サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題)   作:エキバン

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もっと描写、表現を身に付けたいです。


強いトレーナーになるということ

「スターミー『れいとうビーム』!」

 

「フシギダネ『エナジーボール』!」

 

「ダネェ!」

 

「フッ!!」

 

冷気光線と草エネルギー弾が衝突し爆発を起こす。

 

カスミとリカがバトルをしている。

スターミーとフシギダネのバトルだ。

 

サトシの提案した仲間内の特訓だ。

 

スターミーは高い特殊攻撃と素早さを兼ね備えている。さらに技の多彩さもあって強力なポケモンと言える。

しかし、カスミは自覚していた。

『自分はスターミーの強さを引き出し切れていない』ともっと力をつけていればジム戦でサトシとリカに勝てたかもしれない。

まずはみずタイプに強いくさタイプを相手にバトルをしようということになった。

 

姉たちを安心させる強いトレーナー、ジムリーダーになるために特訓、特訓、ひたすら特訓。

 

そして、このバトルはリカの特訓にもなった。

 

フシギダネのタイプ、くさ・どくは弱点が多い。

相性の悪いタイプの技にも対抗するために適した相手がカスミのスターミーだ。

持ち前のエスパー技だけでなく、こおりタイプの技も使える。

強力な技を見切り、どう対策を立てるか、特訓を通じて身につけていこうとしている。

 

「『つるのムチ』!」

 

「フシャ!」

 

蔦がスターミーの全身に巻き付く。

 

「『サイコキネシス』!」

 

スターミーのコアが光、念動波が発射されようとする。

 

「投げて!」

 

フシギダネが『つるのムチ』を振るい、スターミーを投げ飛ばす。

『サイコキネシス』は不発となる。

 

スターミーは回転して体勢を立て直す。

 

「『はっぱカッター』!」

 

「『れいとうビーム』!」

 

葉っぱの刃はすべて凍らされる。

そして、フシギダネはスターミーまで疾走している。

 

「スターミー『れいとうビーム』!」

 

「フウッ!」

 

フシギダネは連射される『れいとうビーム』を次々とかわしていく。

 

「フシギダネ『つるのムチ』!」

 

「かわして!」

 

振るわれるムチをスターミーは上に跳んで回避する。

 

「『サイコキネシス』!!」

 

上空から強力な念動波がフシギダネに襲い掛かる。

効果は抜群でフシギダネは苦しむ。

 

しかし、持ち前の打たれ強さから耐え抜く。

 

「『ギガドレイン』!!」

 

「ダネダネ!」

 

スターミーの体からエネルギーが発生し、それはフシギダネに吸収され体力の回復となった。

また、くさタイプの技であるため、スターミーは通常より多くのエネルギーが奪われることなった。

スターミーはフラフラになり地上へ降りる。

 

「とどめの『エナジーボール』!」

 

「『こうそくスピン』!」

 

 

力を振り絞っての高速回転。

『エナジーボール』を回避し、フシギダネに突撃する。

 

「行っけぇ『れいとうビーム』!」

 

「フウッ!」

 

「ダネェ!?」

 

スターミーは全力の冷気光線を放ち、フシギダネに直撃した。

フシギダネは目を回し、戦闘不能となった。

 

「戻ってフシギダネ、ご苦労様」

 

「戻ってスターミー、ゆっくり休んでね」

 

「流石、強いね」

 

「ありがとう、でもリカのフシギダネも良い動きだったわよ」

 

バトルを終えたリカとカスミは笑顔で互いを労った

 

新たに旅を始めたサトシ、リカ、カスミ。

より強い絆を得た3人は今日も新たなポケモンとの出会いの心を躍らせていた。

 

 

 

***

 

 

 

ハナダジムを出てしばらく旅を続けているサトシたちは、道中野生のポケモンとのバトルやトレーナー戦をして腕を磨いていた。

 

現在3人は自分たちと同じ旅のトレーナー3人組(男1人と女2人)とバトルしていた。

 

「ピカチュウ『10まんボルト』!」

 

「フシギダネ『はっぱカッター』!」

 

「ヒトデマン『バブルこうせん』!」

 

3人のポケモンの攻撃が相手ポケモンに直撃し、そのまま相手は戦闘不能となった。

 

「負けたよ、すごいな君たち」

 

「私たちと同い年なのに腕が段違いね」

 

「ポケモンたちもよく育てられているわ」

 

「ははは、ありがとう」

 

サトシ、リカ、カスミには自覚が無いが、この3人はトレーナーデビュー数週間にして、その実力は初心者を逸脱し、中堅トレーナーの上位に組み込むまでになっていた。

 

多くのバトルを経験した、自分のポケモンの強みの理解、ポケモンへの信頼や愛など理由は様々だが、いずれにしても3人は確実にトレーナーとしての腕を上げていた。

 

「君たちなら猛獣使いのアキラに勝てるかもな」

 

「猛獣使いのアキラ?」

 

「向こうで非公認ジムを経営していて、挑戦者を募ってるって話よ」

 

「かなりの凄腕らしいわ」

 

「へえ、そこまで言われたらバトルしてみたいな」

 

「バトルはいいけど油断はしないことよ」

 

「非公認だけど、ジムを経営するなんてよっぽど腕に自信があるってことだよ」

 

「ああ、わかってるさ」

 

サトシたちはアキラのジムの道を教えてもらい、早速向かうことにした。

 

 

 

***

 

 

 

看板には『ポケモンリーグ非公認ジム』と書かれていた。

非公認ということは勝ってもジムバッジは貰えない、または貰ったとしてもリーグ出場のためのバッジではないということか。

 

ジムの扉に近づいた時、その扉が独りでに動き始めた。

そのまま扉が開くとムチを持った尖った頭の1人の少年が現れた。

その少年は怪訝な顔で俺たちを見た。

 

「ん? お前たちは?」

 

「俺はマサラタウンのサトシ。君がアキラか?」

 

「そうだ、もしかして挑戦者か?」

 

「ああ、君が個人ジムを構えて挑戦者を募ってると聞いてさ」

 

「そうか、だが申し訳ないがもうジムは閉めるつもりだ」

 

思わぬ言葉に俺たちは驚いた。

 

「ええっどうして?」

 

「俺がここにジムを建てたのは俺のポケモンバトル100連勝目標のためだ」

 

「「「100連勝!!?」」」

 

とんでもない数字に俺たちの驚愕の声がハモる。

 

「ああ、そうさ。100連勝をしたらジムバッジを集めてポケモンリーグを目指す、それが俺の目標だ」

 

そこまでしてジム巡りを始めようとするなんて、ものすごくストイックだな。

 

「じゃあ、ジムを閉めるということは……」

 

「ああ、俺は遂に100連勝を達成した。明日にでもポケモンたちとバッジ獲得の旅を始める」

 

アキラの衝撃の言葉に未だに俺は呆然としている。

凄腕とは聞いていたが100連勝を達成してしまうなんて、アキラはとんでもない腕の持ち主ということになる。

なんとか俺は言葉を絞り出す。

 

「そっか、今日初めて会うけどおめでとう」

 

俺の言葉にアキラはフッと笑みを浮かべる。

 

「ああ、ありがとう。だがせっかく来てもらったのに追い返すのも忍びない。どうだ、俺のポケモンたちのトレーニングだけでも見ていかないか?」

 

「いいのか?」

 

「ああ、さあ入ってくれ」

 

後ろのリカとカスミを見ると肯定の頷きをしたため俺たちはアキラについて行き、ジムの中に入った。

 

 

 

ジムの中にはダンベル、バーベル、サンドバッグがところどころに置かれており、中央にはバトル用にリングがある。そして、プールまであった。まるで本当に格闘技のジムのような場所だった。

そこではコラッタ、バタフリー、スピアーが謎のギプスを体に巻いてトレーニングをしていた。

技の打ち合い、走り込み、火の輪くぐり、玉乗り……後半はバトルというよりサーカスのような気もするが、彼が猛獣使いだからか?

 

「なんというか、すごいな」

 

「すごいスパルタだね」

 

俺とリカが驚いているとアキラが頷く。

 

「こいつらには俺がいない間に自主トレをさせている。どんな時もバトルの感覚を忘れないようにな」

 

そう言ってアキラはモンスターボールを取り出し、そこからポケモンが現れる。

 

ねずみポケモンのサンドだ。

 

「サンド、トレーニング開始だ」

 

「サン!」

 

アキラがそう言うとサンドは自分でギプスを着て、プールに向かって走り出した。

そして、ジャンプ台に登ったサンド。

おい、まさか!

 

サンドはそのままプールに飛び降り沈んだ。

 

「「「えっ!?」」」

 

そして、丸くなったサンドがプールサイドに飛び出して回転し水を振り払う。

 

「お、おいサンドは水に弱いんじゃ」

 

「わかっている。だからそれを克服するためのトレーニングだ」

 

再びサンドはジャンプ台まで行くとそのままプールに飛び込んだ。

 

「相性の問題を根本から克服しようとするなんて、初めて見たわ」

 

もし成功したら大発見だ。

オーキド博士も腰を抜かすぞ。

 

しかし、苦手な水に何度も入ってサンドも辛くないのだろうか。

そう思いサンドの顔を見ると、そこに疲れはあっても怯えや嫌悪はないように見えた。

そうか、これはサンド自身も望んでいること、もっと強くなりたいという気持ちはアキラと同じなんだ。

アキラが口を開く。

 

「俺はサンドと出会って誓ったんだ、究極のポケモントレーナーになると。サンドも最強のポケモンになると約束してくれた。そのために俺たちはどんな困難も乗り越える覚悟がある」

 

「究極のトレーナーに最強のポケモン……か」

 

「そういえば、お前たちは旅をしているなら、もうジムには挑戦したのか?」

 

「ああ、ほら2つゲットした。まあ君みたいに100連勝とはいかないけどな。あっちのリカも2つ。カスミはジムリーダー資格者だからバッジ集めはしてないけどな」

 

「ほう、なかなかやるようだな」

 

アキラは面白そう笑う。

さて、そろそろお暇するか。

これ以上彼の邪魔をするわけにはいかない。

 

「今日は君のポケモンたちをみせてくれてありがとう。またどこかで会うことがあったらバトルしようぜ」

 

「待ってくれ」

 

「どうしたんだ?」

 

「今日はジムを閉めて明日に備えるつもりだったが気が変わった。お前にバトルを申し込みたい」

 

「え?」

 

いきなりの申し出に驚くが、アキラは真剣な顔だった。

 

「バッジ獲得を始める俺の最初の相手になってくれ!」

 

そこまで言われてバトルを受けないわけにはいかないな!

 

「ああ! 受けて立つ!」

 

 

 

***

 

 

 

アキラに案内され、俺たちはバトルフィールドで向かい合っている。

 

「使用ポケモンは1体だ。行けサンド!」

 

「ピカチュウ君に決めた!」

 

「サン!」

 

「ピッカチュウ!」

 

フィールドでピカチュウとサンドが降り立つ。

 

「ええっ!? じめんタイプはでんきタイプの天敵なんだよ!?」

 

リカの驚きの声、やっぱりそう思うよな。

 

「ああ、そうなんだけど。アキラが自分の相棒で来るっていうなら、俺も最初の相棒でバトルしたくなったんだ」

 

「まったく、あんたらしいわ」

 

カスミは呆れながらも仕方ないなという風に笑った。

無茶かもしれないけど、譲れないものがあるんだよ。

 

「相性の悪いポケモンでも向かって来るか、面白い!」

 

アキラも闘志を燃やしてムチを握りしめる。

 

「先手必勝! ピカチュウ『でんこうせっか』!」

 

「サンド『ブレイククロー』だ!」

 

「ピッカァ!」

 

「サンドッ!!」

 

ピカチュウが高速で突撃し、サンドが爪にパワーを纏い、2体は技の衝撃で後退し、その勢いを両脚で和らげている。

 

「パワーは互角か!」

 

「ならばサンド『すなあらし』!」

 

サンドが空を仰ぐと、フィールド全体に砂が勢いよく吹き荒れる。

視界が悪くなり、ピカチュウも少し苦しそうな顔をしている。

 

「これで、いわ、じめん、はがねタイプ以外のポケモンはダメージを受けるわ」

 

「ピカチュウ大丈夫か!?」

 

「ピカ!」

 

ダメージを受けながも、ピカチュウは強気な顔で頷いた。

 

「よおし、ピカチュウ、『でんこうせっか』!」

 

「かわせサンド!」

 

ピカチュウが猛スピードでサンドに突撃する。

パワーが互角なら得意のスピードで攻める。ピカチュウの『でんこうせっか』は一瞬でサンドに接近しーーサンドの姿が消える。

 

いや消えたのではなく、サンドは『でんこうせっか』一瞬でピカチュウの後ろに回った。

 

「な、なんだあのスピードは!?」

 

「驚いたか、サンドの特性『すなかき』だ! 『すなあらし』のフィールドではサンドのスピードは上がる!」

 

「サンド『ブレイククロー』!」

 

「ピカチュウ『アイアンテール』!」

 

「サン!」

 

「チューピッカァ!」

 

サンドはピカチュウの背中に爪を立てようとする。しかし、ピカチュウは素早く反応し、勢いよく尻尾を振いサンドの爪を弾き、回転の勢いでサンドの腹に『アイアンテール』を直撃させる。

 

「ピ……!」

 

攻撃後、ピカチュウは『すなあらし』のダメージを受ける。

 

思わぬカウンターにサンドはダメージを追って後退する。

アキラも驚きながらも冷静に判断を下す。

 

「ならば、サンド『あなをほる』!」

 

サンドは足元を掘るとそのまま穴に入って姿を消した。

地中を素早く掘り進んでいるのだろう。

 

「ピ、ピカ?」

 

相手を見失ったピカチュウは焦り、キョロキョロと周りを見渡す。

直後、ピカチュウの足元の地面が動き、サンドが飛び出しピカチュウに爪を振るった。

 

「ピカ!?」

 

ただの攻撃ではなくじめんタイプの攻撃。

ピカチュウには効果抜群のダメージが入り、そのまま吹き飛び倒れる。

 

「ピカチュウ!」

 

サトシの声にピカチュウは立ち上がる。

 

「サンド『ブレイククロー』!」

 

アキラは攻撃の手を緩めずに追撃する。

 

「くっ、『アイアンテール』!」

 

サトシは迎撃のための『アイアンテール』で『ブレイククロー』を凌ぐ。

 

「サンド『あなをほる』!」

 

再びサンドは地面に潜り、ピカチュウに攻撃を仕掛ける。

 

「ピカチュウ、落ち着いて地面の動きを感じろ!」

 

ピカチュウは頷き、その場に留まり耳と肌を研ぎ澄ませる。

サトシもまた気持ちを鎮めて、神経を研ぎ澄ます。

僅かな沈黙の直後、2人は地面の僅かな揺れを感じた。

 

「ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

後ろの地面が陥没し、サンドが飛び出す。

しかし、ピカチュウは耳に感じた地面の音、肌で感じた揺れ、そして、サトシの言葉で身をかわす。

サンドの攻撃は空振りとなり隙が生まれる。

 

「なに!?」

 

「ピカチュウ、『アイアンテール』!」

 

横回転で鋼鉄の尾がサンドの体を薙ぎ払う。

サンドに『アイアンテール』がクリーンヒットしそのまま吹き飛ばされる。

ピカチュウは追撃のためにサンドに走って接近しようとする。

 

「サンド、スピードスター!」

 

ダメージは受けたが、『すなかき』により得たスピードで素早く飛びのく。

そして、遠距離攻撃の『スピードスター』を放つ。

 

「『アイアンテール』で打ち消せ!」

 

ピカチュウは『アイアンテール』を何度も振るい、連射された『スピードスター』を迎撃する。しかし、これでアキラの狙い通り追撃は失敗した。

 

「ピ……!」

 

『すなあらし』のダメージがピカチュウを襲った瞬間、アキラは動く。

 

「『ブレイククロー』!!」

 

猛スピードにより一瞬でサンドはピカチュウとの距離を詰める。

 

(このスピード、躱しきれない!?)

 

絶体絶命と思ったその時、サトシは閃く。

 

「そうだ! ピカチュウ『10まんボルト』! 地面を狙え!」

 

「ピィカチュウウ!!」

 

『10まんボルト』の激しい閃光と巻き上げられた砂でサンドとアキラの視界は一瞬遮られ、ピカチュウを見失う。

 

「くっ!」

 

サンドの動きが止まった一瞬、ピカチュウはすでに攻撃準備は完了していた。

 

「ピカチュウ『アイアンテール』!」

 

「チュウウ、ピッカァ!!」

 

ピカチュウの鋼鉄の尾がサンドの脳天に振り下ろされる。

 

サンドはそのまま倒れて目を回した。

戦闘不能。

 

 

 

***

 

 

 

「……戻れサンド」

 

サンドをボールに戻したアキラはそのまま俯く。

しばらく沈黙が続き、俺はその様子に戸惑う。

 

「なあ、アキラ」

 

するとアキラが顔を上げ、可笑しそうに哄笑した。

 

「ははははは!! 旅の最初のバトルが敗北か、こいつはいい!! ははははは!!」

 

そこに悔しさや怒りなどの負の気持ちはなく、ただ気持ちよさそうに笑っていた。

そして、バトルフィールドを通って俺に近づいて来た。

 

「礼を言う、おかげで世界の広さを知ることができた」

 

アキラは右手を差し出した。

俺は笑い、その手を力強く握った。

 

「こちらこそ、良いバトルをありがとう」

 

アキラは頷く。

 

「いつか旅先で出会うことがあれば、またバトルしてくれ。次勝つのは俺だ」

 

「ああ、だけど俺ももっと強くなるぜ」

 

新たなライバルができた。そう確信が持てた。

 

 

 

 

俺たちはアキラのジムを後にし、旅を再開した。

 

「まったく相性悪いのに一時はどうなるかと思ったわ」

 

「そうだね、だけど、勝っちゃうなんてすごいよ」

 

「アキラも言ってたがやっぱり世界は広いよな。これからまだまだ強いトレーナーやポケモンと出会うんだと思うとわくわくしてくる」

 

そう思うと居ても立っても居られない。俺は走り出した。

 

「ちょ、待ちなさいよ!」

 

「もう、いきなり走らないでよ!」

 

カスミとリカのお咎めを頂きながら、俺は次の出会いを待ち焦がれ走り続けた。

 

 

 

***

 

 

 

「霧が深いねー」

 

「先が見えないわ」

 

アキラとのバトルからしばらく、俺たちはどこか深い森の中にいた。

どういうわけか霧が立ち込め、視界が遮られる。

 

「はぐれたら危ないから手を繋ぐか?」

 

「「え?」」

 

リカとカスミがポカンとした顔になった。

 

「なーんて冗談――」

 

「それいいかも、うん、はぐれたらいけないもんね」

 

「しょ、しょうがないわね、サトシがはぐれないように繋いであげるわ」

 

「い、いや、今のは冗談――」

 

これはたしかにご褒美だが、流石に恥ずかしいよ。

 

「「は?」」

 

「いえ、なんでもないです……」

 

いやこれは何も言えない。

女の子がしていい目じゃなかったもの。

 

 

 

 

俺を挟むようにカスミとリカは手を繋ぎそのまま歩き出した。

歩けど歩けどどこまでも霧、霧、霧、先は見えない。

そしてお嬢さん方、時々俺の手をにぎにぎしないでください。

変な気持ちにならないとも限りませんよ。

 

「それにしても人どころかポケモンもいないわね」

 

「うん……うん?」

 

不意にリカが立ち止まり、前方をジッと見ていた。

 

「ねえ、あれ……」

 

リカが前を指さしたため、俺とカスミはつられて見る。

 

深い霧の中でなにかがゆらゆら赤く光っていた。

あれって……

 

「「ひ、人魂!!?」」

 

体に窮屈さを感じるとカスミとリカが左右から俺にしがみついていた。

ああ、2人の柔らかい胸とか太ももが密着して幸せ……だけどそんなに圧迫されると苦しい……

 

「ま、まて2人とも……何か、は、話し声が、聞こえる」

 

「「え?」」

 

俺の言葉で2人は離れた。

少し惜しかったかな?

 

「行ってみよう」

 

 

 

 

 

「おいジュン、早く答えろ。じゃないともっとスピードを上げるぞ」

 

「は、はい……」

 

光に近づくと、そこには6人の少年が蝋燭を持ち1人の少年を囲んでいた。

光の正体は蝋燭だったのか。

ただ驚くところはそこではなく、囲まれている少年はランニングマシンで走らされていた。

 

「うわあ!」

 

そして、走っていた少年は転んでしまった。

 

「……すいません、わかりません」

 

俯いてそう言うと、周りの少年たちは溜息をついた。

 

「わからないで済むか、それでもポケモンゼミの生徒か?」

 

「まったく、君みたいな問題児と一緒に勉強なんて本当に嫌になるよ」

 

おいおいこれは完全に――

 

「おい待てよ」

 

つい口が出てしまった。

少年たちは一斉にこちらを振り向き怪訝な顔をした。

 

「よってたかって1人をイジめるなんて感心しないぜ」

 

するとリーダー各らしき少年が前に出る。

 

「部外者は引っ込んでてくれるかな、これは僕たちの問題なんだ。それにイジメとは心外だな。僕たちは彼を想ってこうしてるんだ。友情なんだよ」

 

「そんな友情があってたまるか。確かに俺たちは部外者だけど、イジメの現場を放っておくほど人でなしじゃないつもりだ」

 

「やれやれ、どうしても僕たちを悪者にしたいらしい。まあいいや、君たちなんかとかかわってる暇は無いんだ。今日はこれでお終いにしよう。じゃあなジュン、またゼミで会おうな」

 

「は、はい」

 

そうしてイジメ少年たちは霧の奥へと消えて行った。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ、いつものことなので」

 

ジュンと呼ばれた少年は作り笑いを浮かべる。

 

するとリカが前に出て言った。

 

「もしかして、あなたポケモンゼミの生徒さん?」

 

「は、はいそうです」

 

「ポケモンゼミってなんだ?」

 

「確かポケモントレーナーの学校のことよね。学費が物凄く高くてお金持ちじゃないと通えないって話よ」

 

この世界では10歳までに義務教育を終えるはず、つまりそのポケモンゼミは予備校ということか。

確かにポケモントレーナーはこの世界における花形とは言え、学校であれこれ勉強とはな。

 

そう思っていると霧の奥からキーンコーンカーンコーンと音がなった。これはもしや……

 

『本日の霧の中の授業はこれで終わりです。明日は雪の中の授業になります」

 

大きな建物からチャイムと共にそんなアナウンスが流れた。

あの霧はこの学校が出していたのか、人騒がせな。

 

「こんなところに学校があったんだね」

 

「今日の授業は終わったみたいだけど、明日もこのままだとイジメを受けるわよ」

 

カスミが言うとジュンは首を振る。

 

「いえ、あれは愛のムチです。僕のためにあえて厳しくしてるんです」

 

「あれのどこがの愛の鞭なの!? どう見てもイジメだよ!」

 

リカの言う通り。

学校という閉鎖された空間。

そこでは精神的に未熟な子供たちによりカーストが生まれ、下層の人間は上層の人間に淘汰される。

どこでも人間のすることは同じなのか。

 

「仕方ないんです。僕は初級クラスのドベだから」

 

「初級ってなんだ?」

 

「このゼミでは生徒の能力ごとにクラスを分けているんです。初級はバッジを2つ持っているのと同じ資格があるんです。中級はバッジ4つ分の資格、そして上級と卒業者はバッジを集めなくてもそのままポケモンリーグに出場できるんです」

 

真面目に勉強した分見返りも大きいってことか。

果たしてバッジを集めるのとどっちが大変なのかね。

 

「まあ、成績は君自身の問題だ。だけど、だからって何も言い返さずされるがままで辛くないのか?」

 

「確かに、毎日あんなことされるのは辛いです。だけどおかげでちゃんと必要なことを覚えられたのは事実です。それに僕はたとえどんな仕打ちを受けても僕はここで勉強してしっかり卒業したいんです。パパとママが一生懸命働いて、僕をここに入学させてくれたんだから」

 

両親の期待に応えたいか、それならご両親のためにも迂闊に「ゼミを辞めた方がいい」なんて言えないな。

それならイジメ自体を失くすしかない。

 

「教師は何も言わないのか?」

 

本来なら教師が生徒を守るはずなんだがな。

 

「あの人たちは授業するのが仕事だから、それ以外のことは知らぬ存ぜぬなんだ」

 

なんとも虚しい話だ。

俺の元いた世界も似たようなものだけどな。

 

教師が頼りにならないなら、本気でジュン自身がどうにかするしかない。

俺たちも手を貸すことになるだろうけどな。

 

「ジュン、君のその愛の鞭の親玉は誰なんだ?」

 

「この人です」

 

ジュンが懐から取り出したのは写真だった。

写真には1人の女性が映っていた。

 

「わあ、綺麗な人……」

 

「セイヨさんです」

 

おお、美人だ。

長い茶髪に整った顔立ち、さらに写真からでもスタイルの良さが伺える。セーラー服というのもなかなかポイント高い。

たしかに美人だけど、性格キツそうなのが表情に出てるな。

 

「彼女は初級クラスのツートップの1人です。ちなみにもう1人はさきほど僕に指導してくれた内の1人のケントさんです。先ほどあなたたちに話しかけていた人です」

 

あのリーダー各の男か。

 

写真を見ているとカスミがジュンに強く問いかける。

 

「ちょっと待って! どうしてそんな娘の写真なんて持ってるの!?」

 

「いいんです、性格悪くても可愛ければ」

 

面食いか君は、それか……ドM?

 

「まあ、君がどんな性へ……ゴホン! どんな気持ちでもこのままだと事態は悪化するだけだぞ」

 

「ええ、わかっているのですが……」

 

こう気が弱いから付け込まれるんだよな。

仕方ない、協力するか。

 

すると、肩を叩かれる。

 

「どうしたリカ?」

 

どこか不安げにリカは俺を見ていた。

 

「ねえ、サトシは……この綺麗な人……どう?」

 

「うん? まあ、美人だと思うけど、タイプじゃないな。それにイジメを主導するような娘は嫌だな」

 

「そっか……そうなんだ……」

 

「……よかった」

 

どこかホッとしたような顔のリカとカスミ。

ああそっか、俺がその娘に一目惚れして、強く言えないんじゃないかと思ったんだな。

まあ俺は確かにスケベだけど、そのあたりの良識はあるから心配しないでくれ。

 

「まあなんにしても、このままだとジュン、君は潰れる可能性が高い。このゼミにいたいのなら、嫌なら嫌とハッキリ奴らに言うべきだ」

 

「そう……でしょうか……」

 

「とにかくジュン、そんな悪い子にはガツンと言っとかないと後で取り返しのつかないことになるわ! 言えないなら私が言うわ、さあ、行くわよ!」

 

カスミはズンズンと校舎に向かって歩き出した。

 

「お、おいカスミ!」

 

「勝手に入ったらダメだよ!」

 

「いえ、一般のトレーナーは見学ということなら入っていいんですよ」

 

「あ、そうなの?」

 

「はい、事務室に入って許可証を貰ってからですが」

 

「聞いただろカスミ! 事務室行くぞ!」

 

俺は走りながらカスミを呼び止めた。

 

 

 

***

 

 

 

事務室での手続きを終えた俺たちはポケモンゼミに足を踏み入れた。

 

ジュンに付いて行って『トレーニング室』と書いてある部屋に入った。

どんなトレーニング器具や広いバトルフィールドがあるのかと思って中に入ってみると、そこにあったのはたくさんのパソコンだった。

 

「セイヨさんはいつもここで自主トレしてるんだ」

 

自主トレって、パソコンしかないぞこの部屋。トレーニングなんてどうやるんだ?

 

不意にジュンが立ち止まり俺たちに振り返った。

 

「あの、暴力はやめてくださいね。ここはポケモンゼミなのでポケモンバトルの実力がモノを言うんです。実力を示さないと誰も相手にしてくれませんよ。ちなみに3人はバッジは持ってるんですか?」

 

「ああ、俺とリカが2つずつ」

 

「私はジムリーダー資格者だからバッジは集めてないわ。ちなみにハナダジムのトレーナーよ」

 

「うーん、皆さんそれだと心許ないな……」

 

「どういうこと?」

 

ジュンが残念そうな顔をするとリカが尋ねた。

 

「さっきも言ったけどセイヨさんは初級のトップでバッジ3つの実力があるんだよ。初級のドベの僕だって、バッジ2つ以上の実力があるんだ」

 

つまりこういうことか?

 

「この中だとお前が一番実力があると?」

 

「まあ、そうだね。それにハナダジムもシミュレーションで何度も勝ってるし、負けないと思うよ」

 

「ちょっと! なによシミュレーションって!?」

 

すると納得いかない表情のカスミが前に出てジュンに言い放った。

 

「ほら、このパソコンでポケモンバトルのシミュレーションが出来るんだ。弱いポケモンからジム戦まで幅広くね」

 

自主トレってそういうことか。

ジュンがパソコンを操作すると、画面にウツドンとスターミーが現れてバトルを始めた。

ウツドンの『はっぱカッター』がスターミーに直撃し、一発で戦闘不能になった。

 

「ほらね」

 

いやこれただのゲームだろ、そんなドヤ顔されてもなにもすごくないが。

 

「シミュレーションはシミュレーション、私は私よ!」

 

カスミはボールを取り出す。

 

「証明してあげるわ」

 

強い意志のこもった真剣な表情のカスミは宣戦布告した。

対するジュンは余裕な表情だ。

 

「負けないよ」

 

 

 

 

別の部屋のバトルフィールドに案内され、そこでカスミとジュンが相対している。

最初と趣旨がずれてるぞ。

ジュンを助けるはずがバトルすることになるなんてな。

 

「どうなっちゃうんだろ」

 

「まあ、見守ろうぜ」

 

カスミがボールを構える。

 

「ハナダジムをナメないで! 行っけえ、My Steady!!」

 

「水の無い場所でみずポケモンは力が発揮できるはずがないよ。行け、くさタイプのウツドン!!」

 

カスミのボールからスターミー、ジュンのボールからは大きな口と手のような2枚の葉っぱがついてる草ポケモンのウツドンが現れる。

 

「ウツドン『はっぱカッター』!」

 

ウツドンから鋭い葉っぱが大量に発射される。

 

「スターミー、『みずのはどう』!」

 

スターミーから水の音波が発射される。

 

2体の放った技が激突した、すると『みずのはどう』が押し勝ち『はっぱカッター』を飲み込む。

そしてウツドンに直撃し、そのまま戦闘不能になった。

 

「そ、そんな馬鹿な、ウツドンは水に強いのに!?」

 

ジュンは信じられないという顔になる。

 

「だからあなたは弱いのよ」

 

透き通るような声が部屋に響いた。

 

「ポケモンジムのトレーナーはその辺りのトレーナーよりも腕が立つわ。その上、実力を磨き続けてる。あなたみたいな実力もままならない子が力押しで勝てるはずないじゃない」

 

「セイヨさん……」

 

そこにいたのは写真に写っていた少女セイヨだ。

周りには先ほどジュンにイジメをしていた男子たちがいる。

 

「まったく、そんなんじゃ先が思いやられるな。お前1人の負けじゃないんだぞ。俺たちやこのゼミの評判にもかかわるんだ」

 

男子たちの中から1人が前に出る。あの時のリーダー格、ケントだっけか。

 

「あなたへの教育の前に、汚点を消さないといけないわね」

 

ジュンを叱責していてセイヨはカスミの方を見た。

 

「ハナダジムのトレーナーさん、次は私が相手よ」

 

「そう、かかってきなさいイジメっ子さん」

 

おおう、女同士の睨み合い、めちゃこええ~!

 

セイヨはモンスターボールを一つ手に取る。

 

「あなたのスターミーには……これよ。行きなさいゴローン!!」

 

「ゴロォ」

 

セイヨのモンスターボールからゴローンが飛び出した。

 

「な、いわタイプのゴローン!?」

 

「みずタイプとの相性は悪いのに!?」

 

「相性の悪いポケモンが相手でもレベルが高ければ勝つことは簡単よ!」

 

「スターミー、『みずのはどう』!!」

 

「フゥ!!」

 

スターミーが発射した『みずのはどう』がゴローンに直撃する。

ゴローンにとって一番相性の悪いみずタイプの攻撃。これで戦闘不能になってもおかしくない。

だが、ゴローンは何事もないように立っていた。

 

「なんだと!?」

 

「効果は抜群のはずなのに!?」

 

「言ったでしょ、レベルが違うの! ゴローン、『すてみタックル』!」

 

「スターミー!?」

 

ゴローンの強烈な一撃にスターミーは吹き飛ぶ。

これほどの破壊力とは、これが高レベルのポケモンの力か。

フラフラと立ち上がったスターミーだが、ボロボロで満身創痍という様子だ。

 

「『れいとうビーム』!!」

 

スターミーが力を振り絞って『れいとうビーム』を放つ。

ゴローンにクリーンヒットし、氷漬けになった。

 

「今よ、『じこさいせい』!」

 

上手い、相手が動けない今なら体力を回復できる。

 

しかし、セイヨは余裕そうに笑っていた。

 

「砕きなさい」

 

その一言でゴローンは氷の呪縛から解かれ動き出す。

 

「『ストーンエッジ』!」

 

ゴローンから鋭い岩石が発射される。

 

「『サイコキネシス』で止めて!」

 

回復の途中だが、スターミーは念動力で岩からガードする。

 

またもスターミーに接近するゴローン。しかし、スターミーは動き回って捕まらない。

素早さではスターミーがまだ優っているのか。

まだ勝機はある。

 

「スターミー『れいとうビーム』!」

 

「ゴローン『アームハンマー』」

 

スターミーの『れいとうビーム』をゴローンは拳を振るってかき消していく。

そして、その拳がスターミーに振り下ろされる。

 

完全にスターミーの体を捉え、クリーンヒットした一撃、ボロボロになったスターミーはそのまま――

 

 

――まだ立っていた。

 

「スターミー!!」

 

「そんな!? もう体力は尽きたはず!?」

 

カスミの驚嘆の声とセイヨの驚愕の声が重なる。

先にカスミが動く。

 

「『サイコキネシス』で動きを止めて!」

 

一瞬、ゴローンは全身を硬直させたが、念動力を振り払う。

しかし、その時にはスターミーはゴローンに接近していた。

 

スターミーとゴローン、その距離はゼロ!

 

「『みずのはどう』!!」

 

全身全霊の水技が超至近距離でゴローンに放たれる。

濡れたフィールドで苦悶の表情のゴローンが僅かに後退する。

 

「もう一度『みずのはどう』!!」

 

「フゥ!!」

 

スターミーは再び接近し、超至近距離の『みずのはどう』を放つ。

激しい水流がゴローンの全身を包み込む。

今までで一番の破壊力のスターミーの『みずのはどう』だ。

 

水流が止むと、水浸しになったゴローンが倒れ、スターミーも力を出し切ったように倒れた。

バトルの結果は、

 

「……ダブルノックアウトか」

 

「スターミー!!」

 

悲痛な声を上げてカスミはスターミーを強く抱きしめる。

 

セイヨは呆然とした顔でゴローンを見ている。

 

「引き分けになってよかったな、ゼミの汚点はギリギリ消せたんじゃないか?」

 

「っ!」

 

悔しそうな顔で俺を睨むセイヨ。

おいおいこれくらいの嫌味は許してくれよ。

 

セイヨはゴローンをボールに戻すと髪をかき上げて余裕そうな表情を取り戻す。

 

「ふんっ、それでも本来相性の良いはずのみずポケモンがいわポケモンに苦戦した理由はわかるかしら?」

 

セイヨは言いながら前に歩き出す。

 

「ポケモンが高いレベルを持ち、それを扱うトレーナーがその能力を計算して指示を出せば、どんな相手であろうと負けない。そのための勉強をして本番で発揮できるのか一流のトレーナー。残念だけど、ただ旅をしてるだけのあなたたちとは文字通りレベルが違うのよ」

 

得意げに語ってるとこ悪いけど、それズレてんだよ。

 

「その理屈だと、レベルが高いポケモンを腕が一流のトレーナーが扱うなら相性悪くても負けないだろ。それでも君はカスミと引き分けになった。つまり、君のトレーナーとしての腕が未熟で、むしろ引き分けに持ち込んだカスミの方が遥かに優れていたってことだ。いくらお勉強ができてもその程度なんだな」

 

セイヨは再び悔しそうに俺を睨む。

不思議なことにカスミと睨み合いをしていた時の彼女に比べるとまったく怖くないな。

 

「そんなに悔しいなら試してみるか? ただ旅をしてるだけのトレーナーの実力を」

 

「いいわよ、相手してあげるわ」

 

「それなら俺はこっちのお嬢さんだな。ここでは場所が狭いからみんな外のフィールドに行こう」

 

セイヨに続いてケントも前に出た。

 

「リカ、あの男の相手頼んだ」

 

「うん、サトシも負けないでね」

 

俺とリカは座り込むカスミの肩に手を置く。

 

「「勝ってくる」」

 

俺とリカは同時に言う。

 

「ええ、任せたわ」

 

カスミの声を背に、俺たちは外に向かう。

 

 

 

***

 

 

 

グラウンドにある複数のバトルフィールドのうちの2箇所にサトシたちはいた。

 

リカはケントと相対する。

 

ケントは見下したような顔でリカを見る。

 

「お嬢さんには趣向を変えたバトルを申し込もう。ダブルバトルは知ってるかな?」

 

「はい、タッグバトルが2人のトレーナーがそれぞれ1体ずつポケモンを出すのに対して、ダブルバトルは1人のトレーナーが2体のポケモンを出すバトルですね」

 

「ははは、知識は花丸だな。だが、複数のポケモンに適切な指示を出すのはかなりの技術が必要だ。君はどこまで戦えるかな?」

 

「私はポケモンたちを信じてバトルするだけです。お願いピッピ、ニドラン!」

 

「ピッピー!」

 

「ニンニン!」

 

「ピッピにニドラン♀、フェアリータイプにどくタイプか、ならばこっちは、行けコイル、サイホーン!」

 

「ジジジ!」

 

「グオオ!」

 

球体に目があり、頂部にネジ、左右に磁石がついたポケモン、コイル。

岩で出来た四足の体、穴の先に角があるポケモン、サイホーンが現れる。

 

「コイル『マグネットボム』、サイホーン『ドリルライナー』、ニドランを狙え!!」

 

コイルから黒い球体が発射され、サイホーンの角にエネルギーが纏い、ニドランを狙い撃つ。

 

「ダブルバトルの基本、それは相手のポケモンを1体ずつ確実に戦闘不能にしてしまうことだ」

 

ケントは勝利を確信したようにニヤリと笑う。

しかし、リカは焦らず冷静に指示を出す。

 

「ピッピ『リフレクター』!」

 

「ピッピッ!」

 

ニドランとピッピの周りを薄く光る直方体が取り囲む。

発動すれば一定時間、相手の物理攻撃の威力を半減させる補助技だ。

ニドランは効果抜群の『ドリルライナー』は避けるが『マグネットボム』は回避が間に合わない。

しかし、『リフレクター』の効果でダメージは軽減され、まだまだ健在だ。

 

「な、なに!? ならば特殊攻撃だ。コイル『10まんボルト』、サイホーン『かえんほうしゃ』!!」

 

「ピッピ『ひかりのかべ』!」

 

『リフレクター』とは違う色の直方体がピッピとニドランを囲む。

特殊攻撃を半減させる『ひかりのかべ』がコイルとサイホーンの攻撃を弱める。

 

「な、おのれ……」

 

ケントは思い通りにいかないことに苛立ちが顔に浮かぶ。

 

「今度はこっちが行くよ、ニドラン『にどげり』!! ピッピ『コメットパンチ』!!」

 

「ニンニン!」

 

「ピッピ!」

 

ニドランは浮遊するコイルを蹴り飛ばし、ピッピは鋼を帯びたパンチをサイホーンに振るう。

どちらも効果抜群の攻撃。

コイルは吹き飛ばされる。

 

「ジジジ!?」

 

「サイホーン、ニドランを狙え!!」

 

ピッピの『コメットパンチ』を耐えたサイホーンは走り出し、角を回転させてコイルの相手をしているニドランに迫る。

 

「ニドラン『みずのはどう』!」

 

迫り来るサイホーンに対しニドランは水の音波を生成し、発射する。

みずタイプの攻撃がいわ・じめんのサイホーンに大ダメージを与える。

 

「グオオ!?」

 

「な、みずタイプの技だと!?」

 

「カスミに教えてもらった技だよ」

 

互いに覚えられる技を教え合う。

これはサトシたちが行なっているトレーニングの一つだ。

練習の成果が出たことにリカは自信を胸に抱く。

 

 

 

***

 

 

 

サトシと向かい合うはセイヨ、彼女は先ほどと変わらず余裕そうな顔でサトシを見ている。

 

「あなた、本気で私に勝つつもり? だいたいピカチュウなんて、扱いにくくて初心者用のポケモンとして相応しくないわ。そんなポケモンを最初に選ぶなんてトレーナーとしての知識にも問題があるみたいね。このゼミのどんな先生もそんなことは教えないわよ」

 

サトシは答えない。

 

「それにピカチュウって見た目は可愛いから基本的に愛玩用としての人気は高いのよ。少なくとも進化させない限り実践向きでは無いわ。そのあたりわかってる?」

 

「ピカチュウが可愛いのは知ってるよ」

 

俺の足元のピカチュウが「チャー」と照れているが今は置いておこう。

 

「はあ……まったく皮肉が通じないなんてお勉強が足りないのね」

 

「無駄口はいいから、バトルするのか、しないのか?」

 

「ふん、いいわ、あなたのピカチュウにはこれよ。行けカラカラ!」

 

セイヨが投げたボールから現れたのは、骨を被り、長い骨を手に持つ小型のポケモン、カラカラだ。

 

「カラカラカラカラ……」

 

じめんタイプのカラカラはでんきタイプのピカチュウには天敵だ。

 

「あれだけ大口叩いて、でんきタイプのピカチュウに強いポケモンを使うんだな」

 

「心配しないで、このカラカラのレベルはあなたのピカチュウにあわせてあるわ。それにジム巡りの旅をしているトレーナーの実力を見せてくれるのでしょう?」

 

「ああ、じゃあそうするよ。ピカチュウ『でんこうせっか』!」

 

「ピッカァ!」

 

「カラカラ、かわしなさい」

 

ピカチュウの猛スピードの突進をかわすカラカラ。

 

「『ホネこんぼう』」

 

「『アイアンテール』!」

 

「カラァ!」

 

「チュー、ピッカ!」

 

振るわれる骨にピカチュウは『アイアンテール』をぶつける。

打ち合った後、2体は後退して元の位置に戻る。

 

「ふーん、じめんタイプにでんき技は効果が無いことは知ってたの、最低限の知識はあるみたいね。だけど、でんき技の使えないピカチュウなんて翼を失くした鳥ポケモンよ。あなたたちに勝ち目は無いわ」

 

「悪いな、俺、じめんタイプを持つ強いトレーナーをピカチュウで倒したことあるんだ」

 

「だからなに?」

 

「少なくとも、その人の方が君より強かったぜ」

 

サトシの言葉にセイヨは目に見えて顔を怒りで赤くする。

 

「っ! カラカラ、『ホネブーメラン』!」

 

「かわして、『でんこうせっか』!」

 

ピカチュウは飛来する『ホネブーメラン』を走りながらジャンプで回避し、カラカラに突進する。

 

「カラカラ『れいとうビーム』!」

 

「カラ!」

 

ピカチュウはスピードを維持したまま『れいとうビーム』を回避し、カラカラに突進する。

 

「ピカチュウ、後ろだ!」

 

「ピッ!」

 

『ホネブーメラン』が戻ってきて、ピカチュウの後頭部を狙う。サトシの声が聞こえたピカチュウはジャンプして骨を回避する。

 

骨はカラカラの手に戻り、そのままピカチュウに振るわれる。

 

ピカチュウバックステップでそれを回避する。

 

2体は再び睨み合いとなる。

 

 

 

***

 

 

 

「これならどうだ、コイル『でんじは』!」

 

苛立ち混じりにケントは指示を出す。相手を痺れさせ『まひ』状態にする補助技がピッピに放たれる。

 

「ピッピ『しんぴのまもり』!」

 

「ピッ!」

 

ピッピとニドランを守るようにオーラが発生し、『でんじは』を遮断する。

 

「これでこの子たちは状態異常にならないよ」

 

ケントは自分が出す全ての技が空振りとなり、驚愕と混乱と苛立ちで顔がぐしゃぐしゃになった。

 

そんなケントにリカは指差し言い放つ。

 

「ダブルバトルの基本は、ポケモン同士が助け合うことだよ!」

 

ケントは苛立ちをぶつけるように地団駄し、うめき声を出す。

 

「ま、負けるか、初級トップの僕が負けるかあ!! コイル『10まんボルト』、サイホーン『ドリルライナー』!!」

 

ニドランはジャンプし、コイルに向かう。

 

「『にどげり』!!」

 

「ニンニン!!」

 

半減された『10まんボルト』をニドランは耐え抜き、強烈な蹴りをコイルにお見舞いする、

コイルは吹き飛ばされ、戦闘不能になる。

 

「ジ……」

 

「ピッピ、お願い」

 

「ま、まだサイホーンは耐える!」

 

ケントはピッピの『コメットパンチ』が来ると予想するが、先ほどのように耐えられると確信していた。さらにそこから逆転のチャンスもあるはずだと。

 

「ニドラン『てだすけ』!」

 

コイルを倒したニドランはリカの元へ戻るように走っていた。そして、サイホーンに向かうピッピとすれ違いざまに2人は笑顔でハイタッチする。

 

「ニン!」

 

「ピッ!」

 

それには技の威力を高める『てだすけ』の効果が含まれていた。

 

「行っけぇピッピ、『コメットパンチ』!!」

 

「ピッピー!!」

 

「グオオオ!?」

 

再びサイホーンに振るわれるピッピの鋼の拳、威力の上がった拳はサイホーンの顔面を捉えてめり込んだ。

強烈な一撃を受けたサイホーンはそのまま吹き飛び、仰向けに倒れ、戦闘不能となった。

 

「やった! すごいよピッピ、ニドラン。いえーい!」

 

「ニン!」

 

「ピッ!」

 

呆然とするケントを他所に、リカは健闘したニドランとピッピと笑顔でハイタッチをした。

 

 

 

***

 

 

 

(一気に決める!)

 

サトシは瞬時に戦略を組み立てた。

 

「ピカチュウ、『10まんボルト』」

 

「はあ? あなた正気? でんきタイプの技はじめんタイプには――」

 

「ピカァ!」

 

瞬間、閃光が走る。

カラカラは自分に飛来してきた閃光を咄嗟に骨でガードした。

いくら効果の無い技でも、高速で自分に向かうものを生き物は反射的にガードしてしまう。

それがサトシの狙い。

 

「今だ、ピカチュウ走れ!」

 

防御姿勢をとったカラカラにピカチュウは一瞬で距離を詰める。

 

「な、なにを無駄なことを、カラカラ『ホネこんぼ――」

 

「『アイアンテール』で骨を弾け!」

 

鋼鉄となったピカチュウの尻尾が振るわれ、打ち下ろされるカラカラの骨をその手から弾き飛ばす。

 

カラカラは自分の得物が上空に打ち上げられたことに驚き、顔上げて骨を目で追った。

 

「もう一度『アイアンテール』!」

 

ピカチュウは回転して尻尾を振るいカラカラを顎から打ち上げる。

 

カラカラは成すすべなく上に吹き飛ばされる。

 

「ピカチュウジャンプだ!」

 

「打ち下ろせ『アイアンテール』!」

 

「チュウウ、ピッカァ!」

 

『アイアンテール』が頭に直撃したカラカラは勢いよく落下した。

カラカラは痛みを堪えて立ち上がる。

すると、上空に飛んでいた骨がカラカラの頭に落下し、ぶつかった。

ゴンッという音がし、カラカラが尻餅をついて一拍

 

「カラアアァ!! カラカラカラカラカラァ……!」

 

カラカラは大声で泣き出した。

 

 

 

***

 

 

 

俺とセイヨのバトル、リカとケントのバトルは同時に決着がついた。

俺たちの勝ちだ。

 

「ああ、ねぇちょっと、な、泣かないでよ……」

 

セイヨはカラカラに近づき泣き止ませようとするが、カラカラの涙は止まらない。セイヨはどうしていいかわからずに狼狽える。

 

泣いた子供のあやし方なんかそうわからないよな。

仕方ない助けてやるか。

 

「なにやってんだ、ほら、あやしてやらないと」

 

「そ、そんなこと言われても、どうしたら……」

 

「ほら手、貸せ」

 

「あっ!」

 

俺はセイヨの手を握り、その手をカラカラの頭に持っていく。

そのままセイヨの手でカラカラの頭を優しく撫でる。

 

「ほら、もう痛くないぞ、泣きやめよ」

 

「……カラ」

 

少しずつ、カラカラは落ち着きを取り戻した。

よし、いい子だ。

 

「もう休ませてやれ」

 

「え、ええ、戻ってカラカラ」

 

セイヨはカラカラをボールに戻した。

 

「ね、ねえ、手を……」

 

おっと、ずっと手を握ったままなのを忘れてた。

俺はセイヨの手を離す。

セイヨはジッと自分の手を見ていたと思ったら顔を上げて俺を見た。

 

「ね、ねえあのピカチュウの電撃はなんなの? いえ、電撃だけじゃない、あのピカチュウのパワーよ! ピカチュウにあんなパワーがあるなんて信じられないわ!」

 

「ああ、あれ? ピカチュウの体に負担をかけないように電気のコントロールができるように鍛えたんだ。あの速い電撃はその副産物みたいなものだな。パワーについては、これも鍛えたとしか言えないな」

 

「そ、そんな!? ピカチュウみたいな進化の途中のポケモンは自分の力のコントロールなんてままならないはずよ! パワーだって、ピカチュウは力が弱いポケモンなのに!?」

 

「でも俺のピカチュウはできるぜ」

 

「そんなの、どの教科書にも載ってないわ」

 

ああ、そうか。

セイヨたちはやっぱりわかってなかったんだな。

 

「君たちが使ったポケモンは全部このゼミで借りたポケモンたちだろ? だからわからないんだよ」

 

「……どういうこと?」

 

「ポケモンはな、データでも数字でも無いんだよ。ここにこうして生きてるんだ」

 

セイヨたちはよくわからないと首をかしげる。

 

「ポケモンの能力のデータをいくら読んで勉強してもポケモンのすべてをわかるなんてできるはずがない。それは同じ種類のポケモンでも1人1人違うからだ。みんなただ1人だけのポケモンなんだ。それはトレーナーが自分でポケモンに触れあわないとわからない」

 

ようやく理解したのか、セイヨたちはハッとした顔になる。

 

「ただ、これは俺が思ったことで絶対正しいかなんてわからいよ。けど、こうしてポケモンたちをゲットして友達になれば、どこまでも強くなれる。俺はそう思う……そう信じてる」

 

セイヨは持っているボールを見て俯いた。

 

「めちゃくちゃよ、データから外れた力なんて……そんな教科書に載ってない考え……」

 

「教科書に載ってないなんて、すごい!」

 

セイヨの言葉にジュンは目を輝かせる。

 

「どうする? まだバトルするか?」

 

俺が言うとセイヨは首を振る。

 

「……いいえ、白旗を上げるわ。私の完敗よ」

 

「セ、セイヨさん……」

 

ケントはまだ納得していないのか、セイヨの敗北宣言に驚く。

 

「あなたもわかったでしょ? 私たちはまだまだ世間知らずだったのよ」

 

「っ!」

 

セイヨがそう言うとケントも諦めたのか、もう何も言わなくなった。

 

するとセイヨは前に出て俺たちに頭を下げた。

 

「見下すようなことを言って本当にごめんなさい」

 

「俺たちはいいよ。それよりも……」

 

俺がジュンの方を見るとセイヨはジュンにも頭を下げる。

 

「ジュンくん、いままで酷い仕打ちをしてごめんなさい」

 

ジュンは顔を赤くしてワタワタと両手を顔の前で振る。

 

「い、いいんですよセイヨさん。みんな僕のためにしてくれたんですから」

 

「それでも、キツく当たるような仕打ちだったのは間違いないわ」

 

「セイヨさん……僕、皆さんの期待に応えられるようにこれから頑張ります。だから……これからも、よろしくお願いします!」

 

ジュンは強く言うと、お辞儀をして右手をセイヨに突き出す。

驚いたセイヨはフッと笑うとその手を握る。

 

「ええ、こちらこそ!」

 

和解成立。

これで万事解決だな、よかったよかった。

 

握手を終えたジュンが俺たちの前に来た。

 

「サトシさん、カスミさん、リカさん、本当にありがとうございました。皆さんのおかげで、僕、これからも頑張れそうです」

 

そこにはもう悩んだり落ち込んだり不安になる顔は無い。自信に満ちた良い顔だ。

 

「よかったな、これからみんなとがんばれよ」

 

「あ、あの、サトシ……くん」

 

ジュンの前進に満足していると、セイヨが俺に話しかけてきた。心なしか、顔が赤い。

 

「ん? どうした?」

 

セイヨは胸の前で両手を握り口を開いた。

 

「先ほどのあなたの話、とても感動したわ。私の固定観念がすべて覆った気持ちよ」

 

いやいやそんな大袈裟な、俺もトレーナーとして未熟なんだし、そこまで深く考えなくても。

まあ、彼女が納得しているならいいか。

 

「そっか、まあ俺も偉そうなことを言って申し訳ない」

 

「いいえ、とんでもないわ。とても大事なことを教えてもらいました。それで……その……」

 

セイヨの顔がさらに赤くなった気がするが勘違いか?

彼女は言い淀んで俯いたと思ったらまた顔を上げた。とても良い笑顔だ。

 

「ん?」

 

「私、これからトレーナーとしてより一層の研鑽に励むわ。ゼミを卒業したら旅に出るつもりよ。そしてその時あなたに逢えたら……」

 

セイヨは深呼吸した。

 

「私とバトルしてください!」

 

セイヨは先ほどジュンがしたようにお辞儀をして右手を突き出してきた。

 

「おう、いいぜ。待ってるよ」

 

俺はその手を握った。

すると顔を上げたセイヨはもう片方の手も使い、俺の手を包み込んだ。

 

「はい、是非お願いします」

 

こんなことされると流石に照れる。

最初に見た時とは違い、今のセイヨの笑顔はとても綺麗だ。最初にこの笑顔を見ていたら好きになっていたかもな。

 

そして、セイヨは校舎まで歩いて行った。

去り際に照れくさそうに小さく手を振ってくれた。

あの娘、本当は良い子なのかもな。

 

「マサラタウンのサトシ……」

 

横から地の底から響いたような声がした。

 

「ジュン?」

 

ジュンは鋭く俺を睨んでいた。そして、俺を指差す。

 

「お前は敵だ!! 僕は必ずお前を倒す!! 絶対に負けない!」

 

おお、ジュンくんトレーナーとして闘志がさらに湧いてきたようだな。

いいぜ受けて立つ!

 

「ああ、俺も負けないぜ!」

 

「うわあああああああん!!」

 

ジュンはそのまま校舎まで走って行った。

 

「ははは、やる気十分だな」

 

「いやあれはあんたの考えているのとは違うわ」

 

「サトシ、ジュンの目の前でセイヨさんと……ひどいよ」

 

カスミとリカが、どこか冷たい目で俺を見ていた。

え? なに? どういうこと?

 

「ていうか私たちも腹が立ってるから」

 

「……節操無し」

 

恨みをこめたような目で俺を見るカスミとリカ。

「ピカピカァ……」

俺の足元でピカチュウが両手を挙げ、やれやれと首をふった

 

本当になんなんだよ?

 

 

 

***

 

 

 

夕陽が昇ったころ、俺たちはポケモンゼミを後にした。

 

オレンジに染まる空を見ながら俺は考えていた。

 

「どうしたのサトシ?」

 

それに気づいたのか、カスミが話しかけてきた。

 

「ああ、この間のアキラや今日のポケモンゼミの生徒たちを見て、みんな強いトレーナーになろうと頑張ってるんだなって思ってさ」

 

「まあそりゃね」

 

「俺も頑張っているつもりだけど、それが正しいやり方なのかなって思ってさ。もっと別に強いトレーナーになる一番良い方法があるんじゃないかって」

 

そう考えを話すと、カスミは呆れたような諭すような顔になる。

 

「そんなの人それぞれに決まってるでしょ」

 

「え?」

 

「あんた今日言ったじゃない。ポケモンは1人1人違うって、それはトレーナーにも当てはまることなんじゃないの? 私たちトレーナーも1人1人違うから考え方もバトルスタイルも違う」

 

するとリカが続く。

 

「絶対の正解も不正解も無いんだと思う。ただ1人1人が自分の納得する考え方を見つけていくことが大事なんじゃないかな」

 

そうか、あれこれ考えたけど簡単なことだったんだ。

あっさりとし過ぎて拍子抜けするくらいに。

 

すると、背中に衝撃が走る。

その正体はカスミの平手だった。

 

「まったく、あんな偉そうに説教してたくせにウジウジしない、シャンとしなさい!」

 

また背中に衝撃、今度はリカだ。

 

「サトシはサトシらしく元気に真っすぐが一番だよ!」

 

2人は綺麗な笑顔を浮かべていた。

 

「ほら、野宿は嫌だから早く町まで行くわよ!」

 

「置いてくよ!」

 

カスミとリカが走り出した。

楽しそうな2人を見ると自然と口角が上がった。

 

「待ってくれよ!」

 

走る彼女たちを俺は追いかける。




今回はアニメ8話と9話を一つにしました。
強いトレーナーを目指すということで似てると思ったからです。

原作アニメではサトシと出会った時点のアキラは98連勝でしたが、サトシに負けてほしくないのと、アキラの連勝をストップさせたくないので100連勝制覇後にしました。

セイヨさんはサトシが異性を意識していたころに惚れられたというレアケースの女の子でしたね。この話では彼女がサトシに……ということにしました。
私がサトシに毎回女性にフラグを建てたがる人間で申し訳ないです。

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