サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題)   作:エキバン

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今作の20話目について、読者の方々を不快にさせ、失望させる展開となってしまったことをお詫びいたします。
大変申し訳ないです。

これからも書き続ける所存でございます。
今後ともお付き合い頂ければ幸いです。


はぐれヒトカゲを救え

次のジムのある町であるクチバシティを目指してどこかの山道を歩く俺たちは絶賛、雨に打たれていた。

 

「もう〜最悪〜!」

 

「ここの峠を越えたらポケモンセンターがあるはずだからもう少しの辛抱だよ」

 

カスミは悲鳴をあげるとリカが優しく宥める、

 

「それにしても、久しぶりの雨だな」

 

ここしばらく晴天が続いたため、久しぶりの雨にどこか懐かしさすら覚えた。

 

リカの足元を走るフシギダネは気持ちよさそうに雨を浴びている。

心無しか、彼女の額の花もいつもより大きく咲いているように見える。

 

周りを見渡せばくさタイプのポケモンたちが嬉しそうにとび跳ねている姿がチラホラ見える。

彼等彼女等からにとっては恵みの雨ってことか。

まあ、人間にとっても雨は生きるために必要な生命の源なんだけどな。

 

俺の足元を走るピカチュウもでんきタイプにもかかわらず、どこか雨を楽しんでいるように見える。

雨で電気がショートしないか心配だが、ピカチュウの電気のコントロールのお蔭かその心配もなさそうだ。

 

雨に打たれつつ、そんな自然の偉大さを感じていると、視界に入るものがあり、俺は立ち止まる。

 

「サトシ?」

 

「どうしたの?」

 

カスミとリカが疑問の声を上げるが、俺は答える時間も惜しいとばかりに、視界に入ったものに近づく。

 

それは岩の上で座っていた。

オレンジの体に両手の鋭い爪、長い尻尾の先には火が灯っている。

 

「ヒトカゲ?」

 

「「え?」」

 

そこにいたポケモンは紛れもなくヒトカゲ。

カントーの新人トレーナーが最初に貰えるポケモンとして有名だが、野生の個体を見かけるのは珍しい。

 

俺たちはどこか浮かない顔のヒトカゲに駆け寄る。

 

「おい、こんなところで何してるんだ?」

 

「雨に濡れて風邪ひいちゃうよ」

 

「それにこのままだと尻尾の炎も消えちゃうわ!」

 

ヒトカゲは尻尾の炎が消えると死ぬと言われてるんだったな。

それならこのまま放っておくわけにもいかない。

 

見た感じ弱っているみたいだし、近くのポケモンセンターに連れて行かないと危ない。

 

すると、ヒトカゲは何かに気づいたようにハッと顔を上げると、岩から飛び降りて走り出した。

 

「クァ……」

 

ヒトカゲを目で追うと、彼が走った先には人がいた。

尖った髪の十代と思しき少年が歩いて来た。

その後ろからはポケモンが1体少年に付いていくように歩いている。

赤と白の体毛に覆われた二足歩行に赤い目をしたポケモンだ。

確か、遠い地のアローラに生息するポケモンのルガルガンだ。

 

「カゲェ……」

 

ヒトカゲは歩いてくる少年に駆け寄ると心から嬉しそうにその足にしがみついた。

 

「トレーナーがいたんだね」

 

野生ではなかったんだな。ヒトカゲはあの少年を待ってたってことか。

あとは彼がヒトカゲを連れて行ってくれるだろうから、これで一安心だな。

 

その時だ。

少年は足にしがみつくヒトカゲを蹴り飛ばした。

 

「カゲェ……!」

 

「「「えっ!!?」」」

 

あまりの光景に目を疑った。

蹴とばされたヒトカゲはそのまま水たまりにバシャバシャと転がり、なんとか上半身を上げると縋るように少年を見上げた。

 

「クァ……」

 

「まだいたのか、消えろ」

 

少年はヒトカゲに冷たい視線を送るとそう吐き捨てる。

 

全身が熱くなり、脳が沸騰する。

考えるより先に体が動いていた。

この男をぶん殴ってやりたい衝動に駆られるが、そんなことよりもこのヒトカゲが優先だ。

 

俺は濡れてしまったヒトカゲを抱き起す。

 

「お前どういうつもりだ!!」

 

目の前の男が怪訝な顔をすると後ろから足音。

リカとカスミも駆け寄ってきた。

 

「あんたこのヒトカゲのトレーナーなんじゃないの!?」

 

「この子、あなたのこと待ってたんだよ。嬉しそうにあなたに駆け寄ってきたのわからないの!?」

 

「なんなんだお前たちは?」

 

「俺たちはただの通りすがりだ。このヒトカゲの様子がおかしかったから見ていたらお前が現れたんだ」

 

男は眉をひそめると溜息混じりに言い放つ。

 

「ふん、ただのお節介焼きか。俺はそいつの元トレーナーだ。そいつが使えないポケモンだから逃がしたんだよ。それなのにしつこく付きまといやがって」

 

「ちょっと、そんな言い方ひどいよ! それに使えないから逃すなんて!」

 

リカの言葉に男は反論する。

 

「いらないポケモンを逃がすなんてトレーナーにとって当たり前のことだろ?」

 

その言葉に俺たちはわずかに言い淀む。

たしかに、トレーナーにはそれぞれの事情があってやむを得ずポケモンを手放すこともある。

能力が低くてバトルに向かないからポケモンを捨てることもあると聞く。

 

「けど、ヒトカゲはこんなになるまで待ってたんだぞ。お前のことを慕ってるんだ。ポケモンが一緒にいたいと思うなら、その気持ちを理解してやろうと思わないのか!?」

 

しかし、男は態度を変えない。

 

「使えないポケモンにそんな感情抱かれても迷惑なだけだ」

 

「あんた最低よ! トレーナーの資格なんか無いわ!!」

 

カスミが怒りを露わにするが、男はフンッと鼻を鳴らす。

 

「トレーナーの資格があるかどうかはポケモンとの馴れ合いで決まるものじゃない。いかに強いポケモンを使いこなすかだ。弱いポケモンなんか邪魔だ」

 

言い捨てた男は、衰弱したヒトカゲに一瞥すらしない。

 

「話は終わりだ、無駄な時間だったな」

 

「待てよ!」

 

俺は去ろうとする男の腕を掴むとこちらに向かせる。

男がめんどくさそうに俺を見た時、後ろのルガルガンが動いた。

 

「ガウッ!!」

 

唸り声を上げ、俺に攻撃を仕掛けようとしている。

 

その時、俺の後ろから黄色い物体が飛来する。

俺のピカチュウだ。

 

「ピカッ!」

 

ピカチュウは攻撃をしようとするルガルガンに突撃し、その動きを阻んだ。

不意打ちを受けたルガルガンは僅かに後退し、ピカチュウも反動で後ろに跳び着地し臨戦態勢となる。

 

「ガウッ……」

 

「ピカァ……」

 

四足で立ち尻尾を立てるピカチュウと、姿勢を低くして両腕を構えて牙を剥くルガルガンが睨み合う。

 

「やろうってのか?」

 

射貫かんばかりに鋭く俺を睨み据える男。

ポケモンバトルとなれば負けるつもりはないという絶対の自信の表れだ。

 

こんなポケモンを大事にしないやつは、バトルで倒して間違ってることを証明してやりたい。

俺は――

 

「……戻れピカチュウ」

 

「ピ?」

 

バトルをしないことを選択した。

俺の指示にピカチュウは驚いて振り返るがすぐに俺の元に戻ってきた。

 

「ふん、尻尾を巻いて逃げるのか」

 

男は俺の判断に対し見下すような視線を送る。

 

「……今はこのヒトカゲの事だ、ポケモンセンターに連れて行く」

 

「……勝手にしろ」

 

男は嘆息し、興味を失ったとばかりに歩き出しルガルガンもそれに続いた。

意外なのは、山を下りると思っていたが森の中に入って行ったことだ。

おそらくこんな雨の中でもポケモンを探しているのだろう。

 

「あんたなんか森で迷えばいいのよー!!」

 

「ついでに風邪でも引いちゃえー!!」

 

「ダネー!!」

 

カスミとリカとフシギダネが去って行く男に向かって叫ぶ。

男からの返事は無い。

 

「クァ……」

 

俺の腕の中のヒトカゲは弱々しくなっている。

一刻の猶予もない。

俺は上着でヒトカゲを包むと立ち上がる。

 

「みんな急ごう」

 

リカ、カスミ、フシギダネ、ピカチュウが頷くと、俺たちは急いで山を下りてポケモンセンターまで向かった。

 

 

 

***

 

 

 

ポケモンセンターに急いで駆け込んだ俺たちはジョーイさんにヒトカゲの治療をお願いした。

幸い他に急を要するポケモンたちはいなかったため、ヒトカゲはすぐに治療室にまで運ばれた。

 

治療室のベッドの上でヒトカゲは寝かされ、ジョーイさんが容態を見ている。

苦しそうにしているその姿はとても痛々しい。

 

「どうしてこんなになるまで放っておいたの!?」

 

ジョーイさんが険しい目つきで俺たちを叱る。

うぐ、たしかにこの状況だと俺たちがヒトカゲの保護者だと思うだろうけど……

 

「違うんです、実は――」

 

すると、リカがジョーイさんにヒトカゲとあの男との出来事を話した。

 

ジョーイさんは悲しそうな顔になる。

 

「そうだったの、勘違いしてごめんなさい」

 

「いいんです、それよりも、ヒトカゲをお願いします」

 

「ええ、必ず助けるわ」

 

ジョーイさんはラッキーに指示を出して治療の用意を始めた。

 

「それからあなたたちもお風呂に入って体を温めなさい。そのままだと風邪を引くわ」

 

そう言われて俺たちは雨にすっかり濡れてしまっていたことを自覚した。

 

髪も服もずぶ濡れで、服の中まで濡れていた。

足元も俺たちの立っていた場所も水たまりができていた。

気づかなかったのが不思議なくらいだ。

 

「お風呂お借りします」

 

集中治療室にヒトカゲは入り、そこでジョーイさんに治療を受けることになる。

治療が終わるまで部外者は立ち入り禁止。

治療室に入るヒトカゲとジョーイさんを見送るが俺は扉から目を離せなかった。

 

すると、肩を叩かれる。

 

「今はジョーイさんに任せましょう」

 

「ひとまずお風呂だね、私たちが体調崩したらジョーイさんに怒られるかもしれないから」

 

2人に言われて俺は頷く。

リカとカスミも早くお風呂に入りたいよな。

 

チラリと2人を見ると、雨に濡れた服が白い肌のピタリと張り付いて、リカとカスミの身体のラインがくっきりと浮かんでいた。

 

しかも、濡れたシャツに浮かぶ線は……

 

はっ!? 俺はこんな時に何を考えてる。

ヒトカゲはあんなに苦しんでるのに…

 

俺は自分の頬をピシリと叩くと煩悩を消しながらお風呂に向かう。

 

 

 

***

 

 

 

入浴を終えた俺たちは治療室の外で扉の上で赤く光る治療中を示すランプを見つめて待っていた。

 

「頑張れよ、ヒトカゲ」

 

リカは祈るように両手を胸の前で組み、カスミは心配そうに扉を見ている。

 

そして、1時間ほど経ったころ、ランプが消えた。

 

扉が開きジョーイさんが治療室から出てくる。

 

「ジョーイさん、ヒトカゲは?」

 

俺の問いかけにジョーイさんは笑顔で答える。

 

「バッチリ治ったわ」

 

「「やったあ」」

 

その言葉に俺は思わずガッツポーズをとり、リカとカスミも手を握り合って喜んでいる。

 

ジョーイさんに促されて治療室を見ると、そこにはカプセルに入ったヒトカゲがいた。

眠っているヒトカゲの顔にはここに来た時のような苦悶の表情は無く、安らかに寝息を立てていた。

尻尾の炎もよく燃えている。

 

「一晩眠ればもう大丈夫よ」

 

「よかった……本当に、よかった」

 

緊張が解けた俺はほっと胸を撫でおろす。

すると途端に眠気が襲って来た。

 

「うふふ、そうよね、子どもは眠る時間。部屋の鍵を渡すから、今夜はもう休みなさい」

 

「はい、ありがとうございます。ジョーイさん」

 

俺たちはそれぞれの部屋に行き、明日に備えることにした。

 

ベッドに入って瞼を閉じると、浮かぶのは眠っているヒトカゲの姿。

あんなに衰弱するまであのトレーナーを待ってたなんて、君はトレーナー思いなんだな。

やはりあいつは許せない。

今度あったら絶対に謝らせてやる。

 

けど今は助かってよかったなヒトカゲ。

 

疲労と眠気に身を任せ、少しずつ俺の意識は暗転していく。

 

 

 

***

 

 

 

窓から差し込む朝日で俺は目を覚ました。

 

顔を洗って歯を磨いて着替えると待合室に向かう。

すでにリカとカスミは起きていた。

 

「おはよう」

 

「「おはよう」」

 

2人とも昨日は夜遅かったのに元気そう……と思ったがまだ眠そうだ。

寝ぼけ眼で欠伸をする2人はとても可愛らしいな。

 

まだまだ寝足りなくても早起きした理由は1つだよな。

 

「よし、ヒトカゲの様子を見に行こうぜ」

 

「「うん」」

 

その時後ろから人が近づく気配がある。

 

「あら、3人ともおはよう」

 

ジョーイさんだ。

 

「「「おはようございます」」」

 

「よく眠れたかしら?」

 

「「「はい」」」

 

半分嘘ですごめんなさい。

 

「今からヒトカゲの様子を見に行きたいんです」

 

「……そうなの、わかったわ。ついてきて」

 

ジョーイさんの表情はどこか優れない。

治療は成功したのにどうしたんだろ?

 

ヒトカゲは治療室から病室に移されていた。

 

その病室に入るとベッドの上にヒトカゲはいた。

彼は窓の外を見ているようだ。

 

「ようヒトカゲ、元気になってよかったな」

 

「……」

 

ヒトカゲは俺を一瞥すると、何も言わずに窓の外を見た。

顔色は良いし、尻尾の炎もメラメラと強く燃えている。だが、ヒトカゲは元気が無い。

 

「体の治療は終わったわ、だけど、心の方が……ね」

 

そこで理解する。

ヒトカゲはあのトレーナーに捨てられた事実に激しくショックを受けているんだ。

当然だ、ヒトカゲは本当にあのトレーナーを慕っていたのに、その気持ちを裏切られた。

 

俺はなんとかヒトカゲを慰めようとしたが、言葉が出ない。何が彼の慰めになるのかわからないんだ。

 

ジョーイさんが俺の肩に手を置く。

 

「今はそっとしておきましょう」

 

「……はい」

 

名残惜しいが、俺たちは病室を後にした。

 

食堂は俺たち同様にポケモンセンターに宿泊していたトレーナーたちが朝食を摂っていた。

 

「……ヒトカゲ、可哀想だよ」

 

「なんとか元気付けてあげたいが、何と言うのが正しいのかわからないし、今の俺たちが何か言っても聞かないと思う、ジョーイさんの言う通り、今はそっとしておこう」

 

「……そうね。それにしても、やっぱりあのトレーナー許せない。次会ったらただじゃおかないわ!」

 

「……そうだな」

 

俺たちと同様に宿泊していたトレーナーも食堂に集まってくる。そして、ポケモンセンターの建物内に入ってくるトレーナーも現れ次第に賑やかになっていく。

 

ある人はジョーイさんにポケモンを預け、ある人は他のトレーナーと談笑したりと様々だ。

 

人通りの少ない山道だが、トレーナーなら集まることは多いんだな。

 

すると、ポケモンセンター内にいたトレーナーたちがざわめく。

 

「おい、あれって……」

 

「ああ、間違いない、クロスだ」

 

「遠くから来た凄腕だって聞くぜ」

 

コソコソと話をしているトレーナーたちの視線の先を見ると俺は驚愕で目を見張る。

そこにいたのは間違いなくあのヒトカゲの元トレーナーだった。

クロスって名前だったんだな。

周りのトレーナーたちがクロスを遠巻きに見ている。そこには畏怖や羨望など様々な感情がある。

 

受付まで来たクロスは自分のモンスターボールをジョーイさんに預けていた。

 

「噂をすれば、ね」

 

「……あいつ、実力のあるトレーナーだったんだな」

 

「見失わないように急ごうよ」

 

俺たちは食べ終えた食器を片付けると荷物を持ってクロスを追う。

 

ポケモンの治療を終えてポケモンセンターから出たクロスに俺たちは近づく。

 

俺たちに気づいたクロスが振り返る。

 

「ん? お前たちか」

 

相変わらず冷たい目だ。

ヒトカゲの心配すらしていないようだな。

 

「あのヒトカゲ、治療はしてもらったよ。けど、お前に捨てられたことにショックを受けてるよ」

 

「ふん、どうでもいい」

 

クロスは吐き捨てる。

 

「本当にヒトカゲに何も思わないの!?」

 

「あんたみたいなトレーナーはやっぱり許せないわ!」

 

リカとカスミが言い放つがクロスは何処吹く風だ。

 

言葉で通じるとは思ってなかったよ。

だったらポケモントレーナーとしてやることは1つだ。

俺はクロスに歩み寄る。

 

「お前にバトルを申し込む。俺が勝ったら、ヒトカゲに謝れ」

 

クロスは嘲るように俺を見てニヤリと笑った。

 

「ふん、いいだろう。受けてやる。使用ポケモンは1体ずつ、それで十分だ」

 

「ああ」

 

昨日と同様に相変わらずの自信のようだな。

 

「サトシ、こんなやつに負けないでね」

 

「ヒトカゲのためにも頑張って」

 

「ああ、勝つ!」

 

決心を胸に俺はクロスと視線を交錯させる。

 

 

 

***

 

 

 

サトシとクロスは近くの草むらで相対した。

互いにモンスターボールを構える。

 

「ピカチュウ、君に決めた!」

 

「行けルガルガン、トゥアームズ!!」

 

「ピカ!」

 

「ガウ!」

 

ピカチュウとルガルガンがボールから現れ、戦闘態勢となる。

 

「ピカチュウ『10まんボルト』!」

 

「ルガルガン『ストーンエッジ』!」

 

「ピカチュウウウウウウ!!」

 

「ガアァッ!!」

 

ピカチュウから電撃が放たれると、ルガルガンから鋭い岩が複数現れ発射される。

2つの攻撃が高速でぶつかり爆発を起こす。

 

そして、2人は瞬時に指示を飛ばす。

 

「『でんこうせっか』!」

 

「『バークアウト』!」

 

「ピッカァ!」

 

「グォガアアアアア!!」

 

ピカチュウの高速の突撃に対し、ルガルガンは口からあくタイプのエネルギーを発射する。

地面を削る凄まじい勢いでピカチュウに迫る。

 

「そのままかわせ!」

 

『でんこうせっか』のスピードを維持してピカチュウは『バークアウト』を回避する。

そして、ルガルガンの懐に到達する。

 

「ピカチュウ『アイアンテール』!」

 

「チューピッカア!!」

 

「グゥ!?」

 

ピカチュウが鋼鉄と化した尻尾を振るうとルガルガンの肩に直撃する。

いわタイプにはがねタイプの技は効果抜群、ルガルガンは苦悶の表情を浮かべる。

 

「ルガルガン『ほのおのパンチ』!」

 

「ゴォア!!」

 

「ピカ!?」

 

クロスの指示にルガルガンはすぐに持ち直すと右拳に炎を纏うとピカチュウの体に振るわれ、吹き飛ばされる。

 

「大丈夫かピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウは吹き飛ばされながらも素早く態勢を立て直す。

 

まよなかのルガルガンはスピードに優れているわけではない。

しかし、素早いピカチュウの攻撃を受けながらも反撃の対応は速い。

ルガルガンは低い姿勢で、獰猛なその赤い目でピカチュウの動きを一瞬も逃すまいとしている。

 

「『10まんボルト』!!」

 

「『バークアウト』!!」

 

「ピッカチュウウウウウウ!!」

 

「グアオオオオオ!!」

 

膨大な電撃と悪の衝撃波が激突する。

爆風で一瞬視界が遮られる。

 

「地面から『ストーンエッジ』!」

 

「グッガァ!!」

 

ルガルガンが地面に拳を叩きつけると尖った岩が次々と出現してピカチュウに襲いかかる。

 

「『でんこうせっか』でかわせ!」

 

「ピッカ、ピカピカピカ!」

 

高速で動きながらピカチュウは地面から発生する鋭い岩を右に左に回避していく。

 

「『アイアンテール』!」

 

そのまま鋼鉄の尻尾をルガルガン目掛けて振り下ろす。

クロスがニヤリと笑う。

 

「今だ『カウンター』!」

 

「グルア!!」

 

『アイアンテール』が振るわれたその時、ルガルガンがその攻撃に対して拳を叩きつける。

ピカチュウは『カウンター』に吹き飛ばされる。

 

「ピッカ!?」

 

そして、吹き飛ばされた先には『ストーンエッジ』の岩がある。このままではピカチュウはさらなるダメージを受ける。

 

「ピカチュウ、後ろの岩に気をつけろ!」

 

「ピッカア!」

 

ピカチュウはサトシの声に気づき、体を回転させて『ストーンエッジ』の岩に着地する。

 

「『バークアウト』!」

 

ピカチュウが岩に着地した瞬間、ルガルガンから悪のエネルギーが発射された。

 

「グアオオオオ!!」

 

(しまった、わざと岩に着地させてそこを狙い撃つ作戦だったのか!)

 

しかし、まだ攻撃が間に合う。

 

「ピカチュウ『10まんボルト』!!」

 

「ピィカチュウウウウウウ!!」

 

『10まんボルト』と『バークアウト』が衝突する。

そして、ピカチュウがさらに電力を上げると、『10まんボルト』が『バークアウト』を押し、ついにはルガルガンを包み込んだ。

 

「畳み掛けるぞ、ピカチュウ『アイアンテール』!」

 

「チュー……」

 

ピカチュウは岩から飛び、尻尾を硬質化させてルガルガンに突撃する。

 

「ルガルガン『カウンター』!」

 

ピカチュウの『アイアンテール』の直撃に対し、再びルガルガンは拳を振るい『カウンター』を仕掛ける。

 

「今だ、尻尾でいなせ!」

 

「ピカピカ!」

 

『アイアンテール』に対する『カウンター』が決まる瞬間、ピカチュウは尻尾をルガルガンの拳に当てて、攻撃を流す。

 

「なに!?」

 

驚愕するクロス。

そして、ピカチュウは流した勢いでルガルガンに接近する。

そして、『アイアンテール』がルガルガンに直撃した。

 

「チューピッカア!!」

 

効果抜群の攻撃の直撃、これは大ダメージだ。

 

「『ほのおのパンチ』!!」

 

「グオオ!!」

 

しかし、ルガルガンは『アイアンテール』を耐えきり、炎の拳をピカチュウに振るう。

 

ピカチュウは吹き飛ばされて地面を転がる。しかし、瞬時に立て直した。

 

(こいつ、自信のある態度は伊達じゃない。とんでもなく強いトレーナーだ)

 

サトシはクロスが強敵であると理解した。

しかし、ヒトカゲのために何としても倒さなければいけないのだと気を引き締める。

 

睨み合うピカチュウとルガルガン。

サトシとクロスが新たな指示を飛ばそうとしたその時。

 

巨大なメカが出現し、2つのアームがピカチュウとルガルガンを透明な檻の中に入れて拘束した。

 

「なに!?」

 

「なんなんだ!?」

 

サトシとクロスが同時に声を上げると、メカの後ろから3つの人影が現れる。

 

 

「「なーはっはっはっ!!」」

 

「なんだかんだと――」

 

(省略

 

現れたのは3人組のロケット団。

 

「またお前たちか!!」

 

「そうだ、また俺たちだ!」

 

「久々にあんたたちを見かけたからね。お仕事しないといけないじゃない!」

 

コジロウとムサシは偉そうに胸を張る。

 

ロボットの透明なケースの中でピカチュウとルガルガンが暴れる。

 

「チュウウウウウウ!!」

 

ピカチュウはケースを破壊せんと電撃を放つがケースはビクともしない。

 

「にゃははは! 電撃対策はバッチリなのニャ!」

 

「バトルで弱ったピカチュウゲットだ!」

 

「ついでにピカチュウと良い勝負したポケモンもいただきよ!」

 

このままでなピカチュウもルガルガンも連れさらわれてしまう。

しかし、サトシもクロスも冷静だった。

 

「ピカチュウ『アイアンテール』!」

 

「ルガルガン『ほのおのパンチ』!」

 

「チューピッカア!」

 

「グォガアア!!」

 

ピカチュウの鋼鉄の尻尾とルガルガンの炎の拳がケースに叩きつけられる。

 

ケースはあっさりと砕け、地面に破片を撒き散らす。

ピカチュウとルガルガンはケースの空いた穴から飛び出る。

 

「「「えええぇぇぇっ!!!」」」

 

ピカチュウとルガルガンはそれぞれのトレーナーの元に戻る。

 

「な、なんで!?」

 

「特注で作ったのに!?」

 

「残念だが、ピカチュウもルガルガンもバトルで疲れてるとは言え、そんなガラクタ壊すのには何も問題無いみたいだな」

 

「そ、そんニャー!」

 

とてつもないショックを受けるニャース。

 

クロスは面倒くさそうにロケット団を見ている。

サトシはいつものパターンだが、ロケット団をこの場から排除すると決めた。

 

「ピカチュウ『10まんボルト』!」

 

「ピィカチュウウウウウウ!!」

 

「「「あばばばばばば!!」」」

 

ピカチュウの膨大な電撃がロケット団3人組に襲いかかる。そして、ロケット団が用意したロボットも電撃が包み込んでいた。

 

そして、ロボットは強力な電撃にショートし爆発を起こした。

爆発の衝撃はロケット団を襲う。

そして、3人組のロケット団は吹き飛ばされる。

 

「せっかく久しぶりに登場したのに!」

 

「こんなあっさりやられるなんてー!」

 

「あんまりなのニャー!」

 

「「「やな感じー!!!」」」

 

ロケット団3人組はお決まりのセリフを叫んで何処かへと飛んで行った。

 

消えたロケット団を見送ると、サトシはクロスに向き直す。

 

「邪魔が入ったが仕切り直しだ」

 

「ああ」

 

サトシとクロスが睨み合うと、ピカチュウとルガルガンも姿勢を低くして戦闘態勢となる。

 

するとバトルフィールドに新たな乱入者が現れる。

オレンジの体に尻尾に火が灯っているポケモン。

 

「カゲ!」

 

「ヒトカゲ!?」

 

「ど、どうして?」

 

リカとカスミが驚きの声を上げる。

ポケモンセンターの病室にいるはずのヒトカゲがどうして外にいるのかサトシたちにはわからない。

そして、走ってくる人がいた。

 

「ここにいたのね」

 

近くのポケモンセンターのジョーイだ。

 

「急に病室の窓を開けて外に出たから後を追ってたの……もしかして、彼が?」

 

「はい、あの男がヒトカゲの元トレーナーです」

 

リカの説明にジョーイはクロスを見る。

その視線はとても悲しそうなものだ。

ポケモンを捨てるトレーナーがいることに胸を痛めているのだろう。

 

ヒトカゲはクロスの元まで歩み寄り、彼を見上げた。

 

「クァ……」

 

クロスはそんなヒトカゲに対し、相変わらず冷たい視線だった。

 

「まだ俺にくっついてくる気か、何度も言わせるな。弱いポケモンに興味はない、消えろ」

 

「カゲ……」

 

そうクロスに言い放たれたヒトカゲは悲痛の表情を浮かべて俯いた。

ヒトカゲは捨てられたのはわかっていたが、一縷の望みをかけてクロスと向き合った。

しかし、結果はヒトカゲにとって最悪なものとなった。

 

ヒトカゲはトボトボと歩いていった。

行く当てもなく、これから彼は生きていく。

 

サトシはあのままのヒトカゲを放っておくことができなかった。

 

「ヒトカゲ!」

 

サトシはヒトカゲに強く呼びかけ、歩み寄った。

そして膝を降り、できる限りヒトカゲと目線を合わせようとする。

 

「なあ、俺たちと来ないか?」

 

「カゲ?」

 

サトシの言葉にヒトカゲは驚く。

 

「もしかしたら、お前は人間のことを信用できなくなったかもしれない。だけど、俺はお前をそのままにしておけないんだ」

 

サトシはヒトカゲに手を差し出した。

 

ヒトカゲはジッと不安げにサトシを見ている。

 

「同情なんかじゃなくて、俺がお前と一緒に居たいんだ。お前を強くしたい、お前がどこまでも強くなれるポケモンだって証明したい。だから、俺たちと旅をしよう!」

 

ヒトカゲはサトシの言葉を聞きながら、昨日のことを思い返していた。

 

目の前の人間は、雨の中の自分を気にかけてくれた、トレーナーに捨てられて絶望して体力の限界になって倒れた自分を守ってくれた。そして、こうして今、見限られた自分に手を差し伸べようとしてくれてる。

 

彼の目はとても綺麗に輝いている。

ずっとその目を見ていたいと思えるくらいに。

 

彼の輝く目、熱意のこもった言葉。

ヒトカゲには彼が本気で自分といたいという思いが伝わってきた。

心の中の寂しい気持ちが少しずつ和らいでくるのを感じた。

もう一度だけ、人間を信じてもいいかもしれない。

 

「カゲ!」

 

ヒトカゲはその小さな手でサトシの手に触れた。

 

「ヒトカゲ!」

 

ヒトカゲの笑顔にサトシも喜びで頬が緩んだ。

後ろで見守っていたリカ、カスミ、ジョーイも安心したように笑っていた。

 

サトシはモンスターボールを取り出し、ヒトカゲに差し出す。

ヒトカゲが額をボールのスイッチ触れさせると、ボールに吸い込まれ、ボールの振動はすぐ止まった。

 

「ふん、物好きな奴だな。まあ、お前には使えないポケモンがお似合いだな」

 

クロスはサトシを見下し嘲笑う。

 

「人とポケモンは互いに信頼し合えばどこまでも強くなれるんだ。いつか後悔するぜ、『このヒトカゲを手放すべきじゃなかった』ってな!」

 

サトシは鋭く強い視線を送ると、クロスはフンッと鼻を鳴らすと踵を返した。

 

「興が覚めた。お前みたいな信頼だ友情だとくだらないことを言うトレーナーとバトルしても結果は見えてる。やるだけ無駄だ」

 

「そうかよ、だったらもう行けよ。ヒトカゲに悪影響だ」

 

クロスは一瞥することなくルガルガンを引き連れて歩き出した。

 

「ふんだ! 尻尾を巻いて逃げるのがあんたにはお似合いよ!!」

 

カスミがクロスの背中に言い放つ。

ついでにあっかんべーをした。

 

バトルは終わり、リカ、カスミ、ジョーイがサトシに集まる。

リカが口を開く。

 

「サトシ、あんな人の言うことなんか気にしちゃダメだよ。バトルだって、あのまま行けばサトシが勝ってたはずだから」

 

「いや、そうとも限らない」

 

「「え?」」

 

サトシの答えは意外なもので、リカとカスミは怪訝な顔をした。

 

「ピ……」

 

すると、ピカチュウがフラフラになっていた。

倒れそうになるピカチュウをサトシは抱き上げる。

 

「ピカチュウが負ったダメージは大きい。あのままいけば負けてたかも……あいつ、強さが全てだって言ってるだけあって実力は本物だ」

 

その言葉にカスミとリカは驚きの表情を浮かべる。

 

「けど、次は負けるつもりはない」

 

ポケモンを蔑ろにするトレーナーには絶対負けたくない。サトシは強く決心した。

 

「と、忘れてたな」

 

サトシはヒトカゲのモンスターボールを掲げる。

 

「ヒトカゲ、ゲットだぜ!」

 

「ピ……ピカチュウ……」

 

サトシの宣言すると、ピカチュウも弱々しく鳴く。

 

そして、サトシは抱き上げたピカチュウを見る。

 

「ジョーイさん、ピカチュウの治療をお願いします」

 

「はい、じゃあポケモンセンターに戻りましょう」

 

ジョーイはポケモンセンターに歩き出し、サトシたちは続いた。

 

すると、サトシの両肩が叩かれる。

もちろんリカとカスミだ。

 

「サトシ、絶対にヒトカゲを強くするのよ」

 

「サトシなら絶対できるよ、私たちも手伝う」

 

サトシは仲間の頼もしい言葉に微笑む。

 

「ああ、2人ともありがとう」

 

その前にピカチュウの回復だと、3人はポケモンセンターに向かった。

 

 

 

***

 

 

 

クロスは次の目的地に向かいルガルガンと共に歩いていた。

 

「ガウ……」

 

ルガルガンが苦悶の表情を浮かべて呻き、膝をついた。

クロスは瞠目してルガルガンに駆け寄る。

見ると肩や腹部に傷を負っていた。

 

「痛めたのか?」

 

原因はもちろん先ほどのサトシとのバトル。

クロスは顔を歪めるとキズぐすりを取り出しルガルガンの傷を治療した。

 

自分のポケモンがあんな甘いことを言うトレーナーにここまで傷を負わされ胸の中に苦いものが浮かぶ。

もしあのままバトルを続けていればあるいは――

 

「……ふん、口先だけではないようだな」

 

クロスは苦い気持ちを飲み込むとボソリと呟く。

回復を終えたルガルガンをボールに戻すと再び歩き出す。

 

そして、歩みを再開させた。

 

そこそこやるようだが、あんなトレーナーは今は気にしないようにする。

自分には追い求めいることがある。

まずはそれを見つけなければいけない。

そうすれば自分はトレーナーとして更なる高みに至ることができる。

 

クロスは決意を新たに進む。

 

 

 

***

 

 

 

新たにクチバシティを目指して俺たちは旅を再開した。

そして、俺たちには新しい仲間がいる。

 

俺はヒトカゲのボールを見つめる。

するとカスミが話しかけてくる。

 

「それにしても、ヒトカゲといい、リカのピッピといい、バトル無しでポケモンをゲットするなんてね」

 

たしかにポケモンの同意を得てゲットするなんて、初日に読んだトレーナーの本には載ってなかったな。

 

「うーむ、これはトレーナーの基本から外れてるかな?」

 

俺が言うとカスミは少し考えるとはにかむ。

 

「そうかもしれない、だけど、そんなゲットも素敵だと思うわ」

 

その言葉にリカは同意したように頷く。

 

「ゲットのための旅じゃなくて、ポケモンと仲良くなって友達になるための旅……か、なんだか楽しそう!」

 

楽しそうな弾んだリカの声に俺も自然と口角があがる。

 

前にシゲルが言っていた、「トレーナーは多くの場所を訪れて、多くのポケモンと出会うべきだ」と。たしかに、旅をしているからには多くを見聞きするのが良いはずだ。

 

早くジムの制覇を目指さなければと思っていたが、慌てずにゆっくりと旅をして、途中でたくさんのポケモンに出会って仲良くなるのも良いかもしれないな。

 

俺はこれから遭遇するであろう未知に心を躍らせながら、行く先の大地の感触を楽しむように一歩一歩踏み出した。




今回はヒトカゲとの出会いです。
捨てたトレーナーは映画「君に決めた」のクロスにしました。

サトシの御三家との出会いの順番はアニメと変えてます。

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