サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題)   作:エキバン

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読者の皆様にたくさんのご意見をいただきました。
ご協力いただき、本当にありがとうございました。


出した答えは

何もない真っ白な場所を俺は歩いている。

いつの間にこんな場所に着いたのか、どうしてこんな場所にいるのかわからない。

 

リカもカスミもいない、俺のポケモンもいない。

今俺は1人、独り、ひとり……

 

「おーい!」

 

不意に遠くから誰かに声をかけられた。

振り返るとその声の主はどんどん近づいてくる。

 

「君は……?」

 

近づいてくるその姿を見て、俺は言葉を失った。

青いジャケットに長ズボン、穴あきグローブを両手にはめ、赤いキャップを被った少年。

 

「君は、サトシ……なのか?」

 

俺の問いにサトシは笑顔で答えた。

 

「ああ、そうだよ。だけど、君もサトシだろ?」

 

サトシの返答に胸がズキリと痛む。

 

「……いや、違う。俺は君の皮を被った紛い物だよ」

 

「そんな言い方しなくても」

 

サトシは少々困った顔になる。だけど、事実なんだから仕方ないだろ。

 

「それにしても、こうして君と出会うなんてどういう……」

 

この状況の答えはすぐに思い至った。ついにこの時が来たのだと。

 

「ああ、そうか、そういうことか……いいよ、もう散々楽しんだし、覚悟もしてた。この物語と冒険、そしてこの体を君に返すよ。君はそのために現れたんだろ?」

 

「違うぜ、俺はなにもしないよ」

 

思わぬサトシの答えに俺は困惑する。

 

「は? どういうことだ?」

 

「俺はただ、君の顔を見に来ただけなんだ。それが済んだら帰るよ」

 

ただ顔を見て帰るだけ? なんだそれは!?

 

「な、なに言ってんだ!? 俺は君の人生を乗っ取ったんだぞ! 君がするはずだった冒険を奪ったんだ! 君のピカチュウも奪った! なのにどうしてそんな平気な顔してるんだ、どうして返してくれって言わないんだ!?」

 

「そう言われても、俺はもう俺の冒険をしてるから」

 

「……どういうことだ?」

 

「俺は俺の世界でピカチュウやほかのポケモンたちとたくさん冒険したぜ。今もしてる」

 

「いや……は、えっ!? お、俺は今こうして君の人生を……」

 

「それは君の冒険だよ。俺はもう俺の冒険をしてる。だから君の冒険に何かしてやろうとか思ってないよ」

 

「だ、だけど、俺は君の人生を奪って……」

 

「だからぁ……君は俺の人生を奪ったりしてないよ。今君が生きているのは君の人生なんだ、君の冒険なんだ。君の世界にいた俺は、もう君なんだよ」

 

なんで、サトシはこうもあっさり俺を受け入れているんだ?

 

「だ、だが、少なくとも10歳になるまでのサトシは君のはずだ! それまでのサトシを俺は消してしまった。それに君のピカチュウも……」

 

「そんな悪い方に考えるなよ。君がそうしたくてそうなったんじゃないんだろ? それに君のいる世界はそうやって君が俺になるように始めから決まっていたんじゃないか? それにほら」

 

「ピカ!」

 

「え?」

 

聞き覚えのある鳴き声に驚く。

目の前にいるサトシの足元にいる黄色い小さな生き物。

それは紛れもなくピカチュウだ。

 

「な、ピ、ピカチュウ!?」

 

「ああ、俺の相棒のピカチュウだ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

ピカチュウはいつも見ている通りに可愛い笑顔だ。

 

「俺のピカチュウと君のピカチュウは同じだけど、違うピカチュウだぜ。ほら、えと……パ、パラパラ、ワールド?」

 

「……パラレルワールドか?」

 

「そうそう、それそれ。たぶんそういうことだ。だから、君が生きている世界のサトシは間違いなく君だ。ピカチュウも同じピカチュウだけど違う世界のピカチュウだ。だから、何も悩まなくていいんだ」

 

パラレルワールド……なるほどな、俺がいる世界は本来サトシが冒険する世界とは似ているけど違う世界なんだ。

 

「だけど、俺がリカやシゲルやナオキが知るサトシとは違う人間になったのは間違いないんだ。俺はこの世界において、異端な存在なのは間違いないんだ」

 

「じゃあ、どうするんだ? もう俺は君の体を奪うとかできないぜ?」

 

少しトーンの落ちた声でサトシは静かに問う。

 

「……消えるしか、ないのかな……もう誰にも会わないように……」

 

「……そんなことしたら君の仲間やポケモンたちが悲しむんじゃないか?」

 

「それは……じゃあどうしたら……」

 

俺は紛い物、だけど、俺がいる世界の人間からすれば間違いなくサトシだ。

母親や仲間のリカやカスミも俺のポケモンたちも、俺がいなくなれば悲しむと思う。

本当に、どうしたらいいかわからないんだ。

 

「簡単だよ。気にせず冒険を続けていけばいいんだ。『この世界に来たからには俺は冒険を楽しむぞー!』ってさ!」

 

サトシは明るく言い、俺に笑顔を向けてくれた。

 

「そんな……そんな考え方、まるでご都合主義みたいに――」

 

「それでみんな納得するんだからいいはずだぜ」

 

サトシは俺の肩に手を置く。

 

「君は今、サトシとして生きている。周りのみんなもサトシと言ってくれるし、君も自分がサトシだってわかっているはずだ」

 

「……」

 

ああ、なんて眩しい瞳だ。

本当なら君が俺の世界にいたはずなのに、紛い物の俺なんかじゃなくて。

 

そんな俺にサトシは「心配ない」と言い、

 

「そんなに不安なら、俺が言うよ。君は間違いなく、誰がなんと言おうとマサラタウンのサトシだ! 紛い物なんかじゃない! 君は望まれてここにいるんだ! あとは、君自身が望むだけだぜ!」

 

「ピカチュウ! ピカピカ!!」

 

サトシはその綺麗な瞳で俺をしっかり見据えて断言し、ピカチュウも強い眼差しを向けて両手でガッツポーズをした。

 

俺も、マサラタウンのサトシ……そんな、外ならぬ君がそう言ってくれるのか?

ピカチュウも俺を認めてくれるのか?

 

「俺は自分の物語を、自分の世界をこれからも生きるよ。だから、君も君の物語を、世界を生きてくれ。たとえ、別の誰かの力によるものだとしても、君が望むなら君の世界なんだ」

 

俺の……物語……

 

「じゃあ、俺は帰るよ」

 

サトシは背向ける。それに合わせて彼のピカチュウが彼の肩に乗る。

 

「ま、待ってくれ、俺はこれからどうしたらいいんだ!?」

 

振り返るサトシとピカチュウはニカッと笑う。

 

「だから、自分のしたいことをすればいいんだよ。君は悪い人ではないから、きっと良い方向に向かうと思うぜ」

 

「サトシ……」

 

「次はどんなポケモンに出会うのかな! 楽しみだぜ! 君も楽しみなんだろ?」

 

「!?」

 

冒険……俺が望んだ、願った冒険……俺は――

 

「難しく考えて、冒険を楽しまないなんてもったいないぜ!」

 

サトシとピカチュウが遠くなる。

俺はただ、それを見送るだけだった。

 

「じゃあなサトシ、お互い自分の冒険を楽しもうぜー!」

 

「ピカピカー!」

 

世界が消える。

そして、俺の視界が暗転する。

 

 

 

***

 

 

 

目を覚ますと、そこは見覚えのある天井。

俺は、リカとカスミと一緒にポケモンセンターに泊まったんだった。

俺はベッドで眠っていた。

 

部屋は電気もついていないのに明るい、窓の外を見るとすっかり朝のようだ。

 

俺は顔を洗うと着替えてしばらく部屋でぼうっとしている。

 

あれは夢だったのか? あのサトシは本物? それとも、俺の願望なのか?

 

ノックの音で現実に引き戻される。

 

ドアを開けるとそこにはリカとカスミが立っていた。

どうやら俺を起こしに来てくれたらしい。

 

「おはようサトシ」

 

「やっと起きたわね、もうさっさと朝ご飯食べちゃいなさい」

 

いつも通りの2人だ。

リカは柔らかで暖かい笑顔を向け、カスミは呆れ顔だが俺を優しく見てくれている。

 

昨日、2人に心配されたばかりだ。2人は俺が悩んでいることに気づいている。

きっと、今の俺は顔に出ているはずだ。きっとまた心配されることだろう。

適当なことを言って誤魔化す手もある。

しかし、俺はこのままでいいのか、彼女たちに秘密にしたままで。

いや、きっと誤魔化しても2人はその嘘に気づく。

だったらいっそ――

 

「……リカ、カスミ」

 

「話したいことがあるんだ」

 

2人は一瞬目を見開くと真剣な面持ちで頷いた。

 

 

 

 

話す場所は俺の泊まっている部屋になった。

俺はベッドに座り、カスミとリカはそれぞれの椅子に座っている。

そして、俺は打ち明ける。

 

「――これが俺の秘密だ。俺は……本当のサトシじゃない」

 

そして、俺は洗いざらい話した。

自分が憑依したこと、自分はサトシのフリをしていたこと、すべてを。

 

「今まで騙して、本当にごめん……」

 

しばしの沈黙。

 

「えっと……なんて反応したらわからないけど……」

 

困惑した様子のカスミ。

まあ、普通は妄言だと言われても仕方ないよな。

 

そして、リカが口を開く。

 

「ねえサトシ、質問していいかな?」

 

「……ああ」

 

「その、憑依っていうのをしたあなたは、今までのサトシの記憶って無いの?」

 

サトシの記憶、マサラタウンで過ごした10年間の記憶。

 

「……なんというか、よく思い出そうとしたら、なんとなく覚えてる。だから、シゲルとよく競って負けてたこととか、ナオキと喧嘩してたこととか、リカに怒られたこととか、サトシの記憶はある……」

 

探って思い出すこともあれば、ふと頭に浮かんでくるときもある。

サトシ本人だと思ってもらうための何かしらの配慮なのだろうか。

 

「……そっか」

 

考え込むように俯くリカの表情は読めない。

多分、気味悪く思ったり、嫌悪感を抱いたりしているんだと思う。

そりゃそうだ。友達がまったく違う人間なったりしたら――

 

「ねえ、思ったんだけど」

 

顔を上げたリカの言葉に思考が中断される。

 

「え?」

 

「サトシの言う『憑依』ってこうも言えるんじゃないかな? そのサトシじゃない誰かさんの記憶を持ったままサトシに生まれ変わったんだって」

 

「う、生まれ変わり?」

 

「そう、つまり前世だよ! サトシに誰かが乗り移ったんじゃなくて、サトシが前世を思い出したんだよ。そう考えれば間違いなくサトシはサトシなんだよ」

 

思いがけないリカの発言に俺は戸惑う。

いや、発言以上にリカの表情だ。

彼女が俺に向ける顔には負の感情が見られない。むしろ、楽しそうないつものリカの顔だ。

 

カスミも納得したように頷いた。

 

「なるほどね、そう考えたらなにもおかしくないわね。私も前世占いしてもらったことあるわよ」

 

「うんうん私もしたことある。私の前世は看護師さんだって」

 

「へーなんかリカっぽい。私はコックさんだって……私料理苦手なんだけど……」

 

「やってみようよ。すぐに上手になるかも」

 

「うーん、そうしようかな?」

 

俺のカミングアウトから一転、よくある女子トークになってしまった。

なんか俺おいてけぼりなんだけど?

 

「な、なあちょっと?」

 

「「あ、ごめんごめん」」

 

妙な空気になってしまったが、俺は気を取り直して彼女たちに聞く。

 

「俺の話聞いて、その……嫌な気持ちにならないのか? それとも……俺の頭がおかしくなったって思ったか?」

 

「違うわよ。あんたがそんな嘘つくとも思えないしね」

 

「うん、それにそんなことになってもサトシはサトシだから」

 

カスミ呆れながらも優しく俺を見ていて、リカは柔らかくて暖かい笑顔を向けていた。

いつものように、まるで、憑依したことを明かした俺を今までのサトシだと受け入れてくれたように。

 

「どうして……そんなすぐに受け入れられたんだ。リカ、昨日言ってたじゃないか、まるで別人みたいだって」

 

リカは「あーうん言ったね」と照れたように笑いながら人差し指で頬をポリポリとかいた。

 

「たしかに旅立ちの日のサトシを見て別人みたいだと思ったけど、間違いなくサトシなんだなとも思えたよ。それは今も変わらない。あの日から今日まであなたと旅をして、あなたと過ごしていたけど、あなたはやっぱりサトシ」

 

リカは自身の胸に手を置き、目を閉じて続ける。

 

「ポケモンが大好きで、ポケモンのために頑張って無茶して、いつも元気で優しくて、辛いことも諦めない……今のサトシは昔のサトシのままだよ。今こうしてあなたの話を聞いて、サトシをこうして見てみても、嫌な気持ちなんて全然無いよ」

 

そしてカスミがリカに続く。

 

「第一、サトシのその違う人の記憶が憑依なのか前世なのか、どっちが本当なのか確かめる方法なんて無いじゃない? あんたがサトシじゃない別の人間だなんて証明できるの?」

 

「それは……」

 

その指摘に困惑してしまう。

カスミの言う通り、自分の中にある記憶がある瞬間に憑依したことによるものなのか、サトシに『俺』という前世の記憶が蘇ったものなのか、断言する方法はない。

 

「重要なことは私たちにとってはあんたはサトシだってことなんだから、それでいいんじゃない?」

 

2人の言葉に俺は胸の奥が暖かくなるのを感じた。

 

するとリカとカスミは椅子から立ち上がり、ベッドに座った。

俺を挟むようにリカが右に、カスミが左に座った。

そして、2人は俺の手を片方ずつ握る。

 

「違う記憶があるかもしれないけど、あなたには今までマサラタウンで過ごしたサトシの記憶があるんだよね。だったらそれは間違いなく私の知ってるサトシだと思うよ」

 

「まあ、私が知ってるサトシは今のサトシだけだからあれこれ言えないけど、あんたは……その、私にとって信頼できる大事な人よ」

 

「サトシの中の記憶が、その憑依なのか前世なのか、どっちかわからない。だけど、あなたは間違いなく私の知ってるサトシ、私の大事な人」

 

「それが私たちの答えよ」

 

「それでいいかな?」

 

リカとカスミはジッと俺の目を見た。

それはとても優しくて暖かくて安心するような素敵な笑顔だ。

 

俺は……このまま生きていていいのだろうか。

この世界でサトシを名乗って生きていく資格が俺にはあるのだろうか。

 

本物のサトシは俺を肯定してくれた。俺がサトシであると、この世界を生きるサトシで間違いないのだと、他ならぬサトシが認めてくれた。

 

この世界は本来のポケモンの世界とは違う世界、それはわかっていた。

では、どうして俺はそんな世界でサトシになってしまったのか。

 

そんなの簡単だ。

この世界を創った『誰か』を楽しませるためだ。

 

俺は『誰か』によって選ばれた違うサトシ。

良い人生と冒険を餌に、『誰か』のお楽しみのために用意された登場人物。

 

俺が今まで心を躍らせていた冒険はきっとそれはこの舞台を用意した『誰か』のお楽しみの遊びなのか気まぐれなのか。

もしかしたらこう考えているのもその『誰か』の思惑通りなのかもしれない。

 

俺はその『誰か』を楽しませるために操られた人形……

 

それがどうした!!

 

サトシの言う通り、難しくあれこれ考えるなんて必要ない。ただ生きればいい、冒険すればいい!

俺はこの世界を生きてやる。

この世界で、自分のやりたいことをしてやる、行きたい場所に行って、会いたい人やポケモンに会って、まだ誰も知らない冒険をしてやる!

 

あれだけうじうじ悩んでいたのに、こんなすぐに切り替えられるなんて我ながら図太いというか、単純というか。

 

けれどこれは本物のサトシと、リカとカスミのお陰だと思う。

彼の言葉がずっと胸に響いている。

リカとカスミの言葉で勇気が湧いてくる。

サトシは俺を認めてくれて、俺を応援してくれた。

そしてリカとカスミは俺に勇気を自信を与えてくれた。

 

サトシ、やっぱり君は本物の主人公だよ。

俺は心から君を尊敬する。

 

だから胸を張れる。

君が肯定してくれた俺を俺自身が肯定できる!

 

リカ、カスミ、君たちと出会えてよかった。

俺は君たちとどこまでも冒険できる気がする。

 

俺が憑依なのか、前世の記憶があるのかどちらでも構わない。

俺はこの世界で生きる。

 

これは俺の人生だ、俺の冒険だ!

誰のものでもない俺だけの!

 

なあ『誰か』さん、あんたの思い通りに動いてやるよ。だけど、その分たっぷり楽しませてもらう。

好き勝手な冒険をしてやる。

 

もしいつか『俺』が消える運命にあるとしても、最後の瞬間まで必死に生き抜いてやる。

 

それが、俺がサトシになった意味だと、俺を肯定してくれたサトシへの答えだと信じて。

 

「ちょ、ちょっとサトシ!?」

 

「だ、大丈夫!?」

 

「え?」

 

急に慌てるカスミとリカを不思議に思っていると、左右の頬に違和感が、そしてズボンが濡れているのに気付いた。

 

俺、泣いているのか?

 

ああ、もうダサい。2人の前で何泣いてるんだよ。

今すぐ止めないと……だけど、止まらない。どんどん溢れてくる。

 

「ひっ、ぐぅ……ううあ、はぁ……うぐっ……」

 

きっと、サトシが認めてくれたこと、リカとカスミが受け入れてくれたことが嬉しかったんだ。

拒絶されることが怖かったのに、そんなこと気にしなくていいんだって安心して自然に出てしまったんだ。

 

恥ずかしいけど、涙も嗚咽も止められない。

 

「こんなに苦しんでたんだね」

 

「もうっ、男なのに女の子の前で泣くなんて情けないわよ」

 

リカはハンカチで俺の目元を拭いてくれて、カスミは厳しい言葉ながら俺の背中をさすってくれる。

ああ、やっぱり、2人に出会えて良かった。

 

「……うぐぅ、リカ……うぅ、カスミ」

 

嗚咽混じりにどうにか言葉を絞り出す。

 

「これ、からも……ふぐっ、一緒に、旅を、っく、して、くれるか? うぅ……俺を、仲間だって……言ってくれる、か?」

 

目の前で花が咲いたように見えた。

 

「「もちろん!!」」

 

2人は俺を抱きしめてくれた。

それからカスミとリカは何も言わずに俺が泣き止むまでずっと、包み込んでくれた。

 

 

 

***

 

 

 

「ねえリカ」

 

「ん? どうしたのカスミ?」

 

あの後、サトシは泣き止んで落ち着くと、いつもの明るさを取り戻した。

そして、朝ご飯がまだだったため、食堂に向かって行った。

本当にいつものサトシで2人は安心していた。

 

今、リカとカスミは次の旅のための支度をしている。

そんな時、カスミが不意にリカに話しかけた。

 

「さっきのサトシの話だけど、リカはどう思ってるの?」

 

「さっき言った通りだよ。私にとってサトシはサトシ、昔からの友達のままだよ」

 

「本当に違和感とか無いの?」

 

マサラタウンを出てからの今のサトシしかしらないカスミは簡単に受け入れられる。

しかし、昔からサトシを知るリカはどうなのだろうか。

カスミはリカが本心ではどう感じているのかが心配だった。

ここは女同士で腹を割って話したかった。

 

「確かにサトシが違うサトシになったのはびっくりしたよ。だけど、さっきも言ったように今のサトシは昔のサトシのままだって思えるんだ。それに、秘密を明かしてくれてからサトシのことを考えたんだ、そしたらね――」

 

言葉を区切るリカの頬は赤く染まっている。

 

「――やっぱり私、この人が好きなんだって思ったの」

 

その笑顔を見て、カスミも笑った。「何も心配いらない」と確信できた。

そして、自分も正直に打ち明けるべきだと。

 

「私はね、あいつが秘密を明かしてくれて嬉しかった。あいつの力になりたいって本気で思えたから。私はどんなことになってもあいつを信じていくつもりよ――」

 

顔を赤くしたカスミは深呼吸して言い放つ。

 

「――サトシは私が心から好きになった人なんだから」

 

2人は「ふふふ」と笑うと作業を再開する。

 

同じ想いを抱く2人、これからの旅はどんなことがあっても力を合わせて乗り越えて行ける。

そんな確信を持てる。

 

 

 

***

 

 

 

「ピカチュウ『10まんボルト』!!」

 

「ピィカ、チュウウウウ!!!」

 

ピカチュウから放出された莫大な電撃が相手のポケモンの全身を包み込みダメージを与える。

電撃が収まると、相手のポケモンは黒焦げになりところどころからプスプスと音が鳴ると、そのまま倒れる。

 

「よっし、よくやったピカチュウ!!」

 

「ピカピカチュウ!!」

 

俺が親指を立てるとピカチュウも俺のポーズを真似る。

 

対戦相手の少年がポケモンをボールに戻すと互いにバトルフィールドの中央に集まり握手を交わす。

 

「本当に強いな、君も君のポケモンも。よかったら君の名前を聞かせてくれないか?」

 

「俺は……」

 

悩む必要も、戸惑う必要もない。

この世界で俺は、自分の名を名乗ればいい。

胸を張って、自信を持って、生きていけばいい。

 

「俺は、マサラタウンのサトシだ」




矛盾やご都合主義がたくさんあると思います。しかし、今私が出せる答えがこれです。
あっさりと解決して、サトシもリカとカスミに受け入れられました。

ママやオーキド博士に打ち明けるのは先になると思いますが、あっさり解決だと思います。

これから先、憑依についてちょいちょい触れるかもしれませんが、重い話にはならないと思います。

「憑依にした意味はないのでは」と厳しい意見もいただきました。
これも私が思いつきと見切り発車で書き始めたせいだと思います。
今のところはサトシは憑依設定のままにしていきます。

私のワガママでこのような話になってしまい本当にお騒がせして申し訳ないです。

これから先は明るく楽しい物語を頑張っていきたいです。

今後とも私の作品を読んでいただければ幸いです。
これからもよろしくお願いします。

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