

 

「フシギダネ、『つるのムチ』を思いっきり叩きつけて!!」

 

「ダネ……フシャッ!!」

 

フシギダネは『つるのムチ』を出すと力一杯振り下ろした。

渾身の草タイプの攻撃はイシツブテの『ころがる』を完全に止めた。

 

「ラッシャ!?」

 

効果抜群の攻撃を受けて声を上げるイシツブテ。

 

「今よフシギダネ、『はっぱカッター』!!」

 

「ダネダネ!」

 

『はっぱカッター』の連続攻撃がイシツブテを襲う。

イシツブテは大ダメージを受け、目を回して動かなくなる。

 

「ラッシャ……」

 

「イシツブテ戦闘不能、フシギダネの勝ち!」

 

「やった、すごいよフシギダネ!」

 

「ダネダネ!」

 

リカの労いにフシギダネは彼女に飛びついて喜びを表した。

 

「よし、まずは一勝!」

 

「その調子よリカ! フシギダネ!」

 

サトシとカスミの声援にリカは手を振って答える。

するとタケシも口を開く。

 

「タイプ相性が良いとは言えここまでのパワーがあるとは、君もよく育てている」

 

「ありがとうございます! 褒められたよフシギダネ!」

 

「ダネ!」

 

タケシからの賞賛にリカはフシギダネと喜びを分かち合う。

 

「さあ次だ。君はどう来る? 行け、イワーク!」

 

「イワアアアク!!」

 

目の前に出現した巨大なポケモン。実物を見るのは二度目だが、観戦してた時と実際に相対するのとでは大きく違うとリカは緊張を強める。

 

(サトシはこんなプレッシャーの中にいたんだね)

 

「フシギダネ、このまま行くよ!」

 

「ダネダネ!」

 

身にかかる緊張や不安を振り払うようにリカはフシギダネに声をかける。

 

「『はっぱカッター』!」

 

「避けろイワーク!」

 

鋭い葉の群をイワークは難なく回避しフシギダネに勢いよく接近する。

 

「速い! それなら引きつけて!」

 

リカはイワークがフシギダネの射程範囲になるまで待つ。そしてすぐその時が来る。

 

「よし、『ねむりごな』!」

 

「フシャシャシャ!」

 

フシギダネの蕾から紫の粉が吹き出す。

この『ねむりごな』を浴びればしばらく眠って行動不能となる。

 

しかし、タケシの対応は早かった。

 

「イワーク、『あなをほる』!」

 

「えっ!?」

 

「ダネ!?」

 

イワークは『ねむりごな』が届く前に地面の中に潜り回避をした。

 

そして、フシギダネはイワークの姿を完全に見失った。

 

「ダネ、ダネ?」

 

「お、落ち着いてフシギダネ」

 

フシギダネは敵がどこから来るかわからず困惑し、トレーナーであるリカもイワークが見えなくなったこと、フシギダネの混乱を宥めないといけないことによる焦りが出てしまった。

 

それが隙となる

 

フシギダネの真下に亀裂が走り、次の瞬間イワークが飛び出す。

 

「あ!?」

 

「ダネェ!」

 

「フシギダネ!?」

 

『あなをほる』が炸裂しフシギダネは吹き飛ばされるもなんとか態勢を立て直す。

リカはフシギダネが無事なことに安堵するが、立ち塞がるイワークに視線を戻し、フシギダネに指示を出す。

 

「フシギダネ、『つるのムチ』!」

 

「ダネェ!」

 

フシギダネの『つるのムチ』がイワークの頭に巻きつく。

 

「そのまま引っ張って!」

 

イワークを投げ飛ばしてそのまま追撃で一気に決めるつもりだ。

しかし、イワークはビクともしない。

 

「そ、そんな……」

 

「残念だが力比べでイワークは簡単には負けない! イワーク、引っ張れ!」

 

「イワァ!」

 

「ダネェ!?」

 

勢いに負けて叩きつけられるフシギダネ。

そのままフラフラになって立ち上がる。

 

(ダメ、交代させないと!!)

 

「も、戻ってフシギダネ!」

 

このままではフシギダネが戦闘不能になってしまうため、それを避けるための判断だ。

 

「不味いな、完全にペースを崩された」

 

「フシギダネで決め切れると思ったのに」

 

サトシとカスミはリカの様子に焦り始める。

リカはわずかに取り乱しながら落ち着こうと自分に言い聞かせる。

 

「だ、大丈夫……まだ、大丈夫」

 

リカは次のボールを構える。

 

「お願い、バタフリー!」

 

「フリーフリー!」

 

リカの次のポケモンはバタフリーだ。

 

「むし・ひこうタイプ、いわタイプとは最悪の相性だ。君も何か秘策があるのか?」

 

「わ、私はポケモンを信じてます。バタフリー、『ねんりき』!」

 

「フリィ!」

 

焦りを見せながらリカはバタフリーに指示を出す。

バタフリーから放たれた『ねんりき』は衝撃波となりイワークを襲い巨体がわずかに後退する。

 

「よし、イワークに効いてるぞ」

 

「そのまま『ねんりき』でイワークを止めて!」

 

「フリ!」

 

次は『ねんりき』がイワークの体を拘束する。

これで形成逆転と思われたが、イワークは全身を少しずつ身じろぎさせる。

 

「言ったはずだ、力比べでイワークは負けない! 振り払えイワーク!」

 

「イワアア!!」

 

雄叫びとともにイワークは全身にかけられた『ねんりき』を弾き飛ばす。

 

「フリィ!?」

 

「くっ!」

 

リカは狙いが再び外れたことで焦りがさらに増した。

 

「イワーク、『がんせきふうじ』!」

 

タケシは手をゆるめずに反撃に出た。

イワークが大量の岩石をバタフリーに飛ばす。

 

「上昇して躱して!」

 

先程の指摘通り岩技はバタフリーに最悪の相性だ。攻撃を受けるわけにはいかない。

バタフリーは指示通り上昇した。それによってイワークの上を取ることができた。

 

まだ逆転のチャンスはある。

リカは確信し指示を出した。

 

「バタフリー、『ねむりごな』!」

 

バタフリーの羽から紫の鱗粉が放出されイワークを眠らせようと襲いかかる。

 

「『あなをほる』!」

 

タケシはイワークを地面に潜らせる。

これは先程フシギダネにもした対処法だ。

 

「ひこうタイプを持つバタフリーはじめんタイプの技は効きません!」

 

そうこれはリカの狙い通りでもあった。

イワークは地面に潜って見えなくなるが技は確実に空振りとなる。

その隙にこちらから技を使う。

 

「百も承知だ」

 

だが、タケシの顔に焦りは無い。

 

「今だイワーク!」

 

イワークはバタフリーの背後から出現した。

 

「後ろ!?」

 

バタフリーは一瞬遅れて振り返るがタケシの方が早かった。

 

「『すてみタックル』!」

 

イワークの巨大がバタフリーに突撃する。

 

「フリィ!?」

 

「バタフリー!?」

 

タケシの追撃は止まらない。

 

「とどめだ、『がんせきふうじ』!」

 

吹き飛ばされ地面に倒れたバタフリーに岩石が襲う。

 

「フリィ……」

 

バタフリーは目を回してそのまま動かなくなる。

 

「バタフリー戦闘不能、イワークの勝ち!」

 

「たとえ効果の無い技でも、使い方で相手の意表を突くことができる。そういった工夫もバトルでは大事だ」

 

効果の無い技でも上手く生かす、これはまさに昨日サトシがやって見せたことだ。

それを自分も見ていたはずなのに、簡単にしてやられてしまった。

 

「さあ、君のポケモンは残っている。早く出したまえ」

 

タケシは試合続行を促すが、リカは極度の緊張と恐怖で混乱していた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

(どうしようどうしようどうしよう……このままじゃ負けちゃう……サトシもカスミも見てるのに、負けたくない……2人から見放されたくない……サトシから失望されたくないよ……)

 

心臓が破裂しそうなほど波打つ、呼吸が苦しい、視界がブレる。

 

「う……あ、あぁ……」

 

激しく吐息が出る。このまま自分の中の怯えを全部吐き出してしまえればいいのに、けれど、恐怖は体の中で生み出されていく。

もうダメだ、これ以上バトルできない。けど、負けたくない。どうすればーー

 

「リカ!!」

 

意識の中に沈み込みそうになったリカを現実に引き戻したのはサトシの声だった。

 

「サトシ……?」

 

サトシは観客席から身を乗り出しながらリカに声をかける。

 

「落ち着けよ! お前にはまだフシギダネがいるだろ! トレーナーならまず自分のポケモンを信じるんだ! 絶対に諦めるな!!」

 

リカはフシギダネのボールを見る。

そうだ。何を勝手に負けた気になっているんだ。

サトシの言う通り、トレーナーである自分が諦めたらすべてが終わる。

そんな情けない終わりをポケモンたちの前でするわけにはいかない。

深呼吸を繰り返して、両手で帽子の前後のつばを掴みキュとしめる。

心臓が規則的にリズムを刻む、当たり前の呼吸が心地いい。

その目は覚悟を決めていた。

 

「……ほう」

 

タケシはリカの顔を見ると面白そうに口角を上げる。

 

「私は、私たちは、負けない! お願いフシギダネ!」

 

「ダネダネェ!」

 

現れたフシギダネは前のバトルの傷がところどころにあったが、まるでリカの闘志が宿ったかのように力強く立っている。

 

「『はっぱカッター』!」

 

「ダネダネ!」

 

「避けろイワーク!」

 

『はっぱカッター』がイワーク目掛けて飛来するが、難なくかわされる。

 

「『つるのムチ』で捕まえて!」

 

フシギダネの『つるのムチ』がイワークの顔を縛る。

しかし、イワークはなんともない顔だ。

 

「また同じことを……イワーク、引っ張れ!」

 

先程と同様にイワークは体を捻り逆にフシギダネを引っ張ろうとする。

それをリカは待っていた。

 

「今だよフシギダネ、跳んで!」

 

「ダ、ネェ!」

 

フシギダネはイワークの引く力を利用して勢いよく跳び上がったのだ。

 

「なに!?」

 

「『つるのムチ』で方向転換、イワークに向かって!」

 

「ダネ!」

 

空中で『つるのムチ』で地面を叩き、イワークの方へ向きを変えて接近した。

 

「驚いたが空中ではいい的だ! 『すてみタックル』で迎え打て!」

 

狙いを定めたイワークは『すてみタックル』でフシギダネに迫る。

 

「もう一度『つるのムチ』で跳んで!」

 

フシギダネはさらに『つるのムチ』を地面に強く叩きつけて上昇した。

イワークの『すてみタックル』は空振りとなる。

 

「む!?」

 

そしてフシギダネは空中でイワークの後ろを取った。

 

「イワークの体に捕まって!」

 

「フシャ!」

 

イワークの後ろにいるフシギダネは『つるのムチ』をイワークの体に巻きつかせることでブレーキをかける。

 

「『やどりぎのタネ』!」

 

フシギダネの蕾から種が飛び出す。

種はイワークの体に付着すると瞬時に大量の芽が飛び出してイワークの全身に巻きついた。

巻きついた芽はイワークから体力を奪い取る。

 

「イワァ……!?」

 

「まずい! イワーク、『あなをほる』で地面に隠れるんだ!」

 

タケシは態勢を立て直すためにイワークを一時的に地面に退避させる。

イワークが地面を掘り進んだ時だ。

 

「フシギダネ、穴に向かって『はっぱカッター』!!」

 

「ダネダネ!」

 

リカはすかさず指示を出し、『はっぱカッター』がイワークの掘った穴に吸い込まれるように放たれる。

 

「イワアアアアア!?」

 

苦悶の雄叫びをあげながらイワークが地面から飛び出してくる。

 

「なに!? イワーク!」

 

「今だよフシギダネ、『つるのムチ』!」

 

「ダネダネ……フシャッ!!」

 

最後の力を込めた渾身の『つるのムチ』が振るわれ、イワークに叩きつけられる。

 

「イワァ……」

 

イワークはその巨体を地面に倒れこませ目を回して動かなくなる。

 

「イワーク戦闘不能、フシギダネの勝ち。よって勝者、マサラタウンのリカ!!」

 

「……やったあ!! やったよフシギダネ!!」

 

「ダネ、ダネダネ!!」

 

リカはフシギダネを抱き上げ、フシギダネはリカの胸の中で喜びを表していた。

 

「やったぜリカ!」

 

「リカー! おめでとう!」

 

サトシとカスミが応援席からリカに声をかけ、リカはそれに両手を大きく振り答える

 

「うん! ありがとう! 私やったよ!! 勝ったよ!」

 

「見事だったよお嬢さん。よくあそこから逆転した」

 

「はい、ポケモンたちのおかげです」

 

「ああ、そしてそのポケモンたちを最後まで信じた君の実力だ」

 

タケシはリカの戦いぶりを褒めると、グレーバッジを取り出す。

 

「さあグレーバッジだ。受け取ってくれ」

 

「ありがとうございます」

 

リカはバッジを掲げて叫ぶ。

 

「グレーバッジ、ゲットだよ!!」

 

「ダネダネ!」

 

フシギダネと笑い合うリカ、ふと窓の外を見ると人影が見えたような気がした。

 

 

 

***

 

 

 

リカのジム戦が終わり、俺たち3人はニビジムの入り口でタケシさんに見送られている。

 

「昨日と今日でとても良いバトルをさせてもらった」

 

「こちらこそありがとうございます」

 

「3人の旅の無事を祈っているよ」

 

これでタケシさんとはしばらくお別れになるだろう。その前にどうしても聞いておきたいことがあった。

 

「タケシさん、あなたの夢はいいんですか?」

 

「うん?」

 

きっとこれはお節介なのだろう。だけど、聞かずにはいられなかった。

 

「その……この町の人から聞いたんです。タケシさんは本当はポケモンブリーダーになりたいんだって」

 

「そうか……だが、俺はここを、家族を守らなければならない。夢は弟や妹たちが自立してからでも遅くないはずだ」

 

「そう……ですか……」

 

本人がそう決めた以上、なにも口出しはできない。

 

その時、タケシさんの後方からこちらに歩いてくる人がいた。

 

「あ、ムノーさん」

 

「な、ムノー!?」

 

「え?」

 

俺の言葉にタケシさんは振り返る。

タケシの驚き様に俺の方が驚いてしまった。

 

するとムノーさんは帽子を取り、口元に手を当てるとたくわえた髭が取れてしまった。

 

その顔はタケシによく似ていた。

まさか……!

 

「……タケシ」

 

「親父!?」

 

「ええっ、ムノーさんってタケシのお父さんだったんですか!?」

 

「そうだ。私が夢のために家族を捨てたダメな父親だ」

 

あまりのことに呆然としてしまう。

するとムノーさんはタケシに頭を下げる。

 

「タケシ、済まなかった。今までお前に苦労をかけてしまった。サトシ君たちとバトルしていたお前を見てわかった。私はお前にも彼ら同様に夢を追いかけてほしいんだと。お前に夢を叶えてほしいと」

 

「親父……」

 

何都合の良いことを!!

俺は抑えられないほどの怒りが湧き上がり、一歩踏み出す。

 

「……!?」

 

しかし、俺の手は掴まれを行く手を阻まれる。

俺を止めたのはカスミだった。

彼女は俺の手を握り、目を見て首を振った。

 

ーーこのまま見守ってて

 

彼女はそう言っているように思えた。

 

「いまさら父親ヅラなどする資格はないことはわかっている。だが、せめて罪滅ぼしをさせてほしい。タケシ、ジムのことを私に任せてもらえないか? お前はブリーダーを目指してくれ」

 

そうか、たしかにこの人は自分のために家族を捨てた。

けれど自分がどれほど許されないことをしたのか、この人が一番分かっていたんだ。

この人は罪悪感で苦しんでいたんだ。

 

それを許すかどうか、罰を与えるかどうか決めるのは部外者の俺ではない。

ムノーさんの家族なんだ。

 

タケシさんはムノーさんに近づく。

 

「頭を上げてくれ、親父」

 

「あいつらの好みの味やあいつらのための一日のスケジュールを叩き込んでやるから、覚悟していてくれよ」

 

「ああ、もちろんだ」

 

タケシさんもムノーさんも微笑んだ。

どうやら和解できたみたいだな。

 

「家族が戻って良かったね」

 

「そうだな」

 

ふと横目でカスミを見ると彼女は優しく親子の遣り取りを見守っていた。

 

「……カスミ、ありがとうな。おかげで余計なことをしないで済んだよ」

 

殴ったりしてたら確実に話がこじれていただろうな。

 

「うん……て言っても本当は私も何か言おうと思ったのよね。サトシの怒った顔見たら頭が冷えちゃったのよ。たとえ何か言いたくても、これはタケシさんの家族の問題だから、部外者は立ち入らないのが礼儀よ」

 

「ま、そうだよな」

 

「サトシ君」

 

タケシさんに呼ばれて振り返る。

 

「俺は明日にでも旅に出るよ」

 

「あのタケシさん、よかったら一緒に旅をしませんか?」

 

先輩トレーナーであるタケシさんと一緒ならより勉強になると思うから。

けれどタケシさんは首を振る。

 

「いや、俺なりの道のりがあるからな。君たちの役に立つとは限らない。俺は自分のポケモンたちとの旅をするよ。それに……」

 

タケシはリカとカスミを見てフッと微笑む。

 

「俺は人の邪魔をするほど野暮ではないつもりだからな」

 

「「なあっ!?」」

 

リカとカスミの素っ頓狂な声が聞こえた。

俺が後ろを向くと2人は俺から赤くなった顔を晒してモジモジとしていた。

 

「はは。それから、もう敬語はよさないか? 俺たちはそこまで歳は離れていないし、なんというか、対等に君たちと接したいんだ」

 

「わかりま……わかったよタケシ」

 

「それじゃあ、よろしくねタケシ」

 

「あなたの夢が叶うことを祈っているわタケシ」

 

「ああ、みんなありがとう」

 

俺、リカ、カスミはニビシティの出口まで来ていた。タケシさんとムノーさんは俺たちの見送りに来てくれた。

 

「サトシ、お前のリーグへの旅を良いものになるように祈っている」

 

「ありがとう。俺もタケシが一流のブリーダーになるように祈ってる」

 

「こちらこそありがとう。リカ、カスミ。君たちも良い旅を」

 

「ええ、こちらこそ」

 

「頑張ってね!」

 

「サトシ君、リカ君、カスミ君」

 

「ムノーさん……」

 

「ありがとう、君たちには感謝してる」

 

「君たちはきっと私を軽蔑していることだろう。だが、君たちのおかげでここに戻る勇気が出た。これからは家族のために償いを、タケシが旅に出るためになにかをしたいと思えた」

 

正直、もう思う所が無いと言えば嘘になる。

けれど、さっきの言葉、この人の真剣な態度を見て、何よりタケシが信じたように俺もこの人を信じたいと思った。

 

するとカスミが前に出た。

そして彼女は真剣な眼差しでムノーさんに言った。

 

「本当に、本気で、尊敬されるような父親になって、あなたの子供たちを守ってあげてください」

 

「ああ、もちろんだ」

 

ムノーさんは頷くと、懐からなにかを取り出した。

 

「これは私なりの感謝のつもりだ。受け取ってほしい」

 

「これって!?」

 

「進化の石!?」

 

ムノーさんの手にあるのは3種類の進化の石、かみなりのいし、みずのいし、ほのおのいしだ。

 

「そうだ。今後の旅に役立ててくれ」

 

「こんな高価なもの良いんですか?」

 

「ああ、本当はこれくらいでは足りないくらいだ。けれど今できるのはこのくらいで申し訳ない」

 

「……わかりました。大事に使わせてもらいます。本当にありがとうございます」

 

「「ありがとうございます」」

 

俺は3つの進化の石の入った袋を両手で受け取る。

 

「じゃあ、俺たちは行きます。タケシ、旅先で会うことになったらいろいろ話そうぜ。ムノーさんも頑張ってください」

 

「ああ、またいつか」

 

「ああ、必ず家族を不幸にしないと誓う」

 

俺たちは手を振りながら進んで行った。

 

 

 

***

 

 

 

「またどこかでタケシと出会うかもな」

 

歩いていると、ふと思い出したことがある。

 

「なあカスミ、もしかして昨日はタケシに夢を諦めるのかどうか聞こうと思ったのか?」

 

「……うん、そうよ。けど、お節介だと思ってやめたの。結局サトシが聞いたけどね」

 

「はは、お節介か……」

 

「けどモヤモヤは晴れたわ。代わりに聞いてくれてありがとう、サトシ」

 

カスミの言葉に俺は頷く。

 

そうして再び歩き出そうとするカスミとリカを俺は呼び止める。

 

「……2人とも、少しいいかな?」

 

「どうしたのサトシ?」

 

「なんなのよ改まって?」

 

「はいこれ」

 

俺が取り出したのは2つのケースだ。

 

「これって……?」

 

「受け取ってほしい」

 

これは昨日から俺が2人に渡したいと思っていたものだ。ジム戦が終わってから渡そうと思っていたが、ようやく渡せる。

2人はケースを手に取ると恐る恐るという感じで俺を見た。

 

「えと、開けていいの?」

 

「もちろん……」

 

そうしてリカとカスミはケースを開け、目を見開いた。

 

「え……もしかしてこれ……」

 

「ああ……進化の石のアクセサリー……」

 

「「ええっ!?」」

 

ニビジム名物の進化の石のアクセサリー。それぞれ種類の違うものを渡した。

リカにはたいようのいしのネックレス。

カスミにはみずのいしのヘアバンド

 

2人は呆然と俺が手渡したアクセサリーを見つめていた。

 

「ああ、その……これからもよろしくってことで昨日買ったんだよ。こういうの女の子が喜ぶと思ってさ。どう?」

 

各自ジム戦までの自由時間の間、俺はいろんな店で進化の石を加工した様々なアクセサリーを見ていた。

その中のある店のアクセサリーがなんとなく綺麗だと思った。フィーリングが合ったというか直感的にその店のアクセサリーがいいと思った。

そうしてどれが一番リカとカスミに合うのか死ぬ気で悩んでこの2つを選んだ。

ギリギリまで迷ったからジム戦の時間に遅れてしまったんだよな。

 

「……うれしい……すごく嬉しいよサトシ!」

 

「こ、こんな気遣いができるなんて、や、やるじゃない!」

 

リカは顔をほころばせ、カスミは口調は強いが頬が緩んでいた。

 

「つ、付けてみてもいい?」

 

「ああ、もちろん」

 

そう言うと2人の動きは早かった。

リカは帽子を脱いでからたいようのいしのネックレスを首にかけ、カスミは既に付けているヘアバンドを外してからみずのいしのヘアバンドをつけた。

 

「「ど、どう?」」

 

少し顔の赤い2人。

リカは首から垂れ下がるネックレスを示すように胸元に両手を置き、カスミは髪の結び目を見せるように顔を傾けた。

 

「ああ、すごく似合ってるよ」

 

2人は照れたような満面の笑みを向けてくれた。

 

「……本当にありがとう、サトシ」

 

「サトシ、このプレゼント一生大事にするから!」

 

カスミとリカは本当に幸せそうな綺麗な笑顔で俺も幸せな気持ちになってくる。

 

「そんなに喜んでくれるなんて嬉しいよ」

 

どこか恥ずかしいような雰囲気になり、それを誤魔化すように俺は大きな声を上げた。

 

「よし、次の町にしゅっぱーつ」

 

「「うん!!」」

 

これからも先の旅が素晴らしいものになることを願いながらみんなで歩み出す。




サトシのハーレム旅が基本コンセプトなので、今作でのタケシはサトシたちと旅はしません。
タケシはこの先、サトシたちの先輩トレーナーとして、旅先で何度も出会うことになる予定です。
タケシも一緒がいいと思われている方々には本当に申し訳ないです。

これからも頑張ります。

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