サトシに憑依したので冒険してみようと思う(改題) 作:エキバン
ゼニガメを仲間にした俺たちはクチバシティを目指して旅を続けていた。
早くジムに挑戦したい気持ちもあるがせっかく旅をしているのだからゆっくりと寄り道するのも悪くない。
なので森の中で一休み。
「はー自然の中は空気が美味しいわねー」
「いつも野宿は嫌とか言ってないかー」
「こういう気分の時もあるのー」
女心と秋の空とはよく言ったものだ。カスミは長閑な声で落ち着いている、と思ったら寝ている俺の横にカスミも寝転がった。
そして、俺に肩を寄せてきた。
「お、おいカスミ?」
甘い香りと触れる肌の感触にドキリとする。
「なんか、こういう長閑な気持ちになれるっていいわねー。サトシとこうして一緒にいられるのも、いいな……」
吐息のように呟くカスミの頬は赤く瞳は潤んでいた。その姿に俺は生唾を飲み込む。俺を見つめる彼女の姿がとても色気があった。
カスミ、女の子と思ってたけど、こんな綺麗な女性なんだな……
胸の鼓動が速くなる。ジッと俺を捉えた視線に何か応えなければならないのではと口を動かす。
「カスミ……」
「サトシ……」
俺はカスミに顔を近づける。カスミも俺に顔を近づける。そして、2人の距離は……
「むー……」
可愛らしい声がした。
「「わっリカッ!」」
リカはジト目で俺とカスミをジーッと見ると頬をハリーセンのように膨らませていた。
「私もいるのに……」
「ま、まあなんというか自然の力に乗せられたというか……」
「い、いや、べ、別に抜け駆けとかそんなこと思ってないから……ほら、リカ反対側空いてるわよ!」
「お邪魔します」
はや、回答はや!
次の瞬間リカは俺の隣で寝転がった。なんという速さこれは『でんこうせっか』いや『しんそく』だ!
カスミと反対側に来たリカはいつのまにか俺の手を握っていた。
俺を無造作に広がる長い髪、潤んだ瞳で見上げる姿は蠱惑的で胸がドキリと鳴った。
リカ綺麗だな。それにあの髪の毛どんな感触がするんだろう、柔らかいのかな。
俺は彼女の広がっている髪に手を伸ばす。リカは俺の行動に無言だが「いいよ」と言っているように「笑顔」を向けた。その顔がとても大人っぽくてさらに鼓動が高まる。俺の手がリカの髪に――
ガサリと音がした。
「「「わあ!!!」」」
ビクリと反応した俺たちは音がした方向を見る。
するとそこからポケモンが現れた。
頭から草を生やした丸くて脚の生えたポケモン。
「ナゾ?」
「あれは、ナゾノクサだな」
「へー可愛いじゃない」
カスミがナゾノクサの姿に反応して立ち上がる。
「水ポケモンじゃなくて草ポケモンだぞ」
「そうだけど可愛いものは可愛いの」
カスミはナゾノクサに歩み寄る。ナゾノクサはカスミの姿にビクリと驚き顔を少し強張らせていた。
「こんにちはー、怖いことしないから安心してー」
笑顔で両手を広げて近づくカスミをナゾノクサは怖がりながらも興味深そうに見上げていた。
ザワリと空気が動く。
「危ないカスミ!」
「きゃ!」
俺は直感に従いカスミに後ろから覆いかぶさる。カスミが立っていた場所に何かが飛来する。
「な、なに!?」
見上げるとそこにあったのは見覚えのある蔦だった。その蔦は茂みから伸びていて、そこに引っ込んだ。
そして、蔦の主が姿を現わす。
「ダネェ!」
そこにいたのは、たねポケモンのフシギダネだ。
「「「フシギダネ!?」」」
どうりで蔦に見覚えがあったわけだ。
目の前にいるフシギダネはリカのフシギダネよりもどこか気の強そうな顔つきをしている。
フシギダネは俺たちを敵と認定しているのか目を吊り上げて睨んでいる。
ナゾノクサの仲間なのか。
「待ってくれ、俺たちは君の仲間に酷いことしようとしたわけじゃない」
俺は前に出て野生のフシギダネに弁解する。しかしフシギダネは2本の蔦を出して威嚇する。
「ダネェ!」
膠着状態の中飛び出したのは昼寝をしていたリカのフシギダネだ。彼女は野生のフシギダネに近づく。
「ダネダネ」
同族が現れたのが嬉しいのかリカのフシギダネは笑顔と愛らしい声で野生のフシギダネに近づく。額の花もいつもより元気に咲いているようにも思える。
こうして見ると野生のフシギダネはリカのフシギダネよりも大きく見える。目つきもリカのフシギダネに比べれば鋭く強気な性格であることが伺える。
野生のフシギダネは同族が現れたことに驚いていた。
彼女を見て多少敵意が薄れたように見える。
するとフシギダネはナゾノクサに声をかける。ナゾノクサはそのまま茂みの奥に駆け足で入っていった。
フシギダネはこちらを一瞥するとナゾノクサが行った方向に姿を消した。
「ダネ……」
リカのフシギダネは残念そうな声を出して野生のフシギダネが消えた茂みを見つめていた。
「ひとまず解決……かな」
「結構好戦的なフシギダネだったわね」
「あんまり考えたくないけど、人間が嫌い、とかかな?」
その可能性はあり得る。人間に酷い目に遭わされたポケモンは人間不信になる。
そんなポケモンには何度も出会った。
先日ゲットしたゼニガメがまさにそうだ。彼は俺を信じてくれたが、全てのポケモンが考え直してくれるとは限らない。
あのフシギダネはどうなのだろうか。
俺はあれこれ考えながら彼が姿を消した茂みを見つめていた。
***
旅を再開して俺たちは森の中を歩く。
背中にゾワリと何か走る、嫌な予感。
「避けろ!」
俺は反射的に跳びあがりながらリカとカスミに警告した。
カスミは俺に合わせてその場から離れたが、リカは反応が遅れてしまった。
「え、きゃあああー!」
目の前でリカが足から持ち上げられた。
リカは地面に仕掛けられた縄の罠に引っかかってしまった。輪っかになっている縄の中に足が入るとそのまま吊るし上げられるという仕掛けだ。
「た、たすけてー!」
これはスカートを抑えている両手に注目すべきか腕に挟まれている豊満な胸に注目すべきか、悩む、悩むぜ!
後頭部を引っぱたかれた。痛いですカスミさん!
「変なこと考えてないで早く助けなさい!」
「す、すいません!」
俺はリカの足首に巻きついている縄をどうにか解こうとする。しかし、このまま解いたらリカは頭から落ちるぞどうする?
「もう、私が縄を解くからサトシはリカを支えてて」
あ、そうですね。2人でやればいいんだ。
俺はリカの上半身を両腕で支える。そしてカスミが縄を解いた。
勢いよくリカの脚は降りたため、怪我をしないように右手で脚を受け止めた。
一件落着か、と安堵していると左手で支えているリカと目が合った。この体勢は半分お姫様抱っこのようで照れ臭いな。俺もリカも誤魔化すようにはにかむ。
「リカもう立てるでしょ」
「はーい」
カスミが鋭い声で指摘するとリカはシュタっと立ち上がる。やはり動きは速い。
俺も立ち上がり再び歩き出した。
どうなってるんだこの森は!?
罠だらけじゃないか!?
さっきの縄だけじゃなく、落とし穴、いくつもあった。どうにかギリギリの回避はできたがこれだけの罠の数は異常だ。明らかに誰かが仕掛けたものだ。
「この先に何か人に知られたくないものでもあるのか?」
「それか何かを守りたいのかもしれないわ」
そうして罠を警戒しながら辺りを見渡して歩みを進めた。
「あ、小屋があるよ」
リカが指した先には一階建ての木造建築の小屋があった。やっぱり森の中に人がいるようだ。
「ねえ、あそこ見て」
カスミが指さした先は小屋の近くの原っぱで近くに池もある。そこにはたくさんのポケモンがいた。
原っぱにはコラッタ、パラス、ウツドン、ナゾノクサ、キノココ、タネボー
池にはコイキング、ヒトデマン、マリル、ウパー
「あのナゾノクサ、さっきのやつじゃないか?」
「あ、そういえば」
種族の違うポケモンたちが一か所に集まっているのは珍しい、しかも、彼らはポケモンフーズを食べている。そして近くには人が住んでいると思われる小屋。つまりあのポケモンたちは誰かのポケモンということか。
「はーいみんなー、マッサージの時間よー」
小屋から女性が現れポケモンたちに笑顔で呼びかけた。ポケモンたちは嬉しそうに女性の元に走って集まった。ちなみにコイキングは池でバシャバシャ嬉しそうに跳ねるだけだった。
「あの、こんにちは」
「あらこんにちは」
振り返った人はピンクのカチューシャを髪にしていて、赤いオーバーオールを着ている綺麗な女性だった。
女性は俺たちに微笑んで答えてくれた。
「俺たち旅のトレーナーなんです、ポケモンたちを見かけてなんだろうと思ってここまで来たんです。あ、俺はマサラタウンのサトシです」
「同じくマサラタウンのリカです」
「私はハナダシティのカスミです」
「私はミドリよ。この隠れ里で、ポケモンたちの療養させているの」
なるほどここはポケモン専用の療養施設ということか。自然の中はポケモンたちが喜ぶのだろう。
「隠れ里」というのは人に知られずにポケモンを癒すということか。
「自然の中で療法なんて素敵ですね。この子たちはみんなミドリさんのポケモンなんですか?」
「いいえ、この子たちはみんな野生のポケモンたちよ」
「じゃあ、ミドリさんはポケモンのお医者さんということですか?」
「いいえ、残念ながら医療資格は持ってないの。それでも私は傷ついたポケモンたちを元気にしてあげたいの」
「傷ついた、ですか?」
その言い方はまるで酷い仕打ちがあったかのような。
「この子たちは、バトルで大怪我を負ったり、トレーナーに捨てられたポケモンたちなの。そんな身も心も傷ついたポケモンたちを放ってはおけないじゃない」
ここにも捨てられたポケモンたちがいるのか。どこに行ってもその問題はつきまとうようだな。
人間の身勝手でポケモンたちが傷ついてしまうのは同じ人間としてポケモントレーナーとして申し訳なく悲しくなってしまう。そんな傷ついたポケモンたちを癒してあげようとしている人がいる。それなのにポケモンを扱う俺たちトレーナーがなにもしなくていいのだろうか?
俺がカスミとリカに目線を送ると彼女たちは口角を上げて俺に頷いた。
考えることは同じようだな、嬉しいぜ。
「俺たちも何かお手伝いできることはありますか?」
「え?」
ミドリさんが意外そうな顔で俺たちを見た。
「その、俺は野生のポケモンとバトルで傷つけることもありますし、そのあと野生のポケモンたちがどうなるとか今まで考えてなかったです。だから、せめて少しでもポケモンたちのために何かしたいんです。ご迷惑でなければ何かお手伝いさせてください」
「私も傷ついたポケモンを元気にしてあげたいです」
「私もお手伝いします」
俺たちの気持ちが通じたのか、ミドリは嬉しそうに笑ってくれた。
「じゃあ、お願いしちゃおうかしら。この子たちの体をマッサージしてほぐしてあげたいの」
「「「わかりました」」」
「あ、せっかくだからあなたたちのポケモンもここで遊ばせたらどうかしら、旅の疲れが取れるかもしれないわ」
「わかりました、みんな出てこーい!」
俺たちは自分たちのポケモンをボールから出した。
「ピカ!」
「リノ!」
「スピ!」
「カゲ!」
「ゼニ!」
「そぉれ!」
「ダネ!」
「ニン!」
「フリ!」
「ピッ!」
「出てきなさーい!」
「ヘア!」
「フウ!」
「トサキ〜ン!」
俺たちのポケモンたちは走り回って思い思いに自然の中で遊び始めた。
ちなみに森の中の多くの罠はミドリさんが仕掛けたものらしい。隠れ里のポケモンたちにトレーナーが手を出さないようにするためのささやかな抵抗ということらしい。「隠れ里」を守るためのものということか。
俺たちトレーナーはミドリさんと一緒にポケモンたちのマッサージを始めた。ちなみに俺はマリル、リカはコラッタ、カスミはナゾノクサだ。
マリルって結構プニプニしてるな。
「リル〜」
かっわいいなこいつ〜
「さっきは怖がらせてごめんなさいね」
「ナゾ?」
ふと見るとカスミはマッサージしながらナゾノクサに話しかけていた。
「ポケモントレーナーって自分のポケモンを強くしたり体調のことだったりでそれだけで手いっぱいになって、野生のポケモンのことを顧みないことが多いのよね。ポケモントレーナーは自分のポケモンのことだけじゃなくて、他のポケモンのことも気にかけないといけないのにね」
「ナゾ」
カスミは膝の上にいるナゾノクサに微笑みながら自分の気持ちを伝えた。ナゾノクサはカスミの気持ちが通じたのか笑顔で答えた。
それを見たカスミは可愛らしい笑顔になる。
「うふふ、可愛い!」
その時、カスミの体は何かに吹き飛ばされた。
「ダネェ!!」
「きゃあ!?」
「「カスミ!?」」
地面に倒れるカスミを抱き起す。
「大丈夫かカスミ?」
「え、ええ、大したことないわ」
見るとカスミの肩は腫れていた。かなりの力で叩かれたことが分かる。カスミも強がっているが痛そうにしている。
カスミを襲ったのは『つるのムチ』だ。そして、技を放った犯人もすぐそこにいる。
「ダネェ」
フシギダネだ。
俺たちに向けるこの眼、見ただけでわかる激しい憎悪が宿っている。ここにいるのは人間に捨てられたポケモンたちもいる。フシギダネのこの激情は間違いなく人間を憎んでのものだ。
だけど――
「フシギダネ、お前が人間を憎んでいるのはよくわかる。けどな、だからって俺の大事な仲間をむやみに傷つけるのは許せない! そんなに憎いなら俺が相手だ、かかってこい!」
「ダネエ!!」
フシギダネは「上等だ!」と言わんばかりに俺を威嚇する。
「やめなさいフシギダネ、彼らは悪い人たちじゃないのよ」
ミドリさんに言われたフシギダネは俺たちを一瞥すると茂みの奥に消えて行った。
「ごめんなさいね、あの子少し荒っぽいところがあるから」
「ミドリさん、もしかしてあのフシギダネはナゾノクサを守ろうとしていたんですか? 実はここに来る前にここのナゾノクサに出会ったんです。そしたらあのフシギダネが間に入って来たんです」
「そうだったの。ええそうよ、フシギダネはここにいるポケモンたちを守ってくれてるわ。バトルが得意でこの里の用心棒をしてくれてるの」
ミドリさん曰く、あのフシギダネも捨てられたポケモン。バトルが得意なポケモンが捨てられることは珍しいがもしかしたらポケモンを捨てる自身の主人を見限ったのかもしれないということらしい。
だから人間不信でここのポケモンを守ろうとしているのだろう。
人間を憎むのは仕方のないことだ。しかし、このまま憎んだままでいて欲しくないと俺は思った。
***
ポケモンたちのマッサージを終えて、やることが無くなった俺たちは森のパトロールを提案した。
俺が1人、カスミとリカがペアで森の中を散策することになった。
さてさて、美味しい木の実さーん、ポケモンたちのために瑞々しいその御姿を私めにお見せくださーい。
足音がした。リカとカスミではない。彼女たちが散策しているのとは別方向、具体的には俺が歩いている二時の方向といったところか。
すると、そこに人影があった。
その人影を観察していると、何かを置いて走りだそうとしていた。俺は声をかける。
「おい、何やってるんだ!」
人影は俺と同年代の少年だった。少年は俺に気づくとギクリと動きを止めた。彼が置いたものを見るとそれはポケモンだった。
丸い体に丸い頭に大きな顎のありじごくポケモンのナックラーだ。確かホウエン地方のポケモンだ。
ナックラーは寂しげにジッと少年を見ていた。
「このナックラーを捨てようとしていたのか?」
「な、なんだよ。別にいいだろ捕まえたポケモンを捨てようがどうしようが、トレーナーの自由だ」
「彼を見て本当にそんなことが言えるのか! お前を呼んでずっと鳴いているんだぞ!」
「し、知らないよそんなこと。そもそもポケモンは野生の生き物なんだから野生に帰したって問題ないだろ!」
「ポケモンをゲットしたトレーナーにはそのポケモンのことを考える責任があるんだ。ポケモンの気持ちを無視して勝手に捨てるなんていいわけないだろが!」
捨てられそうになっているナックラーは不安げにトレーナーの少年を見上げていた。
***
一方そのころ、サトシと分かれて森の見回りをしているリカとカスミは森を一人で歩いている少年を見つけた。
「ねえそこの君」
カスミが近づきながら声をかけると、少年はビクリと反応して振り返った。近づくカスミとリカから逃げようとしているのか少しずつ後ずさりをしているが、動き出そうとはしていない。
リカとカスミはそのまま少年に近づいた。
遠目からはわからなかったが近づいて気づく。少年はこぐまポケモンのヒメグマを抱えていた。
「君、なにしてるの?」
「ええ、と……その……」
先ほどの少年の動きはヒメグマを木の根っこに下ろそうとしているように見えた。
少年はリカとカスミを見ると明らかに動揺してヒメグマを抱きしめていた。
「その子、どうするの?」
リカは屈んで少年と目線を合わせると優しく話しかける。少年の抱いているヒメグマは眠っていた。
少年は恐る恐るという態度で口を開いた。
「パパが、まだポケモンをもっちゃダメだって、だからすてなさいって」
今にも泣きそうな少年にリカとカスミは互いに曇らせた顔を合わせて、どうしようかと思っているとまた人が近づいてくる。
現れたのは眼鏡をかけた男性だった。
「ヒロト」
「パパ……」
現れた男性は少年――ヒロトと呼ばれてた――の父親だった。彼は厳しい目でヒロトとその腕に抱かれたヒメグマを見ていた。
「捨てたんじゃなかったのか?」
「ご、ごめんなさいパパ、でも……」
「いいからヒメグマを捨てるんだ」
「待ってください、そんなの酷いです!」
有無を言わさぬ父親の言葉にリカが思わず抗議する。案の定ヒロトの父親は怪訝な顔でリカを見て、次いで一緒に現れたカスミのことも見た。
「なんだね君たちは」
「私たちは旅のトレーナーです。本人が嫌がってるのにポケモンを捨てさせるなんておかしいです!」
「君たちには関係ないだろう、黙っててくれ。これは親子の問題なんだ」
「いいえ、トレーナーとして黙っていられません。一度でも手にしたポケモンなら、愛情を注ぐべきです。それはトレーナーだけじゃなくて人間としての義務です」
リカとカスミを言葉を聞いたヒロトの父親は呆れたように嘆息した。
「子供の意見だ。そんなに上手くいくはずがない。第一この子は10歳になっていなくてトレーナーの資格は持てない上に我が家にはポケモントレーナー経験者はいない。ポケモンを扱える人間はいないんだ」
「扱えなくても家族にはなれます!」
「やはり子供だ。ポケモンは大きな力を持っている。トレーナーでもない人間にどうにかできるはずがない。責任の持てないことをするべきではない」
「だからって捨てるんですか!?」
リカとカスミの必死の訴えにヒロトの父親は聞く耳を持たない。
「とにかく我が家で決まったことだ。何度も言うが口出ししないでもらいたい。いくぞヒロト」
「いやだ!」
父親の伸ばした手を振り払いヒロトはヒメグマを庇うように抱きしめる。
「な――!?」
「ぼ、僕やっぱりヒメグマとお別れしたくない! いっしょに暮らしたいよ。お願いお父さん、ヒメグマといっしょにいさせて!」
するとヒメグマは目を覚ました。
ヒメグマはヒロトの胸で気持ち良さそうに額をくっつける。
「聞き分けのないことを言うんじゃない、育てられないんだから仕方ないだろう。そのヒメグマは捨てるんだ」
ヒロトの必死の叫びに対し父親は厳しい目で諫める言葉を放つ。
口を出したはいいが自分たちは親子の問題にこれ以上踏み込んでいいものか、しかし、捨てられるヒメグマを放ってはおけないとカスミもリカも悩んでいるその時だ。
「あ、サトシ」
別の場所を散策していたサトシが現れた。見知らぬ男と一緒に。
「どうしたの? ってその人誰?」
「こいつポケモンを捨てようとしている不届き者だ。今説教してるところだ」
「こいつじゃねえ、俺にはタカシって名前があんだよ! それに何度も言うが自分のポケモンをどうしようがトレーナーの自由だ」
まさか同じ問題を抱えていたとは、これで2つの問題が発生してしまったと頭を抱えるリカ。
***
ポケモンを捨てようとする2組の出現にどうしたものかと思っているとミドリさんが現れた。
「どうしたのサトシくん」
「また新しい人出てきたよ」
「どなたですか?」
捨てようとした2人がミドリさんに話しかける。
「私はこの先の隠れ里で捨てられたポケモンのお世話をしている者です」
いやいや隠れ里なのにそんなこと言ったら隠れる意味ないだろ!
「え、そんな場所があんの! ラッキー! ねえ姉さん俺のナックラーのお世話頼むよ」
「ちょうど良かった、このヒメグマもお願いします」
「待てよあんたら、簡単に捨てるなんて言うなよ!」
「お前には言ってないんだよ下がってろよ」
「その通りだ。君は下がっていたまえ」
好機とばかりにミドリさんに迫る2人、なんでそんな簡単にポケモンを捨てようなんて思えるんだ。
「……その子たちを手放して後悔はありませんか?」
「あったりまえだろ」
「もちろんだ」
「……わかりました」
ミドリさんは嘆息しながら捨てられるポケモンを引き取ろうとしていた。
たしかにこのまま断っても別の場所で捨てられる可能性があり、そこで生きていけるかわからない。
だとしても一番望ましいのはこの人たちが納得してポケモンを連れて帰ってもらうことだ。
どうすればポケモンを捨てないでもらえるか思案していた時だ。
「ならばそのポケモンは我々が頂こう!」
「な、なんなの?」
人間2人とポケモン1体の3人組が現れる。
「なんだかんだと――」
(省略
「ロケット団! あれ、なんでお前らボロボロなんだ?」
名乗りを終えたロケット団をよく見ると制服はところどころ泥だらけで、彼らの顔にはかすり傷があった。
「ぐ……ここに来る途中に落とし穴に落ちたり網に捕まったりで罠に引っかかりまくったんだよ!」
「そこの女が仕掛けたっていうじゃない、いい迷惑よ!」
トラップが見事に機能していたのか、ミドリさんすごいな。
「慰謝料代わりに隠れ里のポケモンたちはニャーたちがいただくのニャ!」
「ジャリボーイのピカチュウも一緒にいただきだぜ!」
相変わらずめちゃくちゃ言ってくれるな。それにまだピカチュウを諦めていないのか。
「行くのよアーボ!」
「ドガースお前もだ!」
「シャーボ!」
「ドガ~ス」
ロケット団のボールからお馴染みアーボとドガースが飛び出した。
ボールを構えようとすると、リカとカスミが俺の前に出た。
「アーボとドガースは私とカスミで相手をする!」
「じゃあ任せたぜ!」
リカとカスミがそれぞれのボールを取り出す。
「お願いニドラン!」
「ニンニン!」
「『みずのはどう』!」
「ニーンニン!」
ニドランの水の音波がアーボに発射される。
「シャー!?」
水流と音波の衝撃がアーボに襲い掛かる。
ドガースがカスミに向かって突進する。
「ドガースは任せて、ヒトデマン『バブルこうせん』!」
「ヘア、ヘアッ!!」
大量の泡が勢いよく発射される。
「ドガ~」
ドガースは猛烈な攻撃で泡まみれになりダメージを受ける。
ムサシとコジロウは悔しそうに見ている。
バトルはこちらの優勢だ。
しかし、ニャースは不適に笑っている。
「それではニャーたちの秘密兵器だニャ、ポチっとニャ」
地響きと共に何かが接近してくるのを感じる。またこのパターンかよ。
現れたのは人型の鉄の塊、特徴的なのはその両腕ともいえる箇所。とても太く大きくまさに剛腕と言えるだろう。反して下半身はお粗末なキャタピラだった。
巨大な腕が主武器と言わんばかりの造形であとの部分にはお金をかけていないというのがよくわかり、脅威なのはわかるが何とも格好がつかないように見えた。
「これぞ『ポケモン捕獲用巨大アームロボ』だニャ!」
「邪魔なやつらは蹴散らしちゃいなさ~い!」
ロケット団が乗り込んだロボットは動き出す。地響きがするような前進にサトシたちが圧倒されていると草むらから飛び出す影がある。
「ダネェ!!」
隠れ里のフシギダネだ。森を荒らす敵だと思っているのか鋭い眼でロケット団の乗るロボットを睨んでいる。
フシギダネは『つるのムチ』を高速で振るうと炸裂音が鳴り、ロボットの巨大な両腕にたたきつけられた。
ムチの猛烈な威力でロボットの両腕は地面に落ちる。
「おのれ、まだ蕾な種ポケモンの分際で猪口才な!」
ロケット団が操作したことでロボットは両腕を振り上げて再び襲い掛かろうとする。
「フシャ!」
フシギダネはロボットの反撃にも焦らず『つるのムチ』を撃ちだす。ムチは巨大な腕を弾くとそのままロボットの全身に絡みついた。『つるのムチ』に覆われたロボットは振り払おうとするもできずにそのまま動きを止める。
「すごいぞフシギダネ!」
サトシはフシギダネの想像以上の実力に感服し、思わず声を張り上げて声援を送った。
これはもう「バトルが得意」なんてレベルではない。きっと多くのバトルを経験した実力者だ。
フシギダネに圧倒され動きを封じられたロケット団は四苦八苦していた。
「ニャアアア!! ニャーたちの汗と涙の結晶があああ――にゃーんてにゃ!」
ニャースは頭を抱えて嘆いた顔から一転、ニヤリと口角を上げる。
ガチャリガチャリと機械音がした次の瞬間、ロボットの背中から二本の巨大な腕が生えてきた。
「おーほっほっほっ、これぞ、『モードカイリキー』!!」
腕が四本だからカイリキーとはまた安直な、しかし、これはかなり厄介かもしれない。
「くらえ!」
「ダネッ!」
新たに出現した巨大な腕の一撃がフシギダネの小さな体を吹き飛ばす。ダメージは大きいようでフシギダネはフラフラになりなっていて立ち上がるのもやっとだ。
『つるのムチ』から解放されたロボットが再び進撃した。
「お返しよ!」
「ダメェ! フシギダネ!」
ロボットの剛腕が振るわれようとしたとき、ミドリが飛び出してフシギダネを守ろうと抱きしめた。
巨大な鉄塊の腕がミドリの細い体に打ち下ろされる。
させるか!
「うおおおらあああっ!!!」
俺は猛ダッシュして跳びあがり、巨大な腕に跳び蹴りを放った。俺の蹴りがロボットの腕に突き刺さり振り下ろされるはずの剛腕は逸れることになった。
着地した俺はミドリさんとフシギダネに駆け寄る。
「ミドリさん、フシギダネ、大丈夫!?」
「大丈夫よサトシくん、ありがとう。」
「ダネ……」
笑顔で答えるミドリに対してフシギダネは少し素っ気ない態度だった。しかし、両目でジッとサトシを見つめていた。
「おのれぇ、相変わらずトンデモな身体能力してるぜジャリボーイ!」
「放っておくのニャ、今はポケモンゲットを優先するのニャ!」
「ええと、ここをこうして……」
「ちょおい、そんなめちゃくちゃしたら!」
ロボットが両腕をめちゃくちゃに振り回し始めた。
巨大な腕を振り回すと突風が起きる。巨大な鉄塊が乱暴に振り回されて危険で近づくのも難しい。
これはかなりのピンチなんじゃないか!?
***
「さあ、まとめてやっつけてやるわ!」
巨大な腕を振るい暴れ回るロボット、皆走りながら逃げ回る。その中でタカシが慌ててしまい転んでしまった。そして、ロボットの剛腕が迫る。
「う、うわあああああ!」
もうダメだとタカシが思ったその時だ。
「ナック!」
ナックラーがタカシの前に飛び出し、剛腕に噛みついて動きを止めたのだ。
「ナ、ナックラー!?」
タカシは予想外のことに呆然とし、ナックラーを見つめた。
「ど、どうして……」
「決まってるでしょ! この子にとってあなたが大事なトレーナーだからよ!」
答えたのは離れた場所でロケット団のポケモンと交戦中のカスミだった。
タカシはカスミの言葉に驚き、再びナックラーの背中を見る。
「お、俺、こいつを捨てたのに……」
「そうね、でもこの子はこうしてあなたを助けた。それがこの子たちの答えよ。あとは、あなたがどうするか考えなさい」
そう言葉を切ってカスミはバトルを再開させる。
タカシがナックラーを見ていると、ロボットが腕からナックラーを引き離そうと必死に動かそうとしている。しかし、ナックラーはより強く噛みつき、踏ん張る。その体からは疲労と汗がにじみ出ていた。
――俺のために、こんなに頑張ってくれるのか? 俺をトレーナーだって思ってくれるのか?
タカシは立ち上がりナックラーに近寄る。
「ナックラー『どろかけ』!」
「ナク? ナック!!」
ナックラーはタカシの指示に一瞬驚くがすぐにロボットの腕を口から離し、泥をロボットの顔に発射した。
「ちょ、ちょっと! 見えないじゃない!」
「早く泥を拭うのニャ!」
タカシとナックラーは顔を見合わせ頷き合う。
「一緒に戦ってくれ!」
「ナック!」
その姿は間違いなく一人のトレーナーと相棒の姿だ。
左のアームはナックラーが押さえているのと同じ頃、右のアームは未だ暴れ回り、その巨大な鉄の塊は父親に手を引かれて逃げているヒロトに襲い掛かっていた。
「急ぐんだヒロト!」
全力で走る2人だが、アームはすぐそこまで迫っていた。
「くっ、ヒロト……!」
「パパ!」
このままでは逃げきれない、その時、
「ヒメェ!」
どこからか飛び出して来たヒメグマが小さな拳を振るい、凄まじいパワーでアームを殴り飛ばした。
「ヒメグマ!」
着地したヒメグマはヒロトと彼の父親を守るように巨大ロボットの前に立ち塞がった。
「守って、くれたのか?」
巨大ロボットを前に構えるヒメグマの背中をレンズ越しに見つめるヒロトの父親。そして、決心したように歩き出す、ヒメグマの元へ。
「ヒメグマ、すまない少しだけ力を貸してくれないか」
「ヒメ?」
ヒロトの父親の言葉にヒメグマは不思議そうに顔を上げてつぶらな瞳で見つめた。
「君を捨てようとした人間の言葉なんて聞きたくないかもしれない。だけど、ヒロトを守りたいんだ。だから頼む」
「ヒメ!」
ヒメグマは強く頷いた。その顔には嫌悪感も恨みも無い、大事な人を一緒に守ろうという想いが満ちているようだった。
「で、でもパパ、ポケモンのことわからないんじゃ」
「……今まで黙ってたが昔はパパもトレーナーを目指していた頃があるんだ。だからポケモンバトルの経験もあるぞ」
「ええっ!?」
照れくさそうな父親のカミングアウトにヒロトは言葉を失う。そんなこと一度も聞いたことがなかったからだ。
「まあ、そういうことだ。よし、いくぞヒメグマ!」
父親がロボットを引き付けている間、自分はこのまま安全な場所に逃げるべきなのだろうか。しかし、ヒロトはこのままここにいたかった。ヒメグマと共に立っている、今までのどんな時よりも頼もしくかっこよく思える父親の姿を見ていたかった。
***
ロケット団のポケモンはリカとカスミが相手をしてくれている。次は俺の番だ。といっても相手はポケモンではなくロボットだ。俺が直接やってやる。
危険だと思ってたロボットはナックラーとヒメグマの活躍で動きが鈍った。
こんなはた迷惑なガラクタロボは俺がぶん殴ってぶっ壊す!
俺が拳を握って走り出そうとしたその時だ。
「ナックラー『かみつく』!」
「ヒメグマ『きあいパンチ』!」
ナックラーが大きな顎でロボットの腕一本を抑え込み、ヒメグマが拳でロボットの違う腕を殴りつける。
「よし、いいぞナックラー」
「その調子だヒメグマ」
さっきまでポケモンを捨てようとしていた二人は、意志の籠った強い顔でポケモンとともに立ち向かっている。ナックラーもヒメグマも2人の指示をまともに聞いて従っている。
そこにはさっきまでとは段違いの強い絆のようなものを感じる。
ようやく理解した。これが本当に人とポケモンのあるべき姿なんだ。
ポケモンと一緒に力を合わせて困難を乗り越えていく、それがポケモントレーナー。
だったら俺も立ち向かうぜ、ポケモンと共に!
「ピカチュウ、君に決めた!」
「ピッカチュウ!」
ボールから飛び出したピカチュウは俺を見て強く頷く。
向こうを見るとロボットの背中から生えている二本の腕が応戦するナックラーとヒメグマに襲い掛かる。
「『でんこうせっか』! 続いて『アイアンテール』!」
「ピッカァ!! チュウウウ、ピカ!!」
ピカチュウが高速で片腕に突撃すると、その反動で硬質化した尻尾を回転しながら振るいもう片方の腕を弾き飛ばす。
「助かった」
「さんきゅ」
ナオトのお父さんとタカシがお礼を言ってくれた。
「どうも、一旦ナックラーとヒメグマをロボットから離れさせて。ピカチュウ『10まんボルト』!」
俺の言葉通りにナックラーとヒメグマを離れさせると、そのタイミングでピカチュウから暴れるような電撃が放出されロボットに浴びせられる。
「「「あばばばばばばば!!!」」」
ロボットの中にいるロケット団も電撃を全身に浴びることとなった。
***
ニドラン♀はアーボの攻撃を躱し続ける。大きな口での噛みつきも長い体をしならせるたたきつけも、ニドランはすべて素早い動きで回避し、的確に攻撃を当てていく。
(ニドラン、今日はとっても調子が良いみたいだね)
リカはニドランのいつも以上の動きの良さにバトルの優位性を感じて胸が高鳴っている。そして、何か予感がし、その答えはすぐに出た。
「ニンニン!」
ニドランの体が光を放つ。
「え!?」
見覚えのある光景にリカは瞠目してその光を見つめる。
輝くニドランの体は少しずつ変化を開始し、その光は徐々に収まっていく。
そこにいたのは耳、背中の角、尻尾と輪郭は大きくなり、凛々しい目を持つニドランの進化系、ニドリーナだ。
「リナ!」
「やったあ、すごいよニドランがニドリーナに進化した!」
より強くたくましく凛々しくなったリカのニドリーナは大地を踏みしめ構える。
「よおし、ニドリーナ『にどげり』!」
「リノォ!!」
蹴り飛ばされたアーボは倒れるドガースにぶつかる。
「フィニッシュよリカ!」
「うんっ!」
「ヒトデマン『バブルこうせん』!」
「ニドリーナ『みずのはどう』!」
二つの水攻撃を受けたドガースとアーボは仲良くまとめて動かなくなったロボットの方向に吹き飛ばされる。
アーボとドガースが激突したロボットはピーッという音が鳴ったと思うと爆発を起こした。
次の瞬間にはロケット団が宙を舞っていた。
「「「やな感じー!!!」」」
恒例の爆発によっていつも通り飛んでいったロケット団であった。
***
なんとかロケット団を追い払った俺たち。
そして問題だったポケモンを捨てようと人たちはどうなったかというと。
「あんたたちのおかげで大事なことに気づけた、本当にありがとう。俺、こいつともっかい一からやり直すよ」
「ナック」
タカシはさっき会った時と比べてとてもいい顔になり、ナックラーを大事にしていることが態度から伝わる。
「気づけたのはあなた自身だよ。これからナックラーのこと大事にしてあげてね」
「もちろんだ」
リカが答えるとタカシは頷き、ミドリさんの方を見た。
「無責任なことしようとしてすいませんでした」
タカシが頭を下げるとミドリさんが答える。
「あなたがナックラーと仲直りしてくれたらそれだけで嬉しいです」
「はい、これからはこいつと立派なトレーナーを目指します!」
そう言ってタカシはナックラーと一緒に歩いて行った。
「挑戦する前から諦めてはいけない。そんな当たり前なことを忘れていた」
「パパ……」
ヒロト君のお父さんは厳しい顔つきが消え、優しく父性に溢れる顔で息子のヒロト君とヒメグマを見つめていた。
「ミドリさん、身勝手に押し付けようとして申し訳ございませんでした」
ヒロト君のお父さんの謝罪にミドリさんは笑顔で答えた。
「これからヒメグマを大事にしてあげてください」
「はい、もちろんです。ヒロト、お前が10歳になるまでヒメグマと暮らそう。その時が来たら一緒に旅に出るんだ」
「うん、ありがとうパパ!」
「ヒメ!」
「皆さん本当にありがとう」
ヒロトとお父さんは俺たちにお辞儀をして去って行った。
全部解決一件落着。
俺たちもクチバシティを目指そうとミドリさんに挨拶をしようとすると、小屋のドアが開きそこにはフシギダネを抱きかかえるミドリさんがいた。
「みんなもう行くの?」
「はい、早くクチバシティに行きたいので」
ミドリさんは微笑むと意を決したように俺を見た。
「サトシ君、フシギダネを連れていってくれない?」
思わぬお願いに俺は驚いた。
「え、どうしてですか?」
「この子はポケモンバトルの才能がある。この森だけでバトルをしているだけじゃこれ以上は成長できないと思うの。だから外の世界を見てもっと強くなってほしい」
「でもフシギダネはここの用心棒なんでしょ、いなくなったら他のポケモンたちが困るんじゃないんですか?」
「確かにフシギダネのおかげでここのポケモンたちは守られてきた。だけど、守られているままではこの子たちはいつまでも自分の力で生きることができなくなるわ。私はポケモンたちと一緒にいたいけど、それ以上にこの子たちに一人で生きていけるようになってほしいの」
ミドリさんはフシギダネのために一番良い道を行かせようとしている。それに療養しているポケモンたちを自立させたいと思っている。ミドリさんは本気でフシギダネを、ポケモンたちを思っているんだな。
「……俺は、フシギダネが仲間になってくれるなら嬉しいです」
けど、問題はフシギダネの気持ちなんだ。もし彼がここにいることを望んでいるなら無理やり連れていくことはできない。それにフシギダネは人間を嫌っているから付いてきてくれるかどうか。
ミドリさんの腕の中で俺に視線を送るフシギダネに視線を返すと
「ダネェ!」
「キャ!」
フシギダネはミドリさんの腕の中から飛び出した。着地したフシギダネは前後の脚に力を入れて姿勢を低くして俺を睨んでいた。ジッとそのまま俺の動きを観察するように。
まさかお前は――
「よし来い、フシギダネ!」
「サトシ!?」
「何言ってるの!?」
「フシギダネは確かめたいんだ。俺が自分に相応しいトレーナーなのか。だったら俺は全力でフシギダネを受け止める!」
俺の言葉にピカチュウをはじめとした俺のポケモンたちは見守る姿勢になる。
ピカチュウと目が合うと無言で頷き合う。
俺はフシギダネに向き合い両腕を広げる。フシギダネは俺に向かって猛スピードで突進してきた。
「ダネェ、ダネダネダネダネダネダネ、ダネェ!!」
フシギダネの全力の『たいあたり』が俺の腹に激突する。衝撃が肉体の外側を押し込み、内側にも響くような衝撃が走り、背中を突き破る。
俺は両脚を突き刺さんばかりに踏みしめた。そして『たいあたり』の勢いに押されて俺の体は少しずつ後退していく。俺は今一度大地に強く踏ん張った。
そして、止まる。
俺は腹に突き刺さるフシギダネを抱きしめる。
「……ダネ」
「……俺に着いてきてくれるか?」
「ダネェ!」
フシギダネはニヤリと笑う。
俺はフシギダネに認めてもらえたようだ。
「決まりねフシギダネ、サトシ君との旅、頑張ってね」
「ダネェ!」
フシギダネはミドリさんに笑いかける。
別れが辛くないはずがない。それでもポケモンの幸せを願って見送ろうとしている。フシギダネもミドリさんの気持ちに応えようとしている。
なら俺はミドリさんとフシギダネの気持ちに応えてフシギダネと最高の旅をしよう。
俺はモンスターボールを取り出す。
それを向けるとフシギダネは額をくっつける。
ボールが開きフシギダネが中に入る。ボールの振動はすぐに止んだ。
「よし、フシギダネ、ゲットだぜ!」
「ピッピカチュウ!」
ピカチュウが俺に合わせて喜びの声をあげ、ニドリーノ、スピアー、ヒトカゲ、ゼニガメも喜んでくれた。
俺はボールからフシギダネを出す。
「ダネェ!」
「これからよろしくなフシギダネ」
「ダネダネェ!」
フシギダネは俺に笑顔をくれた。睨んでたときより可愛いじゃないか。
すると、フシギダネに近づくポケモンがいる。
「ダネダネ!」
リカのフシギダネだ。
額に綺麗な花を咲かせる彼女は新たに仲間になった同族に大歓迎とばかりに文字通り花のような笑顔で俺のフシギダネに挨拶をする。
「ダネェ」
俺のフシギダネは可愛い女の子に少々照れているようだ。
「カッコイイ子が仲間になって良かったねフシギダネ!」
「ダネ〜」
リカがそう言うと彼女のフシギダネは照れたように笑う。
「それに今日はこの子も」
「ニン、リナ!」
現れたのは先ほどのバトルで進化したリカのニドリーナ。より大きく強く凛々しく美しくなった彼女に歩み寄るのはもちろん。
「ニド、リノ!」
俺のニドリーノだ。彼はニドリーナにおずおずと近づく。
「……リノ」
「リナ!」
ニドリーナはニドリーノに頬ずりした。 以前と変わらず仲良しで良かった。
「みんな仲良しね」
カスミもポケモンたちの仲良しな姿に喜んでいる。
するとフシギダネがカスミに近づく。
「ダネダネェ……」
フシギダネがカスミに向かって頭を下げた。フシギダネの体型の問題で額を地につける形だ。
おそらくカスミに攻撃したことに対する謝罪なのだろう。
「もういいわ。あなたは仲間のためにしたんだから、それは責められないわ」
カスミはフシギダネの頭を撫でて彼の謝罪を受け入れた。これで本当に万事解決だな。
その微笑ましい光景の中、ミドリさんが歩み寄ってくる。
「サトシ君、フシギダネのことお願いね」
「任せてください!」
必ず最高の旅をして最高に強くしてみせる。
俺たちは隠れ里を後にした。
「これでサトシはフシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメをゲットしたことになるわね。これって凄いことになんじゃない?」
「そうだよね。この3体をいっぺんにゲットするなんて凄いことだよ!」
「そうか……そうだな。けど、その3体をゲットしたトレーナーがポケモンリーグで優勝したりしたら、もっと凄いんじゃないか?」
思わずこんな無責任なことを言ってしまう。だけど、今の俺のポケモンたちとなら誰にも負けない気がしていた。彼らとならどこまでも強くなれる気がしていた。
「言うじゃない、やってみなさい」
「サトシならできる気がする」
「それならまずはバッジ集めだ。クチバシティに急ぐぞお!!」
森を出た俺たちは一気に駆け出した。
フシギダネゲットはリカがいるからやめようかなと思っていましたが、サトシには初代御三家を揃えさせたいのでゲットしてもらいました。
サトシの手持ちとリカの手持ちはラブラブになってるのにカスミの手持ちはそういう子がいない。どうしよう……まあ、それはそれ、これはこれですね。
まだまだ活動報告でご意見募集中です。